第1話 南北魔大戦に別世界の人間が参加した結果
戦争から三日後。
会議室に皆が集まる前。
オレの元に来たのはローレンだった。
「ローレン。そっちの動きは!」
ここからのオレは領主らしく振舞う事にした。
軍を養うことになり、皆を一律の扱いにするためには、まずは呼び捨てだろうと思い、ここからは仲間たちをビシッと呼ぶことにしたのだ。
って正直、そんなに偉くなったのかよ。
と思う所がある。
実際のオレはフランクであるのが好きだからさ。
皆と気軽に接したい。
「まだ、連合軍はジュズランに向かってません。ガイルハイゼンの都市全体を完全掌握してから、向かうのかもしれません」
「そうだな。ローレンのその考えがあってると思うよ」
ローレンは、「はいっ」と言って嬉しそうに後ろに下がっていく。
「メロウ。連絡したいんだけど。お前がリュカと会話できる?」
【ああ。アクセサリーの件だな。ルルよ。私の肩に手を触れろ。そして同調して欲しい】
「同調か。なるほど、それでオレが直接会話ができるのか」
【そうだ。ほら】
「よし。やってみる」
メロウの肩に手を置いた。
同調して意思を飛ばす。
「リュカ!」
「ん? おお。こうやって言葉が聞こえるのか」
「ああ。今、メロウの力を借りてるから、使えるのさ。そうだ、アルランにもリュカの魔力同調してもらえるか。聞いてみてくれ? リュカの肩に触れれば話せるようになる」
「そうか。やってもらおう」
数秒後。
「私だ。ルルロアか」
「ああ。そうだ。アルラン。あんた魔力同調が早いな。さすがだ」
「ふっ。こんなものは簡単だ。人の魔力を探るのが吸血鬼の得意分野だ。相手の体内を破壊するのが吸血鬼の本分だからな」
「怖いわ。得意な理由がさ。それ言わなくても良くない」
アルランの冗談なのか分からないトーンの声が困ります。
笑ってもいいんでしょうか・・・。そこの所、悩みます。
「アルラン。四天王は、ジュズランに入ったか?」
「入った。その連絡は昨日の夜に来たぞ。あの三人が魔力を全開にして移動すればそれくらいの速度で走れるだろう。だが、彼らの速度に軍が追いつかないからな。そっちはまだジュズランには間に合っていない。でもあの三人がいれば、ジュズランは数日持つだろう」
「そうか。なら安心だ。オレは今から、速攻でシューカルを落とす」
「は?」「ん?」
リュカとアルランの返事が疑問だった。
「今さ。軍を得たからね。このまま進軍するわ」
「「な、なに?」」
まあ驚くだろうね。
普通に考えたら軍なんて得られねえもんな。
敵を仲間にする考えなんて持たないだろうしな。
「心配すんな。連合軍に味方を作ったからさ。その味方と共に連合軍をぶっ壊すわ。その後は連合軍と解放軍が融合できるように、アルランの代理としてリュカが表に出て来てくれ。話し合いをしよう。こっちに来てもらった後に、解放軍の本拠地で調印式なんかして完全和解だ。それまでオレは負けねえから。絶対にこの大陸を一つにして、皆で氷を乗り越えようぜ。自由になろう!」
「・・・うむ・・そううまくいけばいいがな」
「リュカ。後ろ向きは駄目だぜ。オレたちは前へ行こう!」
「そ。そうだな」
リュカも心配性だなと思う。
やればできる。
そう思わないと人生やってけねえのよ。
だろ。
オレも、レオたちもさ。
案外苦労したからよ。
「わかった。ルルロア。私はここで待つとしよう」
「おう。アルラン。そこでドンと座って待ってろ。オレが仲間たちと一緒になんとかするからよ。そんじゃ、アイヴィスに防衛をし続けろと言っておいてくれ。攻撃に転じないでジュズランの絶対死守で頼むわ」
「わかった。伝令を入れておく」
「サンキュ。じゃあな! また連絡を入れるわ」
通信を切った。
【あちらもお前の動きに驚いていたな】
「まあな。メロウ。そういや、なんで話さなかったのよ? 話せるじゃん。本体でやり取りする人もさ。リュカが話してたぞ」
【私は・・・・アルランとかいうのと会話したことがない】
「はぁ。人見知りが発動していたのかよ。お前さぁ。まあいいか」
メロウが大人しいと思ったら、ただの人見知りが発動していただけだった。
◇
これからを話し合うための幹部が集まったので、会議を開く。
オレから始まる。
「よし。話し合いの前に。オルタナ。ジャバル。君たちの街に農業従事者と建築家たちを派遣する」
「え? 今から? 戦争に入るのに? 大丈夫でしょうか?」
ジャバルは意外にも律儀な人みたいで、オレを格上として認めた途端に、丁寧な人物になった。
「うん。オレに協力してくれるお礼も込みで、ここはエルフの農業とドワーフの建築技術を提供する。早めに食糧事情を何とかしよう。あとで、メロウとルドーの魔晶石を使おう。メロウ、ルドー、量産頼むよ」
【うむ】「お任せ下さい」
大変な作業が待っているのに、二人はすぐに返事を返してくれた。
魔晶石の作成には、かなりの集中力が必要。
魔力はさほど使わないのが助かる点だが、それでもあの集中力を長時間続けることが出来る者は少ないだろう。
貴重な仲間がオレの元にいてくれてよかったよ。
ほんと。割とマジで助かっている部分だ。
「し、しかし。ルル。自分らの都市にも兵を割いてしまうと、いざ決戦をする時にそちらの主力軍が・・・」
オルタナの当然の疑問。
「ああ。そこは大丈夫。今回は戦というよりも話し合いがメインになると思う。あとオレは大軍同士であまり戦いたくない。無駄な戦いで人が死ぬのは勘弁だ。もし戦いになるなら幹部同士にするよ。少人数で決着を着ける。だからそこまでいくのに、敵の本陣まで欺いて近づくわ」
「ん?」
「オレの策はこうだ・・・・・」
内容を告げると。
「「「「 はぁ~~~~~ 」」」」
全員が見事に呆れてくれた。
一人も信じてくれません。
目が白い目になってます。
その中でナディアだけが話しかけてくる。
「まあ、止めても、忠告しても、どうせあなたはやるんでしょ」
「お。ナディアはわかってんね」
「当たり前でしょ。ずっとそばにいたんだもん。あなたが本気な時くらい知ってるわよ」
「サンキュ」
ナディアだけがわかってくれたので良しとしよう。
「アイス王。私も出来ると思いますが、少々修正してもいいですか」
「あ、どうぞ。マーゼンさん」
マーゼンさんからのアイス王は取れませんでした。
これ、治る時が来るのかな。
「その作戦を実行するには迅速さが必須かと思います。それだと、現状を上手く使いませんか?」
「現状を上手く使う???」
「はい。こちらにジャバル軍とオルタナ軍が入りました。それはこの町の外から見ると、制圧したのだと見えなくもないです。死闘の果てに、町を占拠した状態に映ると思うのです。これを利用するのです」
マーゼンさんの頭のキレに驚くばかりだ。
つまり、彼女の言いたいことはだ。
「攪乱をするのか。情報をいじって、連合には制圧を伝えるんだな」
「そうです。連合の二軍はアレスロアを掌握。そこから一時、町の人たちを掌握するから待機する。北上するつもりはあるが、そちらと連携をしたいと連合軍に連絡するのです。そして、この連絡を連合の盟主の元にまで流すことで、相手のジュズランへの攻撃を遅らせることができると思います。タイミングを合わせるつもりで動くと思うので、その隙に我々はアイス王が計画した策を迅速に行います。敵がガイルハイゼンも落とし、パスティーノも落としたのであれば、両軍は攻撃を合わせてジュズランも落としたいと考えるはずですからね。ならば、少しでもジュズランの攻撃を遅らせるには、この策が有効かもしれません」
「なるほどね・・・・採用します。じゃあ、報告するのはどちらがいいかな。ジャバルかオルか?」
「私は、ジャバルがいいと思います」
「ふむふむ。その意図は中将軍だからですね」
「そうです。それで相手を騙します。作戦を実行しましょう。あとはジャバルの演技次第となります」
マーゼンさんの補足は素晴らしい。
オレの策を確実に成功させてくれそうだ。
「・・・せ、責任重大だ。私は・・・・緊張してしまうな」
「ジャバルさ。別に失敗してもいいわ。気にすんなよ」
「いやこれだけの大事ですぞ。一つのミスも許されないでしょう」
「大丈夫大丈夫。間違っても大したことねえ。その時に修正すりゃいいからさ。結局は行き当たりばったりでいいの。オレの人生もそんなもんだからさ。肩肘張らない方が良い」
ジャバルがまだ疑っている様子だ。
「いいか。それに作戦なんてもんは、都度都度で変更すりゃいいからさ。思いっきりやってくれ。ジャバルの好きなようにさ。だから失敗していいのよ。皆で何とかするように考えるからさ」
まだ気にするなと畳みかけたけど、やっぱりジャバルは混乱した。
首を横に振りながら信じられないと言いたそうな顔をしていた。
「そ、そうなのか・・・そんなことがここでは許されるのか」
頭を抱えるジャバル。
その隣のオルタナが話しかけた。
「どうやら許されるらしいぞジャバル。この町はそういう場所で、ルルとはそういう男らしい。今までの連合とは違う環境だ。ここはな」
「そうか。そうだよな。オルタナ。私も認識を変えていかねばな」
二人は慰め合っていた。
でもオレも不思議な感じはしている。
ここにいるのは解放軍、連合軍、そしてオレの仲間だ。
解放軍と協力関係になり、連合軍の二人とも協力関係になる。
そして元々の仲間たちは珍しい人々ばかりで、その上でナディアやユースウッドなどの伝説級人物がいる。
そんでオレだ。
ジークラッドの人間ではない。
ジーバードのヒュームとして、何故か彼らの頂点に立っている。
なんででしょう。
こんなの女神アルクスでも、神鳥レミアレスでも分からねえことだろう。
つうか・・・。
「レミさん。またどこに行ったんだろ?」
会議の終了間際に呟くと。
「いるのじゃ!」
「うお! レミさん。いたのかよ」
オレのポケットから飛び出てきた。
「ちょっと野暮用じゃ、少し行かねばならん場所にいっておったのじゃ」
「そうか・・・つうかさ。聞きたいことがある。アルクスって女神の事だろ?」
「女神? あの悪たれが?」
「やっぱそうだよな。アルクスを悪たれっていうなら。女神で確定だ。そんで、その女神アルクスがオレたちにスキルとジョブを与えているのっては、ジークラッド・・・いや違うな。世界に何かあるから、オレたちに力を与えているんだろ。これ、レミさん、なんか知ってるでしょ」
「うむ・・・そこまで知ったか・・・遂に・・・」
レミさんは、オレが情報を言うと答えてくれる。
「そして、その重要な何かを掴んでいないから、完璧な答えをレミさんが言えない。それって、クルスみたいな誓約になってんのか? そこんところ、どう?」
「そうじゃ」
「やっぱりな。レミさんさ。あんたには何かの誓約がかかってんだな。重要な事を話せない誓約がさ。ファン、イヴァン、ナディア、レミアレス、アルクス。他にもいるのか知らないけど、団体でその制約がかかっている。どう? これは答えられるでしょ?」
これがオレの予想だった。
「ふふふふ。さすがは、余が認めた男ルルロアなのじゃ。ついにそこまでたどり着いたのかじゃ・・・うむ。そうじゃ。余は7つの誓いという誓約がかかっていて、誰にもその話が出来ないのじゃ。自分からはな」
「やっぱな。じゃあ。ここからは話さなくていい。自分で調べるぜ!」
「やはりな。ルルならそういうと思ったのじゃ。任せるのじゃ。調べてほしいのじゃ」
「まかせておけ。オレってそういうのが大好きだからな。だって、冒険者だぜ」
「うむ。頼んだのじゃ」
レミさんの謎はオレが解く。
ついでに世界の謎もだ。
ファイナの洗礼を解除する方法も氷の解除もだ。
たぶん、世界の謎と直結している気がする。
それと聖なる泉もだ。
レミさんの謎も世界の謎と一緒だ。
だからオレは、旅に出よう。
この無駄な戦いを、今すぐにでも終わらせてさ・・・。
「よし。作戦通りにいくぞ。皆気を引き締めろ。これでくだらねえ戦争なんか最後にすんぞ。ジークラッドは一つとなって、デカい謎。世界に挑むんだ。ファン、イヴァン、ナディアが教えてくれねえんだ。オレたちは、オレたちの力で探す!! いいな!」
「「「おおおおおおおおおお」」」
こうして、三千年近く続いた南北魔大戦に終止符を打つために動き出した。




