第14話 アレスロア防衛戦争 ⑧
アレスロア防衛戦争五日目。
オレことルルロアが途中参戦することで戦争の風向きが変わる。
アレスロアが防衛ではなく、反撃を目論むことになった。
仲間たちは、オレのいない間に持ちうる手札のすべてを出し切って切り札まで投入したと言っていたが、オレ的にそれらは切り札でも何でもなく通常の手札だと思っている。
本物の切り札とはこうだからである。
◇
南門の城壁にて。
エルフ魔法部隊の前にオレが立つ。
そして反対側にいるエルフの皆さんは、真剣な眼差しでオレを見ている・・・・気がする。
これは、オレが狙われているのか???
「エルフ魔法部隊!」
「「はい。領主様」」
あれ? 今までは等間隔に並んでたんじゃないの。
皆やけにオレの方に寄って来てるんだけど、なんかこうガン見なんですけど。
ちょっと皆さんの目が怖い。
エルフの人たちって、綺麗なのに怖いよね。
目がギラギラなんだけど。
やっぱママロンさんがいいわ。
あのほんわかとした感じが安心するわ。
「開幕ドデカくかますよ。最大火力で風を出そう。風々の烈風でいこう。オレが放てって言ったら、お願いします。いいですね」
「領主様。最大火力というと・・・本当に全力でいいのでしょうか? 温存せずとも・・・」
「ええ。次、撃てなくてもいいです。それに全力を注ぎこんでください。この戦には、もう魔法は必要ないです」
「わかりました」
オレの指示通りに、エルフ魔法部隊は魔法の準備をし始めた。
◇
前に出てくる武将が一人。
おそらくあいつがジャバルとかいう奴だろう。
聞いていた通りに、額にある水晶みたいなものが綺麗だ。
あれがコイズだっけ?
本当に綺麗だ。
遠くから見ても、輝き具合が分かるとは、かなり輝いている証拠だ。
「アレスロア・・・降伏しろ。貴様らに勝ち目はない。大人しく町を明け渡せば、命までは取らんぞ」
「はいはい。そう言いたいだろうけどさ。そっちがお帰り頂けると嬉しいよね・・・え~っとシャーバルさんでしたっけ」
「ジャバルだ! 貴様・・・む、見ない顔だな」
「ああ。見ない顔で結構ですよ。あんたに紹介するような男でもないのでね・・・・ジャズルさん」
城壁にいるオレの仲間たちが笑い出す。
クスクスと笑う声は、あちらにどのように聞こえるのでしょうか。
あっち側でも聞いてみたいと思うオレであった。
「き。貴様ああああ。舐めやがってふざけるな」
「ふざけてませんよ。あなたは、このまま戦えば負け犬となるわ」
「な、なんだと」
「あなたは歴史上。最悪の指揮官として名を刻みますよ」
少し間を置き、口調を変更。
「あんたはな。五日もかけてだな。兵4万を持ちながら、兵3千しかいない。この町をさ。落とせなかったんだぜ。これだけでも愚将だわ。なぁ。そうだよな。だからあんたは歴史の教科書とかにデカデカと名が残るぜ。よかったな。後世に無能将軍として語り継がれるぜ・・・有名人になったわ。えっと・・・誰だか忘れた!」
挑発!
しかも単純な挑発!!
こんなの引っかかる奴いねえと思うけど、あいつアホそうなんでバッチリ効くと思う。
あっちの将で一番偉いのがオルタナだったら、おそらくこの町は壊滅だったはずだ。
そこはマジで運が良かったぜ。
正直、そこが勝負の分かれ目。
オレたち、紙一重だったと思うよ。
「ぐぬぬぬぬ・・・土の階段だ。5本は掛けよ。それで奴らを蹂躙だ」
敵が魔力操作での声をやめているが、オレには聞こえている。
面白おじさんのスキル『隣の噂話』
集音に優れ、遠い人物の声を聞くスキル。
おっさんのスキルは、戦いには役に立たないけど、こういう時にはマジで便利である。
おっさん!
あんなんで有能だったからね。
「ジャバル様。無茶です。5本なんて掛けたら、こちらの魔法部隊はそれだけになりますぞ。魔法合戦など出来ません」
「いらんわ。数で押し切って殺す。皆殺しにするには魔法合戦は無駄だ。現に五日使っても魔法合戦では勝てず。向こうにはナディア様の名を語る者がいるのだ。あれは魔法が得意な奴なんだろう。意味がない、ならば5本の階段で総攻めした方が強いはずだ。近接部隊を五軍に分けて突撃だ」
「・・・わ、わかりました。土の階段を放て。三分後だ」
敵の準備は始まった。
オレの予想通りの男だった。
そもそもオレの挑発がなくとも、近接で勝負を決めると思っていた。
なぜなら魔法合戦では勝利を得られないとジャバルは思っていると思う。
五日もあって、この兵数の有利を実感していながら、魔法部隊の質によって互角に持ち込まれている現状に焦っているからだ。
実際は魔法合戦の継続。
これが勝利には重要。
でも勝つには時間がかかるし、こいつらの元々の目的はアルランを狙う事だから、急いで解放軍の本拠地へ行きたいのさ。
そのためには、ここはほとんど無視したいはずなのに、拠点にしようと思った。
そこがアホの極まりだぜ。
オレたちの底力を甘く見ていたんだろうな。
◇
オレが城壁から敵の魔力の流れを眺めていると。
「アホだな。やっぱ・・・」
「ちょっとルル!」
怒り気味のナディアがオレの横にやってきた。
「ん。なんだ。ナディア?」
「なにド派手に挑発してるのよ。あっちの人たちを怒らせちゃってるわよね」
ナディアは、ジャバル軍の方をビシッと指さした。
「ああ。いいんだよ。その方が攻撃が単調になるんだから」
「あっちの兵の士気が上がってたらどうするのよ。せっかくあたしとか、ユースウッドがこっちにいるから士気が下がっていたのに!」
「別にいいよ。あの兵士ら、士気が高くなったって、あんま強くねえ。オレらの方が、質が高い」
「は? あたしたち、あれに苦戦したのよ」
「それはな。相手の持久戦に、対抗しちまってこっちも持久戦を重ねたからだ。オレたちは一点突破で勝てるの。いいから見てろ。ナディア。オレたちは勝つからな」
そばに来たナディアのおでこを人差し指で押した。
「ん。もう・・・しょうがない人ね。まったく。疲れるわ」
彼女はおでこを押さえて答える。
「そうか。じゃあ、お前はオレの隣には立てないな。この程度で疲れているようじゃ」
「なんですって!? あたしは立てますぅ~~~。まだ疲れてません~~!」
「あれ? さっき疲れたって聞きましたぁ。これくらいでお疲れになるようなお姫様には、オレの隣は無理なんですぅ~~~」
「んんん! 嫌。絶対隣に立つもん」
ナディアの頬が膨れた。
怒っていても美人は美人だ。
「はいはい。わかってるよ。見てろって。オレたちって強いんだぞ。信じろ仲間をな」
オレは、両手を使ってナディアの膨れっ面をほぐした。
「あ。来たわよ・・・ルル。ちょっとその手、離しなさいよ。恥ずかしい」
「お! そのようだな。ほんじゃ、いっちょ行くぜ」
オレは指示を出すために、敵に体の正面を向けた。
◇
敵は土の階段を五本。
オレたちの城壁にかけてきた。
土の階段は、発動時の魔力消費が激しいと聞く。
かけた後の維持はさほどではない。でもそれを五本はマジで得策じゃない。
せいぜい三本に留めないといけない。
それが限度なはずなんだ。
遠距離の魔法合戦を捨てることになるだろう。
「よし。それじゃあ、エルフ部隊。土階段中央三本分くらいを巻き込める風魔法でいくよ」
「「「 了解です。 領主様 」」」
敵は猛ダッシュで進軍。
足並みもそろえずに、五軍に分けて、それぞれが土の階段を走ってきた。
中央三軍の進軍が中腹辺りになったので。
「いくぞ! エルフ魔法部隊、放て!!!」
「「「 風々の烈風 」」」
南城門中央。
そこの両隣。
三本分の土階段を登る兵士たちを巻き込む風。
大暴風の裂傷性の風魔法が敵に向かって進む。
巨大な攻撃に逃げ場はない。
土階段の中腹で敵の兵士らはその身を刻まれていく。
その場に留まろうとする彼らはたまらずに下へと飛び降りて、怪我を負ってでもいいから、下に逃げ込んだ。
そして指示は続く。
「ユーさんは右! メロウのサポートを受けて、進軍開始!」
「了解だ! まかせろ」
「おう。頼んだ!!!」
ユーさんは土の階段を降りていく。
「マーカス。お前は左だ! アンナさんのサポートを受けて進め」
「領主様。我はいくぞ!」
「ああ。頼んだよ」
マーカスは軍隊を進める。
「リヴァン! ローレン! 空で勝て! マーゼンさんの指示を受けて倒してこい」
「「はい!」」
リヴァンさんとローレンさんは空を飛んだ。
制空権を取るための戦いに出たのだ。
「まあ、信じてるよね。絶対に勝てるってさ」
「そうね。あなたならいつでもあたしたちを信頼してくれるでしょ」
「当り前よ。みんな、オレの大事な仲間だからな」
「そうよね」
ナディアとオレは、城壁の上で皆の戦いを見守った。
◇
左の戦場。
「領主様の声で、皆! 動きがいいぞ。我らの勝利は目の前ぞ!!」
兵自体の動きの良さにも驚くが、自分自身の視野の広さにもマーカスは内心驚いている。
この動きの良さは、おそらく敬愛する領主。
友である領主のお力であるぞ。
とマーカスは相手を押し込むことに集中していた。
「いくぞい。河童の小踊り」
両手に扇子を持ち、マーカスは踊る。
右手の扇子をぱっと広げて。左手の扇子もぱっと広げる。
足を左右に動かして、体を左右に振ると、彼の踊りは完成する。
その効果は・・・・。
「ふふふ。相変わらず楽し気ですね。マーカスは!」
マーカス部隊とかち合い互角の撃ち合いをしていた敵が突如として倒れ始める。
その敵をなぎ倒しているのはアンナだった。
彼女が敵の影の中で暗躍し始めた。
「これが彼の力ですか」
マーカスの河童の小踊りの効果は視野狭窄。
仲間との連携を失わせる不思議な踊りである。
こちらも視野が落ちるが、あちらも落ちる。
使いどころの難しいマーカスの特技である。
しかしその難しさの中でも、アンナの視野は元々広いために効果が薄い。
だから影に隠れるのが上手いの彼女であれば、敵陣の中でも暗殺に近しい形で敵を倒せるのである。
マーカスはそんな彼女が暴れられるように左の戦場を安定させ始めた。
「まだまだいくぞい。ほれほれ。みんな! 頑張れぞ」
左の戦場でマーカスは勝利の為に踊り続けるのであった。
◇
右の戦場はユースウッドが大暴れしていた。
「重突進の先!!」
突進だけで、敵がはじけ飛び、隊列が乱れる。
今までとは違うこの攻撃は、防御を捨てている。
その頼りのない防御面を補うのは。
【ふっ。だから私が補助か。ルルめ。ユースウッドのお守りを私がしろという事だな。千糸針】
メロウの千糸針だ。
ユースウッドの脇を通ろうとする敵を糸が通せんぼしている。
「お守りだと!! メロウ。儂一人でもいけるわ」
【何を言ってる。ユースウッドが撃ち漏らした敵を私が倒しているのだぞ。感謝しろ】
「漏らしてないわ。ここから倒すのだ」
【そうか。ならば頑張れ。ドワーフキング!】
「任せろ! 重突進の先だああああああああああ」
ユースウッドは、毎回同じ音量で叫び、同じ勢いで敵に突っ込んでいった。
◇
上空にて。
「貴様・・・ローレン。なぜ。傷はどうしたんだ。あの傷が一日で癒えることはない」
「あれはもう回復した。お前を倒すためにな・・・いくぞ」
ローレンとエルサムが戦闘に入ると、その後ろで待機していたリヴァンの背に乗るマーゼンが動く。
「ローレン空部隊。隊長同士の戦いに邪魔が入らぬように、食い止めなさい」
「「「はい」」」
互いの部隊が空でぶつかり合った。
空を制する戦いの最後の戦いが始まった。
「・・・ローレン」
リヴァンは心配そうにローレンの戦いを見つめる。
「リヴァンさん。ローレンさんを信じて、勝てますよ」
マーゼンは、リヴァンの首を撫でた。
「マーゼンさん。ええ、信じてます」
二人は決戦を見守る。
数度の空中での戦いは、上下左右に自由自在に飛びながらの攻防。
鳥族最強の呼び声高い鷲エルサム。
動きの良さも、攻撃力も全てがローレンより上だった。
「やはりな。戦えば俺の勝ちなんだよ。ローレン。諦めろ。リヴァンは俺が頂く」
「ぐっ。お前になどやらん! リヴァンは自分の妻だ」
「ふっ。あの時出来なかった。強さで俺が・・・・奪ってやる」
「お前なんかに、やるわけがない!!!」
怒りの突進をしようとした瞬間、ローレンの耳に敬愛する人の声が届く。
「ローレン! あんたの良さを出してないぞ。なに変なところで対抗してんだ。オレは教えたぞ。戦いには工夫が必要だと! 前のあんたとは違う。今のあんたならそれが出来るんだ!」
「りょ・・領主様。ルルさん!?」
声の方を向くと城壁にいるルルロアが、自分のいる空を見上げていた。
自分の事をルルロアは見守ってくれていたのだ。
ルルからの信頼という安心感で、ローレンは冷静になった。
「ローレン。いけ!!!」
最後の言葉で、ローレンは不思議な感覚に陥った。
頭がすっきり冴えている。
体がスムーズに動かせる。
彼の言葉を聞いただけで、全部が何でも出来るようになった気がした。
「いくぞ。エルサム。もう負けん! 領主様が見守ってくれているからな」
ローレンはエルサムに向かって突進するように飛んだ。
エルサムが目と鼻の先になった瞬間、ローレンは急上昇。
速度勝負に出たのだと思ったエルサムはローレンを追いかける。
「俺の速度に勝とうとするのか。まだ甘いぞ。ローレン」
ローレンは飛ぶ速さでは勝てない。
勢いついた状態から飛んだはずのローレンの背後にピタリとくっつくようにエルサムが追い上げた。
彼の足に手がかかりそうになった瞬間。
ローレンは人型になった。
「なに!? 勝負を諦めたのか」
「誰が諦めるか。エルサム。自分の狙いはこうだ」
ローレンは人型になったために両手が自由となる。
下から猛烈な勢いで突き上げてくるエルサムの背中を掴んだ。
そこから・・・。
「ま、まさか。貴様!?」
「獣身化は決して万能ではない。自分たち獣人は、獣であり人である。そして私たち鳥人は、空を自由に舞う人なのだ」
ローレンは、エルサムの翼を両手で狭めて、両の翼を中央に持っていき、そこを両腕で固めてロック!
エルサムは羽を広げられなくなった。
「こ。このままだと・・・・貴様も落ちるぞ」
「玉砕覚悟の叩きつけだからな。お前も地獄の旅だ。旅行先は地面だぞ」
二人揃って急降下!
「終わりだ」
「ま、魔法障壁を」
地面にぶつかる瞬間、ダメージを分散させようとエルサムは魔法障壁を利用した。
だが、そのダメージは。
「ぐあはっ。か、体が」
立ち上がれないほどであった。
「自分の勝ちだな」
「・・・な、なぜ・・無事なのだ。一緒に落下を・・・したはずだ」
「私は、獣身化を瞬時にできるように訓練を受けた。だから落下する寸前で飛んで逃げたのだ」
「なに!?」
「我が主。ルルさんからの指導によりな。いつでも瞬間的に出来なければ、人型で鍛えた方がいい。むしろ獣身化の方が邪魔になると指導してくれたのだ」
「・・・な、なんだと・・・そんなの・・獣人族の常識にない・・・ぞ」
エルサムは気絶した。
「当り前だ。我らの領主様は常識を覆す男だ。お前のような男ではあの方の強さも優しさも、一生分からんだろう」
この戦いにより、ローレンがジークラッドの空の覇者となった。




