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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
アレスロア VS 連合軍

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第9話 アレスロア防衛戦争 ③

 二日目の戦争は朝から始まる。

 前日にはなかった。

 魔法での花火が打ちあがったので、今日は北も出陣となる。

 北と南が同時に進軍して、アレスロアを挟み撃ちにして粉砕する。

 それが連合軍が思う戦場であったわけだが、それはジャバル軍だけが思う事である。


 ◇


 北の戦場、城壁の上。

 指揮者アンナは大声で皆に指示を出す。


 「皆さん、ウインドで侵入不可避の風を起こします。北の城壁。ご自身から見える真下の地面に向かって風を重ねていってください」


 一般人たちで構成された北の兵らは、一斉に真下にウインドを仕掛けた。

 木の葉舞う風が下に出現。

 隣の人の風と風がぶつかり合い。

 千人分の風が暴風を生み出した。

 

 彼らは魔法部隊ではない者たち。

 だからこそ、団体魔法のような難易度の高い魔法は難しい。

 なので自分の魔法の全力を他人と重ね合わせることで、団体魔法のような疑似的な魔法を生み出したのだ。


 オルタナ軍は城壁の手前に現れた巨大な竜巻によって足を踏み入れられなくなった。


 ◇


 目の前の風に驚くオルタナは、同じくして驚いているシャイに話しかけた。


 「な!? あれは本当に住民が起こした事なのか……自分らの上にいる城壁の方々は本当に町の住民なのだよな・・・し、信じれられん!?」

 「そ、そうです。あれではまるで」

 「そうだ。魔法使い部隊と何ら変わりがないぞ!?」


 北の戦場の予定では、戦う振りをするために、オルタナ軍の近接部隊が近づいていくはずだったが、オルタナ軍は、このような魔法であるのなら、このまま本陣に留まるしかできないと判断した。

 アレスロアの町の人たちが生み出したこの巨大な竜巻を見れば、眺めるしか出来なかったのだ。



 ◇


 

 南の戦場は前日の静けさとはうって変わり魔法合戦に変わっていた。

 近接部隊が突撃の構えをせずに、互いが遠距離で魔法を撃ち合う展開だった。


 魔法合戦。

 ジークラッド大陸の者たちは魔力を保持することが基本なので、その中で強力な魔法使いが誕生することが多くなる。

 だから、戦場では魔法使いの部隊が出来上がり、団体魔法を駆使して撃ち合いをするのが魔法合戦である。

 ド派手な巨大魔法のやり取りは、まともに一撃食らうと戦局を左右するほどの戦いとなるのだ。



 「これは・・・予想外です」


 城壁の縁に身を乗り出したマーゼンは焦る。


 「どうした。マーゼン。お主にしては珍しく焦るとは」

 「敵は消耗戦を仕掛けてきています。こちらのエルフ部隊を休みなく狙い撃ちです。もうお昼過ぎ。これは6時間以上の魔法合戦・・・正直厳しいです。こちらの魔法部隊の人数が圧倒的に少ない分。インターバルを生み出せず、フル稼働になっています。私たちの魔法部隊は800人。あちらはおそらく5千程。この差は、実力では埋まらないですね。どこかのタイミングで反撃をしたいですが」


 敵の戦略が的確。

 内心では相手を褒めていた。


 「そうだな。ここで近接部隊を投入してくるかもしれんな」

 「はい。おそらくは・・・そうなるとこちらは圧倒的数の不利。まずい状況です」


 マーゼンが考えていたジャバルとは、もっと力押しの人物だと思っていた。

 だがここに来て、頭を使ってくるタイプの将軍なのだという認識に、頭を切り替えなくてはいけなくなった。

 焦らないように、努めて命令を装っているがマーゼンは焦っていた。

 視野が狭くなっていたのだ。


 「マーゼンさん。上を!」

 

 マーゼンはリヴァンの声を聞いて上を見上げた。

 敵陣から上空へと飛び出したのは、鳥人である。 

 対抗手段はこちらも同じことをする事だけである。

 

 「あ。あれは・・・鳥人!? 迎撃をしなければ。ローレンさん出撃おねがいします」

 「了解です。おまかせを」

 

 ローレンが自らが率いて空部隊を発進させる。


 「リヴァンさん。霧を! リヴァンさんの部隊で、アレスロアの上空で霧の魔晶石をお願いします。アレスロアの町中を隠します」

 「了解です」


 戦いは平地と空の二正面となる。



 ◇


 魔法の撃ち合いがある中での上空にて。


 「急げ、空から奇襲を」


 連合軍ジャバルの空部隊、隊長のエルサムがアレスロアを急襲しようとしていた。

 彼の種族は鷲。

 鳥人最強の強さを誇るのだ。


 それに対して。

 隼のローレンが相対する。


 「それはさせん!」


 エルサムに正面にローレンが入った。


 「お前は・・・ローレン!?」

 「む。エルサム。お前が連合軍にいるだと」

 「ローレン。お前は死んだはずじゃ」

 「?」

 「ワイバーンにやられたんじゃないのか」

 「なぜ、お前がワイバーンの事を知っている! あれは自分の里以外の物は知らないはず・・」

 「ふっ。それはな。こうだ」


 エルサムは笛を取り出して、音の出ない笛を吹いた。


 「何をしている!?」

 「お前の里・・・それと同じことを再現しよう。今度はとっておきでな」

 

 アレスロアから見て西の空に妙な気配を感じるローレン。

 思わず右を向いてフーガギード山脈を見た。

 この離れた距離でも、あれを目で捉えることができる視力の良さを呪う。

 ローレンの顔は青ざめてから、エルサムを睨む。


 「まさか。お前が・・・自分の里を!?」


 西の空からワイバーンの大軍が現れた。

 以前の数なんて、鼻で笑えてしまう。

 百ほどの群れがアレスロアに向かってきた。


 「ふっ。お前の里はいい感じに燃やせたよな・・・あの頃、俺の里もきつかったからな。物資をもらうにはちょうどよかったからな。今回ももらうとしようか」 

 「き。貴様ぁ」

 

 怒りのローレンと不敵なエルサムは、空の戦いに入った。

 互いの速度は互角。魔力も身体能力も同じだ。

 それに驚くのはエルサムだ。


 「な!? お前がここまで強くなるのか」

 「自分は、領主様のおかげで今がある! 以前の自分では勝てないが、今の自分ならお前にも負けんし。あのワイバーンも倒して見せる」

 「フハハハ。やってみろ、ローレン。俺を倒せたらな」


 両者は空の覇者を決める戦いをする。



 ◇


 「あれはワイバーンの群れ!?」

 

 マーゼンも西の空の異変にすぐに気付く。

 ここでマーゼンは決断しなければならない。

 この消耗戦を続けていく中であそこに部隊を割くのか。

 それとも・・・。


 「や、やるしかない。この私が一人で! ユースウッド様は近接部隊を。ナディア様は魔法部隊を。それぞれ指揮をお願いします」

 「ん? マーゼン?」


 ユースウッドが混乱して。


 「あたしがやるの。え、マーゼンは?」


 ナディアは慌てた。


 「私はあちらをやるしかありません。本格的な空中戦ならば、お二人は戦えない。こちらの戦場をお願いします。では」


 マーゼンは西の城壁に向かって走り出した。

 竜人種。

 彼らは、ほぼヒュームと変わりのない容姿をしている。

 手足に軽く鱗があるくらいで、残りの特徴はほぼ一緒。

 でも彼らは竜人種と呼ばれる。

 亜人族最強の種族であるのだ。

 その所以は。


 「竜変化(ドラゴルト)

 

 そう彼らは小さな竜へと変身することができるのだ。

 竜の姿になったマーゼンは西へ飛び立ち、一人群れの中に突っ込んでいった。


 「数が多すぎる。なぜあの量がこちらに・・・まさか、緋色の笛!? あれを使ったのですね」

 

 ワイバーンの群れと激突する寸前。

 マーゼンが息を大きく吸い込む。


 「スゥ―――――――――」


 肺に空気と魔力を込めて・・・・吹きつける。


 「氷の息吹(ドラゴアイス)


 マーゼンの息と共に無数の氷のつららが射出された。

 ワイバーンの首や腹、翼などを貫き、その奥にいるワイバーンも貫いていく。

 一度に数体のワイバーンを撃破した。


 「か、数が多い。これは死闘になるのでしょうね」


 それほどの数を一度に倒しても、彼女の目の前にいるのはワイバーン百弱。

 策謀張り巡らせ続けた彼女に待ち受けていたのはキリのない死闘だった。



 ◇


 マーゼンを見送っていたナディアとユースウッドは彼女の変身に驚いていた。


 「あれは・・・竜!? マーゼンが竜になったのね」

 「そうみたいだな。マーゼンもなれるのだな。竜人種最強の姿に」


 二人は西の空を確認した後。

 南の戦場を確認する。

 こちら側のジリ貧の状況は悪化していく。

 エルフ魔法部隊の魔法の反応が悪い。

 それはあちらも同じだが、あちらにはまだ大軍の近接部隊がいる。

 敵の前線の兵士らの魔力が練り込まれているのが見えた。

 いよいよ、ここでの決戦をしようと言ったところだ。


 「儂もそろそろ戦うしかないか・・・ここは先手を打つために下に降りよう。ここまで来られたら、数の違いであっという間に全滅だ」


 ユースウッドはエルフ魔法部隊の消耗具合に、さすがにここらが魔法部隊の引き時ではないかと思った。

 自分が下に降りて、一挙に敵の前線を封じるしかない。

 そう考えている途中で、ナディアが止める。


 「駄目よ。ユースウッド。玉砕覚悟で戦ってはいけない。やるなら、生きる覚悟で戦うのよ。そして、こちらはまだ防衛。近接部隊は奥の手なのよ・・・・・あたし、覚悟を決めたよ。ユースウッド。見守って」


 敵の近接部隊が進軍を開始。

 一万を超える大軍が南の門を襲う。


 「ナディア???」

 「ユースウッド。あなたもあたしを守ってくれる?」

 「無論だ。何を今さら・・・・儂らは友だろ」

 「うん。そうだよね。友達だよね。だから、あたしね。頑張るんだよ、ここで。ルルと一緒に。あなたと一緒に。皆と一緒にね」

 「???」


 ナディアは南の門の上に立った。



 ◇


 「止まりなさい。連合軍!」


 アレスロア城壁に進軍をしていた連合軍は足が止まりかける。

 南の城壁に現れた一人の女性の声に驚く。


 「ここより、この私がアレスロアを守ります! 下がりなさい連合軍!」


 それは戦場に置いて不思議なことであった。

 たった一人の敵の女性の言葉によって、皆が足を止めたのだ。


 「もしそれ以上こちらに来るなら、私が攻撃を開始します。死にたくない者は下がりなさい。これは脅しではありません。事前警告です。今から私が出す魔法は、あなたたちを消滅させるに十分であるからです」


 ナディアの声は敵に届く。

 しかし、奥にいる指揮官は、これに負けない。


 「うるさいぞ。貴様。皆よ。奴を殺せ。生意気な女だ。やるのだ!」

 

 ジャバルの声と共に、連合軍の止まった足が動きかける。

 だが。


 「止まりなさいと言ったでしょう。それ以上前に足を運ぶのを許しませんよ。この私、ナディア・クオンタールが、あなたたちを許しません!」


 連合軍の足どころか、戦場全体の時が止まった。

 

 ナディアは魔力を解放。

 変装した姿から、本来のナディアへと変わる。

 空色の瞳が連合軍全体を見つめた。


 「さあ、連合軍よ。この四代目ナディア・クオンタールに逆らえる者は、一歩前へとこちらに来るがよい。アレスロアの領主代理である、この私ナディアが、あなたたちを撃退します」


 アレスロア防衛戦争二日目。

 その時が、ジークラッド大陸の人々が四代目ナディア・クオンタールの生存を確認した日となった。


 

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