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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
アレスロア VS 連合軍

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第8話 アレスロア防衛戦争 ②

 しかし、アレスロアの一日はまだ終了しない。

 マーゼンの指示が出る。


 「警戒を。フルで行ないます。交代制でリヴァンさん。ローレンさん。空を含めてお願いします」

 「「了解です」」


 二人は返事をして、部隊を二つに分けて監視を始めた。

 空を飛ぶ部隊が全体の戦況を把握する。


 「ズンさん。勝負です。アンナさんとお願いします」

 「了解だ。おいら行ってくる」


 フーリーズンは北にいるアンナを連れて準備に取り掛かった。



 城壁を高く設定できたアレスロア。

 以前は東寄り過ぎる建築は出来ないとしていたわけだが。

 ここに来てアレスロアの建築能力が上がったので、東の山脈沿いに隣接する形で東の城壁があってもいいとした。

 現在のアレスロアの城壁は横の長方形になっている。

 北と南が長くなっていて、西と東が短くなっている。

 ちなみに西と東を鉄壁に見せるために北と南の壁よりも二段以上高く建てられている。

 山脈をもってしても上から攻撃するのは難しい程の高さだ。


 

 アレスロアの東の地下。

 山脈に繋がる出入り口に集まったアンナとフーリーズン。

 それと運搬部隊が移動するための準備をしていた。

 彼らは、本作戦で一番重要なママロンを率いている。

 彼女と共に料理を作った大食堂の方たちもフーリーズンの部隊が護衛している。


 「ママロンさん。掴まっててよ」


 フールズンが言うと。


 「ええ。お願いしますわぁ。頑張って! ズンちゃん」

 

 ママロンが元気に答えた。


 「うん。頑張るね」


 獣身化(フォームチェンジ)をしているフーリーズンの上にママロンが乗っていた。

 滅多にない騎乗の機会に緊張もしないママロンは、暢気にフーリーズンの背中を擦る。

 

 「よし。皆出発だ!」


 フーリーズンの部隊は出撃した。

 南の敵に見つからないように迅速に移動する。


 ◇


 夜。

 山脈と繋がっている秘密の出入り口からフーリーズンらが出てきた。

 明かりのない山脈沿いから若干山側に迂回しながら、南の敵の警戒網を警戒しつつ北上する。

 フーリーズンたちは、目的地が見えるとすぐに山から光魔法を点滅させた。


 1・・・2・・・3・・・4。


 すると。

 オルタナ軍の方から。


 1・・2・・3。


 短い点滅が返ってくる。


 「今だ! いくぞ!」


 フーリーズンの掛け声とともに彼らはオルタナ軍に向かって走り出した。

 料理を持ったお母さん部隊は彼らを急襲する。

 香ばしい料理の数々を運んで、敵軍目掛けて駆けていくのだ。


 

 ◇


 オルタナ軍本陣。


 「オルタナ様」

 「どうした? シャイ」

 「来ました。中央にお通します。ママロンさんです」

 「そうか。来たか」

 

 楽しみにしていた食事を皆に振舞う時が来た。

 オルタナ軍はここで完全休憩となる。

 敵地にいるのだが、敵が敵ではない。

 なぜならあのアレスロアは、自分たちの都市と、何度も交流があった町なのだ。

 他の都市らとは思い入れが違う。

 ジャリコやシューカルとは別だ。

 ここを本気で潰そうと思うものが多くない。

 ハッサンブルの兵で構成されたオルタナ軍は、なんとしてでもアレスロアを倒す。

 その気持ちが上がらないのが事実なのだ。

 そんな中で、この秘密のやりとりの情報を知らされている兵たちは、美味しそうな料理が来たことで目を輝かせ始める。


 「シャイ。ジャバルから連絡は来ているのか?」

 「来てません。やはり手柄を自分のものにしようとしているのでしょう。単独で動いています。夜の定時連絡すらも来ていません。ですから念のため、奴らの兵を入れないように端に見張りの兵を置いています」

 「ふふ。面白いよな。なぜ敵に見張りをする必要がなくて、味方に必要なのか。ありえないな・・・こんなの南北魔大戦ではありえない話だろうな」

 「そうですね」


 相手方の摩訶不思議な計略によって、オルタナ軍は敵が味方であって、味方が敵であったのだ。

 なにせ、味方の兵士がこちらに来ることを警戒するなど、今までの戦争で経験したことがないからだ。


 ◇


 オルタナ軍中央。

 外からは中の様子が伺えない。

 それくらい中を厳重にした作りの本陣。

 その意図は。これだ!


 「はいは~い。食べたい子はね! このママロンの元にきてちょ~~~うだい! おかわり自由よ」


 ママロンがお玉を使って音頭を取る。

 コンコンとお玉と鍋がぶつけてリズムを取っていた。


 「「「おおおおおおおおお」」」


 これで一気に中央から大歓声が上がる。

 それはまるで戦場で勝鬨をあげたようだった。


 「お願いします」「うめええ」

 「これ前よりもさらにうまい」

 「戦地でこんなものが食べられるなんて・・・」

 「もう死んでもいい」「馬鹿言うなよ。これもっと食べたいだろ」

 「そうだ。生きろよ」


 オルタナの兵士たちはママロンの料理を喜んでいた。

 各々の楽しみ方で、満足する食事を取れたのである。


 ◇


 アンナはその光景を外からオルタナと一緒に見ていた。

 

 「オルタナ殿。これでもう、私たちを攻撃することは・・・」

 「そうです。絶対に不可能でしょうね。自分も無理ですよ」


 楽しそうに料理を食べて、敵であるはずの人からおもてなしを受けている現状で、この地域の人たちを攻撃する。

 そんな人間。

 逆にどんな神経をしているのだろうかと、オルタナはそう思ってしまった。

 そして、そう思ったこと自体、ルルロアという男の罠に嵌っているのだと理解したのだ。


 「……この光景が、そちらのルルロア殿が望んだ形でしょうか?」

 「そうです。あの方は皆、うまい飯を食って笑え! 皆で食えばもっとうめえ・・・って言いそうですね。この場面であそこに立っていれば、中央に立ってドカンと乾杯をしてますよ。我々の領主はそういう人です」


 ルルロアは、誰かの喜ぶ顔が見たい人。

 アンナはそういう人物だと理解していた。


 「はははは。お会いしたいものですね。ルルロア殿と」

 「ぜひ。会ってください。お願いします。オルタナ殿はとても気に入ると思いますよ。面白い方ですからね。我々の領主様は!」

 「そうですか……楽しみに待つとしよう」


 アンナとオルタナの二人の間には、香り立つ湯気が漂う。

 美味しい匂いが永遠とこの場を支配していた。




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