第7話 アレスロア防衛戦争 ①
マーゼンが確認。
「オルタナ軍が北。予定通りですね」
アンナが答えながら質問する。
「マーゼンさん。我々の配置は?」
これを即答。
「北はやや戦える町の人のみで構成しています」
北側は町の人たちを千人。
横並びにして、敵とにらみ合いになっている。
「そ、それで足りるのでしょうか? 一応攻撃は来るのでしょう」
「はい。一日目。オルタナ軍がどれだけ統率が取れているのかを見極めるつもりです。完璧に統率を取れている場合はもっと兵が少なくてもいいです。あちらは無視でいい」
「な、なるほど」
若干不安のあるアンナであった。
「それよりもこちら。こちらの南の軍がいつ攻撃してくるのかが問題ですね。初日から来るならば、やりにくいですね……しかし、相手のあの性格。来そうですね」
マーゼンは城壁の上から相手の様子を窺いながら指示を出す。
「ローレンさん! 鳥人が来た場合。速攻で飛んでください。こちらの町の中を見させません。私たちの中の動きは、非常に重要ですから。相手の鳥人が飛んだ瞬間。中を霧で隠す動きはしますが、それでも鳥人ならばどこにでも飛べますから、中を覗くことも出来るでしょう。ですからそれをさせません。空部隊で撃ち落とします。お願いします」
「わかりました。おまかせを」
ローレンたちは空部隊を迎撃するために待機となる。
「しょっぱな相手の攻撃に被せるようにして魔法を放ちます。エルフ魔法部隊で力を合わせます。土石流を仕掛けますから、準備をしていきますよ。相手を土に飲み込ませますからね」
南門中央から、等間隔にエルフを配置。
エルフの周辺には魔法が得意な者で固める。
そこから連携魔法を仕掛けるのが、アレスロアの魔法部隊【エルフ魔法部隊】である。
ジークラッドの戦争はジーバードの戦争とは違う。
それは魔法合戦と、肉弾戦闘のハイブリット型で戦闘をするのだ。
大型魔法を互いに撃ち合って、そのインターバルで近接戦闘部隊が戦うのだ。
勝敗を決するのは両方の軍の強さ。
なぜなら、魔法合戦で勝てば相手の兵を大幅に減らすことができるし。
肉弾戦闘で勝てば、後方部隊にいる魔法合戦の兵を蹴散らすことができるからだ。
戦いは両方をもってして重要。
そして、今回は平地戦ではなく防衛戦争。
ならば、一番の要はこの魔法合戦にある。
そしてアレスロアの勝機もここにあるのだ。
アレスロアが戦争することに踏み切った理由は、エルフ魔法部隊。
ルルロアが育てたジークラッド最強クラスの魔法部隊がここにいるからだ。
魔法の天才メロウ。
伝説の四代目ナディア。
それと、人に物事を教えるのが上手いルルロア。
三人によって、魔法部隊は今までの常識を覆す強さを持っているのである。
もしかしたら、ジークラッド歴代一の魔法部隊かも知れない。
◇
ゆっくりした移動から、オルタナ軍が北に軍を配置。
綺麗に並んでいる兵士たちの、一糸も乱れていない様子から、アンナは彼の軍の規律性を感じた。
ならば、ここでは上手く戦闘をこなして、押し引きをしてくれるのではないかと、アンナは思った。
北を担当することになっているアンナは、アレスロアの一般人と共にここを守る。
アレスロアの一般人は、ただの普通の一般人ではない。
ここも領主ルルロアが月一回、身を守る訓練をしているので、彼らは他で言う並みの兵士くらいに強い。
ここの住民たちはルルロアを信頼しているから、成長率もとてもよいのだ。
たった月一回。されど月一回の訓練。
それでもルルロアがいれば十分なものになる。
「皆さん、あまり緊張せずに訓練だと思って戦いますよ」
「おおおおお」
北の兵たちも準備し始めた。
◇
太陽がてっぺんに登る。
『お昼ですね』
マーゼンはそう呟いた。
「三時間・・・いや、四時間は経ちましたか。空からの偵察はなし・・・そして攻撃もなし?・・・では何をする気なのか。いえ。来ますね」
敵軍の動きを把握したマーゼンに続いて。
「……これは魔法合戦じゃない。突撃だ」
ユースウッドも気付いた。
ジャバル軍の前線を指さす。
皆の足に魔力が宿っていた。
「牽制の魔法が遠距離から来るぞ。これはファイアだな」
ジャバル軍の魔法兵5千人分のファイアがアレスロアを襲う。
「なるほど。ただの目くらまし。ならば、エルフ魔法部隊以外。障壁を作ってください。防御します」
ジークラッドの戦闘の基本戦術。
魔法障壁。
それは敵の単体魔法を防御する際に使用する魔法の壁である。
これは、魔法使いたちにとっては基本の合戦スタイルとなるのだが、放出が苦手な近接部隊の人物たちは通常は出来ない。
魔法は単体で放つ場合と団体で放つ場合の二種類があり。
近接部隊が城壁を登りやすくするために単体魔法を援護射撃として使うことがあり、今回も基本戦術に則ってジャバル軍が実行してきた。
ただアレスロアは例外である。
通常は魔法部隊がここで魔法障壁を張るはずなのに、彼らは近接部隊が張ったのである。
城壁の上にいるアレスロアの兵たちが薄い膜を展開。
エルフ魔法部隊以外が横一列になって都市を守る形を見せた。
魔法障壁に敵の炎の玉が着弾。
炎を受け止めきって、アレスロアの障壁は敵の魔法を遮断した。
「おおお。皆よく魔力が練り込まれているな」
この結果を間近で見て、ユースウッドが感心していた。
「ユースウッド。これは当然なのよ。あたしとルルとメロウの三人で指導したのよ」
「しかしな。ナディアよ。これほど見事な障壁を張れるのは本来魔法使いくらいしか出来ないのだぞ。普通はな・・・ちと、ここの兵は強すぎだな」
ユースウッドとナディアは皆の力に満足しているが、その隣にいるマーゼンは油断していない。
「炎。三秒後に終わります。皆さん、展開を解除・・・・解除の瞬間エルフ魔法部隊が、魔法を出します。敵が来ます」
マーゼンの指示通りに、敵の炎魔法が終わる。
と同時に魔法障壁を解除。
互いの目の前の景色が広がった。
その時、これまた予想通りに敵が攻撃を開始していた。
アレスロア南門をこじ開けようと、ジャバル軍の兵士1万が突進していた。
「予備を置いて、半分で攻め落とす気ですか。全軍で来てくれればよかったのに。あの人、意外にも慎重な人間なのですね・・・でも仕方ありません」
マーゼンの予想では攻撃を全力でやってくれると思っていた。
しかし、敵は冷静なのか。
慎重なのか。
それとも舐めているのかは分からないが、兵を分けて攻撃を仕掛けてきたのである。
「巻き込む人数が足りない。しかし、我々はいくしかないですね。エルフ魔法部隊! 土石流です!」
アレスロア。
城壁南門の手前。
10メートル付近から突如として土の津波が出現。
濁流を生み出した魔法は、前傾姿勢で走っていた敵の一団に直撃。
飲み込まれるジャバル軍の近接部隊はもがきながら、本陣まで下がっていく。
その勢い。
そのまま背後にある本陣をも襲うほどのものであった。
だから、ジャバル軍は思わず、隊列を下げていく。
ジャバルは意図せず数百メートルも後退せざるを得なくなった。
「成功です。あとは、救助作業をするでしょう」
アレスロアの連携魔法によるカウンターが決まった。
◇
「な、なんなのだ。あの魔法……あの威力……あの人数で??? どうやって用意が出来る。あの威力は、もっと人がいなければ出来ない」
仲間が土の濁流の中に入ったことでジャバルは戸惑っていた。
あれほどの力であれば、大量の魔法使いが準備をしないと出来ない。
だから、自分は油断をしたわけじゃない。
相手が強すぎて、想像外の出来事でこの結果を出してしまったと後悔した。
「ええ。ジャバル様。中に強力な魔法使いがいるのでしょう」
「そのようだ。ここからの撤退はないが、一時引こう・・・救助を優先して、濁流の中に飲み込まれた者たちを救え」
「はっ。今から動きます」
ジャバルも味方の為に動き出して城壁を睨む。
思った以上に強い。
あの威力は町の規模が繰り出す魔法じゃない。
これは本格的に作戦を練らなければならないだろう。
気を引き締めたジャバルは、翌日からの逆転の一手を見つけようとしていた。
この後、救助作業に全てを取られた連合軍の一日目は終了した。




