第16話 本拠地へ
ヴァイスの修行。
それに付き合うオレの指示が出る。
「ヴァイス! いい感じだな! あんた。やっぱ戦いの天才だわ」
「ふっ。お世辞か。お前の足元にも及ばんのだが」
「いやいや。この技の基礎をこの短期間で出来るのは十分天才よ。そういやあんたいくつ?」
「22だ」
「若!? オレと変わらないじゃん」
「そうなのか」
「オレ。いくつだっけ。ええと、あ。同い年かもしんないわ。やったぜ。オレ、初めて同じ歳の奴見たよ! よろしく」
「ん。よろしくだ」
「こっちの人間さ。長生きだよな。あんたはいくつくらいまで生きるの?」
「長くて百だ!」
「そうなんだ。オレと同じくらいってわけだな。へぇ。そこも仲間じゃん」
「ふっ。もう俺も仲間なのだな」
「当り前よ」
オレとヴァイスはがっちりと握手した。
意外とこの男とオレは気が合う。
豪快で単純なヴァイスは遠慮しないし、こっちとしては色々難しい事を考えないで話してもいい関係だしな。
にしても同じ歳っぽい。
オレってそういえば自分の年齢を考えていなかったわ。
色々ありすぎて誕生日とか祝ってなかったもんな。
特にあれだ。
フレデリカとアマルを育ててから怒涛の日々だったからな。
あれで月日の感覚を失ったわな。
二人で二年半・・・あの事件から一年強くらいだから四年は経ったな。
ジェンテミュールをやめてからよ。
「まあ、さっきの続きで。アドバイスするとさ。魔力は内に秘めていても変換さえできればこいつは出来る。ちなみに魔力変換が上手い奴がこの技を出すと、思った通りの属性攻撃になるんだ。こういう感じ。これは火ね」
七光拳の火を人型人形に当てる。
人形の胸あたりに当てたので上下に火が燃え上がっていった。
「な、なるほど・・・それほど高性能な拳になるのか。俺とルルではここまで違ってくるのか」
「まあそのうちさ。威力なんてもんは出るよ。あんたすげえ奴だもん。たださ、これは自分の意思で変化させるから、威力的には劣るぞ。七光拳は何も考えないで属性攻撃をするから強い。だから、オレはこの名前にした!」
「……しかし、ルル。七光拳は、七つの光なのだろう。なぜ八と言っているのだ」
「それはね。極稀に八番目の光が現れる時があるんだ」
「八番目?」
「そいつが当たれば、大体一発で相手を倒す。だから運任せになるからルーレットなんだぜ」
「そうか」
七光拳には、最後の一撃がある。
全属性攻撃と呼ばれる拳になることがある。
それはたまたま起きることであるのさ。
なぜなら。
「オレのさ。陽光のエレメンタルていう魔法があるんだけど。あれが五属性同時発動魔法なんだ。オレさ。これに闇を入れれなかったんだよね。あれ、めっちゃむずいのよ。たぶん、四属性を出しながら、光と闇を同時に出して混ぜるのが出来ない。だから、七光拳は高速で属性を回すんだ。そこでたまたま属性が重なると氷とか雷が出てきて、全部が重なると最後の一撃が出来るってわけ。だからルーレットね」
「そうか。全部が曖昧であるから、名前すらも安易なものになっているのか」
「そうよ。技は安易な名前の方がいい。いちいち長い名前は嫌でしょ」
「確かにな。同感だ! ははははは」
と、いつのまにかヴァイスとも仲が良くなったオレであった。
◇
四天王三人と協力関係が深まって二週間。
ヴァイスとアイヴィスの両名が、リュカの説得を行っているとの虚偽の連絡をアルランに入れることで、解放軍の会議を遅らせることに成功している。
リュカの会議参加の許可が取れたと伝えたのは昨日。
折り返しの連絡を待つオレたちは、リュカの玉座の間で話し合いをしていた。
「それで、ここからどうする」
リュカが聞く。
「オレはさ。三人が会議をしている最中に、牢に行きたい」
「ん?」「え??」
ヴァイスとアイヴィスが驚いた。
「クヴァロの屑に会ってくる」
「「「 なに!? 」」」
「だってさ。あいつにしか分からない事情があるからさ。アルランからはそうたやすく聞き出せないと思うんだ。オレはとにかくフィリーについて知らないといけないと思う。そこがアルランとの交渉の材料だと思うんだ」
「しかし、どうやって会う。俺たちクラスしか牢には入れないと思うが」
腕組みをしているヴァイスが言った。
「そうねぇ。ルルちゃんを城の手前まで連れて行くのは簡単だと思うけど、中に行くのが難しいわね」
「何か策があるのか? ルル」
「ああ。新しい護衛隊長っていう役職でリュカの付き人で行くのは厳しいと思う。自由に行動が出来なくなるし、会議に参加しないといけなくなるからな。ここは、アイヴィスがいいと思うんだ。アイヴィスって従者をたくさん連れて行くのか? 普段さ」
「そうねえ。5名くらいかな? この二人よりは多いわ」
紹介してくれる二人は会釈してくれた。
「じゃあオレがそこに紛れるわ。そうだな・・・こんな感じがいいかな。奇想天外!」
オレの姿形が変わると三人が驚いた。
「なに!? ルルではない!?」
「せ。拙者も初めて見るぞ。なんだそれは」
「それは三つ目族ねぇ。珍しい種族だわ」
オレはメロウに変身した。
「これなら、魔人族だ。アイヴィスの従者となってもおかしくないはずだ」
「ま、まあ・・そうだけど。三つ目族なんて珍しすぎて目立つかもしれないわ」
「そ、そうか・・・じゃあ、ここにバンダナ巻いて隠すわ」
マジックボックスからバンダナを取り出して、お飾りの三つ目に当てた。
オレがメロウになったとしても第三の目が使えるわけじゃない。
「どう?」
「まあ、そうなるならば、ギリギリだよな」
ヴァイスが言ってくれた。
「よし。じゃあこれでいくわ」
こうして、メロウに変装して解放軍の本拠地へ行くことになった。
◇
解放軍の本拠地は、唐突な訪問を拒んでいるらしく魔法陣での移動は固く禁止されている。
場所はジークラッド大陸の最北端イナシスと呼ばれる都市。
氷の大地の最奥。
大極寒の地であると三人が言っていた。
風による冷たさなど意味がない。
すでにそこにいるだけで寒いらしい。
オレたちはそこへと向かうのだ。
「ルルちゃん。このコートをさらに着ておいて。寒いからね」
氷の大地を狼族のそりで移動しているオレたちは、オレとアイヴィスがセットで隣同士に座り、別なそりでリュカとヴァイスは移動している。
「着るけどさ。あんた。くっつくなよ。離れろ」
「嫌ぁ~一肌が恋しいの」
「はぁ」
隣のアイヴィスはベタベタくっついてきて大変だ。
オレのどこを気に入ったのか知らないけど、最近距離が近い。
オレにはナディアがいるから、正直離れてほしい。
もしあいつに見つかったら殺されそう。ただの腕組だけでも・・・。
両手を手袋でガードしても、寒さでかじかむ。
最北端につれて移動して行く度にこの寒さは極限へと向かうらしい。
これが氷の大地。
オレがジークラッドに来た時に初めて見た氷の大地の上に、オレは今いる。
「こういうのが一番おもしれえ。早く冒険がしたいぜ。こんなくだらねえ戦争なんかさ。早くなくなればいいのにな」
そんなことをついつい思いたくなるオレだった。
◇
氷の大都市イナシス。
雪がガチガチに凍っている大都市は氷の大地最強の寒さ。
こちらの都市の建物は、城と家だけ。
都市の中心に聳え立つ城は左右非対称。
中央よりも大きい塔が右側に存在している。
「あれ、なんだ? なんで中央よりも高いんだ?」
「知らんな。俺も」
「私も」
「拙者もだ。アルランくらいだろう。あれが高い理由を知っているのは」
「へぇ。四天王でも知らんのね」
つうか。
ここの四天王って自分たちの組織について知らないことが多すぎないか。
こいつら、他人に興味なしかよ!
「あと。家はかまくらか。可愛らしいな」
「そうだな。お店とかもかまくらになっているぞ。拙者らは山のおかげで土が存在しているから家を建築できるが。こっちは土が氷の大地で見えないからな。かまくらが一番効率がいいんだ」
「へぇ。そういうことか」
「そうよぉ。この雪、ガチガチでしょ。これをね。いったん火魔法で溶かして、形を整えてから、そのまま放置すれば家が出来るの。簡単でしょ」
「ふ~ん」
この都市ならではの面白い建築方法だった。
◇
商業施設もかまくら。
みんな、この寒さだからお店前で客引きをすることがない。
当然出店もない。
外にずっと居れば死んじまうかもしれないからな。
さすがは極寒の地。
商売も家の中で完結させた方がいいようだ。
「さみいもんな。外にいつまでもいたら風邪を引いちまうわ」
「じゃあ、私が隣にいてあげるね。ルルちゃん」
「それはいい。離れろ!」
「ええ。酷いぃ。私にそんなこと言う人あなただけよ」
「だろ。つうことでマジで離れてくれ」
「もう。そこがいい!」
「なんでくっつくんだよ。離れろ!」
オレとアイヴィスは従者という関係なはずなのに、腕を組んでイナシスの城に入場したのであった。
当然だけど、俺変装しています。
メロウ。すまん!
お前の顔を借りるわ。
四天王三人は、入城と同時に各部屋に通された。
彼女の従者であるオレは、彼女の控室に入る。
アイヴィスは化粧直しで、メイドらとドレスアップすると言って、部屋の奥にある部屋に行った。
今のオレの周りにはアイヴィスの本来の従者たちがやってきた。
「なんで貴様がここにまで」
「納得いかん。本当は」
「ヒュームの癖に」
「そうだ。私たちがどれほどあの方を愛していると思っている。それなのになぜ貴様は、そっけないのだ。あの方の愛を受けよ」
とまあ、大変に彼女に心酔している模様。
だが、本来はこのようになるのが彼女の誘惑の力なのだろう。
オレの方がおかしいのだと思った。
「まあまあ。イっちゃん。ニィちゃん。サンちゃん。ヨンちゃん。オレは彼女に興味がないから、君たちが愛してあげてくれ。うんうん。君たちの愛こそが彼女を満足させるのよ。頑張っていこうぜ。応援してるからさ」
「「「「む・・・」」」」
オレの応援で、全員もれなく嬉しそうにした。
この子たち、心酔してるからね。
オレは心酔してないアピールをしつつ、彼らの機嫌も取っておこう。
おかっぱ頭の男性イっちゃん。
本名はイチラン。
魔人族のナーズバルという種族らしい。魔法放出型の魔人族。
おさげの女性ニィちゃん。
本名はニィズミ。
イチランと同じくナーズバル。赤のリボンが頭についている。
パッツン前髪の女性サンちゃん。
本名はサンサン。
この人もナーズバル。ナーズバルは魔人族でも多い種族みたいだ。
ツインテールの女性ヨンちゃん。
本名はヨンカ。
この人はジェルドと呼ばれる魔人族。
特殊な技を持っているらしいが、教えてはくれなかった。
「ねえ。君たちはさ。アイヴィスの腹心なんだろ。自信持てって。オレなんかを気にしちゃだめよ。うんうん。君たちは彼女にとって重要な人たちだ。頑張れ!」
「・・あ。うん」
「そうだな」
「頑張る~~~」
「な、なぜ貴様に言われなければならん。ふん」
とヨンちゃん以外は、納得してくれた。
案外素直な子たちであった。
◇
「ルルちゃん。こっち来て。どう」
隣の部屋のドアから顔だけ出したアイヴィス。
自分に自信があるらしく、今度は全身を見せてきた。
「どうもなにも。似合ってるんじゃないか」
綺麗なドレスを見せつける彼女は笑顔で、くるりと一回りした。
とても楽しそうだった。
「いいでしょ。どう。魅了された? 誘惑された?」
「ない。そんじゃ、オレは準備に入るわ。ここの地図くれよ」
「ああ、も~う~~~。なんであなたには効かないのよ!!!」
「んなもん知らねえよ。早く地図くれ、地下からの脱出を図る時の経路を知りたいからよ」
「ぷう~~~~」
彼女が頬を膨らませて怒っているけど、そんなの関係ない。
オレは今、敵地になるかもしれない場所で隠密作業するんだからよ。
準備してえんだよね。
ここで暢気にあなたの容姿が綺麗ですね。
みたいなやり取りできるわけないだろ。
「ほれ。地図くれ」
「・・はい」
アイヴィスが不貞腐れながらも、地図をくれた。
これを頭に入れていく。
ブーブー何かが聞こえるけど、オレは耳を閉じて、頭にだけ地図を刻み込んでいったのだ。
◇
従者らを座らせたアイヴィス。
ソファー席に皆を座らせて、何故かオレは彼女の隣である。
「ちけえんだよ。離れろって」
「嫌!」
「ここ一人用じゃん。オレもそっちがいい。サンちゃんの隣に行くわ」
「駄目! 移動したら私、協力しないよ」
「・・・ちっ。しょうがねえ。せめえ・・・ギュウギュウじゃん。一人用だからさ」
一人用のソファーに、オレとアイヴィスはほぼ重なったような状態だった。
イっちゃんからサンちゃんは五人用ソファー。
ヨンちゃんも一人用で、オレたちも一人用。
なら、そこの五人用の空いている席に座れるじゃんと思うのは当然だよな。
「はぁ。で、いつから会議だ。到着早々でやるのか?」
「うんとね・・・いつからだっけ? イっちゃん。いつから?」
「はい。三時間後と連絡がありました」
イっちゃんが答えた。
「そう。らしいわよ。ルルちゃん」
「じゃあ、牢に行くタイミングは?」
「それはいつだっけ。ニィちゃん。いつ?」
「それは、二時間後です。ここの人には次の会議があるから、長居は出来ないぞと釘を刺されました」
ニィちゃんが答えた。
「そう。だそうよ。ルルちゃん」
「ふ~ん・・・・っつうか。あんたさ。なんも覚えてねえのかよ。全部この人たち、任せなのかいな」
「当たり前でしょ。この子たちは私の従者よ。当然よね。サンちゃん」
「はい。当然でございます」
サンちゃんが答えた。
「ほらね。私の為に一生懸命の子たちなの。忠誠心抜群だから、あなたの事も黙っているわよ。ねえヨンちゃん」
「残念ながらそうなります。その男に何の義理もありませんが、あなた様の命令なのです。死んでも守ります」
「だそうよ。安心して。ルルちゃん。あなたの正体はここからはバレないわよ」
「はぁ。そうか。それは助かるわな。誓いのスキルを使わないでやれるならその方がいいからな」
という会話があった。
この人たちの忠誠心は素晴らしいものである。
何もかもをこの人たち任せにしていたアイヴィスであった。
二時間後。
勝負の時は来た。
オレはクヴァロのいる牢へと向かうのである。




