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第12話 VS アイヴィス

 「あらぁ。来てくれたの。嬉しいわ」

 「ええ。来ましたよ」


 リュカの城の三階西。

 客間の一室にいるアイヴィスの前に立った。

 彼女は二人掛けのソファーに寝そべって、オレを上目遣いで見てくる。

 スリッドの入ったドレスで、綺麗な足をオレに向けて誘惑を仕掛けているつもりなのだろう。

 ちなみにオレは全く動じていない。


 「どう。ここに座って。ここに」

 「はい」


 ソファーの斜め向かいの一人用のソファーにオレは座る。


 「あなた。気になるのだけれど・・・・本当にヒューム? ヒュームに化けた何かじゃなくて?」

 「ヒュームですよ。ごく普通の」

 「……んんん。なんで誘惑が効かないの? いつもならここまでやれば、色に落ちるはずなのにぃ」

 「さぁ。私はもう落ちているのかもしれませんよ」


 冗談めかして言ってやった。


 「面白~~~い。私の前でそんなこと言った子。初めてぇ。み~~んな。ぼうっとしちゃってすぐに何も言い返せなくなるのに。それにね。言い返せるアルランだと、つまらんって言うでしょ。アースちゃんだと、うるさいって言われちゃうから。反応がつまんないのよねぇ」

 

 オレの反応を面白がってるのか。

 なるほど。

 この人、なにもせずとも、相手が勝手に惚れるから、話すのがつまらないのか。

 ああそうか。

 確かにそれだと話し相手がいないのと同じだわな。


 「でもあなたは別ねぇ。面白い。それじゃあ、遊びましょ。あなたが負けたら、私のモノになって!」

 「・・・いいでしょう。私が勝ったらどうなりますか」

 「あら、勝つ気があるのね。それも面白いわね。いいわよ。何かある?」

 「ではお願いを聞いてくれますか?」

 「・・・どんなお願い?」

 「言えません」

 「ええ。もったいぶるのね。どんなお願いかな? 私をめちゃくちゃにしてくれるのかな」

 「そうですね。アイヴィス様が満足いくお願いかもしれませんよ」

 「っふふふ。好き。そういう返しは大好きよ。いいわ。やりましょう」


 彼女からイタズラな笑顔が消えた。

 真剣な顔の方が美しい。

 そんな印象をオレは受けた。


 「それじゃあ、あなた。人形大戦(ガルドウォー)をしましょう」

 「人形大戦(ガルドウォー)?」

 「あら、あなた知らないの?」

 「はい。申し訳ありません」

 「謝らなくてもいいわ。手取り足取り教えてあげるからぁ」


 アイヴィスは、遊ぶための盤を用意した。

 ガルド。

 と呼ばれる人形戦士を操って、対戦する遊びらしい。

 戦士を使い、赤い旗と青い旗を取り合う旗取り合戦だ。

 

 「これはね。意志と魔力を使って操っていくの。この盤面に触れると私たちはこの戦場に意識を飛ばせるから、天から見た視線で戦場を見渡せるわ」 

 「なるほど……」

 「私たちは暇になったらこれで遊ぶの……魔力も大量に扱うからね。修練にもなるわ」

 「なるほど……」


 面白い仕組みだなと思ってたから、なるほどしか出て来なかった。


 「あら、さっきからなるほどしか言ってないわよ。それじゃあ、基本の単純ルールは覚えたでしょ。やりましょ」

 「少し待ってください。これは私の方が赤い旗を取りに行けばいいという事ですか?」

 「ええ。そうよ。私はあなたの青い旗を取ると勝ち。あなたは私の赤い旗を取ると勝ちよ」

 「わかりました。いきますか。こちらに手を置けばいいんですね」

 「そうよぉ。では勝負!」


 オレとアイヴィスが同時に互いの陣の盤に両手を置く。

 すると二人とも意識は盤の中に入り込んだ。


 ◇


 視野が変わった。

 盤の中に意識が入ったらしい。

 

 オレの立ち位置は俯瞰だった。

 自分たちの世界で言えば、本当に空から下を見る感じだ。

 何もない荒野の中に、一本の旗が置いてある。

 これがオレの陣地。

 で、じゃあ。あの似たような荒野の上にある赤い旗がアイヴィスの陣地だ。

 それでどうやれば、戦士が出てくるんだ。


 「あなたぁ。魔力を込めて、念じれば戦士は出てくるわ。こういう風によ」

 

 アイヴィスの声が聞こえた直後。

 赤い旗付近から剣と盾を持った人形が出てきた。

 ガシャン、ガシャンと音を立てて歩いてきた。

 

 「やってみて」

 「はい」


 魔力を盤上に与えると、オレの青い旗の付近から戦士が出てきた。


 「これは? 動かす方法は?」

 「意識よ。旗の周りにある旗と同じ色の円形のフィールド内ならば、戦士に指示を与えられるわ」

 「なるほど。その先から出ると、与えられた命通りに動くということですか」

 「そう。じゃあ、お試しに。真ん中で戦うって念じてよ。私もそう念じるから」

 「わかりました。やってみます」


 フィールドの真ん中で戦え。

 人形が自陣にいる内にこの指示を与える。

 そして、指示を出すのにも魔力を使うようだ。

 とにかく、何をするにも魔力が必要な遊び。

 修練といった意味はここにあるようだ。


 「こうかな・・・どうだろう」


 疑問を口に出した時、オレの人形が真っ直ぐ歩きだした。

 

 「いい感じよぉ。それじゃあ、戦うわよ」


 オレの出した戦士と彼女の出した戦士が中央地帯でぶつかり合う。

 盾と剣を互いに駆使して、相打ちとなった。


 「あら、同じ力! あなた魔力が強いのね。魔力放出の力で、この戦士の強さは決まるわ」

 「なるほど。それで、数は魔力量。質は放出力。指示は魔法の構成力か。よく考えられた遊びだ」

 「あなた理解が早いのね。じゃあ本格戦闘するわよ」

 「どうぞ」


 オレと彼女が同時に三体の戦士を出現させて、そのまま突撃させた。

 団体戦となっても同数となれば膠着状態となる。

 数も質も同じならば同じ攻防になった。


 なるほど……それじゃあ、細かく設定すればいいのか。

 

 オレはいつもの思考加速をさらに加速させて、戦士の動きを設定した。

 戦闘時の動き方を細かく決める。

 盾で攻撃を弾く際の方向。敵の盾に剣を入れ込む位置。 

 そして、相手と戦いながらおびき寄せるようにして移動させる方法。

 人さながらの集団戦闘方法の策の構築をした。



 「よし。これでどうだ」

 

 オレが策を講じた戦士六体を出現させる。

 それに合わせて、彼女も六体出現させた。

 オレの数に合わせて、彼女は数を合わせているようだった。

 同数でも勝つ自信があるのか。

 それとも正々堂々とした勝負が好きなのか?

 

 

 ◇


 フィールドの中央で再び戦士が激突。

 オレの盾と剣の戦士と、アイヴィスの盾と剣の戦士は、やはり普通に戦うと互角だった。

 最初の動きは互いに剣を振って、互いに盾で防御する。

 それを数度撃ち込む。

 これを見て分かる。

 彼女の放出力はオレと同等だ。

 だからナディアの全力と同じ。

 さすがは四天王、弱い部分がないと見た。


 「ふむ・・・じゃあ、ここからは違いますよ」

 「え?」


 オレの宣言通りに戦士が動きを変えた。

 それはオレが与えた指示通りの動き。

 戦いが膠着したら、こう動けと指示を出していた。


 右と左の端で戦っていたオレの戦士が、盾をメインにして、攻撃をせずに中に入っていく。

 隣の味方の戦士のそばにまで来た。

 

 オレの両端の戦士は、味方と肩が触れ合う直前で、同時に身を翻して、敵との立ち位置を変えた。

 こうなると、端の兵士と仲間の戦士が敵を挟む形となり、挟撃攻撃が通る。

 

 「これで撃破です」


 左右で挟む込んだ敵を一体ずつ撃破。

 オレの戦士たちは、この一瞬で六対四にした。

 ここからは同じ能力の戦士。

 数が変わればオレの方が有利となる。

 圧力をかけて左右から囲い込むようにして敵を撃破。


 オレの戦士たちは、敵を全滅させたので旗へと向かっていった。


 ◇


 「え!? なにそれ・・・ずるいわ・・・仕方ないわ」


 アイヴィスは自陣の旗から戦士を作成。

 大盾の戦士を三体と、弓の戦士を三体生み出した。


 「む。他にも種類があったのか」

 「あるのよ。想像できる武器なら作れるわ。ただ動きのイメージはしっかり伝えないと駄目よ」

 「わかりました。その忠告は頭に入れておきます」


 オレの戦士たちは大きな盾によって進軍を止められた。

 立ち往生のような形になり、そこに敵の矢が入る。

 グサグサとオレの戦士たちに矢が刺さり、六名は敗北した。


 「あなたは素晴らしい対戦相手だったわ。これで終わらせる」


 彼女は一気に戦士を150体並べた。

 魔力を全力解放した様だ。

 彼女の魔力はやはり四天王に相応しいものだった。


 「あなたは私のモノになるのよ。奴隷よりも旦那様になってもらおうかしら」

 「それは二個の命令ということですか?」

 「え? 私のモノになってから旦那様になっての二種ってこと?」

 「ええ。そうです」

 「んんん。そうね。旦那様とモノは別物だものね。二個って言われれば二個ね」

 「そうですか。それならば、こちらも二個あなたにお願いしてもいいのでしょうか? 勝てたらですけど」

 「この数に勝とうというの! あなた、150体なんて出せないでしょ。いいの?」

 「ええ。いいです。ただ、こちらの願いを二個。叶えてくれると約束してくれるのであれば、先程の条件を飲みましょう。あなたのモノにもなるし、あなたの旦那様となってもよろしいです」

 「そう。じゃあいいわ。約束よ。負けても後悔しないで頂戴」

 「はい」


 オレは思考加速をもっと加速させて戦士たちの動きをイメージした。

 魔力展開を大きく持っていき、100体をフィールドに並べた。


 「え? 100も。ヒュームが!? 信じられない」


 彼女は驚いていた。

 100体は多いらしい。

 正直戦士の動きをイメージしなければ、オレも150体いけるんだけど・・・。

 と思ってることは黙っておこう。


 「でも数はこっちが優位よ。勝負ね」


 彼女の軍全体が進軍。同じ歩幅でこちらに向かってきた。

 これに対してオレの戦士たちは違う。


 大盾の戦士10体をオレの旗の前に並べて待機。

 残り90体を三分割した。

 左翼。中央。右翼に分けて、敵の一塊になっている軍に向かう。


 ◇


 「なにそれ。分散していると勝てないわよ」

 「ええ。普通の動きをしていればですよ。それはね」

 「え!?」


 中央の戦士30体が敵の戦士150体と衝突。

 一瞬で勝つと思っている彼女は声に余裕があった。

 数が優位で、相手の陣までドンドン押し込めてるだろうと思っているからだ。

 オレの兵士たちはずるずると下がっていく。


 「もう余裕よ。粉砕するわよ・・・ん?」


 俺の中央の戦士たちは盾がメイン。

 攻撃を受け止めるのが役割だった。

 ずるずると下がっていくのも罠。

 待機していた左翼と右翼の位置よりも下がれば、後は左翼と右翼が、相手の両脇を突く位置になるだけだ。


 「これで挟みますよ」

 

 左翼と右翼の戦士は攻撃がメイン。

 剣と槍を持っている。

 それらで防御を気にせず相手を突き崩す。

 瓦解していく彼女の戦士たちは前に進むしか出来ない。

 なぜなら、彼女の行動原理は、前へ行くという指令と目の前の戦士を倒せの指令しかないからだ。

 オレの戦士への行動原理は、今の動きにしてあるからオレの戦士たちは戦いながら自由に動いている。


 「な!? なによ。その攻撃。こんなに人のように動くなんて」

 

 両翼が次々と撃破していくのを手助けしているのは中央の盾部隊と、弓兵の部隊だ。

 盾の背後から矢を放ち、中央の兵にも集中しなくてはいけない環境を生み出している。


 「兵が・・もう、半分以下に・・え?」

  

 敵の戦士が半分以下になると、左右両翼が敵を無視。そのまま彼女の旗の元に向かった。


 「ど。どうして。攻撃をやめたの」

 

 左右の圧力を受けなくなった彼女の軍が勢いを取り戻す。

 オレの旗の方に軍を押し込んできた。


 「これなら勝てるわよ。私の勝ちぃ」

 「それはどうでしょう。このまま対策をしなければ、アイヴィス様。負けてしまいますよ」

 「・・・え?」


 オレの旗の前にいる戦士10体が持っている大盾を連結させて、前進。

 今まで守ってきた盾の戦士はその両脇に移動して鉄壁の布陣を自陣に敷いた。

 大盾の後ろには弓の戦士を配置し、防御陣は完成する。

 攻撃をする隙間を許さない陣だ。


 「どうでしょう。こちらへの攻撃に気を取られると。ほら。アイヴィス様。そちらをどうします? 兵を足しますか」


 オレの進軍していた両翼の兵が、アイヴィスの旗を狙いに敵陣の中に踏み込んだ。


 「む! ここで・・・くっ」


 彼女の魔力が尽きたのか。

 戦士を20体しか生み出せなかった。

 オレの戦士はその倍以上いる。

 楽勝で敵の20体を打ち破り、旗を奪取した。


 「はい。オレの勝ちだわ。あんたにはオレの願いを聞いてもらおうか・・・アイヴィス!」

 「え!?」


 意識が戻ったオレたち。

 彼女の目は、態度の変わったオレに驚いて瞬きを繰り返していた。


 

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