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第11話 新たな戦いの始まり

 「よっ。リュカ」


 玉座の間の端から、オレは椅子に座っていたリュカに声を掛けた。

 すると周りにも大臣たちやらで人が一杯になっていることに気付く。

 珍しくかなりの数の人間がこの部屋にいた。


 「た・・・タイミングが悪い! ルル。ちょっとこちらに来い」

 「え? なに!?」

 「頼む。時間がない、手短にする」

 「わかった」


 やけに慌てているリュカのそばに行った。

 

 「今からお前は、新しい護衛隊長として、拙者の後ろに立て。いいな。今から来る奴らに何を聞かれても話すな。拙者が話す」

 「ん? どういう事?」

 「頼む。時間がない。奴らが今。表の扉前に来ている。だから今は、魔法陣の魔力を出してはいけない。奴らに感付かれるからな」


 リュカが慌てて指さした先は、玉座の間の扉の向こう。

 今から誰かの訪問がなされるらしい。

 非常に良くないタイミングでこちらに来てしまったようだ。

 申し訳ないことをした。

 心から謝っている。


 「わかった。下がるわ」

 「うむ。頼む」


 リュカはいつもよりも堂々とした態度で王様らしく座った。

 オレと接する時のフランクな彼ではない。


 ◇


 「ヴァイス・ギューイ殿 アイヴィス・ダルン殿が入室されます」


 扉の前の兵がそう告げた。

 聞いたことがある名前だ。

 ・・・どこかで・・・。

 

 扉が開くと、大きな体に毛がもじゃもじゃある獣人の男性と、怪しく微笑む美しい女性が現れた。

 男性はのそのそと歩き、女性はくねくねと体を動かしながら歩く。

 二人がこちらに来る前に、大臣たちは一斉に外を向いた。

 

 「あらぁ。恥ずかしがり屋さんばかりですねぇ」

 「そんなわけあるか。お前が、誘惑を振りまいているから、大臣連中が顔を反らしているのだろうが」

 「うふふふ。ヴァイスちゃん。イイ男をここから買ってもいいでしょう。ヒュームは使える子が多いからぁ」

 

 女性が魔人族だと一発で分かる。

 圧倒的な魔力量だ。

 ナディアを上回る力を持っていた。

 オレの鑑定眼がそう警告を発していて、何やら怪しい術を発動させているらしい。

 それと隣の男性も、魔力はすさまじいがその筋力が桁違いだ。

 ユーさんの肉体を超える力強さを感じる。

 

 「何の用で来た。貴殿らは」


 リュカが牽制した。


 「あらま。その言い草はないんじゃない。アースちゃん」

 「アースヴェイン。解放軍はそろそろ戦うことを決めたらしいぞ」


 二人の意見に、リュカが再度牽制する。


 「ほう・・・なぜだ。今は、攻め込む必要はないのでは、停戦中だろう」


 この会話から察するに相手は四天王だな。

 アイヴィス・・・そうだ、ナディアが言っていた女性だ。

 それとギューイ。これは熊族の人の名だ。

 第三次の時の人から見たら子供か孫か!?


 「やる必要が出てきたって、アルランが言ってたのよぉ」

 「ほう・・・アルランが言って来ても、拙者は理由がなければ戦わんことを知っているだろう。それをアルランも知ってるはずだ」

 「ああ知っているぞ。だから俺から言おう。理由はだな。なんだか、クヴァロの野郎が、実は失態を犯していたらしく。奴は誰かに負けていたらしいのだ。そこは前の会議でも言っていたが。ここから新情報で、その際に負けた以外に誰かを失ったから牢に入れられたらしいぞ。そして、その失った人物をアルランが探していて、解放軍の領土にいないのだから、今度は連合軍の領土にいるだろうから戦争してでも相手の領地を探すと言っていた」

 「ほう。探し人か。そいつは誰だ?」


 まさかとは思う。

 オレはここで、たった一人の人物が頭に浮かんでいる。

 黙っておこう。


 「知りませんわぁ。教えてくれませんでしたらからね」

 「それじゃあ、探しようがないじゃないか。そんな戦争には、拙者は参加しない。アルランにはそう伝えておけ。拙者はここでリュカを発展させる」

 「ええ。わかりましたわぁ。でも、アースちゃん。この都市・・・なにやら、以前とは違う建物があったのよ。あのおうちは何ですか」


 農業ハウスの事か。

 しまったな。

 このタイミングで知られることになるとは・・・早すぎるな。


 「…ああ、あれはただの実験の家だ。新しい建築物を試しで作っている」

 「へぇ~」


 右手を頬に当てたアイヴィスは、怪しく微笑んだ。

 

 「いいのか。戦争に参加しなくて、戦いたくはないのか。リュカ」

 「拙者は別に戦いたくて解放軍に入った訳ではないからな。別にいい!」

 「そうなのか。その強さ……もったいないな」


 ヴァイス・ギューイは武人のような男だった。

 クヴァロのようなクソ具合が会話からは見えない。

 

 「あのね。アースちゃん」

 「なんだ」

 「そちらの子。だぁ~~れ!」


 アイヴィスは、オレの事を指さした。

 長い指で爪も長い。


 「ん? ああ、こいつは拙者の新しい護衛隊長だ」


 リュカは紹介をする振りをして、顔だけこちらを向けて黙っていろと口パクした。


 「へぇ~・・・・ほんとぉ? 見た事ないわね」

 「何故、そんなに疑問に思う」


 オレを警戒するなと、リュカは言いたげだった。


 「その子、私の誘惑に負けてないの。なのに、真っ直ぐこちらを見てるのぉ。それって、私たちとほぼ同格の存在よね。私の実力に負ける男性は、この力に負けてしまうのに、その子ぉ。全く動じてないわ・・・なぁぜ!?」


 目が輝いた。

 オレの実力を測ってたのか。

 しまった。

 見なきゃよかったわ。


 「ご、護衛隊長だからだ。拙者の事を守ってくれているから、意思が固いのだ」

 「ふ~ん・・・無理じゃない。その言い訳ぇ」


 ここで突然アイヴィスが消えた。

 と同時にオレの左に人の気配がした。

 顔を横に向ける前に、女性の右の手がオレの右頬に重なる。

 人差し指から順番に薬指まで頬に置かれ、そこから顎までゆっくりと撫でるように手が移動した。

 

 「あらま。近くで見ると、もっとイイ男じゃないの。この子、ヒュームなのに私の誘惑に負けてないわね」

 

 顔と顔が近い。

 目と目が近い。

 重なり合う体に近い状態でオレの左側に彼女の体がくっついている。

 でもオレはこの誘惑に抵抗できている。

 たしか、ナディアから聞かされた話では。

 誘惑という力を使用して、人を操るって話だったな。

 これが、おそらく搦め手の一つ。

 だけどオレの中に勇者の心があるから、状態異常系統がキャンセルに入るんだわ。

 まあ悪いけどな。

 女好きの屑勇者のおかげで、女の誘惑に勝てるらしい。

 皮肉である。

 そしてつまりだ。

 レオンは普通に女の誘惑に負けているのである!


 「いえ。あなたの魅力に負けそうですよ」


 オレが真面目に言い返す。

 全く負ける気がないけど、こういう女性にはプライドを傷つけないように、おだてておけば万事解決。


 「うふふふ。面白いわぁ。この子頂戴。アースちゃん」

 「駄目だ。離れろ。拙者の護衛隊長だと言っただろ」

 「だ~~め! 私、この子が欲しいわ」

 「怒るぞ。アイヴィス」

 「あら、そんなに真剣になるなんて、ますます興味が湧いたわぁ。ちょっとここに滞在するわ。その間、この子を私の所に置いてね。そうだ、ヴァイスちゃんはどうする。帰る?」

 「お前がここにいるなら、俺も少し居るか。それに、ここらの剣士と戦いたい。鍛錬したい」

 「・・・いいだろう。時間をくれ」

 

 リュカは悩んだ末、二人を泊まらせることにした。

 リュカのこの決断が、苦渋の決断であるとオレも思った。

 可哀想だ。

 

 「じゃあ。この子、連れていくね」

 「待て」

 「なぁに」

 「それは出来ん。そいつがいないと護衛たちが大変になる」

 「だぁ~~め! 連れて行く」

 「・・・・わかった。ならば時間をくれ。護衛のシフトを変えねばならん」

 「ん!」

 「あとでそいつを送り届けるから、時間をくれ。仕事を回せなくなるんだ」

 「・・・わかったわぁ。早く済ませて、私の所に頂戴ね」

 「ああ。部屋を用意するから、二人とも移動してくれ。あとでこちらがもてなす」

 「おう。頼む」

 「ええ。そうしますわ」


 二人を玉座の間から追い出すことに成功した。

 リュカのメイドらが二人を客間に連れて行った。

 だが、問題は残る。


 「皆、一時解散しろ。拙者はルルと話がある」

 「「「「 はっ 」」」」


 全員が部屋から消えた後。


 「はぁ。すまん。どうするべきか悩んだが。ああするしかなかった」

 「いや、いいよ。あれが限界だと思う。あの二人の機嫌を取るのが良策。不機嫌にさせたら愚策だぜ。それに・・・」


 オレは、リュカには例の件を話すべきと判断した。


 「リュカ。ここは二人だけの秘密の話にしたいんだけど……」

 「なんだ?」

 「オレ、あいつらが探している人物に心当たりがある」

 「なに!?」

 「ああ。あいつらが探しているのは、フィリアグレース。アルランの娘だ」

 「・・は!?」

 「オレ、クヴァロと戦って勝ってるだろ。その時に磔にされた女の子がいてさ。その子を救った時にクヴァロがアルラン様の子って言ったんだよ」

 「・・はぁ!?」

 「そんで彼女の首の後ろにある魔法陣に、彼女の名前が刻まれてるのよ。それで名前を知ってるわけ。リュカは、アルランに娘がいるって知ってた?」

 「知らん。拙者は一度もそんな話は聞いたことがないぞ」

 「そうか。あいつらも知らない感じだったな。でもクヴァロだけは知っているのか・・・なぜだ」

 「さぁな……」

 

 リュカも悩んでいて、本当に知らないようだった。

 

 「どうすっかな。フィリーを差し出せば、戦争を止められるのかもしれないのか・・・でも彼女、磔にあっていたんだよ。しかも、何かの薬品も盛られていたんだぜ。そんなのをまたされるのかと思うと、ちょっと簡単には差し出せねえ」

 

 オレがそう言うと。


 「そういうことか。それでルルは、その子を保護しているのだな」


 リュカは意図に気付いてくれていた。


 「ああ。可哀想なんだよ。また磔にあうなんてな。ちょっと許せねえ」

 「ふっ。そんな理由か。それだけか」

 「ああ。それだけだ。誰かを守る理由なんて、そんなもんだろ」

 「ふははは。お前らしい答えだな」


 リュカが微笑んでくれた。

 これは同意の笑顔だ。


 「だからさ。これをいい機会にするわ。上手く潜入してやる」

 「なに!?」

 「ああ。このままアイヴィスとの戦いに入るわ。巻き込めばヴァイスの方もやる」

 「ん?」

 「四天王を崩すぜ!」


 ニヤリと笑ったオレの顔を見て、リュカが呆れていた。


 

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