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第10話 アイス王ってなに?

 交換留学から一カ月。

 とある事件が起きた。

 町の入り口にて。


 「ユースウッドはいるか!」


 大きな声が響く。

 だからオレが答えた。


 「えっと。今はお出かけしてますね。どなたで? 何の御用ですか?」

 

 オレの目の前にいるのが、見知らぬドワーフたち。

 都市の人たちじゃないので、詳しい事情を聞いてみると。


 「儂らはお前なんぞに興味はない。ユースウッドを連れてこい。ヒューム風情が話しかけんな」

 「だからいないんすよ。すんませ・・・」


 話の途中で身の危険を感じる。

 オレのじゃないよ。

 相手がだよ!!!


 「貴様」「なにぃ!?」


 アンナさんと、マーゼンさんが、横柄な態度のドワーフを襲う。

 左右から挟み込むようにして飛びついた!

 

 「待ちなさいな」


 オレがその場から一気に加速して二人を捕える。

 右手でアンナさん。左手でマーゼンさんの襟元を持つ。


 「はぁ。二人とも。この人たちはお客さんですよ。こらこら」


 アンナさんがドワーフを睨んだ。


 「許しませんよ。ルルロア様を侮辱するのは!?」


 マーゼンさんが見当違いの事を言っている。


 「私もです。アイスを作れる御仁はこの方のみです。あれほどの素晴らしき物を作る御方を侮辱するとは許せません。殺します」


 物騒過ぎる。

 とまあ、二人の忠誠心は嬉しいが、ちょっと度が過ぎている。

 ・・・・・。

 あれ? マーゼンさんの言葉。

 この人、アイスにしか目がないよね。

 あれ、アイス目当てでこの町に来たの!?

 と思ってることは内緒にしておこう。


 

 「ひっ・・・」


 二人の目があまりにも怖すぎてドワーフが怯えた。

 オレはこの暴れん坊の二人を両脇に抱えて事情を聞く。

 

 「で、何の用で来たのかな? 名前は?」

 「儂はアマゲンだ。ユースウッドがいると聞いてな。儂らは話し合いに来たのだ」

 「話し合い?」

 「ああ。王に戻って来てほしいとな。散り散りになった仲間たちの三分の一は奴を迎えたく思っている」

 「三分の一だけか。じゃあ、残りは?」

 「残りの連中はたぶん半分は死んでるだろう。それ以外は生きてるとは思うけど、まだ居場所がわからん」

 「そうだったか。で、あんたらは王に戻って欲しくて来たんだもんな。よし、ユーさんはどこに行ったっけ? 誰か知ってるか」


 質問に答えてくれたのは、家から出て来てくれたナディアだった。

 彼女は変装をしていた。

 目が変わっている。今日は赤い目だった。

 気分によって彼女は瞳の色と髪型を変えている。


 「ルル」


 エプロン姿のナディアはオレの家で何やら料理を作成していたようだ。


 「どした?」

 「ユースウッドはね。メロウとルドーとローレンと一緒に魔鋼鉄取りに行ったよ。あとあそことも魔法陣を繋げるって、メロウの家と研究所を行き来したいんだって」

 「ああ。なるほどね。そういうことか。よし、アマゲンさん」

 「ヒュームに名を呼ばれたく・・・な・・・」

 

 アマゲンさんがそう言い切る前に、オレの両腕から殺気が溢れる。

 とてつもない量の魔力だ。


 「貴様!」「アイス王になんたる言い草」

 「ひっ。ひいいい」

 

 マーゼンさん。

 アイス王ってなに!?

 オレ、いつの間にか王様になってるよ。 

 しかもアイスの王様なの・・・オレ???


 「二人とも、いい加減にしなさい。お客さんだってば」


 もう一回オレが二人を持ち上げた。


 「は、はい」「申し訳ありません。アイス王」

 

 おいおい。やっぱりアイス王なのかよ。


 「まあいいや。そんじゃ、アマゲンさんたちは会議室に来てくださいよ。あそこの一階は接待できるんで、宴会しましょうよ」

 「宴会だと!?」

 「あれ? 嫌でしたか? ユーさんのお知り合いなら、おもてなししようかと思ったんですけど」

 「・・・・・」


 アマゲンさんは後ろにいるドワーフたちの方を見た。

 コソコソ話をした後。

 全員がオレに頭を下げる。


 「「「お願いします!」」」

 「あ。はい。じゃあこちらですよ。楽しくいきましょうね。暴れないでくださいよ」

 「「「おお!」」」


 ドワーフたちを案内した。


 ◇


 「乾杯!」

 「「「乾杯!!!」」」


 オレの音頭から、ドワーフの人たちは楽しそうに酒を飲んだ。

 長テーブルに色々な料理を並べて、オレの隣にはナディア、オレの右斜め前にはアマゲンさんを置いた。


 「アマゲンさん。どう?」

 「ぷはっ。うまい! ワインなんていつ以来だ。懐かしいぞ」

 「そうですか。よかった」

 「こんなご馳走をユースウッドは食べて飲んでいるのか! 許せんな。はははは」

 「そうですよ。ここまでの料理は毎日じゃないですがね。あ、でもお酒は毎日飲めますよ」

 「ほんとか!」

 「ええ。ここに住むドワーフさんたちは、必ず飲んでます。モルゲンさんたちもね」

 「モルゲンだと!? あの野郎~。許せねえぞ」

 「ん?」


 さっきまで冗談めいた話し方だったのに、モルゲンさんと聞いたら怒り出した。

 

 「ずるいぞぉおおおおお」

 「あれ。モルゲンさんの知り合いですか?」

 「知り合いじゃない。家族だ。弟だ」

 「弟!? あれま。家族だったんだ。そうか。今いないのが残念ですね」

 「……そうか。会おうと思えば会えるのか。ここでは」

 「ええ。そうですよ。モルゲンさんは今はですね」


 ここで会議室の入り口が開いた。


 「ガハハハ。アマゲンじゃないか。儂抜きで宴会はずるいぞ。ルル」


 ユーさんが仁王立ちしていた。

 オレはオレンジジュースを飲んでいるナディアに話しかける。


 「あ。ユーさん帰って来たわ。ナディア。そこの席いいか。空けてもらっていい?」

 「うん。いいわよ。それじゃあ、後でね。じゃあね」


 と言ってナディアは大人しくいう事を聞いてくれた。

 オレの両肩に手を置いて、お酒もほどほどにねと言って体の心配もしてくれた。

 なんだかナディアはここに来て、前以上に優しく安定した性格になったと思う。

 こういう時に落ち着いた行動を取ってくれるようになったんだ。

 普段の生活では喧嘩三昧だけどね。


 「ユーさん。こっちこっち」

 「お。ルル。いいのかそこ!」

 「ああ。席を空けてくれたから」

 「うむ。いくぞ」


 ナディアとユーさんが入り口ですれ違う。

 誰にも聞かれないように二人は小声になった。

 

 「ナディア。すまんな。ルルの隣だったのに」

 「いいのよ。ユースウッド。楽しんでね」

 「うむ。ありがとう」


 と言ってユーさんはオレの隣にやってきた。



 ◇


 「ガハハハ。アマゲン、乾杯」

 「ユースウッドか。生きていたか。乾杯」


 二人はビールジョッキを合わせた。

 ごくごくと飲んだ後。


 「ぶはっ。で何用で来た?」

 「お前に王をやってもらうために来た」

 「やらんぞ」

 「即答だな」

 「儂。今がとても楽しいのだ。このルルと一緒にいてな。儂の今の主はルル。王にはなれん」

 「なに!? このヒュームが!?」

 「ああ。でもただのヒュームじゃないぞ。とても強いのだ。ルルはな。儂が仲間と共に戦っても勝てんのだ」

 「なに!? お前がたった一人のヒュームに勝てんだと」

 「おう。無理だ。ルルは化け物だからな。ガハハハ」


 オレはユーさんから化け物の称号をもらった。

 

 「それじゃあ、ドワーフの王には戻らんのか」

 「ああ。今の気ままがいい」

 「そうか・・・・それなら儂らも、ここに居ても良いか?」

 「ん? アマゲンがか?」

 「おう」

 「どうする。ルル?」


 ユーさんがオレの方を向いた。


 「オレはいいよ。逆にさ。皆さんが、いいならね」

 「ほんとか。よかったな。アマゲン!」


 ユーさんが、アマゲンさんにビールジョッキを掲げた。


 「おお。この酒を飲めるのがお前だけなんてずるいからな」

 「おいおい。アマゲン。ただで飲めるとは思うなよ」

 「ああ。もちろん働くぞ」

 「モルゲンさんと同じで建築が得意なんですか?」


 オレは聞いた。


 「儂はそうだぞ……ここにいる50名の内、建築は34名だ。残りの6名は鍛冶師だな。残りは兵士でドルヴァンだ。あと鍛冶師の方は道具を持ってないから今は何も作れんがな」

 「そうかぁ。そういやドルヴァンもいるね。じゃあ、そのまま得意分野で働いてもらうか。どうする、ユーさん」

 「うむ。モルゲンを一度呼び寄せよう。儂とモルゲンがこ奴らを預かって仕事を割り振っておく」

 「そうか。じゃあ頼んだわ。オレ、明日にでも、モルゲンさんを連れてくるわ」

 「うむ。頼んだ」

 

 オレは立ち上がって、ビールジョッキを掲げた。


 「よし。大体は決まったね。それじゃあ、ここからは気にせず飲んでくれ。皆。遠慮すんなよ。今日はドカンと飲んでくれ。乾杯!!!」

 「「「「 乾杯!!!! 」」」」


 とみんな、オレの音頭に合わせて酒が加速していった。

 あれだけヒュームの町だと警戒していたのに、もうその警戒もすっかり溶けてなくなっていた。

 全員が浴びるようにして酒を飲んで楽しんだのだ。


 ◇


 翌日。

 オレはモルゲンさんを呼び寄せる前の話。

 オレが魔法陣をセッティングしている所に、何故か息が上がって慌てているマーゼンさんがやってきた。

 目が潤んでいた。

 もう少しで涙が零れそうだった。

 え? 誰かにいじめられでもしたの!?

 と最初は思った。


 「あ。あ、アイス王! まさか、もしかして。私、リュカに帰されるので!?」

 「え? なんで!? いやいや、今リュカに事情を話して。モルゲンさんだけを連れて帰ろうかと思ってるだけなんですが? ん、マーゼンさんは帰りたかったの? それじゃあ、一緒にいきます?」

 「いいえ。帰りたくありません! アイス食べたいです!!!」

 「あ、そうですか。ははは」


 自分が帰されそうになったと思い、不安になったのか。

 とりあえずこの人。

 行動の全部がアイス基準になっちゃってるよ。

 大丈夫? アンナさんの補佐にしてるけどさ。

 ちゃんと仕事を手伝えてるのかな。

 なんか心配になってきたわ。


 「そうですか。まあ、アイスが食べたかったら、家にいるナディアにでも言ってください。オレの家には試作機の冷凍庫が出来たので、どうぞ。予備もあると思うので。遠慮なく」

 「はい! ありがとうございます。アイス王!!!」


 と言ってマーゼンさんはオレの家に行った。

 あの。オレの名前、ルルロアなんですけど……。

 あの人、このままアイス王って言い続けるのかな。

 

 現在、オレの家には氷の魔晶石の実験作。

 冷凍庫がある。

 実は冷蔵庫を作りたかったのだが、あれは、温度調節が意外にも難しい。

 なぜなら、火と氷と風。この三種類の出力を微調整できなかったんだ。

 冷凍庫だと、氷と風だけを考えればいいので、楽であった。

 まあ、楽と言っても最後の微調整まで難しく、メロウの助手になってくれたルドーのおかげで完成した代物である。

 ちなみに彼の知識とメロウの知識が合わさって、今の魔晶石はとてもパワーアップしている。

 本当に有能な人が来たと思ってます。

 あれマーゼンさんは? 

 普段なにしてるの?

 と思っていることは絶対に内緒にしよう。


 そして、オレのマジックボックスと似たような保存方法を、魔晶石で得られるのならば、これはかなりいい事だと思う。

 一般家庭にもこれらが普及すれば、皆の食べ物とかを保存できるようになるからな。


 「さてと。いくか」


 オレはふらっとリュカに立ち寄るつもりだった。

 でもここからが、少々難しい道のりになるのでした。 


  

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