第8話 友好都市
天を見上げてから、暫し目を瞑り、腕を組んだリュカ。
マーゼンさんも心配になって、ジッと見つめている。
オレも一体どうしたのだろうと思いながらも、彼は真剣に考えてくれているのだと思った。
なにせ、彼は解放軍の四天王だ。
今、ここでの決断が、リュカ自身とこの大都市の運命の分かれ道となるからだ。
どれくらい経ったか。
オレもマーゼンさんもわからなくなったその時。
リュカの目が見開いた。
「よし。どちらになろうとも、リュカは同盟を結ぼう。これを基本路線にする」
「本当か。いいのか?」
リュカの判断はオレたちに協力するだった。
「うむ。ただ、条件を詰めたい。対等にしたい。駄目か?」
「その言い方。オレたちの方が、提供が多いと判断してんのか? あんたらの方が条件が良すぎる。そう思ってんのか?」
食事一つで、オレたちの方が有利らしい。
随分と有り難い話だが。
上手い話過ぎて、すぐに飛びつけない。
「うむ。簡単に言えばそうだ。全てを正直に話すとそうなのだ。ルルたちの方が提供してくれる量が多い。この食事。これだけは切り札過ぎる。これを毎日は・・・さすがに強い条件だわ」
「そうか。ならさ。オレたちはその条件こそ最高だと思ってる」
「ん?」
「オレは、戦争をしたくねえのよ。この大陸の唯一残された自然を守りたいじゃん。この大陸ってさ。自然が少ないんだわ。なのにその少ない自然で争うのが、オレは気に食わない。皆で争いをやめちまえばいいと思ってるからさ」
「そうか……難しい事だがな。理想ではある」
そう難しい事なんだ。
人は争いをやるのに、理由を簡単に作る癖に。
やめるのに、理由を生み出せないのさ。
「だからさ。オレはリュカの国と同盟を結べるなら最高だ。しかも対等なら満点なクリア条件だよ」
「ほう。それなら、よし。それも本心ならば、こちらもだ。貴殿らが都市に留まろうが国になろうが、都市同士は、姉妹都市。拙者らは兄弟分にならないか?」
「姉妹都市? 兄弟分?」
「そうだ。リュカ、アレスロア。この二つは互いに不可侵だけじゃなく、互いが交流する。これはどうだろう。技術提供だけでなく、拙者らと貴殿らで、活発に交流していくのだ」
「まてまて。オレはいいけど、そんなことしたら、あんた。解放軍を追い出されるんじゃないのか・・・」
「ああ。いい。もしそうなっても、それでもいいと思う。拙者は、ルルの町と同盟を結んだほうがいいと思った。解放軍にいるよりもな」
嘘偽りのない目に見える。
表情も真剣。視線も一度もオレから外れない。
リュカは国の将来をオレの町と共に行くことが最善だと思ったみたいだ。
「わかった。オレもその思いに乗ろう。もし、リュカの国が攻められた時。オレたちも加勢しよう。そして、オレたちの町が攻められた時。リュカの国は攻めてこない。これでいいか?」
「ん? 拙者らに加勢を頼むのじゃないのか?」
「ああ。オレはその時に、リュカの国が何もしない。という確約があった方が戦いやすい。加勢よりも効率がいい気がするんだ。敵の頭数にこの国が入っていないのは非常に大きいのよ」
「なるほどな。それではこちらの条件が対等ではないがな」
これでも遠慮してくるリュカは、かなりこちらを立ててくれている。
同盟相手としてこの上ない相手だ。
「わかった。それでもリュカが後ろめたいのなら、あんたらの技術。何かオレたちにくれ。それで十分よ」
「・・・わかった。では拙者らの秘術。クルーナの輝石とレイクの魔法陣を教えようか」
「なに。クルーナの輝石だと!?」
トンデモワードが飛び出た。
まさかの重要アイテムである。
「ああ。クルーナの輝石はここの鉱山で取れる石を加工するのだ。そしてレイクの魔法陣は行き先指定の魔法陣のことだ」
「な・・・そんなの教えても良いのか!? 秘術だろ?」
「そうだが。これを教える事でようやく拙者らは対等なような気がするのだ。拙者はルルを信じた」
そこまで信じてくれたのかよ。
ありがたい話だ。
「わかった。感謝するよ。ありがとうリュカ」
「いや。こちらこそ感謝するぞ。ルル。この食事。同盟。不可侵条約。こちらの方がまだ条件が良いと思っている」
「そうか・・ならよかった。オレもだ。この条件がとてもいいと思ってるからさ。対等条件だよ」
「はははは。そうかそうか。では後でまとめよう。今日の残りは楽しく宴会だ!」
「お! いいね。乾杯」
「乾杯!」
二人でワインで乾杯するとマーゼンさんも遠慮がちに手を挙げていたので。
「マーゼンさんもですよ。はい。乾杯」
「か、乾杯」
彼女は恥ずかしそうにやってくれた。
◇
ささやかな宴会の後。
オレが皆の元に戻った。
「つ。疲れたぁ」
エルドレアさんが机に顔を沈めた。
べったり頬がくっついている。
「どうしました?」
「ルルさん。こちらの方たち。凄い好奇心旺盛なんですよ……友好的でいい感じの人たちなんですけど。質問攻めが凄くてですね」
「会話疲れですね。まあそれならよかった」
「はい。そうです。よかったんですけど、疲れましたぁ」
エルドレアさんは、疲れているせいなのか、可愛らしく言っていた。
ここでアンナさんがオレの隣に立った。
「ルルロア様。本交渉はどうなりましたか」
第一声がそれですか。
やっぱり真面目です。
「大丈夫でしたよ。同盟は締結です。不可侵もです。あとで細かい部分の条件を詰めることになりました。その時はアンナさんに来てもらいたいですね」
「はい。大収穫ですね。まさかそこまで成功するとは・・・流石はルルロア様」
「う~ん。なんか運が良かった感じですかね。オレの技が昔ここの技と別れたことがきっかけみたいです。桜火竜ってのが鍵でしたね。ええ」
「なるほど。彼らの技をですか。ルルロア様が使えていたという事ですね」
「ええ。そうみたいです。それで親近感があったみたいな感じですね」
「なるほど。運命ですね。あなた様はこちらに導かれる運命だったのですね」
「まあ、それはそうかもしれないですね。なんとなくそれは思いますよ」
オレとアンナさんはそんな会話をして微笑んだ。
思う時がある。
オレって、たまたまこっちに来たんじゃなくて、何かに引き寄せられるようにこっちに来たんじゃないかってね。
運命が。
勝手にこっちに連れてきたように感じるんだよね。
「儂も疲れた」
【私は大丈夫だ。会話は念話だからな。話疲れがない】
おいおい。
念話で話していたのかよ。
相手に失礼じゃねえか?
と思ったことは引きこもりには黙っておこう。
コミュ障なのに背一杯頑張っただろうからな。
◇
翌日。
リュカに呼ばれたオレは、再び玉座の間に通された。
二人きりとなる。
「ルル。教えておこう。これを」
水色の石を投げ飛ばしてきた。
「なんだこれ?」
キャッチして中身を見る。
透き通った水色だ。
「それが、純粋なクルーナの輝石だ。水色のガラスのように輝く石が高性能のクルーナの輝石の証だ。魔力を込めると瞬間的に移動できるぞ」
「そうなんだ。なるほどね」
「ルルはクルーナの輝石について分かっていることがあるか?」
「いや、ほとんど知らない。移動が可能となることくらいしか、知らないなぁ」
「そうか。では説明しておこう。クルーナの輝石は・・・」
クルーナの輝石。
遠距離移動をするために使う石。
魔力を込めると石が覚えている位置に移動する。
クルーナの輝石は、どこにいても扱えるが、指定ポイントの魔法陣以外からの移動をした場合、記憶した移動先にはいけるが、その際に石が砕け散るのだそうだ。
だから、使う際は、魔法陣から魔法陣への際に使用するらしい。
そうすれば、砕け散らずに連続使用が可能となるためだ。
貴重なものゆえに、しっかりとした備えが必要なんだそう。
「そして、記憶は二か所を覚えることになる。A地点とB地点だな」
「まあそうなるね」
「そして、その地点外で使用すると、どちらかの地点の近い方に飛ばされるんだ」
「おお。そうだったんだ。じゃあ、オレがこっちに来た時、この石が壊れたのもそれが理由でなのか。あ、でもオレさ。空中に飛ばされたんだけど、なんでだろう?」
「んん。拙者の予想は、ファイナの洗礼が邪魔したと思うぞ」
「え???」
ファイナの洗礼のせい?
どういうことだ?
「ファイナの洗礼のせいで、座標を見失ってどこかに行ってしまった。そう考えた方がいいと思う」
「なるほど。そうか。ジーバードからジーバードならよくて、ジーバードからジークラッドだったからってことだな・・・あいつらめ。この石をどこで手に入れたんだ? ジークラッドの石なのに、ジーバードでどうやって・・・」
謎は深まる。
あっちにあんなものがあるなんてな。
「ルル。その石は、このリュカの地域にだけある。だから流通もジークラッドでほぼしていないのだ。今は特にな。周りに広めたくないものだから、製造も控えめだ。現在流通している物の多くは、昔に大量に作った際の名残だ」
「そうなんだ。ふ~ん」
「ではレイクの魔法陣を教えよう。少しこちらに来てくれ」
リュカは、ここから丁寧に魔法陣を教えてくれた。
最初は玉座の椅子から、入り口の扉に移動することから訓練して、オレはすぐに扱うことが出来た。
次に、その椅子からリュカの都市の入り口までの移動実験もしてみて簡単に出来た。
なのでオレは、最後に。
「これさ。リュカの王都に、移動部屋ってのを作ってもらってもいいか?」
「ん?」
「オレの領地にも移動するために、転送部屋ってのを作るから、両国で行き来してみないか。すぐに交流が可能になるだろ」
「おお。いいのか。むしろこちらとしては助かるのだが」
「いや、こっちも助かる。リュカのような秘術系統を持つ人たちとの交流は大きいわ」
「よし。早速これはやっておこう。拙者とルルが互いの転送場所を記憶しておこう。こちらはこの玉座の間の脇にする。ルルはいつでもここに来い。これを持っていけ」
リュカはここの場所を記憶した石を二つ作ってから、一つをオレにくれて、もう一つは巾着袋に入れて、これにも記憶してくれと言って渡してくれた。
「ああ。ありがとう。オレたちは会議室にするわ。下の階なら突然来られても大丈夫だろうしさ」
これより、オレたちは友となり、アレスロアとリュカは友好都市となるのであった。