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第7話 桜火竜と桜花流

 「皆、これでわかったな。この御方は、ジーバード人だぞ」


 アースヴェインが満面の笑みになるとほぼ同時に周りの人たちも同じ顔になった。

 オレがジーバード人である事が嬉しいようだ。


 「はい。そのようで王」

 「いやいや、お目にかかれるとは。思いもよりませんでした」

 「しかも、我々の技まで覚えている方とは……運が良いですな」


 アースヴェインから始まる会話は、オレの事を知っている口ぶりだった。


 「よし。確認が取れたから・・・皆解散だ。下がれ!!!」

 「ええ。ずるいですぞ」「そうだそうだ」「ぶーぶー」

 

 周りの人たちが駄々をこね始めた。

 『もう少しここにいさせろ』コールが起きて、辺りが騒がしくなる。


 「ええい。うるさい! うるさい! いいから下がれ。拙者がルルロア殿とお話するのだ! 皆は解散だ! 解散。解散!」

 「ぶ~~」

 「べ~~~」


 この人たち。

 大の大人なのに、子供の会話に思えてきた。



 ◇


 部屋から人が去った後。

 

 「マーゼン。入口に立て。そして結界を」

 「はい。張ります」

 

 マーゼンさんは魔力を練り始めた。


 「ずるい!!!!!」「あああ。ひどい」

 「王だけずるい!!!!」


 と次々に文句の声が扉の向こうから聞こえた。

 おそらく扉に耳をつけて中の声を聞こうとする人たちがいたようだ。


 彼女は、扉を開けないようにする結界と声が聞こえないようにする結界を張った。


 アースヴェインは、オレを見て再度微笑んだ。

 オレが訪問してきたことが嬉しいらしい。

 かなり喜んでいる。


 「ふぅ。すまんな。ルルロア殿。あいつらは興味があるのだ。貴殿にな」

 「あ。はい。そうなんですね。あの、マーゼンさんもいますが、いきなり二人きりの会話でもいいんですか?」

 「ああ。いいぞ。拙者は、元々貴殿と会話してみたかったからな」

 「それじゃあ、もうちょいフランクに話してもいいですかね? オレ、堅苦しいのが苦手で」

 「おお。それはいい。拙者は、リュカでいい。アースヴェインが少々長くてな」

 「たしかに。ではリュカ王でいいかな」

 「ん~。二人きりの時はリュカでいい。貴殿は?」

 「オレはルルでいいです。これが一番しっくりきますから」

 「了解した。ルルでいくぞ」


 リュカは、非常にフランクな人物。

 前情報では寡黙な人という情報だったのだが、凄く話しやすい人であった。


 「では、何から話そうか。積もる話がある」

 「・・・え?」


 初対面なのに積もる話!? 

 とオレは思ってしまった。


 「まずは、ルル。桜花流とは、我らの派生の技のことだな」

 「え!? 派生技?」

 「昔、いつだったか。我が父の代の話だったかな。ジーバードからこの地にやってきた男がいた。その男は我らのリュカまで流れ着き、技を披露した。それが桜花流だった。我らの技とほぼ同じな」

 「え? 昔っていつ?」

 「父の代で拙者が生まれてないから・・・1500年くらいか」

 「そんなに前!?」


 その時の侍がこっちに来てたのか。


 「そして、その男はここに定住して、我らと共に生きた。だから、ルルよ。この国には、ヒュームがいただろ? 見なかったか?」

 「ああ、驚いたよ。大臣クラスの人間にヒュームがいるなんてね」


 ヒュームって、迫害ばかりされて来たのかと思っていた。


 「その男の子孫と、こちらに逃げて来たヒューム達の間の子らが、今の大臣たちだ」

 「逃げてきた?」

 「ああ。この大陸。ジークラッドはヒュームを軽視する。力なき者だからな」

 「そんな感じだもんな。こっちの大陸はな」

 「うむ。しかし我らはそんなことを考えていなかった。竜人種とは、その昔・・・」


 リュカは、大陸が一つだった頃の話をしてくれた。

 竜人種。亜人族最強種。

 種族全体の中でも最強クラスの戦闘力を誇る彼らはその昔。

 

 五種族戦争に興味がなくて、一人で道を極めようとする者たちの集まりであったらしい。

 そこから五種族戦争が激化していくと、なんとなく種族で集まらないといけなくなり、それらが段々と仲間になっていって、その時にヒュームらとも仲良くなり、大陸の外れで里を結成した。

 それがここリュカの土地の近くだったそうだ。


 それで、次に彼らは俗世から離れて、独自に技を磨いたのが。

 桜火竜である。

 この技を受け継いだヒュームが。

 ヒュームの箱舟事件。

 つまり、ファイナの洗礼が出来上がる以前にジーバード大陸へと逃げたことで、桜火竜と別れて南の大陸で独自に発展していくことになり、それが桜花流になったのだという事だ。

 話を聞くにな。 

 それでつまりは、桜花流の本流こそが、桜火竜であるのだ。


 「なるほど。じゃあ、本家があなたたちなのか」

 「そうだ。また再びだ。拙者らの前に桜花流が現れるとは嬉しいんだぞ。かなりな」


 武人であり続けたいという気持ちが、オレに伝わってきた。

 なんて気持ちのいい人だ。

 この人はさ。


 「おお。それはこっちも嬉しいぜ。まさかこの技がこっちにもあるなんてさ」

 「こちらとしても桜花流が残っているのが嬉しい限りなのだ。ヒュームの寿命は短いからな。いつ途切れてもおかしくない」

 「まあそうだよな。どこかで途切れてもおかしくねえもんな。そっか。でもさ。オレ。本当はその関わりある人の子孫じゃないよ」

 「子孫じゃない?」

 「ああ。オレは、とある人の弟子なんだ。ルナさんって言うちょっと変わった女性が、たぶんその男の人と関わりある人の子孫だと思う。彼女のお父さんとお兄さんが、桜花流を継いでいるのさ。だから今でも桜花流は生きているんだ」

 「そうか。ルルは、彼と関わりある子孫の弟子か・・・なるほどな。にしても上手く技を使えていたな」

 「まあ、子供の頃に頑張ったしな。使えてないと悲しいな」

 「そうかそうか・・・・うんうん」


 リュカが嬉しそうに頷いていた。

 自分の技と同じものが何世代にも渡って伝授されている事が、とても嬉しいようだった。

 たしかに、彼らにとってのその技は、おそらく数代くらいのものだものな。

 消えるわけがない。

 だけどヒュームであれば消えてもおかしくないものな。

 血が残るのも難しいけど、技が残るのだって難しいよな。


 「それで、オレを試したのはその事だとして。なぜオレが桜花流の使い手だと知ってるんだ? オレはヒュームとしか、こちらには伝えていないはずだけど」

 「うむ。それは、ヒュームで刀を使うのは、ここにいる者たちのみだ。そして、拙者は解放軍の会議に立ち寄った時にルルの噂を聞いた。クヴァロが戦ったと言っていたからな。ヒュームで刀を使う男がいたとな」

 「クヴァロ!? あいつ、まだ生きていたのか」

 「うむ。今は牢にいるがな」

 「牢!?」

 「ああ。会議の最後に、あの戦いの責任を取らされてな。アルランにだがな」

 「そうなのか……あいつ、牢にいるのか」


 失敗で、閉じ込められたらしい。

 オレに敗れた以外に、フィリーの件も加算されているかもしれない。

 アルランの娘だろ?

 フィリーってさ。


 「まあ、拙者はあ奴を好かん。口を開けば女。女。女。だからな。あ奴が解放軍にいる理由は、女だからな。たぶんジーバードの女だって欲しがるぞ」

 「屑だな。ぶっ殺しておいた方が良かったかもな」

 「はははは」


 笑ってくれているけど、一応リュカは敵側である。


 「そうだ。じゃあ、リュカの解放軍にいる理由はもしかして・・・」

 「ああ。会ってみたかっただけなのだ。ジーバードの桜花流にな」

 「そうか。そうなると合点がいくぜ。リュカは無理に戦わないって聞いたからさ。別に真剣に連合軍を倒したいわけじゃないんだな」

 「そういうことだ。別にファイナの洗礼が無くなるなら、そちら側に行ってみたいなくらいの感覚だからな。別に連合軍の人間たちを全員滅ぼしてまで行きたいわけじゃないのだ」


 そうか、この人は常識人か。

 なるべく争いは避けつつ、ファイナの洗礼が消えたら行ってみようって考えね。


 「へ~。そうか。やっぱ話を聞かないとな。戦いの理由って大事だよな」

 「はははは。そうだな。理由は大事だ」

 「そうか。そんな理由ならさ。解放軍から外れるって出来る?」

 「ん?」


 ここからは説得に回ることにした。

 この人は明らかに話が分かる人で、さらに良い人だ。

 オレとの会話の肌感覚からいっても、話しやすい上になんだか侍の里の人たちに雰囲気が似ている。


 「リュカ王。オレと協力関係になれないかな」

 「なに!?」

 「裏切れってことじゃなくてさ。オレと密約を結んでほしいのよ」

 「密約?」

 「ああ。オレの町とは秘密同盟を結んでくれないか。同盟と相互不可侵条約を結びたい」

 「ほう。その提案。興味はあるな。それで?」


 やはり乗り気になってくれる。

 交渉しがいのある人だ。


 「こっちとしてはさ。その見返りに、ここで技術提供をするよ。どうだろう」

 「技術提供だと。何のだ?」

 「農業ハウスを作るわ。ここで食べ物を生成できるようにするんだよ」

 「食べ物を? 別に今でも食べられているが。それをわざわざか?」

 「そんな普通のもんじゃない。もっと大量にもっと良い物を食うんだよ。ちょっと、ここで食べ物を出してもいい? そうだ、マーゼンさんもこっちに」

 「え? 私もですか」

 

 マーゼンさんは自分の顔に指を指して驚いていた。

 話掛けられるとは思わない。

 そんな顔だ。


 「ええ。こっちに来てください。あ、リュカ。ここで食べ物出してもいい?」

 「いいぞ。見てみたい」


 オレがマジックボックスから料理を出している途中で、マーゼンさんがオレの隣に来た。

 二人ともいきなり料理が出てきてビックリしていたけど、話を続ける。

 

 「まずは簡単なものなんだけど。これ、アイスです! どうぞ。マーゼンさん」

 「あ、ありがとうございます」

 「ええ。食べてみてください。美味しいですから」


 彼女はスプーンでアイスを食べた。

 涼し気な目元が見開いた。

 アイスを見つめて、オレを見つめてきた。

 凝視な眼なので、目が血走っている。

 

 「こ、これは・・・・」

 「これは?」 

 「美味しすぎます!」

 「は?」

 「美味しすぎます!!」

 「うっ」


 二回目はかなり強調されていた。


 「どれどれ。拙者にもくれるのだろ」 

 「これはあげませんよ」


 オレから貰ったアイスを隠したマーゼンさんがリュカを睨んだ。

 そこまでするほど、美味しかったのか・・・。

 

 「いや、別に拙者。マーゼンに言ったわけじゃないのだが・・・ルルにもらえるのかと聞いただけなのだが」


 玉座にいるリュカがしょぼんとして悲しんでいた。

 確かに可哀想である。



 ◇


 「うむ。うまいな」


 リュカも満足そうにして食べてくれた。

 どうやら、このアイス大作戦も色んな人に通用するみたいだ。

 カレー以外にも使える料理があるとは、オレたちは確実に武器が増えているな。

 でも本当はバニラがほしいし。

 あとお茶も欲しいんだよね。

 オレ、本当はバニラアイスと抹茶アイスを作りたかったんだよ。

 でも牛乳しかないからミルクアイスしか作れなかったんだ。

 皆それでも満足してくれるから嬉しいけど、オレはもっとさ。いいもんを食わせたいんだよな。

 ああ、これはさ。

 まあ、贅沢だよな。

 こちらの世界だけではさ。

 やはりあっちの料理を完全に再現することができないよな。

 

 

 「じゃあ。リュカ。ここでちょっと宴会してもいいかな?」

 「宴会?」

 「ああ。ここで食べてもいい? 匂いつくかもしれないけど」

 「いいぞ。マーゼンもいいのか」

 「もちろん、じゃあ、二人ともここに来てもらって」


 オレがマジックボックスからテーブルと椅子を取り出して、セッティングした。

 

 「ルル。さっきから物を突然取り出すのだが、それはなんだ?」

 「これはマジックボックスって言って、色んな物を取り出せるのよ。ちゅうことで、これとこれとこれと。あとこれかな」

 「おおお」


 リュカが感嘆してくれて。


 「え。こんなに食べ物が。ルルロア殿・・・この量!?」


 マーゼンさんは驚いてくれた。


 「ええ。オレたちの町で取れたものなんですよ。是非食べてください」


 テーブルに並べたのは、シチュー、パン、サラダ、そしてワインだ。

 これらをセットにして二人にふるまう。

 リュカがシチューを。

 マーゼンさんがサラダを。

 同時に食べると。


 「うむ。これは・・・・」「な!? なんなの・・これは・・・」

 「「美味しい!?」」


 同じタイミングで褒め言葉が出た。


 「いやぁ。嬉しいね。どんどん食べて。こっちも飲んでみてほしい。これもオレたちの町で取れたブドウだからさ」

 「ワインか。ワインなんて拙者らは滅多に飲めんからな」

 「そ、そうですね。私もほぼ飲んだことは・・・」


 二人がグラスを少し傾けて色を見てから、口に含んだ。


 「「 うまい!? 」」


 また同じタイミングで褒めてくれたのだ。

 そこからは何も話さず二人は料理を平らげた。



 ◇


 食事の終わりかけの頃。


 「ルル。これは、たまたまではないのだな。常時この食べ物がルルの町では出てくるとみていいんだな」

 「そう。オレの町ではこれが基本だ。ああ、でもワインは滅多に出ない。果樹園にも魔晶石を利用しているんだけど、そんなに急速には成長しなくてね。そのかわり、ビールなら大量に作れているな」


 オレたちは、さすがに果樹園までは農業ハウスには出来なかった。

 果物ならイチゴとかなら出来るだろうけど、この大陸イチゴがねえ。

 いや、ホントはあるのかもしれないけど、生息地域に行ったことがないから、そういうものを探すために、オレは冒険をしたいんだ。

 ああ、領主じゃなくて、冒険してえ。

 だって、冒険者なんだもん!


 「どう? 毎日がこれだ。マーゼンさん美味しいですか?」

 「さ、最高です・・・私・・・毎日食べたいです」

 「ですよね。これいいですよね。じゃあ、リュカ。これどう思う」

 「ん?」

 「この食事、半分以上は再現できるぞ。オレの技術提供を受ければ」 

 「む……そうか。これが貴殿の切り札か」

 「ああ」

 「・・・面白い。この交渉、甘い誘惑があるのか……これは初めての経験だな」


 料理をまじまじと見つめて、リュカはパンを手に持った。

 彼はゆっくり口にパンを近づけて、ひとかじりしてからオレを見た。


 「乗った。拙者。貴殿に乗ろう」

 「ほんとか! やったぜ」

 「ああ。だがこちらの条件を飲んでもらいたい」

 「ん?」

 「どうだろう」

 「そうだな。何個だ?」

 「ふっ。何個から来るとは面白いな。条件の数を聞くとは」

 「まあな。昔。それで痛い目にあった。王族は芯の部分を隠す。特に条件を言ってくる時。本音を隠して交渉してくるからな」

 「なるほど。わかった・・・ここからは腹を割る」


 リュカは真っ直ぐオレを見つめてきた。


 「条件は、こうだ。ルルたちは、いずれ。町ではなく都市にしようとしているのだろうか? それとも国か?」

 「そこはな・・・こっちも正直に言おう」

 「ああ」

 「オレはまだ考え中だ。なにせ、国にしてしまえばあんたらにも連合軍にも目をつけられるよな」

 「そうだな。ありうるな」

 「だからまだ考えている・・・というか決意が固まらねえ。皆を危険な目に会わせるかもしれないからさ。慎重にいきたい。それが本音だ」

 「そうか・・・・わかった」


 天を見たリュカはしばらく黙った。

 オレの交渉はここから始まるのである。

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