第5話 町か街か国か
「駄目だ! サイル。展開を左に持ってくんだ。強者を押すなら敵の弱点を突くんだよ」
「は、はい」
「マーカス! お前が全体に指示を出すんだ。勝手に突っ込むな。視野は広くだ。広く」
「了解。領主様」
身振り手振りを踏まえて指導をしているオレは、団体の指揮を執っている。
一対八十の超有利戦闘。
相手はメロウだけ。
攻防に優れているメロウだから、模擬戦闘において最も訓練に適している人物なのだ。
「まだまだだぞ。メロウを追い詰めるには目を散らすしかない。方向は四カ所が最低だ。頑張れ!」
「「「 はい!! 」」」
今のオレたちは本格的に特訓をしている。
現在の特訓は週五回となっているが、その際に一度に大量には義勇兵を指導出来ないので、三等分にして小分けに指導をしている。
なので、週五回の指導を受けた者が次に指導を受けられるのは三週間後となっている。
1 座学
個人の得意不得意の確認とその対応。
2 個人訓練
座学で得たことの応用と俺からのチェック
3 特殊訓練 メロウ
バランス戦闘に優れているために攻防の学習。
4 特殊訓練 ナディア
魔法のスペシャリストなので遠距離戦闘の学習。
5 特殊訓練 ユースウッド
圧倒的なパワーの近距離戦闘の学習。
この順番で皆を鍛え上げている。
これの利点は、特殊訓練での三人もまた成長しているという事だ。
この間のオレとの戦いで、三人の心に火がついたみたいだった。
一人の人間にここまでやられたことはないと。
怒りが顔に出ていた気がしたけど、オレはそれを気にしてはいけない。
うんうん。
なんかごめん。
たぶんプライドを傷つけたのかもしれないからさ。
「よし。今日は終わり!」
皆の訓練は終了した。
◇
特訓後。
オレとメロウの会話。
「メロウどうだ」
【うむ。ここの連中、相当強いぞ。ルル。普段何をしているのだ?】
「なにも。ただ普通に戦い方を教えているだけだ」
【それだけでか? なにかしてるのでは】
「そうだな。たぶんスキルが影響してるな」
【スキル? ああ、そちらの世界の技だな】
こっちには、スキルがないので、メロウには前にスキル全般を教えている。
「そう。オレが今使っているのは生徒指導って奴だ」
【生徒指導?】
「ああ、これは元々はオレの先生のスキルでね。これを発揮すると、オレの事を信頼してくれる人が、オレの訓練を受けると成長力がすげえことになるっていうスキルなのよ」
【なんだそれは。凄すぎるスキルではないか】
先生の生徒指導を使えるくらいにオレのタレントが進化したんだ。
ジョブとタレントの力で、ありとあらゆるスキルを使いこなせるみたいなんだよ。
今のオレってさ。
「まあな。それの反動もある」
【なに、リスクがあるのか】
「いや、そうじゃなくて。この生徒指導によって、オレに結果が跳ね返ってくる。オレも皆を教えることで成長できるのよ」
【お前な。それか・・・それがお前の爆発的成長の引き金か】
「爆発的?」
【ああ。今は私たちにも戦いを教えているだろう。それが影響しているな。ユースウッドとナディア。あの二人に戦い方を教えるだけでも、お前は大成長しているってことだな】
「ああ。そうか。そうだな。そう言えばそうだよな。こっちの皆の分で成長してると思ってたわ。そうか、二人に教えているのも影響があるのか」
ここ最近のオレはユーさんに技の指導、ナディアには魔法の指導をしていた。
それがオレの力を増幅させているようだ。
ジョブとタレントの覚醒によって起きたパワーアップの上に、オレは訓練でのパワーアップをしていたらしい。
うん。人の域を超えたと言われても仕方ないか。
それにしてもさ。
キングと女王を指導するのが、一般人のヒュームってな。
あの二人。
時代が違えば、完璧なドワーフの王様とエルフの女王様なんだけど。
オレ、どこまでいっちゃってんだろ。
まあ、ここらは深く考えないようにしよう・・・。
【まったく。暢気な領主だ・・・この町。確実に軍団以上の力を持っているぞ。戦えば他軍の一線級たちだ】
「何言ってんだよ。義勇兵だぞこっちは。常時いるわけじゃない兵が3000くらいだぞ。そんなの。両軍に比べれば数が足りないだろ」
【両軍の規模が今はどうなってるか知らんが、昔は10万以上はいたな。それぞれな。そこの戦力と普通に渡り合えるぞ。あと7000ほど足して、1万もいれば。ほぼ負けはないわ】
「1万で10万と戦う?……無理だろ」
戦争で数の違いは致命的だろ。
いくら質があってもさ。
【それくらいに強いという例えだ。ここの兵士は強いぞ。敵が少数であれば余裕で守り切れると思う】
「そっか・・・なら、もうちょいうまくやるか。義勇兵から兵士にして、町が兵を雇う形にして1万までの兵を作ろう。その人数が毎日訓練をすれば、その人数で足りるってことだよな。うんうん。街をデカくして整えた方がいいな。オレが旅するにも」
【まあ、そうなるな。そうなると撃退しやすいように城壁が必要だろう】
「なるほど。たしかに。ユーさんとかと相談してみるわ」
これでオレとメロウの会話は終わった。
◇
町の規模を話し合う時が来た。
オレとユーさん。モルゲンさんとメロウ。アンナさんで話し合いが始まった。
「どこまでやるのか。そこが重要ですね」
「んんん。ルル。おらの意見いいか?」
モルゲンさんが手を上げて、皆が頷く。
「城壁をまわすんだろ。でもそれだと規模がわかっていないといけないのはわかる。だから、おらは一つ聞きたい。他に建てる施設があるのかいな! ということよ。他にある場合はな。拡張を踏まえた規模にしないといけないんだぞ」
「なるほど……今は、住宅。農業。酪農。果樹園。酒造。鍛冶場。工房。研究施設。これくらいがあるのかな?」
オレの意見の後にアンナさんが手を挙げた。
「ルルロア様。私はそこに兵士訓練場が欲しいです」
「ああ。なるほどね。そうですね。本格的に兵を育てるには必要だな。それと宿舎もか。師匠の所みたいに仕上げたいな」
故郷の懐かしき宿舎を思い出した。
次にユーさんが手を挙げる。
「儂はそこに、娯楽施設が欲しい」
「娯楽!?」
「うむ。ルルよ。人は娯楽がつきものだ。食事の水準が上がるならば、次に皆の心を満足させるのは娯楽・・・お前さんの故郷にはなかったか」
「オレの故郷・・・ねぇ」
オレは腕組みをして本格的に思い出す。
マジャバル村はただのド田舎だからなにもない。
でもジャコウのマーハバルにはそういうものがあった。
学生がいる方角じゃなく、兵士側の地域に、確かに娯楽施設があった。
闘技場や酒場。歓楽街。
カジノまではなかったが、確かにあったわ。
師匠って、あんまりそういう場所にはいかなかったからな。
ああ、でもリョージさんがよく行っていたのを思いだしたわ。
お金を失くして、皆に泣きついて、借金していたんだよな。
今もかな。
「そうだな。ユーさんの言う通りか。作るか」
「ガハハハ。楽しみだ」
そうなると街にしようとした規模よりも、さらに馬鹿でかくなると思う。
現在の町は、住民エリアと農業エリアの二つも作っているが、平原の東寄りに、まだこじんまりとした区域で作れている。
そこから拡張となると平原の西にまで町を伸ばして、さらには北にも南にも伸びていくだろう。
ということは完全に平原を封鎖する形となる。
大きさで封鎖ではなく。
ここにこの町があることで、ここを無視して進軍することはできないという意味だ。
だから、完璧に北と南の行き来を遮断する形となるんだ。
「そこが問題だ。完全遮断になった場合。確実に戦争が起きるよな・・・話し合いで万事解決するとは思わんよ。オレはね」
互いにとって利益となる場所に、急に街が出来たらお怒りになるだろうからな。
【しかしだ、街を大きくするのが既定路線ならば、いっそ巨大な王国のようにしてしまった方がよい】
「なに!? 国!?」
【そうだ。都市なんかの規模におさめるよりもここに巨大国家を築いた方が、ここを守るには都合が良いぞ。北と南の町や村を吸収するつもりで行くのだ】
「ほかの町や村をか!?」
想像の範囲を超えた提案。
しかし、これもまた有益な考えではあるが、今すぐ決定は出来ない。
両方に喧嘩を売るスタイル。
戦争まっしぐらの行為だからだ。
「そうですね。逆に大きく作りすぎてしまえという事ですね。例えば、関所の門を作るとかして、城壁と合わせて、鉄壁の形で防衛すればよいということですよね」
【そうだ。アンナの提案のように、がっちり固めてしまえばよい。私の物体魔法を、ドワーフの建築士たちが心得ている。材料さえあれば彼らはなんでも建築できるし。その建築速度は手で作るよりも安定している上に速い。中規模の家も5分で建てるからな】
「おらたち、もうそれが出来るからな。もっと大きなものだって協力すればすぐに作成できるぞい」
ここを巨大な都市にするってことか。
一大事業を越えた凄まじいものになりそうだ。
「そうかぁ。巨大なものね・・・よし、設計だけして、準備だけはしておこうか。今のオレはリュカに行くことにしているからさ。そこでの結果で、こっちの計画も立てていこう」
リュカがどういう人物か。
ここが重要だ。
「ここを巨大にするか。ある程度までにするかはその後にしよう。リュカと同盟なんか結べるなら巨大化してもいいだろうからな。だから、モルゲンさん。アンナさん。メロウ。三人は案を出してくれ。それを元にオレとユーさんが後から考えてみる」
三人は頷いて、ユーさんは胸を叩いてどんと来いと言った。
頼もしい仲間たちで助かる。
オレ一人でこんな事を考えなくて済むのは非常に助かるところだ。
街どころか国だぞ。
ジーバードでもそんな事できねえ・・・・あ!?
オレ……今、大王のスキル持ってるわ。
やべ。それが影響してるのか!?
国王にされちまうのか!?
この一般人のオレが???
いやだよ。
オレは冒険者がいいんだ。
自由が良いんだ!
って思ってることは内緒にしたくねええええええええ。