第2話 幸せな時間
町を作り始めて、一年半。
現在の町は、およそ1万人規模の町になっていた。
どんどん集まる人々の中身は、奴隷や逃げ出した人たちだけでなく、他の町から移住してきた人たちも多くなってきたんだ。
それと、隠れ里の人たちがごっそり移住したケースもあったりする。
だからたまに、ドカンと人が入ってくる時があって、その時ばかりはオレも驚いていたりする。
それで、オレたちのカレー大作戦で広まった噂が、南の連合軍の人を集める結果となり、人口が膨らんでいったのだ。
こうなってくると、心配することが出てくる。
「アンナさん。ユーさん。オレ、心配になってくることがあるんだけど。話いいかな?」
家に招待したのはアンナさんとユーさんだ。
相談役の二人はオレにとって、重要人物で、この二人はいつも的確な返事をしてくれるからありがたい存在である。
「なにをでしょうか? 建築や農業の従事者の育成でしょうか?」
「ルルは心配性だな・・・儂らに聞くとは」
「それがね。はい! これ美味しいよ。アイスクリームって奴でね。冷たいデザートさ」
オレは牛乳を手に入れていた。
三カ月前くらいに、南の町のジャールから買い上げた牛を酪農することに成功したのだ。
オレたちのカレー作戦は、他の町との交友まで生み出しているのである。
「へえ。これ美味しいのか?」
「美味しいよ。食ってみ。ユーさん」
「お、おいしいです」
もうすでに食べているアンナさんは、スプーンを飲み込む勢いで舐めていた。
アイスよりもスプーンが溶けそうだ。
「おお、確かに旨いな!」
「ユーさんも思うよな。男性でも美味しいって思ってくれるなら、これ絶対成功するよね。アイス大作戦にしようかな。今度」
次の作戦はアイス大作戦に・・・・。
てのは冗談で。
二人が食べ終わった後。
「悩んでいるのは、北の解放軍が有利になるのではという事さ」
「「????」」
二人が戸惑った。
「このまま。南の人だけを吸収してしまうのは駄目だよな。人数の関係でさ。今の大陸の人的資源のパワーバランスが崩れる。これは間違いない。だから、北を侵略しないといけないはず。オレたちは両方の軍の調整をしないといけないんだ」
「侵略って・・・おいおい」
ユーさんが呆れていた。
「北の解放軍からも人を引き抜きたい。そこでオレは四天王とか言われる人の街を一つ襲いたいのよ」
「な!? 四天王の直轄地をか!? にしても襲うとわな」
ユーさんは呆れてから、すぐ後に驚いてくれた。
表情がコロコロ変わる人である。
「だからさ。クヴァロみたいな屑じゃない四天王でも話の分かる人っていないかな。二人は知らない? そこを切り崩したいんだけどさ」
「では、そうですね・・・アースヴェインでどうでしょうか。あの男ならば、話が出来る可能性があります。おそらくはですが」
「アースヴェイン。どこの人? オレはよく分からないっす」
ここは、アンナさんの教えをもらおう。
「大陸北西部リュカにいます。リュカ山を越えた先にいますので、戦争時も滅多に表には出てこない人なのですが、重要な戦いの際には出てきますよ」
「そうか。どんな人?」
「物静かな孤高の方です。彼は、竜人ですから」
「竜人!?」
「ええ。魔人族に匹敵する。亜人族最強の種族です。戦いになったら大変ですが、話は出来る人です。やってみますか?」
「・・・いいでしょう。面白そうだ。オレ、いってみるわ」
ここで、オレは最強種との戦いを決意したのである。
でも戦いじゃないよ。
文化侵略だからね。
◇
「ふぅ。遠征メンバー。どうすっかな。ここは結構大切だな」
オレは家のベッドの上でゴロゴロしながら考えていた。
その動きに合わせてフィリーも一緒になってゴロゴロしていた。
オレの脇にピタッと張り付いている。
「ルル・・・ルル」
「ん? どした。フィリー」
ニッコリ可愛らしい笑顔をしている。
今日は5,6歳のフィリーだった。
「楽しい」
「ああそうか。よかったな」
オレがゴロゴロをやめて、仰向けになると、フィリーがオレの上に飛び掛かってきた。
オレの胸に頭をつけて寝転がる。
ちなみに子供だから軽いぞ!
「……ルル。遊ばないの」
「いや、今の遊びじゃないし。寝てただけだよ」
「・・・遊ぼうよ」
「ええ。めんどくせえ」
「……遊ぼ」
「おいおい。っておい!」
フィリーの顔を見ていたら、オレたちの上から気配を感じた。
それはオレたちの元に飛んできたナディアだった。
「ど~ん! 二人だけずるいぞ。くっついて!」
「ぐべっ。いてえ。馬鹿。フィリーとお前じゃ体重が違うわ。く、苦しい」
「いいの。そんなこと言って!!! あたしに失礼じゃない」
ナディアがすげえ怖い顔をしていた。
女性に失礼を言いました!
軽いです。
あ、でもこれもナディアには失礼なのか。
「ねぇ。フィリー。ルルに抱き着け!」
「え? いいの」
「これが遊びよ!!」
「うん。遊びぃ!」
「あたしのようにやるのよ」
「うん!」
二人がオレに抱き着いてきた。
まったく身動きが取れない。
オレに、二人分のスペースはないのだ。
「こらこら。二人ともきついって。離れろ」
「離れない~~~」
「フィリーも。離れない。ルル」
氷の大地がある北の大陸。
そこで、オレの生活は安定していた。
しかも幸せな時が流れていた。
オレたちは疑似的な三人家族なような関係になったんだ。
オレが父親役。
ナディアが母親役。
フィリーが娘役。
こんな感じでさ。
オレ、かなりの幸せ者になっちゃったな。
南にいた頃よりもさ。
でも、あいつらにも会いたいな。
やっぱりさ。
オレの家族は、もう一つある。
大切なレオたちがさ。
オレの心にはいつまでもいるのさ。
たとえ遠く離れても。
オレたちを別つ、光の壁があってもさ。