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第15話 ルルロアとナディアの世界

 アンナさんが叫ぶ。


 「ナディア様。お気をたしかに。ナディア様!」

 「あ・・えええ・・ああああ」


 懸命に名を叫ぶアンナさんの声にナディアは反応を示さなかった。

 


 だから考える。

 冷静になっているからこそ、事態を分析することから始めた。

 裸にされてしまったナディア。

 両手両足を縛られていているが、体が綺麗だ。

 傷もないし、汚れもない。

 だから幸いにもガルドラに襲われていないことが確定している。

 なぜなら、奴の方の服に乱れがなかった。

 しっかり上下の服を着用していたんだ。

 あまりにもさ。

 オレさ。

 頭に来ていたもんだから、その事に気付いてなかった。

 ・・・だけどさ。

 今のあいつの服ってよ。

 綺麗に吹き飛んでいるんだわ。

 それはオレのせいだ。

 そこはスマン! 

 特に上半身は吹き飛ばしちまったし。

 残っている服の部分には、奴の体内にあった薬品が沁みついている。

 でもあんたのせいでそうなったので、心の底からは謝らん!


 「ってことは、たしか・・・あいつが持っていたあの水晶玉。あれが原因だな」

 「ルルじゃ!」

 「お! どこにいたんだよ。レミさん。オレのあのモードで近くにいたらやばくないか」

 「ん? 余はルルが怒り出してからは、遠目のあそこにいたのじゃよ。危なそうじゃったし」


 オレの頭の上に立ったレミさんは、翼で部屋の隅を指した。


 「危機管理出来てるんだな。レミさん」

 「うむ。そんでじゃ。今、ナディアの心が封印されておるのじゃな」

 「心が封印?」

 「うむ。眼鏡小僧が持っておったのは追憶の迷宮じゃ」

 「なんだそれ?」

 「あれは、人の心を奥底に沈めて、その中を彷徨わせるアーティファクトじゃ。価値的にはあのクルーナの輝石よりも高いのじゃ」

 「なるほど。だから、ナディアはああなっちまってんだな」

 「そうじゃ」

 「救う方法は!」 

 「ないのじゃ!」

 「なに!?」

 「破る方法はあるのじゃ」

 「ん?」

 「あれは自分で解放せねばならんのじゃ、他人が解放できないのじゃ」

 「マジかよ。じゃあ、ナディアがナディア自身を解放しないといけないのか」

 「そういう事じゃ!」


 オレはナディアの元に向かった。


 ◇


 「ナディア。聞こえるか。オレはお前を救いたい。でも、これはお前自身の心の力が必要だ。ほれ、起きろよ。目を覚ませ」


 オレはそう言ってマジックボックスからオレの上着を取り出して、彼女にかけた。

 ずっと裸でいさせるわけにはいかないからな。


 「・・・だ・・・な・・・」

 「こいつは。なあ、レミさん。ナディアってこっちの世界でいやさ。英雄職のようなもんだよな」

 「ん?」

 「ナディアって言うさ。役職を任された女性って意味でさ」

 「そうじゃな。そう考えるとそうかもじゃな」

 「てことは。ジョブなら。オレはナディアを理解してるぞ・・・アンナさんが大切で。オレたちが大切で、オレのことが好きな、ただの女の子だよな」

 「ルルロア様!? 知っていたのですか」


 アンナさんが驚いて聞いてきた。


 「ええ。そうでしょ。アンナさん」

 「そうです。ナディア様はルルロア様が・・・大好きなんです。一緒に行動してからずっとですよ」

 「ああ。知ってるよ。灯台に行く前に、ナディアから聞かされた」

 「…ナ、ナディア様から直接!?」

 「ええ、直接ね。そんでオレはナディアを理解している。オレの料理が好きで、オレと喧嘩をするのが好きで、オレと勝負をするのが好きな事をさ。だから・・・オレだってな。こいつがこんな状態なのは嫌だ。オレもこいつが好きだしな。こいつ面白いもんな」

 

 そうだ。

 オレは嫌だ。

 こんないつまでも呻いているだけのナディアを見続けるなんてさ。

 笑顔のないナディアなんて見たくねえ。

 ずっと一緒にいても楽しくねえもん。


 「だからいくぞ。同調を開始する」

 「え!? ル、ルルロア様」

 「オレは|解き放たれた英雄と自由の戦士リベルタスだ。英雄であれば解き放つことが出来るはずだ。ナディアに魔力を寄せて、引っ張り上げる。アンナさん。オレ、一瞬こいつの心の中にいきます。だから無防備になるので、アンナさんは念の為、ここの警戒をしてください。こいつの迷宮の中にいってきます!」

 「え!? わ、わかりました」

 「はい。ではいってきますよ。ほい」


 オレは目を瞑りナディアと同調した。

 意識を共有して彼女の心の中に入る・・・



 ◇


 ナディアの手を握った瞬間にルルロアが倒れる。

 そこで心配となったアンナが近づく。


 「ルルロア様!?」

 「アンナ。二人に触れるでないのじゃ」


 手を伸ばして二人に触れようとしたアンナのその手に、レミアレスが乗った。


 「れ。レミアレス様!? な、なぜ」

 「今、ルルはナディアに触れて同調しておる。アンナが触れれば邪魔が入って同調が失敗するのじゃ」

 「な、なるほど・・・わかりました」

 「なにも心配せんでも、待っておるのじゃ。ルルは救うのじゃよ。見つけるのじゃよ。ナディアをじゃ」

 「は、はい」


 二人は眠る様にして倒れたナディアとルルロアを見守った。


 ◇


 目の前に渦がある。

 凄い濁流だ。

 オレはそこを漂う。

 大荒れの海の中に身一つで投げ出された気分だ。

 

 「あれが、人の心か。そんで、渦の大きさはナディアの魔力量か!? もしかして、ナディアのやつ。まだまだ魔力が自分の中に眠ってるのか!? 表面に出ている魔力以上の強さを感じるぞ」


 ナディアにはまだ眠れる才能があるらしい。

 オレはこの濁流の中に入って気付いた。


 「ふう。奥がわからねえ。そもそも、この濁流の中に奥があるのか。それに・・・ん!?」


 オレが身を守りながら中に入っていく。


 「あたし・・・もういらないんだ・・・このせかいに・・・」

 「な、ナディア!? おい。ナディア!!!」


 彼女の声が聞こえる。

 けどオレの声には反応しない。


 「あたしは皆の世界に帰れないんだ・・・もう、あたしはあたしじゃないんだもん・・・」

 「何言ってんだ。おい! ナディア、帰って来いって」


 独り言のようだ。

 それとも心の中の声かもしれない。


 「みんな、ごめんね・・・アンナ・・・ごめんね・・・ルル、大好きだったよ・・・さよなら・・・」

 「何勝手にどっか行こうとしてんだ! おい。ナディア!!」

 「あたし、ルルとは一緒にいられないんだ」

 「ん!?」

 「あたしは、あっちの世界の人じゃないし。あたしは、エルフだし。もし一緒になれても、ルルを縛るかもしれない。だってナディアだもん。ナディアの宿命を彼に……それはやだ。あたしの記憶が消えても。あたしがいなくなっても。それだけは嫌だ。あたしは、ルルに幸せになって欲しい」

 「んなもん。お前が決めんな。おい! オレの幸せをお前が勝手に決めんな。馬鹿」

 

 聞こえないか。

 どうしようもねえ。

 どこに行けば、ナディアに会えるんだ。


 「でも・・・でも・・・好きなの・・・笑顔が・・・優しさが・・・全部好きなの」

 「んだったら。そう言えや。オレの目の前で言えや。クソォオオオ。いい加減どこに行ったんだ。めんどくせえ。ちょっとやったるわ」


 オレは渦巻く魔力の中を彷徨うにももう飽きた。

 いい加減にしろと思う。

 

 「ナディアに近しい魔力にして・・・えっと・・・どんくらいだ。こっちの右巻きだよな。んじゃ左巻きに風を巻いて。おりゃあああああああ」


 オレは風魔法で渦を作り、ぶっ放した。

 渦に魔法をぶつけ続ける。

 すると、渦の中に空間が生まれて、奥が見えたら、そこにナディアがいた。

 うずくまったように体を丸めて座る彼女がいた。


 ◇


 ルルロアは、濁流を跳ねのけていく。


 「いた!? おし、このまま魔法をぶつけ続けて・・・」


 最後の渦を跳ねのけてナディアの隣に立つ。


 「ナディア!」

 「・・・ル・・・ルル・・・」


 うずくまっていたナディアは顔を上げた。


 「おし。捕まえたぞ」


 ルルロアは彼女の肩に手を置く。


 「な、なんで・・・ここにルルが」

 「お前なぁ。何、殻に閉じこもってんだよ。いい加減に外に出てこい。ひきこもりか。メロウみたいになってんぞ」

 「な、なによ・・・あたしはもう駄目なの。もう記憶がないんだよ。皆の」

 「いや、今。ルルって言ったぞ。何言ってんだよ?」

 「それは・・・・あれ、何でルルって言えたの?」


 自分に記憶と思い出があることに、ナディアは首を傾げた。


 「オレの名を言えたっつうことは。アンナさんもユーさんも覚えてるだろう」

 「・・・え。ええ。アンナとユースウッドね。そりゃもちろん・・・あれ? なんで覚えているの」


 消える記憶だと思い込んでいた。


 「あのね。お前が受けたアーティファクトは追憶の迷宮って奴なんだって。それは心の中に人を閉じ込めるものらしいぜ。別に記憶を消すわけじゃないんだ。もしかしてあのガルドラとかいう奴に記憶を消すとか言われたんだな。はぁ、あいつ。お前の心を折りにきてたんだな。いいかナディア。お前の心がこれに負けなければ、ここから出られるらしいぞ」


 ルルロアが説明した。


 「そ。そうなの・・え・・・でもなんであなたがここに」

 「オレ、お前と同調して、ここに来たのさ。オレのさ。新しい職業の力でよ」

 「新しい職業?」

 「ああ。オレって|解き放たれた英雄と自由の戦士リベルタスらしいぞ。ナディア。オレ、すげえ奴らしいわ。ハハハ」


 自分で自分を理解した。

 ようやくたどり着いた答えだった。


 「ふふっ。そんなの今更言う事なの・・・あなた、出会った時から凄い人だったわよ」

 「ああ。そうか。でもお前は、面白劇団員だったけどな」

 「あああ。また言ったわね。それやめてよね。恥ずかしいから」


 ナディアは微笑んだ。

 すると彼女の笑顔を見たルルロアも微笑んだ。


 「ナディア。お前はさ、ナディアじゃなくてさ。普通の女の子になろうぜ。オレがファイナの洗礼の守護者になんかさせねえ。ナディアにしてやるぞ。ナディア様じゃなくてな」

 「ほ。ほんと。迷惑じゃないの?」

 「迷惑? いや、オレ。クエスト受けたしな。やり遂げねえと気が済まねえ性格だしな」

 「ふふふ。素直じゃないのね。あたしの事が好きだから助けてくれるんでしょ・・・違うの!」


 ナディアは冗談めかして聞いてみた。


 「ああ。オレはお前が好きだぞ。でもオレもお前と一緒でさ。オレと一緒になっちまったらさ。最後まで一緒にいられねえからな。お前が悲しむと思ってな。思いを受け取らんかったわ」


 すると意外な答えが返ってきて、ナディアは戸惑う。


 「え!?」

 「だろ。だってさ、オレが爺になった頃にゃ、お前。めっちゃ美人で若いまんまだぞ。それってやばくねえか。ヨボヨボ爺の隣にお前って、お前、ひ孫みたいじゃね?」


 今度はルルロアが冗談をめかす。


 「ええ!? そんなのを気にしてたの?」

 「いや、気にするだろ。お前と一緒にいてさ。お前の人生の中でさ。幸せにできる期間が短いからな。出来たら他のエルフとかと一緒になった方がいいと思うんだけど」

 「・・・いや。あたしはあなたがいい。たとえ短い間しか一緒じゃなくても。あたしはあなたがいい。そばにいたい」

 「そっか。じゃあ、付き合うか!」

 「え!?」


 この流れなら、結婚じゃないの。

 とナディアは話を飛ばしていた。


 「まずは付き合うだろ。いきなり結婚すんの? オレは、それはやだな。こういうことは順番が大切だ! オレは義理を大切にするのよ!」

 「・・・え・・・え・・・」

 「嫌だったか? 付き合うの?」

 「ううん。ちょっと驚いた。あなたから言ってくれると思わなかったから・・・うん・・・あたしも付き合いたい」

 「んじゃ。そう言ってくれるならさ。とっととここから帰ろうぜ。皆がいる世界にさ。ここにお前だけ引きこもってもさ、一人じゃ寂しいだろ。な!」

 「う。うん。帰る」

 「じゃあ。どうやって帰るんだ?」


 ルルロアも帰り方が分からなかった。


 「し、知らないわよ。あたしに聞かないでよ。そもそもあなたがどうやって来たのかも知らないのに」

 「そうだわ。正直さ。オレもどうやってここに来られたのかも、分からないんだよね」


 ルルロアは正直に答えて、微笑んだ。

 ナディアを正面から見つめるとナディアも正面で見つめ返す。

 

 「な、なによ。急に・・・そんな真剣な顔して」

 「んじゃさ。たぶん。こうすれば、帰れると思うんだよな。ほらよ。こっち来いって」


 ルルロアはナディアの手を引いて、自分の胸に抱き寄せた。


 二人は、ナディアの心の中で、抱きしめ合う。

 優しく・・・そして、唇をそっと合わせた。

 ナディアは彼の全てを受けいれて、彼の背中に手をまわした。



 渦巻く世界の中で、二人は濁流を跳ねのけていく。

 人の持つ暗闇は、誰かと共にいれば晴れていく。

 彼女の心の中に光が生まれて、そして・・・・世界が始まった。

 ここからの二人には、新しい世界が訪れていくのだ。

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