第14話 世界初 ジョブを切り開いた男
「ぶっ壊す!」
オリジナル魔法。
陽光のエレメンタル
太陽光のような光魔法の球を中心に添えて、その周りを四属性の魔法の球がグルグルと回り続ける魔法。
その破壊力はオレの中では極限のものだ。
光と四属の力は、古代魔法にだって匹敵するである。
「アンナさん」
「はい」
「いきます! 破壊します」
「わかりました。お願いします」
「はああああああああああああ。中に入ります!」
最上階だと思われる大木の上部を破壊した。
そこは壊す前から、結界が薄く張られているのが見えていた。
おそらく、それがエルフのみを受け入れる結界だと思われるが、オレが壁ごと破壊したことで結界が外に露見した。
結界は外側と内側を遮断できなければ機能できないと、昔読んだことがある。
だから、ファイナの洗礼も結界に近いのではないかとオレは予想している。
補修作業が必要であるのなら、何かの結界の作用があるのではないかとね。
つうことで、糞野郎をと・・・な、なに!?
◇
ルルロアは見た。
裸になってうな垂れている彼女を。
涙とよだれを流して、気を失っている彼女を。
いつも自信満々で、口喧嘩する時のような明るい笑顔がそこになかった事を見てしまった。
だから一瞬で沸騰した。
頭の中の理性など消し飛んでいた。
最後の理性でルルロアは、なんとかスキルを解除して、即座に自分とアンナを縛る紐を切る。
アンナをこれからの危険から守るために逆に解放したのだ。
ルルロアは、ここより、なりふり構わずに全開の力で、戦いに身を投じるつもりだからだ。
だから、今までとは違う彼が飛び出るのである。
そして、アンナもそのおかげでこの事態を見ることができた。
彼女の悲惨な状況を見て、次にガルドラを見た。
狂気じみた顔をして、ナディアに向かって水晶玉をかざしていた。
信じられない光景だった。
ナディアがボロボロになっている。
それだけで胸が締め付けられるのに、彼女から流れている涙が、アンナを狂わせる・・・
ことはなく。
アンナの方が正気だった。
意外にもアンナは冷静であって、水晶玉の力が発動したばかりである事を見極めている。
そしてもう一つ。
ガルドラが服を着ていたことを確認していた。
ということはまだ何も始まっていない。
一歩手前だと。
だから心を救えるはずだと。
アンナは考えていたのだが。
ルルロアは違っていた。
彼はタガが外れていた。
いつもの冷静さを失い、怒りに全てが飲み込まれていた。
それはあの時のフィリーの比ではない。
真なる怒りが、彼の究極を呼び起こして、一つの真実を映し出す。
◇
「ふざけんなよ。貴様ぁ! ぶっ殺す」
スキルから魔法。
ありとあらゆる方法で、ここまでの道のりを進んだルルロアは、肉体に疲労感が出ているはずだった。
しかし、その動きはあまりにも異常。
あの仙人をも超える速度で、ガルドラの側面に移動して、右の拳を振り抜いた。
クリーンヒットさせたのは横っ腹だ。
骨が軋んで、ガルドラの腹は砕け散る。
「ぐああああああばああああああ」
吹き飛んだガルドラは自分の腹がえぐれていることに気付く。
「な、なんだこれは・・・か、回復を」
ポーションを飲み。
傷を癒す。
ジークラッド産のハイポーションは、希少種で傷を癒す効果がある。
「貴様がガルドラだな。ナディアに何をした」
「・・ナディア? ナディアなど今はいない。あれはナディアではない。あれの次がナディア様になるのだ。ハハハハ」
「ふざけるな! 貴様がやったんだ。彼女の心を折りやがったな」
「な!?」
ルルロアの動きが今までと違い過ぎる。
一秒前までは、遠くにいたのに、一秒後には自分のそばにいる。
ガルドラは彼の動きを目で追えなかった。
「死ね」
「に、逃げる」
ルルロアの蹴りが入る前にガルドラが消えた。
ルルロアは首を振り、ガルドラを確認する。
しかし、気配ごと消えていた。
「何かの魔法か。それとも道具・・・」
どこだとルルロアは集中し始めた。
◇
「ナディア様」
風魔法を出し続けたことで、魔力がゼロとなり力を使い果たしていたアンナ。
体を引きずってでもナディアのそばにまでやって来た。
彼女の体を調べると、予想通りだと思った。
彼女はまだ襲われていない。
だけど、精神が崩壊しているのは何故だ。
襲われていないのなら、ナディアほどの精神があれば、崩壊するなどない。
なにせ、アンナを救うために魔力を失くしても、五十年もの月日を頑張れた女性なのだ。
そこらの苦労などものともしないはず。
「ありえない。何かが起きたから、このような状態に。ナディア様。ナディア様」
「・・・・う・・・・え・・あ・・・・」
呼び掛けてもまだ言葉を出せずにいた。
明らかにおかしい。
彼女は気丈な女性。
自分にも他人にも負けない人。
だからこの状態が続くのがおかしい。
「どういう事でしょう。ナディア様・・・私にはこの状態が不思議で・・・帰って来てください。ナディア様」
「・・・あ・・・・・あ・・・な・・・」
虚ろな彼女を抱きしめて、アンナは静かに涙を流した。
◇
「どこにいる」
ルルロアは、見えない敵を探していた。
気配もない。
目でも見えない。
ではどうすれば敵を感知できるのか。
だったら探すのをやめる。
出て来てから殺す。
その点にだけ集中するために、彼は目を瞑った。
目以外の感覚を全て研ぎ澄ます。
「死ね。部外者。ナディア様に群がる蠅が!」
「貴様が、群がっている蠅だろ」
ルルロアは、自分の背後に出現したガルドラの腕を掴んだ。
出現してからルルロアを攻撃するまでの猶予は0.1秒だった。
その僅かしかない好機を逃さない。
今のルルロアは常時超反応を発動させていた。
「今のオレは、あまりにもムカつきすぎてな。加減が出来ねえ。あのクヴァロ以上の屑に出会うとは思わなかった・・・」
「ぐああああ」
腕が握りつぶされる。
ガルドラは悲鳴を上げた。
「あいつはまだ自分の欲望に忠実なだけの屑。でも貴様は違う。自分の欲望を欲望だと認識していない。それが正しいと思ってやがる。自分は正義だ。自分の考えが正しいと。思い込んだただの狂信者だ。貴様だけは許さん。オレは自由を愛する冒険者。彼女から自由を奪った貴様だけは絶対に許さん。死ね」
冷酷無慈悲。
今までのルルロアとは違う。
怒りが彼を支配していた。
左手でガルドラを持ち上げ、右拳を敵に叩きつける。
一発。二発。三発。
その一つ一つの威力がとてつもなく。
叫び声すらあげられなかった。
「クソが! おらよ」
憎き敵を殴っていても気分の悪いルルロアはガルドラを壁際まで投げ飛ばした。
「ぐあはっ。がっ。は。なんだこの強さは、ひゅ。ヒュームの・・いや、人の域を越えている。もはや、ば、化け物だ・・・なら、僕もなるしかない。これで」
ガルドラは薬品を取り出した。
赤と、青。そして灰色の。
「これで、僕はぁあぁぁぁあああぁぁあ」
全ての薬品を飲んだガルドラの体の構造が変わる。
体中にミミズが這いつくばるかのように、血管が浮き出て、体が大きくなった。
「なんだ……悪あがきか。ん!? その魔力は・・・」
膨れ上がる魔力を見てもルルロアがまったく焦らない。
怒りを前面に出して戦う。
「ふはははは。僕は今。最強になったぞ・・・ナディア様に相応しい・・・強い男にだ」
「ナディアに相応しい? 相応しいかどうかなんて、貴様が決める事じゃない。相応しいなんてな。こっちが決める話じゃなねえんだ。相手が決めてくれるからこそ、相応しいって言うんだよ! 相手にとってこそ、相応しい男になれ! この屑野郎!!!」
「そ。そんなことはない。僕が絶対に彼女に相応しいんだ。彼女こそが、僕の女神だああああああ」
「まだ言うか。貴様!」
ルルロアとガルドラが部屋の中央で衝突。
先程の力の差が無くなっていた。
ガルドラの力がそれほど増幅していた。
「ん!? 貴様。その力。強引に引き上げたんだな」
「ま、まだまだ・・・まだまだ。僕はもっと強い」
「ちっ」
一瞬で数百の打ち合いに変わる。
ただの殴り合いでも部屋を破壊する勢いだった。
しかし、一向に決着が着かない。
だから、ルルロアは、距離を取って次の行動に移ろうとした。
だが、その隙をガルドラが突く。
ルルロアの右腕にガルドラの蹴りが入ると、ルルロアの体が横にズレた。
「僕を・・・僕を馬鹿にするなぁああああ」
ルルロアがズレた位置にガルドラは拳を向けた。
「移動が速いとかじゃないな。こいつ何を使ってんだ。この急に出現する能力はなんだ」
先程は急に現れてきても敵の攻撃を掴めたのだ。
しかし今回はそれが出来ない。
なぜなら、ガルドラの力が強まっていたのだ。
攻撃と速度が今までとは違う。
猛烈な追撃の拳がルルロアの顔面に入った。
「ぐあっ。ああ。チクショー」
壁にまで吹き飛ばされたルルロア。
起き上がる際に膝に力が入らなかった。
体の芯にまで響く一撃だった。
「僕は、僕は。僕はあああああああ」
「錯乱してんのか。貴様は。ぺっ」
血を吐き出してからルルロアが前に行こうとした瞬間、不思議な感覚に包まれた・・・。
◇
「おいおい。ルル、お前。何をそんなに怒ってんだよ。いつもの冷静さがねえから、こんなに追い詰められてるんだぞ。お前の良さが出てねえ。事態を分析するのがお前のいい所だろ。あと、周りを信用してるだろ。俺たちを信じてくれてるだろ。いつもさ」
レオ!? なんで今ここに?
「ルル。うちさ。あんま怒ってるお前は好きじゃない。笑ってろよ。あ、カブトムシ見るか! すげえの掴まえたんだぜ! ほらよ。デケえだろ。ニシシシ」
ミーは相変わらずだな。
「・・・・眠い・・・・怒らないで・・・眠いから」
イーなんだよ。それはよ。
「ルル、私たちはいつものあなたが大好きです。私たちを見守ってくれるあなたが、私たちは大好きなんですよ。だから私たちもあなたを見守っています。家族ですよ。小さい頃からずっと・・・ほら出来ますよ。あなたなら、私たちの力を完璧に・・・だって家族ですもん」
そうだよな。エル。そうだ。
オレたちはいつも一緒だ。
離れていてもだ。
「そうです。拙者の力もです。お師匠様。拙者らはお師匠様を信じてます。だからこの力。使えるのだと信じています」
ん!? なんだ。アマルも!?
力を使える・・・どういうこった。
「工夫をする事。わ、それを教えたはずだわ・・・ルル君ならば、その力を全部使いこなせるはずなんだば。身体能力、魔法能力。ありとあらゆる行動を的確にだな」
ディディさん!?
そうだ。オレ、ディディさんにも大切な事を教わったんだった。
無職だって工夫次第だってさ。
「その通り。いけますわよね。ワタクシも、あなたの力になりたいと思ってますわ。あなたはワタクシのなんだと思っています? 先生。大切な恩師ですよ。ほら冷静になって、ワタクシの力だってあなたの一部なんですよ。ルル先生」
フレデリカ!? お前もかよ。
そうか。お前の力もか。ああ、わかったぜ。
大切な英雄たち。
オレの大切な幼馴染、先生、弟子、生徒・・・。
そうだ。
オレの人生ってさ。
無職人生ってさ。
全部、無駄じゃなかったんだよな。
サンキュ。英雄たち。
お前たちを解放するぜ。
オレは無職で、自由な男だからな。
オレはオレを解き放てばいいんだ。
◇
意識が戦いに戻った。
まさか。今のは。
英雄たちが・・・。
オレの中にいる英雄たちがオレに呼び掛けてくれたのか?
そうだ。この状態。
ずっと不思議に思っていたんだ。
力を使う感覚があるのに、勇者のオーラも仙人のオーラも発動していなかった。
でも発動していたんだ。
オレの中でこいつらの力が。
じゃあなんでだって言ったらさ。
そうだ。
オレの今の状態は、たぶん。
「オレは、何にもなれなかった無職じゃないんだ。オレは自由。何にも縛られないで何かになれる男だったんだ。だからオレはいつも自由を愛してるのさ。そんでオレは、お前みたいな奴が嫌いだ。お前みたいな誰かを縛ろうとする奴が一番嫌いだ」
敵もオレが嫌いだろうな。
そんな風に大声をあげるなんてな。
「うるさいいいいいいいいいいい。しねえええええええええええ」
「あんたのその移動。見切った。魔道具だな。その胸にある!」
「きえええええええええええええええ」
完全に冷静になっていた。
頭がクリアになっている。
透き通った考えが導き出した答え。
それが、英雄の集約。
オレのジョブは『|解き放たれた英雄と自由の戦士』
たぶんこれが真のオレ。
オレの力の完成形だ。
出合えた英雄たちがさ。
オレを勝手に導いてくれるんだ。
無職。
これがオレのジョブじゃなかったんだ。
たぶん、オレのジョブは自由なんだ。
何にも縛られない自分を作って、そして皆に自由を与えるために、オレはこの世界に生まれてきたんだ。
それを今確信した。
オレが自由を愛しているのも、この思いとジョブによる結果だと思う。
「すまんな。あんた。今のオレ。たぶんさっきと違って無敵に近いわ」
「おあおああああおおおおおおおおお」
「もう話すのも無理か」
オレは敵の攻撃を右手一本で受け止めた。
「ぐご!?」
「話せねえか。残念だな。悪いなあんた。王魂と威風を同時発動させる! お前は黙れだ!」
「ごはっ!? ん。ん。んんんんん」
ガルドラが必死にもがく。
でもこの技のおかげで、体を動かせない。
大王の芯に響く言葉と、剣聖の威風が混ぜ合わさったことで、強烈な威力を浴びているからだ。
「じゃあ、切り札は消す。桜花流 葉桜」
剣聖の力でオレは、動きが止まったガルドラの胸にある小さな指輪を破壊した。
「あんたのその心・・・たぶん悪に染まってねえな。自分の善意で起こした行動だから、良い事をしていると思い込んでいる。そしてその心に縛られてんな。可哀想な奴だ。だから、オレは聖女の力じゃ、無理だわな。悪意がないんだ。改心をさせられねえ。どうしようか。オレはあんたも解放しようと思ったが・・・。いや待てよ」
「ごばろあだぞが」
「本当に言葉は話せないんだな。でもいいや、ほいじゃ。これいくぞ」
聖なる光がオレの中から溢れる。
今までよりも奥底から湧き出る。
オレの左手に真の光が溢れていく。
「聖なる導きよ 汝を守れ 聖域」
聖なる結界が敵を囲う。
聖女が扱う最強の結界だ。
身動き一つ取れないように体いっぱいのサイズにまで留めた。
ミニ聖域である。
「我ながら、完璧だ。このサイズにまで小さく出来るなんてな。ほれじゃあ、あんたの中を駆け巡ってるその薬。外に出すぞ」
右手に四属の魔法を集束させて、そこに仙人の力も混ぜる。
「いいか。全部出すぞ。痛くても我慢しろよ」
聖域の中に右手を入れて、ガルドラの左腕を握った。
掴んだその瞬間に風魔法で皮膚を切る。
そこから土魔法でオレの手と奴の腕を固定。
水魔法と火魔法で相手の血管からこの薬品を外に出す作業をする。
血液の中で悪さをしている部分を探すのは仙人の力である。
気配で察知し、こいつの体から薬品を取り出した。
「ほうほう。全身にはまだ薬品が回ってないみたいだ。これで破壊するわ。ほい!」
ガルドラの全身から血が飛び出た。
こいつを縛る悪しき薬品を破壊しきると、聖域内でガルドラが小さくなって倒れた。
「元に戻ったな。じゃあ、ほんじゃ悪いけど。聖域展開はそのままね。オレはあっちだ」
こうして、オレはガルドラを封じながらナディアとアンナさんの元へ向かった。




