第16話 モンスターハウスバトル
「はぁはぁ。数が多すぎる……た、隊長。どうすれば」
「・・・む! く、苦しい」
前線で戦うマールダとジャスティンは、敵の素早い攻撃を苦しみながらもいなし続けていた。
2対31。
十倍以上の数を相手するには、いくら一級上位の実力者の二人でも厳しいものだ。
「ぐおおおおおおおおおお」
ハイスマンが仲間のピンチで前に出た。
冷静さを失うのがこいつの悪い部分だ。
「馬鹿、ハイスマン。頼むからお前は最後なんだ。切り札運用だ。少し我慢しろ」
オレは、自分の指をハイスマンの肩に食い込ませるようにして握る。
「ちっ。なんだよ。雑魚の癖に」
手を振り払えないのがよほど悔しいらしい。
すんごい顔つきをしている。
けどそれも無視しないといけない。
こいつはこのままでは全滅だという事に気付いてないのか。
続けて指示を出す。
「いいか。ここで立て直す! スカナ! ジャスティンにだけ。プロテクトを! あいつの防御力だけをガッチリあげてくれ。フルパワーでだぞ」
「わかりました。準備します」
スカナは素直に準備を開始してくれた。
少しはオレを認めてくれたのかもしれない。
「ジャスティン! スカナの魔法が掛かってから、オレの行動の後で『かばう』を頼む。オレをかばってくれ。オレだけでいいからな! 他は要らない」
かばうは二種類ある。
全体をかばうモードと、個人をかばうモードだ。
ジャスティンは皆を守るために、全体をかばっていた。
「????」
ジャスティンは話さずに首を傾げた。
「疑問に思うな。オレの策に乗ってくれ」
「了解・・・隊長」
彼の返事の後。
次に『指揮』を解除。
「いきます。プロテクト」
ジャスティンにプロテクトが掛かった瞬間、オレがスキルを発動。
「チルチル。騙されろ! 雄叫び」
雄叫び
この世界には、特殊職『獣戦士』というジョブがある。
動物の力を借りることが出来る職業で、世界でもその職業になる人間は、十本の指くらいしかいないだろう。
カイロバテスの歴史で、今やいないとされている亜人種。
それの名残の職業なんじゃないかと、オレは日曜学校の図書館で読んで思ったことだ。
昔これを読んでわかった時、この大陸のどこかにその亜人種がいるのかもしれないと思って、早く冒険者になりたいと思っていた。
冒険だけじゃなく、そんな歴史を調べるのもいいかなと、思ったりしたこともある。
ウォークライは、相手を一瞬ひるませてから、標的を変更させる技だ。
挑発などの技に近いが、こちらの技は自身の戦闘能力が上がる。
「あああああああああああああああああああああああああああ」
戦場にこだまするオレの雄叫び。
チルチルの赤い目が一斉にオレを追いかけた。
「きた! ここしかない。ジャスティン、スキルを頼んだ!」
「…かばう!」
オレの事を攻撃したくてたまらないチルチルたちが、一斉に途中で方向転換をする。
盾を構えて待ち受けているジャスティンに向かっていった。
かばうは、仲間を守るためだけの技だ。
防御が元々頑強なジャスティンに、プロテクトでさらに防御をあげながら、オレたちの攻撃を一手に引き受けてもらう。
しかし、そこで終わらせない。
「今だ! チルチルがジャスティンの前に集まる! 反撃を開始するぞ。先に範囲魔法だ。キザール。一発撃て。そんくらいは撃てんだろ」
「わかってる。すでに用意はある!・・・焼き払え『フレイムバード』」
炎の鳥がチルチルを焼き尽くす。
悪態をつく魔法使いキザールの腕前は一流である。
さすがは一級冒険者だ。
下級職の魔法使いで、上級魔法を操ることが出来るのは、彼もまた努力型の人間である証拠だ。
「よし、三分の一は倒した。でもまだいける。ここだ。みんな! 前に出ろ。敵がまだジャスティンに縛られている内にいけ! 防御を気にせず全力でいけ!!!」
「「「 了解! 」」」
全員がオレの『指揮』に従う。
皆は、ジャスティンの前にいるチルチルを、各々の得意攻撃で倒し始めた。
自分には絶対に視線が集中しない環境は、防御を疎かにしてもいいという最高の攻撃態勢を整えられる。
だから、皆は自分が出せる最高の攻撃を繰り出せた。
そして、次々とチルチルを撃破していった。
最後に。
「これでおわりだああああああああああああ」
元気になったハイスマンが斧を振り抜いてこの戦いは終わった。
◇
「疲れたぜ。こんなにスキルを回したことないからな。はぁ」
「隊長、大丈夫ですか」
「おう、フィン。サンキュ」
座り込んだ俺に声をかけてきて、立ち上がらせてくれたのはフィンだった。
そして、次に近づいてきたのは。
「隊長、申し訳ない。私がいて。このような事態に」
眉が下がったマールダだ。
申し訳なさが顔に出ていた。
「・・・ん? ああ、気にするな。マールダ。どうせ、ハイスマンかキザールが、ここの入り口のスイッチを押したんだろ。全くあいつらが不注意すぎんだよ。それにスカナ!」
「なんでしょう」
スカナはだいぶ素直に話を聞いてくれるようになった。
「お前、罠を突破するために神官術を使ったな」
「・・そうです。プロテクトウォールを・・・」
「はぁ。あれは魔力消費がデカイんだよ。むやみやたらと使うな。あれはエルミナだから連発できる魔法なんだ。それと、お前はこのパーティーの要だぞ。戦闘時に回復魔法を使えんほどにダンジョン内で魔法を使うな! いいか。神官や僧侶は魔法を使わない。これがダンジョン攻略の鉄則だ。覚えておいてくれ」
「・・・そうですね。今後はそうします」
「ああ。そうしてくれ」
スカナはオレの忠告を聞いてくれた。
ハイスマンとキザールは忠告してもきっと意味がないので、ここは無視して、ジャスティンの元へ行った。
「ジャスティン。大丈夫か。かなり無茶をさせちまったけどさ。これ、ポーションな」
「・・・どうも・・・隊長」
「ああ。ゆっくり飲んでくれや」
「はい」
ジャスティンは鼻をつまみながらポーションを飲んだ。
どうやらあの独特な苦みが苦手らしい。大きい体を持ってしても、少量の飲み物に苦戦するようだ。
ジャスティンが飲み干したのを見て、オレが指示を出す。
「そんじゃ、帰還するか。ここらで引き揚げよう。無理は禁物だ。鉱物は明日でもいいだろう」
「「「 了解 」」」
行きよりも帰りの方が、冒険者パーティーのようになれた。
オレたちは、死線を潜り抜けてなんとなくだが、上手くいきそうだった。




