七歩目
鉱脈に辿り着く。
効果に応じて色が違う不思議な鉄。
それが魔鋼鉄と呼ばれるものだ。
洞窟の中でほんのりと光を放っているから、中が薄暗いで留まっているみたいだ。
本来はもっと暗い洞窟なのかもしれない。
「これ、取ってもいいのか? ユーさん、これでやってみてもいい?」
オレは、マジックボックスからつるはしを取り出した。
「待て、ルル。これは少し特殊でな。素手でやるのだ」
「え? 素手??」
「そうだ。魔力を同調させて引き抜くしか、鉄を手に入れる方法がない」
ユーさんは右手に魔力を出した。
鉄に触れた瞬間、魔力同調させる動きをする。
鉄の色が変わり始めた。
赤。青。黄。そこから水色、紫、黄土色。
七色に変化した鉄の最終的な色は白だった。
「これは光魔法だな」
「これが光か」
「ルル。これはな。魔法との相性があるのだ。魔鋼鉄が取りにくいのはここに原因がある。原材料が少ないのではなくな。これを取る職人が少ないのだ」
「なるほどね。これもしかして、失敗するとさ・・」
「そうだ。砕け散る」
「やっぱりな。それは入手が難しいってもんだな」
取る人の魔法の種類が豊富じゃなくちゃいけないという条件も加算されるという事だ。
満遍なく色んな種類を使えないと、相性の良さを引き出せないということでもある。
かなり高難易度な採掘作業だ。
「なるほどな。ちょっとやってみるか」
鉄に触れ、魔法の種類を変えていくと、色が変化していく。
オレもユーさんの見よう見まねで順番に変えていった。
「これは、赤か? 火なのか。クソ。鉄が抜けねえ」
「ルル。それは灼熱だな。濃い赤になるはずだ。魔力量を気をつけろ。混合魔法は量の微調整が難しいからな」
「うお。マジかよ。火じゃないのか。さらに難しいな」
灼熱は混合魔法の中で、難しい部類の魔法。
四属性を混ぜ合わせて火を強く出す。
細かいコントロールが必要となってくる魔法だ。
しかし、今のオレはそれをたやすく出来るレベルである。
なぜなら、魔法の心髄がたぶんミヒャルと同レベルで発動しているからだ。
オレの覚醒ってさ。
いったい何が起きたんだろうか。
今の所さ。
推測でしか考えられないけど。
女神の天啓表示をあっちで受けたいな。
今の状態を調べることが出来るからさ。
「お! この量みたいだな」
「そうだな。それはもう引っこ抜けるぞ。ルル」
「やってみよう。いくよユーさん」
鉄の色の変化が固定された。真っ赤になった鉄を引き抜く。
「抜けたぜ。これが、魔鋼鉄・・・・・思った以上に軽いな」
「そうだ。その軽さの割には丈夫なんだぞ。加工すればな」
「へぇ。よし、どんどん取っていこう。オレのマジックボックスに入れちまえば、持ち運びは楽だぜ」
ここからオレとユーさんが手分けして鉄を取っていった。
その途中。
ズンがそばに来た。
「ルル様。そのマジックボックスってなんだ?」
「ああ。こっちの世界にはスキルがないからな。これの存在を知らんもんな。これさ、道具箱って言うアイテムになるんだけど、この中にアイテムとか、武具とか。様々なものを保管できるんだよ。料理とか素材とかもな」
「へ~。すげえ便利だね」
「まあな。しかもさ、これ無限に近いくらい入るんだよね。オレのマジックボックスさ。制限がないみたいなんだよ。成長したせいかな・・・どうだろ」
「こっちに聞かれてもよく知らないから。おいら困るぞ」
それはそうだ。
すまない。
「わりいわりい。オレにもよく分からなくてね。なんだか自分が成長し過ぎてて怖くてな。最近さ」
「へぇ。ルル様でも怖いって思うんだ」
「なんだよそれ。オレだって人だぞ。その言い方だと人じゃないみたいに聞こえるぞ」
「いや、もうヒュームの域は超えているよね。もう魔人族すらも越えているんじゃないかな」
「まさか。そんなに強いのかオレ? 魔人族っていえば、最強クラスの戦闘力を持ってるんだろ」
「そうだよ。あいつらはあまり数がいないしね。それに好戦的な奴だったら、最強クラスだね。弱い奴はあんまり見たことがないよ」
「そうなんだ」
オレはフィリー以外の魔人族と出会っていない。
どれほどの強者なのだろうか。
オレがそのレベルに達していると。
ズンが言ってくれているが、果たして本当にそうなのか。
自分の強さがどの域に到達しているのか試してみたくなった。
最近、やってる自主トレでも感じる。
オレの爆発的な力は、留まることを知らないみたい。
スキルの複数同時発動や、究極の英雄職のスキルや魔法を反動ナシで使用できる上に同時発動が可能。
オレだってこれは化け物じみた強さだと感じる。
特に勇仙拳は、オリジナルにして頂点の技に感じるぜ。
あれで倒せない敵は、ヤバい敵として認定してもよさそうだ。
レオとイーだぞ。
二人が力を合わせた状態が、相手に通用しないんじゃな。
諦めるしかないよな。
そうこうしている内に、オレたちはかなりの量の鉄をゲットしたのである。
◇
「帰ろうか。あとは土を取ってさ」
「そうだな。もう。何十年分も取ったな。儂、持ち運ぶのに大変かと思って、少ない量しか取れないと思ってたからな」
「たしかにね。あの量を素手で運ぶとなると、ローレンさんとリヴァンさんが空を飛べねえよな」
「そうだな。確実に飛べないな」
総じてマジックボックスは便利である。
オレたちはこのまま何事もなく帰れるものだと思っていた。
取得した鉄も十分だったし、仲間との会話で仲が深まったような気がしていた。
しかし、ここで異様な力を感じたんだ。
洞窟の奥から底知れぬ力の波動がこの採掘場までやってきたのだ。
「な、なんだこの魔力。洞窟が震えている!?」
「ルル! どうする。引くか」
「うん。まずい気が・・・・」
【何しに来た。貴様ら】
「な、なんだ。おいらの頭に直接」
「自分にも聞こえました」「わ、私も」
ズンもローレンもリヴァンにも同じ声が聞こえた。
恐ろしい程の魔力を保持している者が直接脳内に語り掛けている。
「これはなんだ。何の魔法だ? すげえな。オレたちの脳に直接声をかけたのか」
「ルル?」
「おもしれえ。奥に行ってみるわ。ユーさん。皆を地上へ。オレは奥に行く」
「まて、儂もいこう。なにかあったら大変だ。儂も」
「・・・よし。じゃあ、ローレンさん。リヴァンさんとズンを地上へ」
「わかりました。ルル殿。お待ちしてますよ。どうか無事で」
「ああ。まかせろ」
オレは楽しんで奥に行った。
誰が待ち受けていても、あんな珍しい魔法を仕掛けてきたんだ。
面白い奴に決まっている。
◇
洞窟の奥は次第に暗くなるかと思いきや、徐々に明るくなっていき。
最終的には壁にあった土や岩が消えていった。
城みたいな廊下が途中から出てきたんだ。
「城か? ここは……何だ? どういうことだ。洞窟の中だよな」
「儂も奥にこんなものがあるとは・・・知らんかった。たしかに建物の内部みたいに見えるな」
「ああ。ユーさんでも知らん場所なんだ。特別な場所なんだろうなここ」
オレたちは最奥に到達したのだろう。
城であれば、ここが玉座の間だ。
柱が数本と、豪華な椅子が正面に見える。
【貴様は誰だ。私の眠りの邪魔をしたな】
「は? 知らねえよ。ところでどこにいんのよ。あんた」
【目の前にいるわ】
「いねえし。椅子しか見えねえよ」
【いるぞ。ここに】
そう言われた後、椅子に座る男が現れた。
その姿を見て、オレは驚く。
「目が三つ! カッケえ!」
【む!? な、なに!?】
「あれはなんだ。ユーさん知ってる?」
「み、三つ目族だと……ここにそんな奴がいるとは」
「三つ目族?」
【わ、私がカッコイイだと!】
「え? カッコよくねえのか。自分では思ってないの? 目が三つあるってすげえじゃん。便利そう」
【貴様。馬鹿にしてるんだな。それは馬鹿にしてるんだな!】
「は? 何言ってんだこいつ?」
と指さして言った後、ユーさんがオレに耳打ちをしてきた。
「る、ルルよ。三つ目族を怒らせん方がいいぞ。奴らはとても強いのだ。気をつけろ」
「そうなの。でも今の会話で怒る要素があるのか? オレ、カッコイイって言ったんだけど」
「目については、無関心を貫いた方がいいじゃないのか。気にしているかもしれんぞ」
「マジかよ。もったいねえ。堂々としてればいいのにさ」
【何をコソコソ話している。まさか。やはり馬鹿にしているのだな】
「いや、馬鹿にしてねえ。むしろ、珍しくてカッコいいと思ってる!」
【ば、馬鹿にしやがって・・・ゆ、許さんぞ。ヒュームの小僧】
三つ目の男の魔力が解放されると同時に、爆風が巻き起こる。
オレとユーさんもその場から弾き飛ばされそうになるくらいだった。
【貴様は、許さん。私を馬鹿にした! 罰を与える】
これが決闘の合図だった。




