四歩目
お食事中の方には不快な表現がありますので要注意です。
こんな彼女でも可愛いと思ってくれれば、作者は嬉しいです。
はい。
お願いします。
やっと現れた正ヒロインであります。
いえ、正統派とは程遠いかもしれませんね。
ちょっととは言えず。結構まあまあ・・・。
ごめんなさい。
流行りを追えず、型にすると古いタイプですね。
入口の方から声が聞こえた後。
声の主たちは逃げているらしいが、足跡が聞こえてこなかった。
洞窟内で、足音が響かない。
ここが不思議ポイントだ。
「なんだ今の声? ズン、逃げろって聞こえたよな」
「ああ。ルル様。おいらたちはどうする」
「そうだな。オレたちは、もうちょい先に行って様子を見るか。オレたちもその悲鳴の現状を知った方がいいと思うな」
「なら、おいらが先に行って、偵察しようか」
「偵察?」
「おいら。足が速いから、先に行ってみてから、ルル様に知らせに戻るよ」
「ああ、なるほどね。でもズンが戦いに巻き込まれたらどうすんだ?」
「一対一なら戦えると思う。だけど複数だと厳しいから、その時はルル様の所まで戻ってくるよ」
「よし。ズン頼むわ。ただ、危なくなったら絶対に戻って来いよ。命優先だからな」
「うん。了解!」
人間モードのままズンは入口に向かった。
◇
「うわあああああああ。逃げろ」
「なんで……私たち、ここで死ぬのね」
「奥に逃げろ。とにかく逃げるんだ」
「あいつたちが食い止めている内に」
鳥人たちは逃げていた。
必死の形相で。
懸命に翼を動かして。
彼らは、ワイバーンから逃げていたのだ。
ジークラッド大陸最強の魔物。
竜。
その僕であるワイバーンは下級であっても、人にとっては脅威。
滅多にない種族からの襲撃に、彼らは大混乱していた。
◇
様子を見に行ってから一分も経たないうちにズンが戻ってきた。
「ずいぶん速いな。もう帰って来たのかよ」
オレは彼の顔を見て呟いた。
「る・・ルル様ぁ! やばいぞ・・・ワイバーンだ。こっちに向かってきてる。もうく・・る」
ズンの後ろから鳥人が複数やってきて、その後ろからワイバーンもやってきた。
その姿。絵本でしか見たことがなかったから、オレは興奮を覚えた。
そうオレたちの世界で竜種ってのは、ほとんど見かけない。
エルジャルクを見た時にも思ったけど、竜種ってカッコいいんだわ。
でも思うことがある。
絵本にあるということは、やはり伝承はしっかりしていたのだ。
こちらの世界では、普通に生きていたってたわけだ。
御伽噺はこっちにあったってわけなのよ。
「おお! マジか。竜種。かっけえ!」
「なに。楽しそうにしてんだよ。ルル様! 逃げるぞ。おいらに乗れ」
獣の姿に変わったズンが逃げようと言ったが。
「いんやいい。このまま行く!」
オレは断る。
「は!?」
オレとズンがすれ違い。
鳥人たちともすれ違う。
彼らが奥に逃げていく間に、オレはワイバーンの前に出た。
「悪いな。オレ、こいつに興味があるぜ。どれ。勇者と仙人の力でほい! 桜花流 二枚花」
オレは縦に回転して、ワイバーンの腹を蹴って、顎を蹴った。
ワイバーンが洞窟の天井に打ち付けられて、天井がへっこんだ。
「ぎゃあおおおおおお」
「お。頑丈だな。じゃあ、もういっちょいくか。お次はと・・あ?」
天井から落ちてくるワイバーンはすでに死んでいた。
姿形がそのままだったから、死んでないと思ったのに、オレの勇仙の力は強すぎるらしい。
死んだことすら忘れるくらいに後から攻撃の威力を感じたのか。
「ちょ・・あなた、あたしがいるのを忘れてるわ・・・ぎ・・ぎもぢわるい! おぼぼぼぼぼ」
「あ! 忘れてた。すまん」
ナディアはオレの肩に向かって綺麗な噴水を披露した。
◇
「え~ん。えんえん。やだぁ。もういやああ。吐いちゃったぁ……もうやだぁ。ルルに吐いちゃったぁ。恥ずかしい。死にたい! 殺してよぉ。今すぐ、その剣で刺してちょうだい!!!」
ついに吐いてしまったナディアは、駄々こねた子供のように泣いていた。
今回ばかりはマジで申し訳ない。
「わりい。わりい。ナディアのせいじゃないってば。全部オレのせいだから、あんま気にすんなって」
その場で上半身の服を脱いで、着替え始める。
彼女はうずくまって顔を伏せていた。
「だってぇ。ただ吐いたんだじゃなくて、ルルに向かって吐いちゃったよ」
「いや。どっちかといったら、今のはオレが悪いよ。具合悪いナディアに、あんな縦の回転を加えちまったらもっと具合悪くなるに決まってるわ。すまんって」
「うううん。謝ってもらっても……あたし。もうルルに吐いちゃったのよ。ルルに見られたんじゃなくて、ルルに向かって吐いちゃったのよ。もう死にたいぃ……」
それはオレが悪かった。
こればかりは完璧に悪い。申し訳ない。
オレはすっかりワイバーンに気を取られて、興奮してしまい。
彼女をおんぶしてたことを忘れていたのだよ。
マジでスマン。
「幻滅どころか。失礼よ・・・やだ、もう生きていけないわ。殺して」
「いや。そこまでいかなくてもいいよ。オレは平気だって。気にすんな!」
「こんな女……き、嫌いになったでしょ。げ・・・ゲロ女よ・・・・自分に幻滅よ。はぁ」
ゲロ女って・・・。
「別に嫌いにならないって。オレが貴重な体験をしたと思えば大丈夫さ。ほら、女性に吐いてもらったっていう称号が付いたんだぜ」
「まったく嫌な称号ね。それ・・・ああ、死にたい」
全く慰めにならんかった。
「大丈夫だって。オレはね。大抵のことは笑っていられるし。女性がしたことは、どんなことでも受け入れるのさ……ってなんだかレオンみたいでやだな。でもこんな事は些細な事なんだぞ。マジで気にす・・あれ? ん?」
二人でそんなやり取りをしていたら、奥から鳥の人たちがやってきた。
「あなたは・・・ヒューム!」
「しかし・・・ワイバーンが・・・」
「あ、ありえるのか!?」
一気に鳥の人たちがオレを囲んできた。
「すみません。あなたがワイバーンを倒したのですか」
美しい顔立ちの女性がオレの顔の前まで近づいて来る。
そんなに近いと、顔全体が見えません!
鼻しか見えない!
「え。ま、まあ。そうですけど」
「なら、私たちの仲間を助けてくださいませんか。私たちを逃がすために、まだ入り口の方で戦っているんです」
鳥の女性はオレに懇願してきた。
「え? なんだって。そいつはやばいんじゃ」
「そうなんです。それにその中に私の旦那様がいるのです。助けてください。どうか」
「うん。いいよ。いこう。助けに行くわ」
「ありがとうございます。こちらです。私に乗ってください!」
「え? 乗る!?」
「はい。お願いします」
鳥の女性は獣身化した。
背に乗れと言うので、オレは初めて女性に乗った。
鳥の姿をしたとしてもなんだか申し訳ない!
「乗ったぞ。お願いする!」
「ええ。こちらこそ、戦闘をお願いします。飛びます!」
「おう。わかった!」
鳥の女性の飛行はズンとほぼ一緒の速度。
顔面に受ける風が凄い。
顔が変形しそうだ。
「おおお。飛ぶの速えわ。あんた、何の鳥?」
「私は隼です」
「だから速いのか。無茶苦茶だぜ」
オレは洞窟内だけど、空を飛んで現場に向かった。
◇
オレと鳥の人は入口を突き出た。
「い。いました。ろ。ローレン!」
「なんできた。リヴァン。お前だけは逃げろと、自分は言ったはずだ。逃げてくれリヴァン」
「逃げたくないです。貴方をおいては! それに私は、この方をお連れしたのです」
入り口での死闘は。
ワイバーン三体に対して、鳥人が六名。
一体二の有利はあってもワイバーンは強いらしい。
一瞬見ただけでも鳥の人たちが不利だった。
「おいしょ! 運んでくれてありがとな。リヴァンさんって言うんだな」
「あ。はい。あ、あなたは・・・」
「オレの名は!」
勇仙の力を出してオレは高く飛び、『桜花流 百花繚乱 桜流し』を繰り出した。
居合の一撃から始まて舞う。
咲き乱れる花びらたちは、ワイバーン三体をほぼ同時に斬り伏せた。
「ルルロアだ!」
三体のワイバーンがドサドサッと落ちたのを見て、鳥人たちは驚いていた。
「呼ぶ時は、ルルでいいぞ!」
◇
「よかった。ローレン。無事ですか」
「ああ」
二人は人の形態に戻って抱きしめ合っていた。
オレはそこから少し離れていると、入口で死闘をしていた鳥の人たちに囲まれる。
「お前誰だ」
「オレ、ルルだって言ったじゃん」
「ヒュームだぞ。なのにあれを倒したのか」
「見てなかったの? 今オレが斬ったでしょうよ」
「見てたぞ。もちろん」
オレはこの場にいた鳥の人たちに次々と話しかけられたのである。
質問攻めであった。
「強いな。ヒューム」
「だからルルだって」
「ルルか。覚えたぞ」
「あ。どうもどうも」
「あとでローレンと話してくれ。俺たちの長なんだ」
「長? そうなんだ。リヴァンさんの旦那さんがね」
「そうだ。今は・・・あれ。そうか、お取込み中か」
「そうみたいだね」
二人は、互いの無事を確認するために、安堵のキスをしていた。
よかったね。リヴァンさん。
お互いに助かってな。
夫婦が一緒で良かったよ。
◇
二人の心が落ち着いたらしいので、オレは近づいた。
「よし。いいかな。ローレンという長さん。オレはルルロアです。ルルです」
「自分はローレンです。ルル殿。加勢ありがとうございます。しかし、ヒューム……どこにそんな力が」
「ああ。オレはね。ジーバードのヒュームなんだ。ちょっとこっちのヒュームとは少し違っていてね。たぶん、異常に強いと思う。はははは」
「ジーバード!? ファイナの洗礼はまだあるはず!?」
このくだり。やっぱり毎回だわ。
周りの鳥の人たちも目が点になっていた。
「それじゃあ、聞くけど。何で襲われたのかな? ワイバーン四体とエンカウントってなかなかないでしょ?」
「そうです。実は・・・」
一族の長ローレンと鳥の人たちはある集落で平和に暮していたのだが。
それがある日突然、ワイバーンの襲撃に遭い、集落と部族はほぼ壊滅状態になったのだそう。
200名ほどの鳥の人たちは死んだらしい。
生き残れたのは、今戦っていた人たちと、洞窟の奥まで逃げ切れた20名。
里から離れてもワイバーンが追いかけてきたので、何かに操られているのかとも思ったらしい。
それで、やっとこちらの洞窟に辿り着くと、洞窟奥に皆を逃がしてこの手前で最終決戦をしかけた。
せめて奥にいる人たちでも生き残らせようと、もう少ししたら、外にワイバーンを引っ張って、洞窟を安全にして、種を存続させようとしたみたい。
命懸けの行動は賞賛に値するが、もう少しうまくやるべきだった。
このまま、オレがいなければ全滅だっただろうからな。
「そうか。この作戦。あんたらはミスってるな」
「え? これが間違いですと!?」
ローレンの瞳が熱く燃えている。
否定されて燃え上がっていた。
「正確に言うと間違いじゃないよ。でも、考えてみてくれ。いいか。全員で魔力を溜めながら、こっちの洞窟の中に移動してから、タイミングを合わせて入口までターンをする。そんでさらにタイミングを合わせて、この出入り口の壁を破壊してワイバーンを閉じ込めちまえばいいんだよ。そしたら逃げられただろ。全員でよ」
「・・・む・・そ、それは・・たしかに」
怒っていようが、意見を聞いてくれる。
素直な人だ。
「だろ。そんでその状態になっても、ワイバーンが出てくる場合。その場合でも、ワイバーンが外に出るためには壁を破壊するしかない。そこには多少の時間を要するからさ。その僅かな時間があれば、あんたらなら遠くに飛びたてるだろ。あんたら、里を守る時にはどんな守り方したんだ。まさか、さっきと同じようにさ。ワイバーンとタイマンしたみたいに戦ったんじゃないだろうな」
「いや。一対複数で」
その返答、勇ましいったらありゃしないわ。
「そいつは勝てんわ。守るためには工夫していかないとさ。まあ、過ぎたことを責めちゃいかんな。あんたらは生き残れたんだしさ。ここから頑張れるよ。生きていればなんだって出来るんだ。オレの親父が言ってたから間違いない」
「そ、そうですか」
間違いない。
オレの親父は無茶苦茶だけど間違った事は言ったことがない。
「じゃあ、里はどうなってるの? ほぼダメなのか? 壊滅状態??」
「戻るのは無理ですね。帰ることが出来ても、同じ場所だといつ襲撃が来るのかもわかりませんし。それにおそらく、里はないに等しいかと」
「そっか・・・じゃあ、オレの町に来る?」
鳥の人を誘ってみた。
仲間は多い方がいいし、困った時は助け合った方がいいのさ。
「ルル殿の?」
「ああ。オレの町に来れば、とりあえずの雨宿りくらいにはなるよ。オレたちさ。今街を作ろうと、町を作っている最中なんだけどさ。鳥の人たちも来てくれたら嬉しいな。あ、でも俺の町、ヒュームと奴隷と逃げてきた白狼族しかいないけどね」
「なるほど。それなら自分らも・・・ですが、もし我々があなたの町に居ることが、ワイバーンや、いるかわかりませんが、ワイバーンを操っていた敵に知られたら、あなたの町に迷惑が」
鳥の人を仲間に入れる懸念は、敵襲があるかもしれないってことか。
そんなのどうでもいいよね。
皆で守り合えばいいんだしさ。
「ああ。誰かが襲撃しに来るって話だね・・・いいよ。オレが話しつけるから。もし、ローレンさんたちが来てくれるなら。オレが守ろう! 鳥の人たち全員さ!」
「ほ、本当ですか。それでは皆を説得してみます。自分は是非お世話になりたい」
「おお! それじゃあ、話し合いをしてください。オレも仲間の元に戻るので」
という会話をしている間に、奥から皆が出てきていた。




