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エピローグ 新しい案

 紙とペンを用意して、そこにアンナさんに地図を書いてもらった。

 彼女のような偵察が上手い人であれば、総じて地理感覚が聡い場合が多い。

 方向感覚も優れているからお願いしてみたら、バッチリだった。


 「ルルロア様、大陸はこのようになってます」

 「なるほど」


 ジークラッド大陸。

 その大きさは地図上ではわからないが配置は分かった。

 大陸の北から逆三角形の形で氷が大地を侵食してる。

 そして、真ん中が大平原で。左右の端が森林地帯。 

 そして真ん中と森林地帯の間にそれぞれ山脈がある

 なので。


 「このど真ん中の大平原。ここが両軍の主な戦場になるはずですね。あとはこちらの右の森林地帯。それと右の森林地帯の脇。ジュズランから南ルートの森沿いが戦える場所ですかね」

 「はい。そうなっております。こちらの平原左右にある山脈地帯は軍での山越えが厳しいので、森林地帯での戦いがよく起きます。ただ何も障害のない平原こそがメインの戦場です。北と南の激戦区となっていますね。それとジュズランとその南にある城塞都市ガイルハイゼンが戦場ですね。今は停戦中なのでどうなっているかはわかりませんが」

 「そうですね・・・」


 オレが悩んでいるとユーさんが来た。


 「何故そんなことを気にするのだ。今更地図か? 旅に出てしまえば関係ないだろ。一つずつ回っていけば、色んなことがわかっていくぞ。ん?」

 「そうなんだけど。ユーさん。オレもそれをすげえ楽しみにしてたんだけどさ」

 「ん? けど??」

 「ユーさん。ユーさんはオレと一緒にいてもいいって言ってくれたじゃない」

 「おう。友だからな」

 「それは嬉しい事だけどさ。さっきの実験でね。オレがあんなに皆に迷惑をかけるとは思わなかったんだ」

 「迷惑だと?」

 「ああ。オレがいることで、オレの評価が皆を落とすとまでは考えてなかったのが甘かったわ」


 そうだ。

 これをもっと深く考えておけば良かった。

 レオンたちと一緒にいた時も似たような経験をしていたのにな。

 馬鹿だなオレはさ。


 「なに? どういうことだ??」

 「オレがそばにいるとさ。まともに買い物も出来なくなってしまったんだ。これは非常にこの先の生活、旅が難しくなる要素となるわ。オレがいるだけでパーティーを上手く回すことが出来なくなるのはきついぜ」

 「そんなものはあなたが外にいて、私たちが買い物をすればいいじゃない。ルルが迷惑だなんてあたしは考えないよ。そんなのありえない。私たちにとって大切よ」


 ユーさんと話していたんだが、途中で怒った口調のナディアが会話に入ってきた。

 でも内容は優しさで溢れている。


 「ああ。ありがとう。でもな。ナディアがそう思ってくれてもさ。オレがパーティにいるだけで、各地で上手く買い物ができなくなる恐れがあるんだ。いくら君たちがオレを認めてくれようともね」

 「え・・・うん。でも、あなたが気に病むことじゃ」

 「ん? いやいや、オレは別に気にはしてないんだ。オレはちょっとやそっとじゃ諦めねえからな」

 「え?」

 「だから、オレはここで打開策を一つ考えたんだ」


 オレは別に気落ちしていたわけじゃない。

 唯一の打開策を考えていただけである。


 「へ?」「え?」「なぬ!?」


 三人とも驚いていた。

 てっきりオレががっかりしていたのではないかと思っていたらしいな。

 そんな事で、気持ちが萎えているならさ。

 オレはもうあっちの世界で引きこもり生活なんだわ。

 

 「ここからオレの考えを言う前に、オレはここに来て一つやりたいことがあるんだ」

 「なんだ?」

 「オレはね。冒険者クエストの三大クエストの一つ。魔大陸の踏破をしたいと思ってんだ」

 「「「魔大陸の踏破!?」」」


 オレの目標。それはあいつら英雄が、英雄たる偉業を達成すること。

 それにはこの魔大陸に置いて、踏破するための礎をここで作ることが大切だと思っていた。

 そこで、オレは魔大陸を先に下見するために満遍なく各地を回りたいのさ。

 あいつらとも一緒に後からでもいいから、回ればいいのさ。

 そしたらクエスト達成だろ。

 ジェンテミュールの手助けになるぜ。


 「そのために動きたくとも。肝心のオレが何にも出来なくなる可能性がある。それはさ。各地で物資を手に入れられないという事だ。補給が出来ないという事だ」

 「・・・ん? それは・・・そうか」


 ユーさんが納得した。


 「オレがここで生活するには、ヒュームという事実がいつまでもついて回る。これは買い物ではおよそ6倍から10倍の値段をふっかけられるんだ。と言うことはすぐに資金が底をつくぞ。その上で色んな所で補給できないからきつい。ならば」

 「「「ならば?」」」


 オレは地図の真ん中に指を指した。


 「オレはここに補給拠点を作りたい」

 「「「へ??」」」

 「どういう事だ。ルルよ。儂にはさっぱり分からん」

 「ユーさん。オレはね。この平原に、街を一つ築きたいのよ」

 「なぬ!?」


 大陸のど真ん中にだ。


 「ここに補給拠点を置けば、各方面に旅をするのが容易になる。東に行こうが、西に行こうが。ここから出立してここに戻り、更に反対側に移動できるだろ。ここに補給できる場所があればさ。どこにでもいけるのよ。旅するために補給拠点を作りたいのよ」

 「それは理想論ですが・・・ここは大平原で。戦場となりやすい場所ですよ」


 アンナさんが教えてくれる。

 でもそれも想定済み。


 「わかってます。だから、オレたちは戦う力を付けながら街を育てるんですよ。解放軍だろうが、連合軍だろうが。両方を跳ねのけるくらいの力を蓄えて、オレたちはここに平等の街を作るんです。元奴隷の人とかも関係なく、ヒュームとかそういう人種も関係ない。真の平等の街です」

 「・・・それは難しいわよ。そんな事できると思うの」


 ナディアが聞いてきた。


 「ああ。難しいと思う。でも面白そうだろ。それにさ。今のオレたちって奇跡的だろ」

 「「「????」」」


 全員の顔を見るために、ぐるりと見渡す。

 すると皆はオレの顔を見て笑ってくれた。

 やれないことを言っているなという馬鹿にした笑いじゃなくて。

 これがやれたら楽しそうだと思っている笑いだった。


 「だってさ。ここにいるのは奴隷となった。ドワーフとエルフたち。百年も特別牢にいたユーさん。ナディアを守るために自分を犠牲にしたアンナさん。そのアンナさんを救うためにお金を集め続けたナディア。そんでジーバードからやってきたヒュームのオレ。そんで、皆とは勢力の違う解放軍のリーダーの娘のフィリー。こんなバラバラな連中だぜ」


 種族も違うけど、何より大陸も違うんだぜ。

 オレがいるからさ。


 「だから、ここに街を作ったら面白いじゃん。どうだろ。やってみる価値はある気がするんだ。この世界はもっと開かれた世界になるべきだと思うんだよね。ジークラッドってさ。こっちの方が閉ざされている気がすると思うんだ。オレ、ここに来て思うのは食事だ。ここはあまりにもお粗末なものしか食べてない。もっとおいしい物を皆が食べた方がいい気がする。だからオレが食料関係も激変させる事でさ。こっちを有利に持っていくのさ」

 「有利に持っていくとは?」


 アンナさんが聞いてきた。


 「食べ物で釣るんです。めっちゃ美味いものをオレたちで作って、連合も解放軍も黙らせるんだ!」

 「「「なに!?」」」


 全員が驚いた。


 「オレがユーさんたちに食べさせた料理ってかなり簡易なものなのよ。あれじゃ、料理とは言えないレベルのものさ」

 「あれで? 十分美味しかったわよ」

 「そう。そこなのよ。あんたらは食べ物が貧しすぎる。これはオレの仮説から来る考えだけど。その前にこの世界でヒュームって普段どこにいるんだ」

 「あまり見かけないわ。見ても大体はね。迫害されているよ」

 「そこだ。ここの奴らはヒュームを甘く見過ぎている。それは、オレたちジーバードの者はもっと豊かに暮らしているからな。建物はこっちが有利だけど。食べ物は遥かにあっちが有利だ。食材も豊富だしな。でもこっちは三分の一が氷の大地だから、そこら辺も影響してるかもしれない」


 ドワーフに技術力があるのか。

 建物類は、こちらが明らかに上だ。

 どうやって、あんな風に頑強に作るんだろうか。


 「なるほど。実りの大地がないから、食べ物に無頓着になっていると」

 「そういう事ですアンナさん。ただ、もう一つあって、ヒュームは器用なんです。武器以外を開発する事が得意なんですよ。オレたちは飛空艇というものを構築させていますからね」

 「「「飛空艇???」」」


 皆の顔を見ればわかる。

 こっちの世界にはないものだ。


 「空を飛ぶ機械です。空飛ぶ船と言った方がいいでしょう」

 「「「空を飛ぶ船!?」」」


 こいつは、皆さん完璧に知りませんね。


 「ええ。一度に人や物を運んだりするために作ったんですよ。たぶんこちらの世界の人々はこんな柔軟なものの考えに至っていない。三千年経っても戦い続けたんだ。生活を豊かにするよりも戦い続けることを目標に置いているのだと思いますね。だから、オレはここに街を作って、もっと自由な世界に変えたい。そんでオレは旅をしたい。この大陸を踏破したいんですよ。どうだろ。途方もないことを言っているけど、一緒にやってくれるかな?」


 街を作る理由は、ただ旅をする為。

 世界を良くするのは二の次で、ただやりたいことの為だ。

 そのついでなんだわ。

 正直に言えば、オレは別に誰に迷惑がかかろうがどうでもいいと思うタイプ。

 でも仲間に迷惑がかかるのが大嫌いなタイプだ。

 だから、オレは、オレだけでジェンテミュールを抜けた。

 他の奴らを残して、戦力を保持してもらってな。

 レオたちがせっかく集めた奴らを手放してまで、オレが残りたいとは思わなかったのさ。

 オレがいる事で、全体の足を引っ張るのが嫌だったからだ。


 それだったら一人でいた方が良いと考えてしまったのが、良くなかったのかもな。

 あいつらにも悪いことしたかもな。

 でもオレは前を進むぜ。



 それで、この計画を立案したのはいいけど。

 仲間には多大な負担を強いるだろう。

 オレは強制じゃなく、やってみたいと思ってくれる人と一緒に・・・。

 これをやりたいんだ。

 かなり我儘な目標だからね。


 「ガハハハ。面白い。これまた面白いな。儂の人生。ここに来て面白いぞ」

 「ええ。たしかに。あたしも賛成。やってみたいわ」


 ユーさんとナディアは笑いながら賛成してくれた。

 だけど。


 「・・・ルルロア様がそこの領主となるのでしょうか」


 アンナさんは真面目な顔でオレを見た。


 「え? そこまでは考えてないですね。そこは誰でもいいです。正直オレがやるのはめんどくさいですね。ナディアは・・・まずいか。ユーさんあたりがいいかな」

 「それは駄目ですね。私はルルロア様が、そこの領主様になるのが適任だと思います。ヒュームの認識を変えるには、ヒュームが領主となるべきです」

 「なるほど。その考えも確かにアリか」


 認識を変えるという点では、アリな考え方だった。


 「私はルルロア様が領主となるなら協力します」

 「随分とまあ・・・・アンナさんが参加する条件が厳しいですね」


 随分と高評価であります。


 「いえ。これが最大限の譲歩です。私はあなたを領主として崇めたい」


 アンナさんが、オレに頭を下げ始めた。


 「崇めるって……わかりました。やりましょう。ただ、あまりその場にいない領主となりますよ。領土が安定したら旅に出ますから」

 「はい。それでいいと思いますよ。いずれは村長や市長と言った人を選べばいいのです。あなたが長である。それが形式であればいいのです」

 「なるほど・・・面白い考えだ。アンナさん、ありがとう。それでいきます。じゃあ、ドワーフさんたちとエルフさんたちもどうでしょう。一緒に作りますか? 街を・・・待てよ。最初は町くらいかな」


 オレは行き場に困っている人たちに聞いてみた。

 彼らも奴隷として長く生活してしまったんだ。

 ここで誰にも邪魔されない生活を送って、自由でいて欲しいってのもある。


 「わ、私たちもそこに住んでもいいのですか!」


 パッと明るい笑顔になった。

 オレが誘わないと思ったのかな?


 「ええ。エルドレアさんたちがいいって言うならです。オレがリーダーみたいになっちゃいますがね。ごめんなさいね。ヒュームだけど」

 「いいえ。関係ありません。我ら、エルフ一同は、あなた様に感謝しておりますから。ヒュームであろうが、我らはあなた様という一人の人間を崇拝いたしております。では」


 見つめてくれていたエルドレアさんは、自分の後ろにいるエルフに目配せすると。

 エルフの全員が跪いた。


 「エルフ一同は、あなた様に忠誠を誓います。よろしくお願いします」

 「「「 よろしくお願いします 」」」


 え!? 

 ちょっとなんだか話が重くない。

 忠誠ってなんだ?

 おいおい、オレ、王様じゃないぞ・・・


 「ハハハハ。おらたちもだ。なあ。おめえら!」

 「「「「 おう!! 」」」」

 「おらたちも、ルル。あんたに賭ける。ドワーフ一同もあんたに忠誠を誓う! よろしくだ」

 「「「「 たのもう!! 」」」」

 

 すげえ話が大きくなった。

 

 なんでだ!

 オレの隣には、あんたらの王がいるんだぞ。

 エルフの女王ナディア。

 ドワーフの王ユースウッド。

 両者がいるのに、オレが領主になるのが確定でいいのかよ。

 それに忠誠を誓うのはどっちかつうとこっちにじゃないの。

 あんたらの王様。

 目の前にいるんだけど・・・・。

 それにまだ街も作ってねえのに、もうあなたなら出来るでしょ。

 てな感じの期待がこの人たちの眼差しから感じるよ。

 やべ。絶対にこの事業をやり遂げないとな。

 今までで一番難しいクエストかも。

 自分で言っておいて、最高難易度クエストを作るとは・・・我ながらアホだな!!!


 とまあ、オレの心の声は内緒にしておこう!

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