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第15話 謎の少女

 「ルルよ。大丈夫か。お主。ぐっすり眠っとるな」


 心配してくれている声が聞こえてきた。


 「ルル、ねえ。ルル。ちょっともう。いい加減起きなさいよ。本当に心配になって来たわ。全然起きないわよ」


 優しい声が聞こえてきた。


 「でも顔色はよさそうですよ。ナディア様。安心な部分はあるかと」


 冷静な声が聞こえてきた。


 「ルルロア! わたし・・・だれ?」


 なんか疑問も聞こえてきた。


 「朝じゃ! 朝! 起きろじゃ。起きろじゃ。朝なのじゃ。いつもと同じ朝が来たのじゃ」

 

 いつもの声も聞こえてきた。

 これだけは無性に腹が立つ。


 「がああああああ。やかましい。レミさん!!!」

 「おお。なんじゃ。余の声で起きたのじゃ」

 「あんたもうさ。朝にオレを起こすのは、やめたんじゃなかったのかよ!」

 「誰がそんなこと言ったのじゃ、ピューヒーフー」

 「あんたが言ったんだろうが。それになんであんた、口笛が吹けねえんだよ。ごまかすのも下手くそだし!」


 オレとレミさんのいつもの朝が始まった。

 喧嘩から始まるオレとレミさん。

 朝の定番である!



 ◇


 オレが目覚めると、都市郊外の森の中にいた。

 エルフとドワーフの脱走組とオレたち四人組のユーさん、ナディア、アンナさん。

 そしてオレが助け出した謎の少女がそばにいた。


 「おお。皆さん無事でしたか。エルドレアさんたちも」

 「はい。ルルさん。ありがとうございました。私たちはあなたのおかげで無事でした」


 【ありがとうございました】とエルフの皆さんが頭を下げてきた。

 

 「そう。おらたちも助かった。ありがとう。ルル!」

 

 【ありがとよ】とドワーフの人たちも頭を下げてくれた。


 「いえいえ。オレは当然のことをしたんですよ。オレの友人たちの願い。あなたたちを救うことがさ。いわばクエストだったのさ。そんで完了したってわけよ」

 「ルル。お主は律儀だな」


 ユーさんが笑顔であったのに、ナディアは悪態をついてきた。


 「そ、そうね。ルルは真面目よね。変なところで」

 「え? 変なところ? オレはいつも真面目なんだが、面白大女優さん」

 「あ。また馬鹿にしてる! このこの」


 軽くポカポカ殴って来た。


 「いてててて。ナディア。お前って結構力強いんだよ。怪力女」

 「怪力じゃないもん。ぷん!」


 ナディアは何故か怒ってそっぽ向いた。


 「よし。皆さんが無事でよかったってことで・・・・・で、この子。誰?」


 一番の疑問を皆にぶつけてみた。

 小さくて可愛い少女は、まん丸な瞳でオレを見つめてきた。

 曇りなどない。

 晴やかな透き通った瞳だ。

 純粋すぎて眩しい。

 

 「わたし、だれ?」

 「そう。君。誰?」


 オレと少女は二人で首を傾げた。


 「そうだな。誰だろうな……しかし、このお嬢ちゃんはここに角があるはずだな」


 ユーさんが少女の額を見つめた。


 「そうね。それにこの子・・・もしかして、この牙」

 「ええ。ナディア様の想像通り。この方は、吸血鬼(ヴァンパイア)の血があるのでは?」


 オレは両手で少女の口角を持ち上げてみた。

 イーっと少女は小さく言っている。

 正直言って、めちゃくちゃかわいいです。


 「ほんとだ! 牙があるね」

 「ええ。そうね。ほらここが尖ってるでしょ」


 ナディアが指で少女の歯を押した。


 「これが吸血鬼(ヴァンパイア)なのか・・・吸血鬼(ヴァンパイア)って分類何? 亜人種?」

 「いえ。魔人族です。吸血鬼(ヴァンパイア)は魔人族の中でも最強クラスですよ」

 

 アンナさんが答えてくれた。

 

 「へぇ。最強ねえ。なんでそんな子が、あそこに磔にされていたんだ」

 「磔? 何かの罰を受けていたのか?」


 ユーさんが質問してきた。


 「さあ、どうだろ。ジークラッドの人って罰を与える時に磔にするものなの?」

 「戦争の責任を取る時に、昔は磔にした軍があるというのは聞いたことがあります」


 アンナさんは冷静に答えてくれた。

 

 「ひでえな。責任でかよ。てことは味方にされたってことだよな」

 「ルルロア! わたし、だれ?」

 「だから、オレも知らんのよ。あんた誰なのよ」


 ここで一つ思い出した。


 「・・・そういや、あいつ。アルラン様の子って言ってたな」


 オレの何気ない言葉で。


 「「「なにぃ!?」」」

 

 この場にいる全員が漏れなく驚いたのであった・・・。


 ◇


 アルラン。

 解放軍のリーダー。

 魔人族を束ねる存在。

 伝説の男で南北魔大戦以前から生きているとの噂がある。

 

 「へえ。そんな奴の子供なのね・・・凄くね?」

 「こ、こいつ。こいつを奴ら解放軍の脅しの材料に使えば」


 とエルフの誰かが言った。


 「いやあ、どうだろう。冷静になってくれ。この子を使っても無駄だと思うぞ」


 オレは少女の頭を撫でながら答えた。

 少女はオレの手を両手で握り返す。

 嬉しそうにしてオレの指を触っていた。


 「なぜ! 我々が反撃をするチャンスでは!」

 「いや、だから。この子が相手との交渉の材料にはならないと思うのよ。この子。磔にされてたんだよ。それも何かの実験室にさ。大事にされてる要素がないじゃん。人質とかでも価値なしじゃね?」

 「そ、そうかもしれません」


 オレの意見で、彼女は気付いてくれた。


 「ね。だからさ。この子はたぶん。あっちでは必要ないんじゃないか? 交渉の一つにも入らないと思うんよ。それにそういや、今って、戦争は停戦してるんでしょ。それでこの子を人質にするのは、ちょっとズルじゃない?」

 「そ、それは・・・そうかもしれません」

 「まあ、そんなに落ち込まないでよ。オレもあなたに怒ってるわけじゃないしさ」


 先の戦争で敗れた。

 あなたたちが悔しいのは分かってる。

 戦争した事のないオレにだって、それくらいは分かるさ。


 「そんでさ。この子の名前って分からないのかな。だれ?っていつも言ってるでしょ」

 

 オレが彼女から手を放すと、彼女の頬が膨らんだ。

 ぶーッと小さな声が聞こえた。


 「そうね。名前が分からないのは困るわね」

 「だろ。ナディア。なにか。魔法ない?」

 「名前がわかる魔法なんてないわよ」

 「便利じゃないね。古代魔法もさ」

 「んんん! あんたね。そんな魔法あっても、何の役に立つのよ」

 「今、役に立つ」

 「このぉ・・・減らず口!!!」

 「いてててて。オレを労わりなさいよ。目覚めたばかりなんだぜ。あのナディア」

 「ああ、また馬鹿にして。このルルめ!」

 

 オレはナディアの頭グリグリの刑にしばらく処された。


 ◇


 「あのさ。このフリフリの服とかにさ。名前とか書いてないかな」


 オレは彼女の黒の服に触れて言った。

 この服、素材がいい。

 伸縮性もあって通気性もよさそうだ。

 だから、大事にされてるのかな。

 なんか、磔にあってる割には、服装がいいんだわ。

 おしゃれだし。


 「アンナさん。あっちの方に行って、彼女を調べてくれないか」 


 森の茂みを指さす。


 「わかりました。ルルロア様がそういうのなら」

 「え? ルルロア様???」

 「はい。もう、我が主ナディア様と同等の存在かと思いましてね。私も対応をそれくらいにあげます」

 「え。どういうこと?」

 「さあな」


 オレは隣にいるユーさんに聞いた。

 待遇が上がった理由。

 ユーさんにも理由が分からないらしい。


 「行って参ります。では、いきましょう」


 アンナさんは少女を抱きかかえて、だれにも見えない場所に連れて行った。


 ◇


 「むむむ! これは!?」


 奥の茂みの方からアンナさんが驚く声を上げた。


 「なるほど。そういう事ですか。それではいきましょう」

 

 二人は手を繋いで帰って来た。

 


 ◇


 「ルルロア様。こちらの方は、フィリアグレースと言う方らしいです」

 「フィリアグレース???」

 「はい。こちらの首に」


 アンナさんは、少女を後ろ向きにして髪をかき上げた。

 首の下に円形の紋章が刻まれていた。


 「アンナさん、これはなに?」

 「魔法陣であります。それも強力な封がされています。この中を解読しますと、文字が書いてあり、フィリアグレースと書かれている部分がありました」

 「なるほど。名前で縛っているのか」

 「そのようです。名前をここに刻んで、力を奪っているらしいです」


 少女の名はフィリアグレース。

 首を傾げてオレを見つめる可愛らしい少女は、何かを封印された存在らしい。


 「それで、もう一つ。わかった事があります」

 「はい。なんでしょう?」

 「こちらの方は、吸血鬼(ヴァンパイア)だけでなく、おそらく鬼人族の特徴もお持ちです」

 「え? どういうこと? ハーフってことですか? クヴァロみたいに」

 「そうみたいです。先ほど。この魔法陣に触れまして、実験にちょっと魔力を・・・」


 アンナさんは魔力を解放して、手に力を集めてから、フィリアグレースの魔法陣に触れた。


 「あ。ああ・・・」


 微かに声を漏らした後、フィリアグレースが成長していった。

 身長が伸びてオレが以前見た15歳くらいの女の子になった。

 体つきも少女からやや女性になった。


 「なに!? あの時の彼女だ。少女の姿になれちゃって忘れてたわ」

 「それで……この角を見てください」


 額にあった小さな角が、半分に折れた程度の角に変わった。

 

 「これが……鬼人族の角なんだ」

 「これはまさか」

 「ん? ユーさんどうした?」

 「この赤き角。これは鬼人族の中でも最強の種族だぞ」

 「へ? これもなの」


 鬼人族には。

 赤き角。青き角。白き角。黒き角。

 それぞれ角には意味があるらしく。

 この中で最強の戦闘力を誇るのが赤い角らしい。

 肉弾戦闘最強を誇るらしい。


 「へえ。じゃあ、この子は戦っても強いのか」

 「そうよね。吸血鬼(ヴァンパイア)は魔法最強よ」

 「そうなんだ。じゃあ、近接も遠距離もどちらもこなせるってわけか・・・・でも戦えるの? この子、記憶喪失っぽいけど」

 「ルルロア! わたし、だれ?」


 まだ言っていた。


 「おう。お前はフィリアグレースだってよ」

 「フィリア・・・グレース???」

 「ああ、お前の名前だよ。よかったな」

 「うん。ルルロアありがとう」


 飛びついて抱き着いてきた。

 正直、この子が少女ではないからどぎまぎする。

 

 「お。おお。よかったな」

 「うん。フィリアグレースだよ!」

 「・・・長げえ名前だよな、そうだな。フィリーでどうだ。これから、フィリーって呼んでもいいか」

 「フィリー?」

 「ああ。フィリーだ。よいしょと・・どうだ!」


 オレはフィリーを地面に降ろして、頭を撫でた。

 少女じゃない女性にやるのはおかしいけど、この子の雰囲気が少女なのであまり恥ずかしくない。


 「わかった。ルルロア! わたし、フィリー」

 「おう。そうだぞ。それとオレはルルだ! 呼んでみ」

 「ルル!」

 「ああ」

 「ルル! フィリー!!」

 「ああ」

 「フィリー!!! ルル!!!!」

 「うんうん」

 「ルル!・・・」

 「このくだり長げえわ。もういいって!」


 いつまでも、嬉しそうにオレの名を呼ぶフィリーであった。



 ◇


 「それでどうなされるのですか。ルルロア様。色々なことを決めなければなりませんよ」

 「ん?」

 「この先についてです。こちらの方たちの事や、旅について。それにこのフィリーの事もです。この先は計画された方がいいかと」

 「確かにね。いやぁ、アンナさんがいてくれて助かるわ。正直こういうアドバイスをくれる人がオレの周りに今までいなくてね。非常に助かります」


 ジェンテミュール時代は、自分一人で決めていたから、正直アドバイスが有り難い。

 案はたくさんあった方が、良いものが生まれるはずさ。


 「いえ。お役に立ててうれしいです」

 「いえいえ。こちらこそありがとうございます。助かります」


 オレとアンナさんが丁寧に会話していると、すぐにむくれる。


 「やっぱりあんた。アンナにだけ丁寧なのよ。ずるいわ」

 「まだ言ってんのかよ。いいか、これはね。アンナさんが丁寧な人だからなんだって。オレはね。相手が丁寧ならこちらも丁寧に対応する男なのよ。人によって態度を変えるからな。オレはあからさまにな!」


 そう人類皆を平等に扱うわけじゃないの。

 オレを無職だと馬鹿にして来た連中には失礼返しをするのさ。


 「なによ。それじゃあ、あたしは丁寧な人じゃないってこと!」

 「そうだ! ナディアは。面白大女優で決まりなんだ! フランクにいこうぜ」

 「な、なによ。もう・・・しょうがないわね」


 なんかテキトーな言い訳で、納得してくれたのであった。


 「それじゃあ、オレ的には気になることから消化したいんで、どちらかというと。ユーさんとアンナさんに聞いてもらいたいな」

 「おう。いいぞ」「はい。なんでしょうか」

 「こちらの方たちをどうするんですか? ユーさんは王でしょう。それとアンナさんにとってもこちらの方たちをどう考えてます?」


 オレは後ろにいるドワーフとエルフの事を聞いた。


 「そうだな。儂はもうキングではないから。こいつらを縛る権利もないし、自由であってほしいと思うな」

 「そうなんだ。じゃあ、アンナさんは?」

 「はい。私も同じくです。先代のナディア様にお仕えしていた仲間たちであると思うのですが、今は自由に生きてほしいと……そう思っております」

 「そっか。ならオレたちが勝手に連れて行くのはいかんよな。大所帯にするのは良くない。かといってな。このまま野放しにするのも・・・連合軍の領土ってここから遠いんですか?」

 「遠くはありませんが、フルカンタラがあるかと思います。まだあればですが・・・」

 「フルカンタラ?」


 眠りについていたフィリーを抱きかかえたナディアが、オレの隣に立った。


 「あたしたちの故郷よ。エルフの王都ね」

 「へぇ。じゃあ。そこに行けば安全圏か?」

 「わからないわ。百年帰ってないもの。あの子たちもそうだと思うし、ドワーフの人たちも知らないでしょう」

 「よし。とりあえず、フルカンタラにいくか。そこについてから、この人たちには生き方を選んでもらおう」


 とりあえず、オレたちはハイエルフの里。

 王都フルカンタラに行くことになった。


 

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