表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/186

第14話 覚醒のルルロア

 三人で戦い始めてニ十分。


 「がはっ」


 ユーさんの腹にまともな一撃が入ってしまった。

 あの頑丈なユーさんの意識を一瞬刈り取る威力だ。

 たまらずにユーさんが膝をついた。


 「死ね。ユースウッド」


 クヴァロが、止まった隙を見逃さない。

 右腕が大きくなって唸る。


 「ナディア。魔法いけるか」

 「無理。間に合わない」

 「わかった。ならオレがカバーする!」


 仙人の力で移動。

 ユーさんの前に出て、クヴァロの拳を全身で受け止める。

 これしかユーさんを守る方法がなかった。

 桜花流【桜影】では敵の攻撃を受け止めきれないと判断しているオレは、奴の拳に対して全身でのタックルを決め込んだんだ。

 体のサイズを自由に変更できるヒュガ。

 今の大きさは、かなりのものだ。

 奴の拳が、オレの体とほぼ同じ大きさ。

 それでも関係ない。ユーさんを守る。

 ここに、ためらいは不要だ。


 「おりゃああああああああああああああ」

 「・・それで押し返す気か!」

 「ああそうだ。この攻撃。ユーさんに当てさせるかああああ」

 「甘い! おめえ程度では、ワイの攻撃は受け止めきれんわ。死ねえええええええええ」

 「・・・な、なに!?」


 一度勢いを止めたはずのクヴァロの拳。

 しかし、オレに当たってから再度勢いが増した。

 仙人の防御力を上回る威力の拳に変わる。


 「くはっ。やべ・・・・つええ」

 「消えろ。ヒュームのガキがあああああああ」


 全てを持っていかれた。

 オレの体が、城の方に吹き飛ぶ。

 三階の壁と窓ガラスの両方を突き破り、中の部屋の壁も壊していった。


 「「ルル!」」


 叫んでくれているだろう二人の声が遠くなる。


 ◇


 拳を振り切ったクヴァロは、ちょこまかと動き回るルルロアを先に消そうとしていた。

 ルルロアの移動先を見ているクヴァロが、動き出す前。

 そこを許すまいとして、二人が同時に動く。


 「よくもルルを。魔の炎(イービルフレイム)


 ナディアの両手から火の鞭が出現。

 不規則な炎の動きで敵を捉える。

 その炎の裏で。


 「おおおおお。闘魂の突進(メダオルファ)

 

 ユースウッドの渾身の突撃攻撃が発動。

 全身を投げ出す勢いの頭突きを仕掛けた。

 この強烈な同時攻撃を前にしては、さすがのクヴァロも無視することはできない。

 かと思われたが、クヴァロは突如としてその場で叫び出した。


 「拒絶の咆哮(キャンセルウォーズ)


 クヴァロから出た咆哮は、二人の魔力を解除させて、体を吹き飛ばした。


 「ぐおおお」「きゃあああ」


 二人を庭園の端まで飛ばしたクヴァロは、邪魔な動きをするルルロアの元に向かう。


 ◇

 

 やけに暗い場所にいる。

 城の方角に飛ばされたことだけは認識していた。


 「ごはっ。い、生きてるか。生きてんのかオレ・・・つ、強え。あいつ、今までの奴よりも遥かに・・・」


 全身のダメージを確認できない。

 いつものオレなら、怪我くらい瞬時に判断できるのに。

 全身の痺れが手足を動かせなくして、目に映るものが二重以上に見えていた。

 それが独り言で整理できたのか。

 次第に良くなっていく。


 「こいつは……今までのダメージの比じゃないわ。くそっ。こ、ここはどこだ」

 

 現在地がわからない。

 ただ暗い場所にいるだけだった。

 自分が通ってきたであろう大きな壁の穴を見る。

 するとちょうど夜空が見えた。

 星々の輝きと月が怪しく光る満月の夜。

 その僅かな光が部屋を照らした。


 次第に慣れ始めるオレの目は、徐々に部屋の中を見せ始めてくれた。

 何かの薬品がある。緑色や紫の液体。

 ここは実験部屋だ。

 机や椅子があり、人の気配がな・・・。

 いや、人の気配があった。


 「な、なんだ。この子は!?」


 目の前にいたのが、十字架に磔にされた5,6歳くらいの女の子。

 分厚い釘によって両手両足を打ち付けられていた。


 「お、おい。生きてるか。おい。嬢ちゃん! どうなってんだ。心臓は動いてる。呼吸はあるな」


 女の子は死んだように眠っていた。

 自分の置かれている状況を理解しているのか。

 それともこの痛みを感じていないのか。

 こんな状態でも静かに眠っていた。


 それとこの部屋から来る答え・・・

 もしかしたら、この子は実験体かもしれない。

 薬品から発せられる匂いに、オレは心当たりがないからこそ、これらの薬品が普通のポーションなどではないことが分かる。

 だから、これは何らかの実験をしている場所だ。

 こんな小さな子に、こんな非道な真似をするなんて。


 オレの頭の中の何かが弾けた。

 なんとも言えない怒りが心の底から沸き上がり、頭が沸騰しそうだった。

 オレの中で、あいつを倒すという明確な意思が生まれた。

 

 磔にされている手足を解除していたら、空いた壁の先からクヴァロが出てきた。


 「おめえ、この部屋に無許可で・・・な、何をする気だ。そいつは駄目だ! やめろおおおおおおお」

 「うるせえ。てめえ、何しようとしてんだ。この子によ」

 「触るな。やめろおおおおおおおおおおおおおお」


 同じ攻撃角度。同じ攻撃速度。

 クヴァロはオレを仕留めようとしてきた。

 動きが同じで速度も同じなのに、何故かここから、オレの目にはクヴァロがスローに見えた。

 ゆっくりと動くクヴァロに攻撃を合わせようとした瞬間、オレの体が光り輝いた。


 「な、なんだ。オレの体が……ん、これはまさか。この光はあの時と!?」



 ◇

 

 ルルロアは覚醒した。

 奴隷と化してしまったエルフへの性的な行為。

 同じく奴隷となってしまったドワーフたちの強制労働。

 そして、極めつけは。

 いたいけな少女を幽閉した上での磔だった。

 これらの悪逆非道な行為によって。

 ルルロアは今までに感じたことのない怒りが心の中に芽生え。

 そして、自分の中の全てを呼び起こしたのだ。


 この光は、以前も起きた現象。

 アマルの際に起きた人の意思の変化。

 人が持つ黄金の意思の発現である。

 

 人のジョブには変化が起きることはない。

 ただし、才能(タレント)には変化が起こることがある。

 それは、人の心が成長するからもあるが。

 元々持つ人の奥底の感情から変化する場合があるのだ。


 真なる我の発現。


 職人気質と探究者。


 二つのタレントを持つ。

 異色の無職『ルルロア』

 彼の覚醒は、二つが一つとなって完全に目覚めることになる。

 彼の飽くなき探究心と、粘り強く我慢強い性格が新たな力を与えた。

 無職となった本当の意味。

 それを知ることになる。

 彼の真のタレント名は・・・。


 『森羅万象』


 無職であるからこそ。

 全ての出会いに感謝して、全ての事柄を学ぼうとした。

 ルルロア。

 これまでの人生が集約されて、そしてこの力は今。

 世界を知ろうとする力となる。

 人類における究極のタレントの一つとなるのだ。


 それはまさに人の理想の究極形態となる。


 ◇


 「あああああああああああああ。明鏡止水 勇者の心」


 オレの中の輝きは、おそらくアマルの時に似ている雰囲気だった。

 これはおそらくだが、あの覚醒だ。

 タレントの変更を肌で感じたオレは、やってできそうなことを試した。

 それは、禁断の究極スキル同時発動だ。

 オレの中の怒りが、全ての悪条件を突破する。

 そのイメージが。

 オレの魂が。

 脳にこれが出来るのだと直接送ってきたんだ。

 

 「勇者と仙人による。仙掌底(バーンストライク)だああああああ」

 「なに!?」


 オレの拳とクヴァロの拳が衝突。

 今までのオレだったら、こっちの拳が一瞬で粉々になるだろうが、今はそれはない。

 相手の攻撃力を粉砕した感触を得た。

 オレの強さは今。

 イージスとレオンが重なっている。

 その上で、二人を超える動きのイメージがオレにはあった。


 「おりゃあああああああ。オレの攻撃。いけええええ」


 クヴァロの拳を弾き飛ばし、オレはその勢いを持って、体を回しながら右の蹴りをクヴァロの首にいれた。

 完璧な流れる体術で敵を圧倒。

 今度はオレの方がクヴァロを部屋の壁に叩きつけて捻じ伏せた。

 

 でも追撃はせずにオレは、女の子を助けに行く。


 「く、や、やめろ。そこから動かすな」


 瓦礫の中から奴が叫んでいた。


 「黙れ。この子はオレが助ける」


 オレが手足を打ち付けている釘を外す。

 一本外すたびに女の子の意識が出てきているように感じる。

 四つ。

 全ての釘を外すと朝起きたような寝ぼけ眼をオレに向けた。


 「・・・ん・・・だ・・・誰・・・あなた??」

 「オレはルルロアだ。君は」

 「・・・私は・・・」


 オレの顔を見つめ、女の子はゆっくり首を傾げた。

 少女の額にある。 

 根元から折られたような一本角が半分まで生えてきたら、女の子の体が変化した。

 十四、五歳くらいの女の人になった。


 「おいおい。どういうこったこれは」

 「彼女を起こすとは! 許さんぞ・・・いや、まて。まずい事になった。あの方に」

 

 なぜか、クヴァロが焦っていた。

 戦いでは焦っていないのに、この少女の意識が表に出たことがよほどダメらしい。


 「おい。大丈夫か?」

 「あたたかい・・・ひと・・・あたたかい」


 オレの胸に飛び込んできた女性は、そっとオレの背中に手を回して抱きしめてくれた。


 「君。誰だ?」 

 「・・わたし・・・だれ?」

 「え? 自分が分からないのか」

 「・・・うん・・わたし・・だれ?」

 「おめええええええええ」


 会話の途中でクヴァロが逆上して突進してきた。

 オレは女性を地面に降ろして、頭を撫でた。


 「すまん。お嬢さん。オレはあいつと戦わないといけないからさ。あとで、話そう」

 「・・・わかった」


 素直な女性はまるで子供のような話し方だ。

 でも、姿が可憐であるから。

 女性として扱えばいいのか。少女として扱えばいいのかわからなくなる。


 「貴様。よくも。アルラン様の子を!」

 「アルラン? 誰だそいつは! 知らん奴の名を言ってんじゃねえ。オレはお前にムカついて仕方ねえんだよ。今できる最高の攻撃を出してやる。くらえ」


 オレは全ての力を出すつもりで黄金と白光のオーラを出した。

 混じり合う力はオレの最高到達点だ。


 「ここまでが親友たちの技だ。そしてここからがオレのオリジナルの技だ。いくぞ」


 オレの右拳に攻撃力を一点集中。

 

 「勇者と仙人の。オレと親友たちのとっておきだ。勇仙拳(レイナックル)だああああああああああ」

 「そんなものワイには効かん」

 「あほが。この拳はオレだけの分じゃねえ。三人分の一撃なんだぁ! ぶっとべえええええええええ」


 オレとクヴァロの拳が激突。

 拳の大きさの違いは明確だ。

 オレのは普通の人間の手。

 でも相手のは岩のような大きな手だ。

 しかし、拳の勢いは、オレが上だ。

 サイズの違いなんて、もろともしない。


 「おおおおおおおおお」

 「な、なに!? おめえのどこにそんな力が!?」

 「心にあるんだよ。オレの力は、心にあるんだ! 皆がオレのそばにいる!!! 単純な腕力じゃねえんだわ。おらよおおおおお」


 オレの拳が相手の拳を弾く。

 後ろにバランスを崩したクヴァロの腹に追撃をかますために、オレは懐に入って拳を更に前へ・・・。


 「ここから。消えろ屑野郎。吹き飛べええええ」

 「ぐお。なんだ。この威力は・・ヒュ、ヒュームの繰り出す攻撃力じゃない」

 「あああああああああああああああああ。おりゃあああああああ」

 

 オレは、自分の拳を振り切った。

 全身全霊の攻撃が、クヴァロの巨体を浮かせて、空の彼方まで吹き飛ばす。

 

 「・・・よくも。よくもお。お、覚えたぞ。ルルロア。おめえだけはワイが必ず殺す」

 「はっ。そっからオレを殺してみやがれよ。この屑野郎。空の彼方までぶっ飛びな」


 オレがその場に倒れると、可憐な少女がオレの手を握っていたのだが、段々と少女は幼くなっていった。

 

 「ルルロア! ルルロア!」

 「え? いや、あんたの名前はルルロアじゃないぞ。オレの名前がルルロアな。あんたの名前、なんだろうな? アルラン様の子としか知らんしな」


 彼女を見つめていると。


 「私、だれ?」


 少女は自分を指差して戸惑い。


 「ルルロア!」


 オレを指さして笑ったのだ。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ