第13話 三者三様
「ここですね」
オレたちはドワーフたちがいるであろう部屋の前に到着した。
場所で言えば、二階の中央廊下から西廊下に移動して、端の大きな部屋である。
扉を開ける。
「ドワーフさんはいますか!? お!」
部屋の中にドワーフの人たちが十五人いた。
その内の四人が炉で武器を生成していて、十一人が首輪がつけられたまま壁に立たされていた。
炉で武器を生成している四人のドワーフは、兵士によって首元に武器を突き付けられていて、脅されていたのだ。
ということはだ。
たしかユーさんが言っていた。
ドワーフの鍛冶は魔力を使用しながら作り上げるものだと言っていたから。
あの武器生成に魔力が必要だから、ドワーフが逃げ出さないように脅しながら、武器を作らせるしか方法がないのだろうとオレは瞬間的に理解した。
だから。
「ご退場願おう。兵士の皆さん! ほいさ!」
一瞬だけ仙人の力を解放して、敵兵士四人を撃破。
オレはドワーフを自由にした。
「お。おめえ。何をしたんだ?」
「まあ、それはいいでしょう。そんな事よりも、こっちのドワーフさんたちを」
オレは壁際に立たされているドワーフの元に行った。
「オレが説得を・・・いや、だめだな。エルドレアさん、頼みます。友好関係があるはずですから、説得お願いします」
「は、はい。やります」
ドワーフとエルフは同盟を結ぶ直前までいった仲だ。
オレが話すよりも説得確率が上がるだろう。
彼女らは自分の首を指差して、オレを指差した。
彼が外してくれたのだという説得を必死にしてくれたのだ。
一分後。
「いいですか?」
「おう。頼む。おらたちのもお願いするぞ。ヒュームのあんちゃん」
「ああ。いいよ。でもオレはルルロアだ。ルルって呼んでくれると嬉しいぜ。おっちゃん」
「そうか。ルルだな。おらはモルゲンだ。よろしく」
「それじゃあモルゲンさん。ぶっ壊すよ。ほい!」
モルゲンさんの首輪を破壊すると、ぞろぞろとドワーフの人たちがオレに近づいて、一列に並び始めた。
食事処で並ぶような行列がオレの目の前にできた。
「よし。これで皆さんは無事に・・・・」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ、女がああああああああああああああああああああ。いないいいいいいいいいいいいいいい」
爆音が城内を駆け巡った。
この声は奴のものだ。
「これは・・・もうあいつが起きたのか。起きるのが早かったな。思った以上だよ。あいつ、体がデカいから、やはりおっさんのスキルの効きが悪かったか」
「ルルさん」
「どうするのだ。ルル」
エルドレアさんとモルゲンさんがほぼ同時に俺に言ってきた。
「そうですね。二人がそれぞれの人たちを統率してくれますか? オレが指示を出すよりもスムーズな気がします」
「はい」「わかった」
「よし、それじゃあ、あそこの窓から・・・」
「駄目だ。あそこには爆弾がついておる」
「爆弾!?」
モルゲンさんが言うには。
首輪を外す瞬間がある鍛冶の仕事場では、魔法を使えるようになるドワーフが脱走しないために、壁に一定の魔力に反応する爆弾が仕込まれているのだそうだ。
「なるほど。ならば、正面を強引に突破しましょう。オレが殿を務めるので、走ってください。このまま、西階段を降りて行って、一階から逃げましょう」
「わかった」「いきます。すぐに準備しますよ」
「はい。お願いします」
オレたちは走り出した。
ドワーフのモルゲンさんとエルフのエルドレアさんが二人で各種族を引っ張るために先頭に立ち、廊下を迷わずに一直線。
次々と出てくる敵の兵士たちを、二人が中心になってなぎ倒していく。
「強い!? やっぱりここの兵士たちよりも強いな」
「当り前です。ここの兵士たちは腕がなまっているんです」
「え?」
オレの前を走るアスタロテさんが話しかけてくれた。
赤い髪が美しいエルフの女性である。
「怠けていたんですよ。戦争のない時代が八十年程過ぎましたから。それにここは解放軍の最前線ではないので安全圏では、修練にも身が入らないのでしょう」
「なるほど。馬鹿だな。ここの奴ら・・・」
安全圏にいようともオレの師匠はずっと厳しい訓練を課していたぞ。
有事の際に仲間を守るためには、常日頃から気を引き締めないとさ。
大切な時に力を発揮できないからな。
◇
一階正面の兵たちの隊列を完全に崩して突破して、城の正面に出た。
「外に出ました。ルルさん」
「そのまま行ってくださ・・・な! なに!?」
【ドガドガドガドガ】
大きな足音が城中に響く。
殿を走るオレが後ろを振り向くと、城の内部の正面階段の上、二階の部分に奴の巨体が見えた。
「おめえら。逃げ出すなああああああああああああああ」
「来た!」
城の表にある庭で立ち止まる。
「皆さん逃げて。ここはオレが足止めします。それと、こいつを」
オレは空に向かい花火を放つ。
「それは……」
「いいから、エルドレアさん、早く皆さんを外へ・・・なに。速い!?」
まだ二階にいたはずのクヴァロが、一瞬でオレたちの所まで来た。
巨体に似合わない移動速度だった。
最後尾を走るオレの前のドワーフのジローネさんに突進してきた。
「ふざけんな! このデカブツ」
オレは咄嗟に勇者の力でクヴァロの進攻を阻止。
奴の顔面に蹴りを入れた。
軌道がズレる奴の突進はジローネさんの脇を進んだ。
「よし。今のうちに逃げて。皆さん」
「おめえが、この騒ぎを起こした奴だな」
「ああ。そういうこった。デカブツの屑! 女性にあんなことしやがって。オレは、貴様のような奴は許さん」
「おめえは男じゃないのか。女は愛でてこそなんぼのもの。男であれば誰だって、あれくらいはする」
「するかボケ! お前だけだわ」
「いいや。あいつらはワイのモノなのだ。奴らだって満足していただろ。ワイの愛を受け取ってな」
キモイ。その考えも何もかもが。
「おい。ふざけんじゃねえぞ。この屑野郎。女性が物だと!? オレは怒ったぞ。クヴァロ!!!」
「おめえに怒られようが怖くはないわ」
「ぶっ倒す!」
クヴァロの対面に立つ。
小さなオレが見上げる形になるが、こいつを威嚇するのは忘れねえ。
絶対に許せねえからな。
一対一の勝負をする直前で。
「ルル。囲まれた」
モルゲンさんが叫んだ。
「なに!? こいつらは・・・」
エルドレアさんが近寄ってくれた。
「これはクヴァロ親衛隊です。この部隊は強者で構成されている奴らです」
「そうか。だからこいつらの気配が、さっきまでの奴らとは一味違うのか。強さを感じる。それが50か。こっちは30くらいだろ。厳しいな。どうする・・・」
しかし悩む時間がなかった。
動き出す戦場で、一番の強者クヴァロを止められるのはオレしかいなかった。
「死ねえええ。ドワーフ! ワイのエルフどもを返せ」
明らかなドワーフ狙い。
男はどうでもいいパターンの男がクヴァロと言う奴の本性だ。
「やらすかよ。桜花流 葉桜」
マジックボックスから瞬時に花嵐を取り出す。
そこから、花嵐が繰り広げた突き攻撃がクヴァロの首に入った。
しかし、クヴァロにダメージが入っていかない。
そもそも刃が肉体を通っていかないのだ。
クヴァロはオレを横目で見て、拳を回してきた。
「邪魔するな。ヒュームの小僧」
「ぐわ。ギリギリだ」
オレは奴の拳を鼻先で躱し、後ろに下がった。
それに対してクヴァロは突進をやめて、オレの方を完全に向いた。
「強い。これが四天王とかいう奴らの強さか」
「おめえ。本当にヒュームか。ワイの攻撃に反応できるヒュームなんて初めてだ」
「どうも。お褒め頂き有難い話だぜ。でもめんどくせえ敵だ」
攻撃力。防御力。素早さ。
今までに出会った敵の中で群を抜いた強さを持っている。
特に、あの重たい一撃が当たってしまえば、オレは一瞬でお陀仏だろう。
「がはっ」「きゃあああ」
周りから悲鳴が聞こえた。
敵の親衛隊によって皆が倒され始めていた。
「ちっ。そっちまで気が回らねえ。こいつが強すぎ・・る!? 来たか」
上空の異変に気付いたオレが上を見る。
夜の星が見えないくらいに、空が輝いていた。
◇
「あなたたちは砕け散りなさい。魔流星群」
ナディアの声が聞こえた直後。
光り輝いていた空から星が降ってきた。
流れ星が落ちてくるように魔法の光が落ちてくる。
「ぐおおおおお」「あああああああ」
「に。にげろ。これは・・・古代魔法だ」
クヴァロ親衛隊が次々とやられていく。
しかし、敵の中にはかろうじてあの魔法攻撃を躱せた者たちがいた。
そこに。
「ガハハハ。空ばかり気にしおって、地上を気にしないとは。お主ら、甘いな。重突進の先」
二個の巨大なハンマーを両手に持ったユーさんが走ってきた。
逃げられたはずの親衛隊はその突進に巻き込まれていく。
ユーさんに跳ねられた敵は宙を舞っていった。
「ぐあああ」「ば……バケモノだあああ」
敵の親衛隊たちの悲鳴が続く。
◇
敵を一掃した二人がやって来た。
「ルル。大丈夫」
「ああ。助かったよ。ナディア。いやぁ。オレだけじゃこの人たちを助けられなかったわ」
ナディアは優しく微笑んでくれた。
「ガハハハ。儂、体が訛ってて、攻撃が鈍っておるわ」
「これで? ユーさん。もっと強いんか」
すげえ荒い攻撃を出したのに、まだまだ本調子じゃないらしいユーさんである。
「アンナさんは!」
「います」
アンナさんは、オレの影から現れた。
「おお。いつの間に後ろに」
「こういう場面では、私は補助型なので。皆様の動きを補完する側です」
「なるほど。ならば、アンナさん。あちらの皆さんを先導してくれませんか」
「はい?」
「あいつと戦うために、オレたちだけになりたいです。彼らを守りながらは、厳しいかもしれません。あれと対抗するにはオレたちしかいないので」
「・・・そういうことですか。わかりました。私が皆さんを外まで案内します」
「ええ。お願いします。アンナさん」
アンナさんは音もなく移動を開始して、みなさんを誘導し始めた。
彼女の動きの良さは熟練のアサシンに近いものだった。
「ちょっとあんた。なんで、アンナには敬語なのよ」
「ん? どした。ナディア?」
二歩近づいてきたナディアはプリプリ怒り始めた。
「なんであんたは、あたしには馴れ馴れしいのよ。あたし、エルフの王よ。敬いなさいよ」
「はぁ。無理だよ。最初からこんな感じで話してたから、今更あんたに敬語なんて無理だ」
「どうしてよ。あたし、ナディアよ。あのナディア!」
「へぇ。どのナディアだよ。このナディアしか知らないんだけど」
「このしらばっくれよう。ムカつくわ。ちょっとは、あたしを敬いなさいよ」
そんなに敬って欲しいなら、もう少し大人の女性の感じを出して欲しい。
醸し出す雰囲気が、オレよりも年下に感じるんだよ。
「だから、無理だって。あんたとの最初の出会いが面白過ぎて、オレには無理なのよ。あんたはね。オレの中ではオモシロ劇団員のイメージがついちまったもん。よ、演技派女優。大女優を目指すんだな」
「なによそれ!!!」
「すまんが我慢してくれって。そういやあんたって大根役者だったな・・・クスクスクス」
「ああ。馬鹿にして! ちょっとこっちに来なさいよ。あんた!」
彼女がオレを追いかけ始めたので、オレはユーさんの後ろに逃げた。
「ガハハハ。緊張感のない二人だな。面白いぞ!!!」
と何故かオレたち三人は、敵を目の前にして楽しそうにしていたのである。
◇
「ワイを・・・このワイを無視しやがって。馬鹿にするなああああああああああ」
咆哮したクヴァロは、目が血走り始めた。
頭の血管も浮き出る。
「死ね。貴様らあああああああああ」
「儂に任せろ」
「ユーさん!?」
ユーさんがハンマーを出した。
儂から行くから、お前は待機だ。
そういう合図だと思った。
「最初はドンと儂がやろう。先陣はいつも儂じゃったからな」
敵の突進に、ユーさんも突進した。
両者のタックルが、庭の中央でぶつかる。
激しい音共に出た衝撃の波が近くの噴水を壊した。
「ぐおっ!? き、貴様は」
片膝をついたクヴァロ。
「ごほっ。クヴァロよ。周りの奴は駄目だが。お主だけは衰えてないな」
口を切って血を吐いたユースウッド。
両者は睨み合った。
「・・・貴様は、ユースウッド!? なぜここに。牢にいるはずでは」
「ガハハハ。百年ほど休んだしな・・・暇になって外に出たのよ」
「あの牢は魔力を吸収するはずだ。なぜ出られる」
「ガハハハ。お主の常識はどうやら、そこの男には通用せんぞ。儂の友にな」
「ん!?」
話の脈絡に気付かないクヴァロの隙をオレが突いた。
「そういうことよ。桜花流 満開」
背後から飛びかかり、クヴァロの頭を狙った。
一刀両断。
最速の勇者の一撃を出したが、クヴァロはオレを見てないのに反応した。
攻撃は奴の右肩に当たった。
「速い!? こいつでけえのに」
「まさかこの小僧があの牢を・・・まあいい。消えろ!」
暴風のように振り回された右の裏拳がオレの全身を捉える。
躱しきれない。
オレを見ていたナディアが叫ぶ。
「ウインド!」
奴の拳の先。
オレの目の前。
ここにに風が出現。
双方を弾き飛ばした。
奴の拳は自分の所に戻り、オレの体は外に弾かれた。
「ぐおっ。すげえ風だ。ただの初級の魔法とは思えない」
吹き飛んだ先にナディアが来てくれた。
「ルル、お礼は?」
「ああ。ありがとよ。助かったナディア」
「そう。素直が一番よ。あたしには感謝する時も素直になりなさいよ」
「ああ、そうですか。あのナディアさんには、そうしておきます」
「あ。今の馬鹿にしてるわね!!」
「はいはい。目の前のこいつを倒してから怒りなよ」
「・・・んんんん。仕方ないわね。そうするわ。口が回る男との喧嘩は後」
前衛をユーさん。後衛がナディア。
だからオレが中間距離を行ったり来たりしたのだが、あいつを崩すのが難しい。
やはり解放軍の四天王の名は伊達じゃないようだ。
クヴァロ。
この男を倒す方法を模索しながら、オレは戦いを続けていた。