第12話 潜入
都市ジュズランはジークラッド大陸の解放軍の領土。
第三次南北魔大戦以前。
第一次の時点ですでに解放軍の領土なので、元々の領土と言っていい。
だから、ここに住む人々のほとんどがあのバッジをつけている。
魔の角
あれのデザインは、有名な魔の角笛をモチーフにしているらしい。
なんでも魔の角笛を吹くと伝説のモンスターを呼び寄せるのだそうだ。
迷信にも近いらしいが、こういうものは信じた方がいい。
昔の人の伝承を馬鹿にしてはいけないんだ。
と余計な事を考えているオレは、お城の中に潜入していた。
オレが想像しているお城の姿。
イメージピッタリの荘厳な城がジュズランにあった。
言っちゃあ悪いが、オレの想像外だったのは、ジョー大陸の王都サーカンドにあったお城である。
あれとこれを比べてはいけないだろうが、スケールが違いすぎる場所でつい比べてしまった。
明らかにここの方が広いし、天井も高い!
でもここの主である人物は、解放軍の幹部らしい。
一番偉い人でもないのに、この規模の城の主だとすると、一番の上の者の城はどれくらいの大きさの城に住んでいるのだろう。
やっぱり余計な事を考えているオレは、城内の部屋以外を一周した。
◇
一通り見回りをした。潜入中盤。
地図を作製した後の二階の東廊下。
「何をしている! このグズ女。とっとと料理を運べ。クヴァロ様の元へ急げ。薄汚いエルフの女」
「きゃあ。申し訳ありません」
城の廊下で鼻の下がやけに長い獣人の男が、エルフの女性を鞭で叩く。
メイド服のような物を着ている女性は、胸元がはだけている服を着用していて、少し厭らしい感じの格好だった。
オレが知っているメイド服ってのは、黒とかが基調になってもっと質素だったはずだ。
ジョー大陸ではそういう人しか見かけなかったんだよな。
そんで、彼女には首輪がついている。
犬でもないのに・・・。
「あれは・・・ユーさんを縛っていた鎖と同じ素材の奴だな。魔力封じのためか! そうか。偉そうな奴より彼女の方が魔力が強いのに逆らえないのはあれのせいだな。力を封じて言う事を聞かせてんのか。あれはメイドじゃなくて奴隷かもな」
エルフの女性は立ち上がり、料理を持って歩いていった。
今のオレは、ドアノブとかに触れるとスキルが解除されてしまうので、慎重に進んでいる。
女性の後ろを歩いて、彼女の開けるドアの中に入ろうと思った。
ついでに影も重ねて歩く。
◇
二階の東。一番大きな部屋に女性が入る。
そこの扉が閉まる前にオレも入る!
「クヴァロ様。料理を・・・」
「置いてちょ」
めっちゃ醜い巨漢のおっさん。
それがクヴァロだった。
たしか、アンナさんの情報だと、小巨人族と鬼人のハーフと言っていた。
奴は、体が大きくて腹がパッツンと出ている。
しかも上半身の服を着ないので、いつもその腹を前面に出し続けるらしい。
正直に言おう!
見た目はもうオークキングである。
マジで見た目がモンスターです!
「どれ。ほれほれ」
クヴァロは、料理を食べるよりもまず。
エルフの女性の胸をちょこんと触った。
でけえ人差し指を押し付けて、胸の感触とエルフ女性の反応を楽しんでいる。
こいつ、大変態でありました。
「きゃあ」
びっくりした女性は後ろに一歩引く。
「ほほほほほ」
それを見て、クヴァロが喜んだ。
(やべえぞ。ちょっと今すぐぶっ飛ばしてえ・・・レオンはまだマシだわ。こいつ、セクハラ男だぞ。ん?)
エルフの女性が部屋の後方に行った。
バミリがあるのか。
定位置に立つと、女性がメイド服の裾を持ち上げて、クヴァロにパンツを見せた。
そんでビックリな事に彼女の他に、同じ格好の女性が三名もいた。
横並びにパンツを見せている!
意味わからん!
なにこれ。
こいつの趣味???
あの女好きのレオンだって、女性にはこんなこと絶対させねえぞ。
おい、こいつ。
マジもんの屑だわ。
この人たちが、人としての尊厳を保てねえじゃんか。
許さなねえぞ、おい!
ぶっ殺したいんですけど、今すぐ!!
「美味い美味い! 今日も美味いな」
パンツめくりあげ女性たちを眺めながら、クヴァロが料理を食べる。
何をおかずに飯食ってんだ。
こいつ?
ご飯をおかずに、飯を食えよ。人をおかずにすな!
心底軽蔑して、オレは食べているものを見た。
かなり質素なものだ。
王宮の偉い人が食べるコース料理とかじゃなくて。
卵焼き、肉の塩焼き。チーズリゾット。
非常にシンプルな食事だ。
ユーさんたちの話とこいつの食べ物を考察するに、こっちの人間の食糧事情は乏しいと思った。
野菜も少ない。果物も少ない。
肉は狩猟をするから多少はある。
卵はたぶん鶏でも飼っているのだろう。
リゾットもたぶんだけど、米がたくさん取れるわけじゃないから、かさましのつもりなはずだ。
これらから、こいつらの食糧事情はかなり悪いと見た。
それでも、この醜男が美味いというあたり。
たぶん、こっちの世界では、これがご馳走なんだよな。
「どれ。全部食べ終えたら、今夜は。ぐへへへ」
「めっちゃキモイ。ぶっ飛ばしてえ!」
オーマイガー。
怒りのあまり、オレの怒りの言葉がついつい口から出ていってしまった。
不可抗力だ。許してくれ、醜い男。
「ん!? 男の声が聞こえる。どこだ! 男なんて、この部屋には入れんのだぞ。どこに隠れている!」
クヴァロは思った以上に地獄耳だった。
思わず出てしまった呟き声が聞こえたらしい。
「しゃあねえな」
シャドーステップで姿を消しながらクヴァロの背後に移動。
そこからスキルを変更。
オレの姿がクヴァロの背後で現れる。
「悪いな。屑野郎。面白おじさんの技をくらいな。バラ色の人生」
「ぐ・・な・・なんだ・・・こ・・・れ・・・は・・・・zzzzzzzzz」
巨体クヴァロの膝が崩れ落ちて、前のめりに顔から倒れた。
◇
突然のオレの登場により、四人のエルフのメイドさんたちが驚いた。
彼女たちはいつまでもパンツを見せる格好をしているので、目線を合わせないで訂正する。
「お嬢さんたち。その格好にしなくていいよ。どうせ。この屑の前じゃその格好にならないといけないんでしょ」
「「「「・・・・・」」」」
反応がない。
「駄目だよ。あなたたちはそんなに簡単に肌を見せちゃ。女の子だよ。そういうのはね。好きな人に見せないとさ・・・ってこいつに無理やりやらされていたんだろうな。この屑男にさ」
「「「「・・・・・」」」」
彼女たちの口が開きっぱなしで返事がなかった。
「大丈夫。君たちを解放するからさ。ちょっといいかな」
オレが近づくと、女性たちが数歩後ろに下がった。
「あちゃあ。ううん。どうしよ。君たちに触れないとその首輪を外せねえんだけどさ」
「・・・は、外せるのですか」
一番左のグリーンの髪の女性が聞いてきた。
「うん。外せるよ。そのかわり、オレを信じてくれないかな。ビックリしたりして、大きい声を出さないでほしい。外の廊下にいるやつらに、ここの声を聞かれたくないんだ」
「・・・わ、わかりました。信じてみます」
「エルドレア。そんな簡単に信じてもいいのですか。ヒュームですよ。この男は」
グリーンの髪の女性の隣のエルフの女性が言った。
「え。でも、この人はこの男を倒しましたよ。強いはずです」
「いや、倒したわけじゃない。眠ってもらったんだ。たぶん1,2時間くらいしか眠らないと思う。この技はヒュームに対して一日の効果しかないからね。こいつの体だとその時間くらい眠らすのはたぶん無理かもね」
「見知らぬヒュームの人。外せるのですか?」
「まあね」
「じゃあ、お願いします。見知らぬヒュームの人」
エルドレアと呼ばれた女性は、オレの事をヒュームと言うので、これも訂正しておく。
「オレの名はルルロアだ。ルルでいいよ。エルドレアさん。ほんじゃぶっ壊すから。大きい声を出さないでくれ」
「はい・・どうぞ」
オレが彼女のそばに寄ると、彼女は目を瞑って、顔を上に少しだけ上げた。
なんだかこの姿だと、オレが彼女にキスするような感じに見えるから、木っ端図かしいんだけど・・・。
ただ、この首輪を破壊するだけなのですが。
ちょっと、これはセクハラじゃないですからね。
世の中の女性の皆さん!
「いきますよ。ほい!」
仙人の力で首輪を粉砕した。
粉々になる首輪を見て、残りの三人のエルフの女性は声を出しそうになり、必死に口を押さえていた。
「・・・あ、私に。首輪が!? ない! やった。う、嬉しいです」
「ええ。よかったですね。それじゃあ、どうします。そっちのエルフのお嬢さんたちも?」
「お、お願いします」「私も」「はい。お願いです」
三人も自由になりたくて、オレのそばにまで来た。
めちゃくちゃエロイ格好の人に迫られている状態なので、緊張します!
いつぞやのレオンに連れて行かれた時の娼館に来たみたいで、顔が真っ赤になりそうだ。
「ええ。大丈夫。一人ずつそいつを破壊しますので、待っててください。いきますよ」
オレは三つとも握りつぶした。
首輪が無くなり、四人は抱き合って喜びを分かち合う。
「ああ、何十年ぶりでしょう」「ええ。長かったわ」
「ついに。これから解放されました」
「「「「この男を殺しましょう」」」」
エルフの女性らは最後。
すげえ物騒なことを言ったので、オレが会話に割って入った。
「ま、待ってください。ここには、あなたたちの他に首輪をつけた人はいますか?」
「あ、はい。います」
エルドレアさんがリーダー格の様で質問に答えてくれた。
「それなら、その人たちの分も破壊したいので、こいつはそのままにしましょう。それにこいつはあなたたちでは殺せないと思います。こいつ、かなり頑丈だ」
鑑定眼で見抜いている。
実はこの屑男も測定不能だ。
そして、目の前の麗しいエルフの女性たちはオレの目に実力が出ている。
彼女たちの魔力量はS。
オレの感覚で言うと、準特級冒険者クラスの実力者だ。
つまりこいつは特級以上だと思うから、彼女らでは絶対に倒せない。
「いいですか。オレって、ドワーフさんとエルフさんの解放をしに来たんですよ」
「・・・ん? あなたはヒュームでしょう? 何故あなたがそれをする必要が」
「まあ、事情があるんですけど。今は急ぎたい。どこら辺にいますかね。今、地図を広げるんで、書き込んでもらえますか」
マジックボックスから紙とペンを取り出して、素早くこの城の内部構造を描いた。
部屋の中は知らないので、間取りだけである。
「精密です……すごい!?」
「ほんとだ。この城の中身ですね。ほとんど合っています」
オレの地図は、エルフのお嬢さんたちが驚くほどに精巧に作れたらしい。
「あなたは、凄い人ですね。えっと、ここが、私たちの仕事場兼休憩所で、こっちがドワーフの休息所です」
エルドレアさんが、場所を指さす。
「しかし、彼らもほぼ奴隷のような形で、武器を作らされています。今の時間だと、こちらで仕事をしていると思います」
「そうか。なら最初は場所が近いエルフさんたちの方から行こう。ついてきてもらってもいいですか? 先頭をいきますから。皆さんを救い出しましょう」
「は、はい。ついていきます」「「「 わ、私たちも! 」」」
ヒュームだから警戒していただろうに、四人はオレの後ろをついてきてくれた。
◇
敵がいそうな場所はあらかじめ言ってもらえれば、オレが姿を消して近づいておっさんの技で眠ってもらう。
たぶんここを歩く人がいたら気味が悪いだろう。
廊下に点々とぐっすり眠っている人がいるからな!
「ルルさん。あそこです」
「はい。いきましょう」
エルドレアさんが指定した場所に、オレたちは入った。
部屋の中にいた人たちが、幸いにも奴隷のエルフさんたちだけであった。
「え!? エルドレア!? そ、それは!?」
部屋にいたエルフが、エルドレアさんの首輪がない事に驚く。
「エルドレアさん、説得頼みます。オレが廊下を警戒するので」
「わかりました」
エルドレアさんはオレの指示通りにエルフのメイドさんたちを説得する。
急に来たヒュームの男が話すよりも、同僚の話の方が説得に応じやすいだろうからだ。
「ルルさん。納得してもらいました」
「わかりました。いきますよ。皆さん。大声は上げないでください」
「「「・・・はい」」」
エルフの女性15人分の首輪を破壊した。
「そういえば、ここにエルフの男性っていないんですか?」
「そ・・それは」
一人のエルフの女性が言い淀んだ後、エルドレアさんが答えてくれる。
「それはですね。解放軍では私たちだけが必要なんです」
「ん?」
「やつらは、観賞用に私たちを奴隷にしたのです。女は物としてです。そして、男は不要として、殺されてます」
「なるほど・・・あいつ・・・」
オレの表情が一瞬で変わったのを察知したエルフの女性らは足を一歩後ろに引いた。
怖いと思ったのだろう。
顔が強張っていてオレに恐怖していた。
気付くと、勇者の力も溢れ出ていたんだ。
怒りに感情をコントロールできずに、力をコントロールできていなかった。
「あ。ごめんなさい。そういう理由でしたか。なるほど。ここの奴らは屑だな・・・」
オレはこの言葉とともに冷静さを取り戻し話を続けた。
「よし、あとは、ドワーフさんたちを助けたいんですが。皆さんは・・・どうしましょう。このまま城から逃げ出した方がいいですかね。オレ的には、このまま救出の為に一緒にいた方がよさそうだと思うんですけどね。もしここの兵たちと戦っても。皆さんの方が若干強いでしょ。本来は、あなたたちの方がこいつらよりも強いはずだ」
「なぜそれを・・分かるのでしょうか」
「ええ。オレにはスキルがあるので、あなたたちが保有する魔力量を測定できますし。あなたたちの強さを気配でも分かります」
「あなたは、本当にヒューム?」
「ええ。ヒュームです。ただし。オレはジーバードのヒュームなんですよ」
「え?」
「実はね。オレは別大陸から来た男なんですよ」
「「「えええええええ」」」
もれなく全員が驚いてくれた。
「じゃ、雑談はここまででドワーフさんたちを救い出しますよ。いきます」
「「「はい」」」
オレはエルフの人たちともにドワーフを救いに向かった。