第11話 目的へ
その後の彼女の説明では、彼女の人生はあまりにも不幸だった。
彼女は辛いことばかりを経験したんだ。
良く今まで生きてくれたと思う。
アンナさんは、ナディアの身代わりとして一度解放軍に捕まったもんだから、ナディアとして次のナディアを産めと迫られたらしく、エルフの男を次々とあてがわれて子供を産んだらしい。
でも彼女が産む子は当然だが、ナディアの特徴が出てこない。
当たり前だ。
彼女がナディアじゃないからだ。
その子らが莫大な力を得ることはないんだ。
それで、ナディアじゃない子供ばかりを彼女が産んだものだから、一人残らず子供を殺されたのだそうだ。
非道にも程がある連中である。
オレも話の途中で、怒りすぎて、相手をここに引きずり出してぶっ殺してやろうかと思ったくらいだ。
それで、ナディアを産めない、偽物のエルフだと知られた事で、アンナさんは、軍から解放された後、ボロ雑巾のようになり、奴隷商に捨てられたらしい。
そこからおよそ五十年が過ぎたと言っていた。
ずっとここの奴隷商の地下にいたことで精神が崩壊しかけていたが、ナディアにかけた封印を守るために何とか意識を維持していて、彼女と再会したことで完全に意識が戻って来たのだと言っていた。
そして、そこから話し合いは進み。
ちょっとした雑談になった。
「あの。一つ聞きたいんですけど。ドワーフとかエルフって、あんまり食べなくても死なないんですかね?」
「え?」「どうしたのだ。ルルよ?」
アンナさんとユーさんがオレの質問に困惑した。
「いや、ユーさんってさ。一週間に一度の食事でも生きてたじゃん。そして、アンナさんもあまり食事を与えられてないと思うんですけど。あの時水を飲めましたよね。結構凄い事だなっと思いましてね」
「……ああ。そういう事か。ルルよ。儂ら、妖精族は食事から栄養を取る場合もあるが、自然から生きる力を補給できるのだよ。自然があれば、ある程度は食事をせんでも生きていける。エルフ、ドワーフ、カーベントはな。まあ一か月に一度の食事でも生きること自体は出来るな。さすがにそこまで食べなくなると魔力自体は弱くなるがな」
「そうなんだ。そんで今のこの状況なら、食事と自然で回復していっていると考えてもいい?」
「そうだ。儂はだいぶ戻ってきているぞ。半分くらいかな」
「私はまだ無理そうです。3割くらいですね」
「あたしは逆、力がありすぎて抑えるのに大変かも」
妖精族はそんなに食事を必要としないという知識を得た。
◇
そして話題は本題へ。
「じゃあ本題にいくわ。ナディアとアンナさんは。これからどうすんの?」
「え? あたし・・・どうもできないと思う。今のあたしはエルフをまとめられないと思う」
ナディアは俯き。
「そうですね。私たちの仲間はもういないと思われますから、私たちには行く当てがありません」
アンナさんはオレの顔を見て答えてくれた。
「そうか。んじゃ。オレたちと旅する?」
「「へ?」」
二人が同時に驚いた。
「オレとユーさんはしばらく放浪の旅するんだけどさ。あんたらも一緒にどう? 女の子二人じゃな。変な男が寄ってくるかもしれないし、その点、オレとユーさんなら用心棒代わりになれるよ。どう? ユーさん」
「うむ。そうだな。先代のナディアのためにも、お主らを守護してやるのも悪くはないな」
「そういう考えもあるのか・・・ユーさんって律儀だな。ずっと捕まってたのにさ」
「ガハハハ。儂は約束を守る男だからな」
「へぇ。オレと一緒じゃん。やっぱユーさんとオレは気が合うな」
「そうか。ガハハハ」
ユーさんがめちゃくちゃいい人で良かった。
話が進みそうである。
「そんで。どうする? あんたら二人でやっていく? それともオレたちと旅するかい?」
「・・・それは私としてはぜひ。しかし、ナディア様は」
「え。い、いいの。あたし、あなたに迷惑ばかりを掛けているし・・・」
ナディアはもっと頭を下げて上目遣いでオレの方を見た。
綺麗な顔立ちの人にそれをやられると緊張します。
可愛いさマックスですからね。
態度はちょっと・・・でも顔だけは綺麗で可愛いです。
「そうだな……オレ的にはあんたに迷惑を掛けられた感覚がねえわ」
オレは正直に話す。
つうか交渉以外で嘘ついたことがねえ。
「は?」
「いや。あれだろ。あんたが気が引けてんのは、最初の出会いのせいだろ?」
「ええ。そうよ。あなたの事を捕まえたわ」
「いや、あれ。どっちかと言うと、オレがお願いしたじゃん。捕まるってさ」
彼女があまりにも申し訳なさそうにしているのが、オレの心に突き刺さる。
あれは本当にどちらかと言うと強引にオレの方が捕まりに行ったはずだ。
「そうだけど……」
「気にすんなって。オレ、あれのおかげでユーさんと知り合いになったしさ。それにあそこで、ヒュームの立ち位置が見えたからな。あんたのおかげでオレはこの世界を知れたのよ。だから気にすんな。ナディア! オレはあんたに感謝してるぜ。な!」
「・・・あ、ありがと・・・あたしも、感謝してる。アンナの事。あたしの為にお金を工面してくれたこと。全部、ありがとう」
「おう。互いに感謝してるから。これでおあいこな! で。どうする。アンナさんは一緒でもいいんだってよ。じゃあ、ナディアはどうするのよ」
「・・・あたしも、あなたたちと一緒にいていいの?」
「ああ。もちろんだぜ。一緒にいてくれる方が助かる!」
エルフの王の末裔だろ。
んで、こっちはドワーフの王様じゃん。
オレの旅仲間。
強すぎじゃね!
と思ってることは内緒にしておこう。
「それじゃあ、お願いします。ルルロアさん」
ナディアらしくない言い方だった。
「はい。こちらこそお願いしますだな。でも、それはやだな。ルルでいいよ」
「うん。わかった。ルル、これからよろしく」
「ああ。そっちがいいぜ。よろしくナディア」
こうしてオレは、ファイナの洗礼を完成させたエルフの末裔。
ナディアを仲間にした。
この人の魔力量はおそらくけた違いだ。
想像を超える魔力を持つのだろうとオレの鑑定眼が囁いているのであった。
◇
「よっしゃ。つうことで、どこ行こ? そういや、ユーさん。ドワーフたちの居場所を探すんだったな」
「ああ。そうだったな。儂、仲間を探したかったんだわ。ガハハハ。暴れてたら忘れてたわい」
ユーさんは豪快だった。
「ドワーフとエルフはどうなってるのか。知っておるか。ナディア。アンナ」
「知らない。ユースウッドもだけど。あたしだって七十年前からあの生活だったから。ドワーフとエルフが捕まったのはその三十年前。百年前ですもの」
「あの、私はここで風の噂を聞いてます。たしか、この都市の城に奴隷となっているドワーフとエルフがいると聞いたことがあります」
ナディアは知らず。
アンナさんはこの奴隷商の地下牢で知っていたらしい。
だが、その情報がおよそ五十年前のものだという事らしい。
「五十年も前じゃあさ。さすがに奴隷としてはいねえんじゃねえの?」
「いや、最近だからな。五十年前なんてな」
「ええ。そうね」
ユースウッドとナディアにとっては五十年前は最近らしい。
確かに、よくよく考えたらユーさんだって百年もあそこにいたんだ。
そこにドワーフの仲間がいる可能性に賭けてもいいだろう。
「おし。ほんじゃあ。ここの城ね。オレが潜入するか」
「「「 は? 」」」
三人が驚く。
「いや、助けたいんでしょ? だったら潜入してその人たちを救うわ」
「「「 は!? 」」」
またまた驚く。
「いやぁ。ユーさんが戦闘しちゃうと目立つでしょ。その大きな体じゃさ。あと、今のナディアだと力が解放されたばかりで魔力コントロールが難しそうだからさ。細かい戦闘はまだ避けた方がいいはずだ。ここいら一帯を焼け野原にしちまったら、城の中にいるかもしれないユーさんの仲間が死んじまうわ。はははは」
「え・・ええ」
なんかナディアだけじゃなく、皆引いているような気がする。
引きつった顔のまま笑っていた。
「その点。オレにはシーフ系のスキルがあるから、簡単に潜入できんのよ。あと魔力コントロールもさ。オレはうまい方だから、こっちの人たちの探知には引っかからないと思うわ。上手く潜入してくるわ」
「へぇ~・・・・・いや! あなた駄目でしょ。あなたヒュームよ。姿でバレてしまうのよ」
ナディアが慌てて言ってきた。
「いや、だから、オレの姿が見えないくらいのスキルを使うからよ。最初はこんな風に。影移動」
「「「 え!? 」」」
オレは一歩も動いていないが。
皆にはオレの姿が見えていない。
暗殺者の初期スキル。
敵の視界から自分の存在を消し去るスキル。
このスキルの凄い所は、見えている所からでも消えることが出来る所。
ただし、手が触れたら解除。そして影が消えない事が難点だ。
オレの影は、皆からは見えている。
だからこのスキルの癖を見抜いている者がいると居場所は簡単にバレてしまうのだ。
でもこちらの世界はスキルがないから、そのからくりを知らないと思うのである!
「いるよ。たださ。ここにある影が消えねえんだわ。まあ、ここまで注意深く見る人は少ないと思うけどさ」
オレは姿を現した。
「うお。出てきたぞ。凄いな。ルルよ」
「おう。これがスキルなのよ。ユーさん。信じてくれ。オレで単独潜入した方が良さそうなのよ」
「そうか・・・それじゃあ、ルルにやってもらおうか」
「ああ。いざって時は花火か何かで、三人に合図を出すからよ。三人とも外で待っててくれ。 オレが潜入してくるからよ」
「・・・そうだな。頼むか」
「そうね。こんなの見せられたらね。信じるしかないものね」
「そうですね。ナディア様。ルル様を信じましょう」
「おし。来た。俺にまかせておけ。やってやるからよ」
オレは立ち上がって、三人に宣言した。
オレのジークラッドでの初クエストは、ユースウッド。ナディア。
両名の仲間の奴隷たちを助けること。
人助けなら、仕事としてもやる気が出るわ。
やっぱりオレってそういう性格だもんよ。
低賃金でも働くくらいの男だしさ。
うんうん。
シエナ。元気かな!?
あの時も100Gで依頼を受けたからな。
はははは!!
あれ?
今回はタダじゃね!
あれよりも報酬が低いとは、中々成長したもんだな。
オレもさ・・・。
無報酬だってよ。
どうなんだ、冒険者としては!
って思ってることは内緒にしておこう。