第14話 追跡
素材剥ぎ取り後。
「隊長・・・マールダがちゃんとマークを書いてますね」
「そうみたいだな。フィン、後を追うぞ」
「はい。隊長」
マールダが書き記してくれた黄色の星マークを追いかけていく。
砂の壁に、普通のペンでの印は難しい。
そこで、彼女はマジックペイントと呼ばれる特殊なインクでマークを書いていた。
魔力を込めると字が書ける特殊アイテムで、ペンも特殊。
オレが以前に作った落書きペンを使用してくれている。
だから彼女は、冒険者として優秀だ。
こっちも彼女が持っているペンと同じペンで、このマークをなぞれば消せるからだ。
他に敵がいた場合に、痕跡を消せるのが大きい。
敵に追いかけられないで、後ろの味方を合流させるのは、意外と難しい事なんだ。
「だいぶ進んでんな。アホかあいつら。奥に行きゃあ、一級でもきついのに」
「そうですね」
「フィン! 視力を全開にできるか。あの奥! あそこに敵がいるか確認してくれ」
「わかりました」
フィンに廊下の奥を見てもらう。
オレも見ようと思えば見えるのだが、ここはプロの目で判断してもらった方がいい。
オレとフィンのバディだけでは、ここのダンジョンを突破する。
これは、かなりの無茶をしないといけないので、慎重に進むために、正確に状況把握をしていかないといけない。
「隊長、いないです!」
「よし、それじゃ、あそこのT字路の手前に罠があるから、あそこの手前まで行くぞ」
「はい」
オレの目には先に罠が見えていた。
「フィンは背後を頼む。後ろにも視野を広げてくれ。スキルあったよな? ロックハンターのさ」
「あります。『範囲変化』で345度まで見えます」
「よし。それ発動で頼むわ」
「はい!」
二人で廊下を全力疾走。
罠に先に到達したオレが、手の平で合図を送る。
「止まれ。フィン、後ろ頼んだ」
「はい」
スキル『罠解除』を発動。
こちらのスキルは、トラップハンターが所持しているスキルだ。
最初は落とし穴とかの簡単な罠のみが解除可能となるが、スキルレベルを上げていけば、地雷などの爆弾系統も解除が可能だ。
ダンジョンは、難易度が上がると罠が多めになる。
それも、凶悪なものが多くなり、普通の廊下や壁に隠していくことになる。
四大ダンジョンだと、擬態しているような感じで罠が埋まってるものなんだ。
でもまだ、この階層ではそのレベルの罠じゃない。
オレが今解除している罠は、左右の壁から火が噴き出るといったものだった。
まあまあの解除時間となるだろう。
複雑な手順がある。
「クソ。さすがは四大ダンジョン。形状が複雑だな。あいつら、どうやってこの罠を突破したんだ」
「隊長、もしかしたらですけど、強引にじゃないですか」
「・・・あ、ありえるな」
フィンの鋭い指摘に考えがまとまっていく。
「そうだな。あいつら。もしかして、スカナの神官魔法で突破したかもしれんな。プロテクトウォールを使ったかもしれない。あれは魔力消費が激しいのにな。くそ、馬鹿が、魔力温存を考えてないぞ。魔力は出来るだけ使わない。ここぞって時に使わないといけないのに・・・やばいな。あいつら、このまま進んでいけば、継戦なんてできないぞ。これは見つけたらすぐに引いた方がいいかもしれん」
前に行くために、強引な罠の突破を試みた。
しかも、神官のプロテクトウォールでである。
魔力消費トップクラスの魔法をここで使用してどうする。
あれを連発できるのは、エルミナだけだ。
人よりも大量の魔力を持っているエルミナだからこそできる荒業なのに・・・。
スカナは彼女に憧れているから、少しでも近づこうとしているのかもしれない。
だから無茶をしたのかも、有能であることを証明するために。
「隊長。あいつら急ぎたいために、リスクを度外視しているということですか」
「ああ。そういうこった。とにかく急ぐぞ。フィン!」
「はい。隊長」
罠を解除してからが全力。
仲間を心配してオレたちは全力で走り出した。
迷路ダンジョンと呼んでもいいバイスピラミッド。
上に登ったように見せて、実は下っているという錯覚を起こさせたり。
内部を似たような作りの道にして、先程とは違う道を選択させたりと。
地図が無ければ、迷う事間違いなしのダンジョンだ。
それでも、どんどん先へ進んでいくあいつらは、果たして帰る算段を持って進んでいるのだろうか。
オレは色々疑問に思いながら、追いかけていた。
ちなみにオレが迷わずに進んいる理由に、マールダの印とスキルの『地図』がある。
測量士さんの初期スキル『地図』
これは頭の中に、地図を展開していけるというものだ。
現在地を自分で読み取って進むのが普通の使用方法。
でも、オレの進化した地図は、現在地が勝手に地図上にマッピングされている。
赤い矢印で自分が表現されていて、方角すらも完璧に把握できるようになっている。
オレの地図スキルだと迷う奴の方がおかしいものになっているんだ。
これは超便利で、進化しすぎていて、正直自分でも怖い。
冒険者としては、嬉しいけど、あまりにも便利すぎて怖いんだ。
オレって、こんなにすげえスキルを大量に身に着けて、大丈夫なんだろうか。
多くを覚えすぎて、いずれ爆発するとかないよね?
「隊長」
「ん?」
「あれ、あのマーク」
前方の右の壁にあるマーク。
星の色が薄くなっていた。
「薄いな」
「はい。これって・・・」
「……そうだな。考えられるとしたら、時間がなかったかだろうな。あいつらが次々に先にいくから。いや、もしかしたら、モンスターに襲われて、急いだかの二択だろう」
優秀なマールダが、マークを適当に書くことは信じられない。
これは何らかのトラブルに巻き込まれたに違いない。
「しょうがない。あんまり使いたくなかったが。スキル発動『追跡』」
極力使いたくなかった『追跡』
それは何故かというと、脳の負荷が一番重いのだ。
無数の足跡が見えて、オレの脳処理を超える。
スキルの思考加速があれば、これを軽減できるが、俺は二つを同時に展開できない。
頭痛に近い現象の中で、どの足跡が当たりで、どれが外れかを見極めていくと、マールダの足跡を発見した。
これが彼女の靴だ。
「くっ。きついけど、このまま発動したまま追いかけるぞ。フィン、オレの代わりに四方の索敵をしてくれ。スキル展開が一つしか出来ない」
頭を押さえながらオレは指示を出した。
「わかりました」
「こっちだな・・・そんで・・・」
しばらく追いかけるとある壁で足跡が止まった。
「ここか・・・足跡は止まってる。じゃあ、ここらで・・・でもいねえ」
足跡が消えているのに、皆がいない。
どこかに消えたのだ。
「隊長。ここまでですか? 皆、どこかにいるんでしょうか」
「ああ。こういう時は、消えたってよりもだ。どっかに飛ばされたか。または、これは壁だろうな」
「壁?」
「んんんんん。これだ。指紋、ここだ」
壁に指紋があるのを発見した。
壁を押した痕を見つけたのだ。
「はぁ。はぁ。こ、これはたぶん、スイッチだったな」
「隊長。お体の調子は大丈夫でしょうか?」
フィンは体の心配してくれた。
実は少し体が重い。
『追跡』は負担が大きいんだ。
「・・まあ、大丈夫だ。体力を少し使っただけだ・・・・よし、フィン、ここからは何があるか分からん。でも、このまま行くぞ」
「はい」
追跡を解除して、ボタンのような壁を押す。
【ゴゴゴゴゴゴ】
と目の前の壁が移動し始めると、オレたちの後ろの壁が急に飛び出てきて、壁の中へと押しこまれた。
前に突き出された形で、オレたちは、ある部屋に入ったのだ。
「こ、ここは。へ、部屋だな・・・な!?」
「な? 隊長これは」
転んだ先で見た部屋の風景。
これは正しくダンジョンで起きてはいけない出来事の一つ。
「モンスターハウスだ!!」




