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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
第二部 北の世界 新たな冒険

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第8話 檻の中のエルフ

 人通りの多い露店を歩いていると。


「隠れてるつもりだな。つけてきてんな・・・」


 後ろも横も振り返らずに気付いた。

 ユーさんに知らせる。

 

 「ユーさん。誰かついて来てるわ。まあまあの手練れだよな?」

 「そうだな。複数いるのはわかるな」


 やっぱりユーさんも優秀な人だ。

 尾行に気付いていた。


 「うん。で、そいつら。たぶんオレが目当てっぽいよね」

 「そうだろうな。あの店からずっとお主にだけ視線があったからな。もしかしたらあの店は・・・・」

 「うん。たぶんあのジジイ。奴隷商もやってるな。いけすかねえジジイだったしさ。それにあの体格のいい狼。あの人、かなり強かったわ」

 「あやつ、鍛え抜かれた肉体であったな。でもまずまずだぞ」

 「ええ。あれでまずまずなの。まあユーさんがそう言うならそうなのか。それに、ユーさんも敵の視線に気づいていたのか。さすがだな。ということでだ。オレはこのまま拉致されようと思う」

 「は?」

 「大胆にさ。奴隷商に囚われようと思うんだ」

 「え???? なぜ????」


 ユーさんのキリリとしているダンディーな顔が、間抜けな顔になるくらいに驚いていた。


 「奴隷になってみるわ。面白そうだ」

 「馬鹿言うな。危険だ」

 「いやいや、ユーさんは、魔力を消して、つかず離れずでオレを追跡してくれ。それくらい簡単にできるっしょ。ユーさんって、実は化け物並みに強いよね。オレには分かるんだけどさ。ユーさんの能力ってやばいわ。魔力もかなりの量だけど、筋力とかかなりやばい。オレの鑑定眼で計測不可ってなってるからさ・・・あと、こいつらを出し抜いて追跡なんて朝飯前でしょ」


 下手をすると、レオンたちですら、ユーさんには勝てないかもしれない。

 それくらい強い感じだ。


 「・・・む。まあ、確かに。それはそうなのだが。全盛期の力はまだ取り戻しておらんぞ」

 「ああ。いいっていいって。自分で何とかするから、ユーさんはカバーくらいでいいのよ。ほんじゃ、あそこらへんで、二手に分かれて買い物する振りをして、オレは路地裏に行くわ」

 「わかった。気をつけろよ」

 「大丈夫大丈夫。楽しんでいってくるわ。あとついでに奴隷をする酷い場所なんて、ぶっ壊そうぜ。ははは」

 「はぁ~。もしや・・・・お主は頭がイカレテいるのでは?」

 「オレが? まさか。普通だよ」

 「どう考えても普通じゃないような・・・」


 と、ユーさんは少々お疲れの顔をしてオレと別れた。

 


 ◇


 買い物をする振りをして、お店を渡り歩く。

 立ち止まる度に複数の足も止まってくれる。

 まったく、追跡してくる割にはお粗末だ。


 それで今ので、ユーさんではなくオレの方に人が来ていた事が確定した。

 珍しいヒュームであると、あそこで認定したんだろう。

 あそこの店構えは普通であったが、中に入ると異様な雰囲気があったのだ。

 店の壁のどこかに穴が開いていたかもしれない。

 複数の目が、色んな方向からあった気がしたからな。


 「さて・・・どうやってオレを攫う気だろうか。面白い感じでお願いしたいな」


 路地裏に入ると、足は近づく。

 数を断定していくと7はいた。

 にしても音が大きいし、多い。。

 オレたちで言えばジョブ『盗賊』『アサシン』『ハンター系統』これらのスキルくらいの能力が欲しかった。

 こんな感じでの追跡では、オレに筒抜けだぞ。

 せめてその気配だけでも。

 ・・・って、こっちの世界の人は魔力が強すぎて隠すのが下手なのかもしれない。

 自分の魔力を表に出さないようにするのが下手だ。

 ということよりも、こちらの世界の人は、他人の魔力を観測できないのかもしれないな。

 オレは鑑定眼があるから見分けられるけど、アンナとか言っていた女性の魔力が凄かったのを、あの亜人の三馬鹿トリオは知らなさそうだったぞ。

 自分たちよりも遥かに強い彼女に気付いてないみたいだった。

 だから、オレの推測は正しいかもしれない。

 人の魔力を見極められないんだと思う。


 「そんで、どんなふうにオレを・・・ってべたか」


 背後から来た敵は、オレの口に布を当てた。

 中身は睡眠薬じゃなく、気絶薬みたいだ。

 意識が微睡む寸前、勇者のスキルで状態異常を回避。

 気絶したふりをしてオレは運び込まれた。



 ◇


 (どこらへんだ。ここは、位置を把握しておくか。地図を展開)


 薄目を開けながら俺はこの都市の地図を記録する。

 スキル『地図』は頭の中に記録できるのだ。

 それはダンジョンだけでなく、町も記録できる便利なスキルだ。


 (おお。いかにもという場所じゃないな・・・こいつは住宅街か・・・マジかよ)


 運び込まれたのは普通の家。

 フレデリカたちが賊に運び込まれた時と似たような場所だった。

 小さめの家の地下は広々としていた。

 一つ降りて、二つ、三つ。

 地下三階は、真っ暗闇の巨大な部屋の中で、その部屋には複数の檻があり、檻の中には、人が鎖に繋がっていた。


 「こいつはジーバードのヒュームらしいぞ。高くつく」

 「おい、どこに入れるんだ・・空きがねえぞ」

 「仕方ない。あの女の所にでも入れておけ。男も満足させられない。やせ細った使い道のない女だ。誰も買いやしない奴の所にだ」

 「ああ。あそこか。でもこいつ男だぞ。襲ったらどうすんだ」

 「ヒュームの男に襲われるような女などいらんわ。死んでもいいのにな。バジロ様はなぜあの女を・・・・いつまでもここに置いておくなんて・・・」

 

 猫耳に見える男は悩みながら手錠をかけた。

 オレを担いでくれていた犬耳の男は、手錠が完了すると檻に入れてくれた。

 でももうちょっと丁寧にお願いします。

 米俵をボンと置く感じはちょっと痛い。


 ◇


 暗闇の中で檻のサイズを確認。

 4m位の広々スペースだ。

 意外とここは快適かもしれんと思うオレは、先住の方がいるらしいので、その人を確認しようと動き出した。


 「どこだ、あんま広くないのに、こっち側にはいないのか。奥か」

 

 廊下側の檻じゃなく、壁際の檻にいたのは、ボロボロの身なりの女性。

 耳の特徴からいって、エルフだった。

 麗しいであろう顔がボロボロの肌になっていて、綺麗な髪であろう髪もぼさぼさになっていた。

 こんなだと、ボロ雑巾のような姿である。


 「ひでえ姿だ。あいつら・・・この人の事は放置気味だな。ムカつく野郎どもだな」


 呼吸が時折弱い気がする。


 「おい、おいあんた。大丈夫か」 

 「・・・うううう・・・・うううう」


 声を掛けたが、唸っているだけで返事がない。

 意識障害? 

 それとも何らかのショックで言葉を話せないのか。

 なんとも心配になる状態だった。


 「くそ。本来はめちゃくちゃキレイな人だろうに・・・ここまでボロボロになるなんて、酷すぎる。なんて奴らだ。ぜってえ許せねえ。ここだけは、ぶっ潰すわ」


 『医学』を発動。

 おかしい箇所がないか入念に調べたが、意外にも彼女の体力ラインは正常だった。

 でも弱っている。

 

 「こいつは。精神の方が崩れているのか! くそ、医学じゃ精神を見極められん。もっと高度なスキルじゃないと・・・オレの力不足だな。無念だ」


 そうは言っても心配な状態。

 彼女を起こしてあげようと、彼女の肩に触れると。

 

 「いや。もういや・・・いや・・・・もうこれ以上は・・・」

 「んんん?????」

 

 反応がおかしかった。

 彼女の体が突然動き出した。

 オレの手を強く叩いた。

 

 「いや、大丈夫だって。あんたのこれ以上がよく分からないけど・・・オレはあんたに危害を加えたりしないからさ」

 「だめ・・・いや・・・もういや・・・でも死ねない・・・私には・・・・使命が・・・」

 「言葉が弱々しいな。何て言ってんだ。もうちょい会話からこの人を知りたいな」


 オレが近づくと彼女は後ろに下がっていく。


 「いや。だからさ。安心してくれ。オレはあんたに指一本触れないからさ」

 「いやよ・・・男はもういや・・・」


 女性の目が完全に開く。

 すると美しい緑の瞳だった。

 

 「あんた、綺麗な目だな・・・・オレさ、ヒュームなんだけど。あんたらが心配するような強さは持ってないって。何に怯えているか知らんけど、強くないから大丈夫!」

 「ひゅ・・・ヒューム??? え、エルフの男じゃないのね。ハーフでもない?」

 「エルフの男??? ハーフ??? いんや。オレには一滴もエルフの血なんて入ってないぞ」 

 「・・・ほ、ほんとう?」

 「ああ。オレはジーバードから来たからな。あそこにはエルフなんて人種はいないからな!」

 「ジーバード???」


 女性の目が点になった。


 「ごほごほ・・・」

 「むせたか。あんまり人と話してなかったんだな。これくらいの量の会話でむせるなんて。そうだな。水が必要だな」


 オレはマジックボックスから水を取り出した。

 手首の鎖が邪魔だが、オレは器用にコップ一杯の水を渡す。


 「え・・ど、どこから・・・なぜ・・・」

 「疑問はいいからさ。飲んでくれ。のどを潤しておけば、頭の回転も上がるかもしれん」

 「・・・あ・・・ありがとう・・・」


 女性も器用だったみたいで、鎖につながれた状態で水を飲んでくれた。


 「ぁ・あ・・ああ。だいぶ・・・よくなりました」

 「それで、エルフの男を警戒していたみたいだが、なんでだ」

 「そ・・・それは・・・・言いたくありません」


 目に恐怖の色が浮かんだ。

 よほど話したくないのだろう。

 

 「そうか。何かエルフの男で怖い思いをしたんだな・・・じゃあ、あんた誰だ? オレはルルロア。あんたの名前は」

 「私には名がありません」

 「名がない? どういうことだ」

 「見ず知らずの人に言いたくありません」

 「まあ、それもそうだよな・・・・」


 会話がこれ以上続けられない。

 この人、ムズイぞ。

 

 それにしてもこの女性の頑なな態度の中にある。

 恐怖の色が気になる。

 人に怯えているような……人じゃないか、男に怯えているな。

 でもオレは彼女にこれ以上手を差し伸べることが出来ないらしい。

 それが非常に悔しくもある。

 彼女の表情と態度から、あんたじゃ、私の力になれないわと言われている気がするんだ。


 「そうか。結構頑固なんだな・・・」


 辺りの様子を窺う。 

 すると、周りの檻の中にいる人たちの顔は皆等しく不安と恐怖を抱いていた。

 自分が誰の奴隷になるのか。

 買ってくれる人が、いい人だけではないだろうからな。

 不安は増すばかりだろう。


 「ふ~ん。たしかにな。人種にランクもあって。その上で奴隷もあるのがこちらの大陸か。やり口的にはこっちの方が非道か。オレたちの世界にある職業差別の方がまだマシとみていいな」


 オレはそんな風に思った。


 ◇


 しばらくして、上階から声が聞こえた。


 「通してよ。あたしはあの人を買いに来たんだ」

 「あれをか。お前って物好きだな・・・いくらでだ」

 「え? 値段はあんたらが言ったじゃない。5000万」

 「5000万? あれがか。そんなこと言ったか」

 「五十年前にそう言ったわ。だからあたしは、あんたらの手伝いをしながら・・・・あれから精一杯お金をためて・・・」

 「ほう。アンナ。5000万も持ってきてるのか?」

 「ええ。シオラスが持って来てくれるわ」

 「そうか。それじゃあ、シオラスが来るのを・・・まっていろ・・・」

 「その前に会わせてよ。あの人に会わせなさいよ」

 「・・・うるさい奴だ。まあいいだろう。ついて来い」


 聞き覚えのある声にオレは驚いている。

 最初に会ったアンナの声のような気がしたのだ。

 するとこちらの女性が震えだした。


 「だ、駄目です。私は・・・私に・・・・会ってはいけません・・・お嬢様・・・」


 彼女は、声の主を知っているようなそぶりを見せた。


 

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