第7話 結局さ。物価ってどんくらいなの?
大都市ジュズランに到着したオレとユーさん。
ここは都市の南に、見晴らし台のような高い建物があった。
そこを二人で眺める。
「ユーさん! あの高台。あれなんだ? 観光名所か?」
「いいや。あれは森を見張る場所だ」
「ん? 見張る? 魔物の監視塔かい?」
「平たくいえばそうだが。魔物はあまりいない。それと、今もあれが本来の機能であれば。戦いはまだ続くのかもしれんな」
ユーさんが塔をみて、悲しそうな表情になった。
先の戦争を思い出しているからだろう。
暗い過去よりも明るい未来。
せっかく牢から出たんだから、ここからの人生は前向きにいってもらいたい。
ということで、ユーさんにはオレとの旅は楽しんでほしいので、話題を切り替えた。
「んじゃ、手っ取り早く。金をゲットしたいな。何かで稼ぐ方法ないかな」
「・・・そうだな。ならば、質屋がいいんじゃないか。ルルが持っているもので、ジーバード産のものならば、大金をもらえるやもしれんわ。珍しいだろうからな」
「おお。なるほどね。そりゃいい提案だ。行ってみっか」
二人で質屋を探した。
◇
通りを歩いてみても分かる。
獣人亜人。それに魔人かもしれない人がいる。
頭に角が生えている人がいた。
あんなもん。ヒュームにはついていないからな。
もしついてたら目立つよな。
それとさ。
あの角って触れられるとむず痒くなったりするのかな。
感覚があったりするのかな。
めっちゃどうでもいいことが気になっていた。
色んなことに興味が湧くけど、やっぱここにはヒュームがいない。
だからか、周りの連中はオレの事を懐疑的な目で見ているような気がする。
やはり、ユーさんが言うように奴隷かなんかだと思っているのだろう。
それなのに、彼と同じ歩幅で隣同士で歩いているから、そっちから見たらかなり奇妙なんだと思う。
「やっぱ。ユーさんが言ったように、オレたちの関係を勘違いしてんのかな」
「そうだな。おそらくはそうだろうな。お主の事を奴隷だとでも思ってるのだろうな。いや、違うな。ルルに手錠とか足かせがないのもいかんのかもな」
「そうか。なら手錠とかやってみるか。そっちの方がこいつらにジロジロ見られなくて済むし」
「ガハハハ。面白い冗談だな」
「いや、割とマジでさ。視線だけでもめんどくさいのは嫌だしさ」
「真面目だったか!? 尚更面白いわ。ガハハハ」
と豪快に笑うユーさんは楽しそうであった。
◇
半日くらい歩き回って、もうひとつ分かったことがある。
「ちょいとユーさん。ここには野菜はねえの? どこにも売ってねえんだけど。果物とかもねえよな。肉だけはあるんだけどさ」
「ああ、ないな。解放軍が持つ領土だからな、なおさらないと思うぞ」
「え? なんで?」
「あっちは氷の大地だろ」
ユーさんは北を指さした。
「ああ。そうだったわ。上から見たわ!」
「え? 上から???」
「まあ。気にすんなユーさん!!!」
そうだった。
オレは、ユーさんに空から舞い降りたことを伝えていなかった。
「ルル。話の続きだが。野菜などの土を必要とする地域を、解放軍が手に入れても、その土を使って作物を育てたとしても、奴らは、本営の方に運ぶのだよ。野菜とか果物とかは高価な物なのだ」
「へぇ。なるほど。奪った領土はただの場所で、自分たちが元々管理していた領土が贅沢してんだな」
「そういうことでもある。ここはまだ解放軍の領土だが。最前線の場所だったから、贅沢品はもっと後方の領土に回しているのだろうな」
「へぇ。場所によって違いが生まれるんだな。オレたちの街とか都市とかの違いかな」
そうこうしている内に質屋を発見した。
中に入ると骨董品やら何やらで、古臭いものばかりが置いてある。
「うお! 珍しそうな物ばっかだな」
「そうだな。で、ルルよ。何を売る気だ」
「えっとだな。こんなのどう。ジーバードの斧。一級品の大斧さ」
「・・・ほう。なかなかの斧だな」
ユーさんは、斧の目利きを始めるために両手で斧を持った。
どうやら彼も鍛冶が出来るようで、鍛冶師としての道具と、良質な素材さえあれば、お主にも強力な武器を作ってやるぞと豪語していた。
そうだったのだ。
こちらの世界の人は、ジョブ持ちでないから、誰もが努力すれば、なりたい職業につけるんだ。
こう考えると、オレたちの世界の方が狭いよな。
考えが小さい気がする。
それにこっちのその考えは、羨ましい部分でもあるな。
もうさ。
あっちとこっちのいいとこ取りって出来ないもんかね。
なんて思うオレはお店のカウンターに向かった。
「これ、売りたいんだけど。どうだろ? いくらくらい?」
二人で並んで、店主のジジイの前に立った。
「ドアーフと・・・なんだ。ヒュームか。何の用だ」
ヒュームと分かるとあからさまに態度が悪い。
クソジジイだ。
「こいつを売れねえかな」
だけど、ユーさんには任せずにオレから話をしてみた。
「ワシはヒュームとは話さん」
「そんでさ。いくらくらいかな」
「な!? だからヒュームとは話さん」
「ルビーだっけ。こっちのお金。これだといくらくらいになんの?」
「・・・だ、だからぁ。お前とは・・・んん? こっちの金???」
「ああ、オレ。金持ってないのよ。こっちに来たばっかだからさ」
「こっち???」
「ああ。オレはジーバード大陸から来たヒュームだからさ。お金ないのよ。だからこれ、ジーバード産の斧よ。高く売れない? 激レアだよ」
本当はただの一級品の武器だけど。
なんて思ってることは内緒にしておこう。
オレのいたジーバードの世界の武具には冒険者ランクと同様の武器ランクがある。
その基準は冒険者ランクとほぼ同じであり。
上から特級。準特級。一級、二級。三級の五階級制度になっている。
ちなみにオレの花嵐は特級。
だからでもなく、オレはあの武器を大切にしている。
だって、あのルナさんから預かった大切な物だしさ。
ここではマジックボックスに閉まっているわ。
ここはヒュームに厳しい世界なんだ。
いついかなる時も用心し、盗まれるようなリスクを回避しようと思った。
「ジーバードじゃと・・・まさか・・・そんなはずは。ファイナの洗礼はまだ・・・」
「ところで、爺さんは何の人種なの? オレには区別つかんからさ」
「ワシの姿を見て分からんのか。わかりやすい種族だぞ」
「いや、白い耳がついているのは分かるよ。でもそれがなんの耳か分からん。それと爪も、豹の男とは違う形をしてんな」
ジジイの耳は白いモフモフの耳だった。
爪も鋭くはなく、豹だと名乗った男とは違う獣人であると推測した。
「これは、狼だ。ワシは白狼族の狼じゃ」
「へ~。狼ね。メモしておくわ」
「な、なんじゃ。こいつ」
怪訝そうな顔をしているジジイは態度の悪い姿をさらしてもオレが全くひるまないことに戸惑っているのだと思う。
その程度はな。
散々受けてきた態度なんでな。
無職の馬鹿にされ具合に比べたらさ。
お子ちゃまレベルなんだぜ。
ジジイ!
「んで、これ。いくらくらいになんのよ」
ドンと、カウンターに置いた斧。
装飾品としても使える斧で、柄の部分に銀の宝石が入っている。
「むむ・・・うむ。まあまあだな」
「そうか。で、いくら?」
「100Rだな」
「安いな」
「・・・ん?」
「嘘つくなって爺さん。あんたの目。泳いでんぞ」
「そんなわけなかろう」
「いんや、今、瞳孔が開いたぞ。そんで値段言った時には手が僅かに震えたぞ。ほんとのことを言え。じゃねえと少々暴れてやってもいい。ここら辺、ガラクタにしてやってもいいぞ」
「はははは。ワシを脅すか。ヒューム如きが」
「ああ。んじゃ、ちょっくら見せてやろうか」
「おお。見せてみい」
ジジイが挑発ポーズを決め込んだから、オレは勇者のオーラを出して、それをあえてぶつけた。
勇者のオーラは、稀に相手を威圧することが出来る。
黄金の力は、使用者本人の状態異常を防ぐ効果を持っているが、相手側には対しての効果はなにかしらの状態異常を付与することが出来るのだ。
恐怖、畏怖、恐れ、いずれにしても相手を圧倒する状態効果。
もしくは防御力を弱体化させる効果も出る場合があるらしい。
威風とかと似ているけど勇者は独特だ。
使用者の感覚によって違いが生まれるらしいが、上手くそれらを扱えれば、相手の状態異常を選択できる勇者もいたようだ。
レオンはあまりこの力を使わないでいた。
あいつは意外と正々堂々とした男だからな。
相手を弱体化させるのをためらうのさ。
でもオレは使えるものは使うタチなので、遠慮はしない。
そんで、今回の力で・・・・ジジイには恐怖してもらった。
「・・・う。うう。な、なんだ。その異様な・・・強さは・・・」
「で。おいくらよ! これを普通に質屋で売るとしたらいくらで売る気なのよ」
圧強めでジジイを脅す。
「……そ。そうだな・・・3000は・・・」
「まだ嘘だな」
オレはオーラを失くし取引を発動させた。
「爺さんよ。爺さんがこいつを売ろうとするなら、10000で売る気だろ」
「む・・・」
ジジイは言葉に詰まった。
「こいつは、ジーバード産だぞ。お高く売れる。それにこれは観賞用にも持って来いだからな。12000で売れるぞ。いいご身分の人にでも売ってみなよ」
「そ。そうだな・・・それも一理あるか」
「な! だから爺さん。10000くれ!」
「・・・わ、わかった。それじゃあ、用意しよう。裏に行ってくる」
爺さんはお金を用意するために、お店の裏に行った。
◇
「ルルよ。お主、交渉が得意なのか」
「ん? ああ、まあね。オレって商人のスキルを取得してるからね」
「そうなのか・・・・ずっと気になっていたのだが、スキルとは何なのだ」
「ああ。そうか。こっちの世界はジョブもないしスキルもないんだもんな。そりゃ知らんよな。ええっと、オレたちジーバードの人間は女神からジョブを得るんだよ。んで、ジョブが持つスキル。それらをオレたちは扱うことが出来るんだ」
「ふむふむ。ジョブにスキルか……では、お主は何のジョブで」
「オレは無職。何も出来ない酷い職種の人間よ」
「??? でもさっき商人と」
「ああ。オレってジョブは酷いんだけど、人のスキルを学ぶことが出来る才能があってさ。とにかく必死に学習していけば、それなりのスキルを手にすることが出来るんだ。今は……どれくらい持っているのかを自分でも覚えてないんだけどさ。んんん。結構あった気がするわ。あとで披露する機会もあるでしょ」
「そ、そうなのか・・・」
二人でそんな話をしていると奥の方からイカツイ男が出てきた。
鋭い眼に同じ種類の茶色の耳。
ジジイと同じ狼かも知れないと思ったが、ジジイよりもガタイがいい感じだった。
「おお! 10000はあるな」
ユーさんが数えてくれている間。
オレはこの店全体からの視線を感じていた。
じろっとオレだけに刺さる視線だった。
「・・・・数があるし、集中してんな」
オレの呟きにジジイが気付いた。
「ヒュームの小僧。何か言ったか」
「いんや。何も。それじゃあ爺さん。この金、有難く受け取るわ」
「ふん。二度と来るな」
「ほいほい。じゃあな~」
今日の収穫は10000Rである。
果たしてこの金額。
いかほどの価値があるのでしょうか。
どなたか教えてくれませんか。
剣とか盾っていくらですか?
そもそも日用品とか、食料品の値段も知りません。
人参何本? お肉一切れいくら?
砂糖は。醤油は?
どれくらいの価値がありますか!!!
オレ!
この世界の物価がわかりません!
何が買えるのかもわかりません!
それなのに、値段を釣り上げてしまいました。
ジジイ・・・すまぬ!




