俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者 ～ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ～

第二部 北の世界 新たな冒険

第3話 戦闘の違いは？

　「大人しく捕まれ。ヒューム！」

　この暗い森の中で、体中にある赤い鱗が一際目立つ男性が走ってきた。

　ダッシュする姿は人間と変わりない。

　ワクワクするよな。

　あれ、人間だってよ。

　全然姿形が違うのにな。

　しかしここで、誤算が生まれていた。

　こっちの人たちの方が、身体能力がオレたちよりも良いのだろうと思いこんでいたんだ。

　でも、彼の動きであれば、オレの目で追える範囲だった。

　だから、こちらの大陸でもオレは戦えそうだと思った。

　まあ、そんなことよりもだ。

　気になるのは、相手の体だ。

　赤いし、顔の形なんかは蜥蜴に見える。

　だから獣人には見えないので、亜人種と呼ばれる人かもしれない。

　強さにはがっかりしているけど、めちゃくちゃワクワクしている。

　「レミさん、こいつ、亜人種だよな」

　オレの肩から移動して頭の上にいるレミさんは答えてくれた。

　「うむ、奴は蜥蜴族(リザードマン)じゃな」

　「リザードマン？」

　「うむ。そいつはじゃな・・・・」

　蜥蜴族(リザードマン)

　蜥蜴の特徴を持っているので、モンスターと見間違われてしまう。　

　亜人種の中でも悲しい人種らしい。

　体の色は人それぞれで、鱗だけは必ずついている。

　でもその鱗があるから、防御力が上がるとかいう特典がないらしいので。

　ちゃんとこの人も肩パットとか膝当てなどで、自分の身を守り防御力を上げている。

　見た目固そうなのに、大変だな。

　「大人しく捕まれ。ヒューム風情が」

　蜥蜴男は槍を振り下ろしてきた。

　オレに攻撃を当てるつもりならば、突きをすればいいものをと思いながら見つめる。

　「ほい！」

　あまりにも槍が遅いので、先端を指でつまんだ。

　「なに！？　ヒュームの癖に……ち、力が強い！？」

　オレのせいでビクとも動かない槍。

　敵が押したり引いたりを繰り返してもオレの手から槍が外れることはない。

　「あんた、脇が甘いぜ。それじゃあ、振り下ろすにも振り切るにも、あんたの力が槍に伝わらないぞ。勿体ないぜ。そのパワー！」

　「ふん。お前の方が甘いのだ。こ。これはわざとだ！　ルダー、いけ！」

　体が縦にも横にも大きい蜥蜴男が、その大きな体を使って小さな体の猫耳男性を隠していた。

　頭の上にある耳がピクピクと動いて可愛らしいけど、彼の鋭く長い爪が可愛くない。

　猫耳男性はオレの側面を取った。

　「んなわけあるか。囮でも手を抜いて攻撃してくる奴いるか。本気であってこそ、囮となるのだよ。蜥蜴男君！　つうことで」

　オレは、目の前の敵じゃなく、側面に入った敵の方を向く。

　「あんた、猫か！」

　「猫じゃない。豹だ！」

　「へえ。豹か・・・違いが分からん」

　「失敬な。ちゃんと耳の模様が違うだろ」

　「わからん！　できれば、猫さんの獣人と隣に並んでほしいぞ。ぜひ、見比べたい！」

　見たことのない顔立ち。その姿。

　オレの未知なる存在への探求心が止まらない。

　今のオレは楽しすぎて、最高の気分だ！　

　ここで、大冒険をしてるんだわ。

　「貴様、馬鹿にしやがって」

　「馬鹿にだって！？　ありえん。オレは今、新たな世界に飛び込んだ。そんな高揚感で胸が高鳴っているよ。テンション爆上がり中よ。猫の人！」

　「豹だ！！」

　敵は鋭い爪をオレの喉目掛けて振り抜いてきた。

　爪が喉に迫ってくる寸前でスキルを発動。

　「んじゃ、オレもあんたと同じ動きをしよう！　獣化(ビースト)」

　この人の動きは同系統。

　しなやかな動きと一瞬の瞬発力。

　行動の初速が速い豹である。

　ここでオレは昔に考えていたことが合っていると確信した。

　オレたちの獣戦士のジョブは、この人たちを参考にして作られている。

　子供の頃に読んだカイロバテスの昔話に出てきた人たちは架空のものじゃなかったんだ。

　実際に今、実物が目の前に現れてきてくれたことで、オレは新たな知識を得ているぞ！

　こんな所まで飛ばされちまって、ムカついていたけど、結果オーライだ。

　もっと旅して知識を増やしたいぜ。

　「か、躱された！？」

　「オレの動きに驚いてもらって嬉しいけどさ。オレもあんたの動きが速い事に結構驚いているんだぜ。って、ん！？」

　オレが豹の獣人の爪攻撃をジャンプで躱した直後。

　翼が生えている男がこっちに飛んできた。

　二対の短刀を胸で交差させるように持っている。

　「おお、鳥だね！　空を自由に飛べるんだ！！！　すげえ」

　「鳥じゃない。鳥人(バードストライカー)だ！」

　「へえ。ストライカーね。名前、カッコいいな！」

　「死ね」

　「いや死ねて・・あんたら、オレを捕まえるのが目的じゃなかったんか！」

　「うるさい。死ね」

　鳥の人は、突撃姿勢からクロスぎみに二対の短刀をオレに向けてきた。

　オレは空中にいながら抜刀。

　「桜花流　葉桜」

　敵の攻撃はバッテン印。

　だから刃が重なっている部分にオレは花嵐の剣先を当てる。

　葉桜の攻撃行動は、元々パワー系の一点突き攻撃である。

　しかし、その攻撃を防御に応用した。

　「ぐ。俺の短剣がこれ以上先に行かねえ。どういうことだ！？」

　敵は短剣を動かせなくなった。

　「悪いな。お三人！　こっから、ぶっ飛ばすわ。頑丈だといいな、死ぬなよ。明鏡止水」

　仙人の力を使ってオレは刀を反転させてから瞬間最大速度を出す。

　近場にいる三人の腹を刀で叩き、それぞれを別の木にまで吹き飛ばした。

　「おし。終わりだな。んじゃ、綺麗な瞳の人。どうする？」

　オレは彼女の目の前まで移動して話しかけた。

　狼狽えている瞳が左右に揺れる。

　「・・・・こ、この瞳は・・綺麗じゃ・・・ない」

　褒めたはずなのに、暗い顔をしたエルフの女性。

　憂いた表情がやけに気になってしまうが、オレとしてはこのままなのは都合が悪いので、大人しくなってもらおう。

　「とりあえず、悪いね。束縛！」

　鎖をマジックボックスから取り出し、スキルで女性を縛った。

　ついでにオレがぶっ飛ばしてしまった男性らも縛り、四人を大岩の脇に並べる。

　◇

　変な行動ばかりしてきた四人組の前で、胡坐を掻く。

　「それじゃあ、エルフの女性。話を聞きたい」

　唯一起きているエルフの女性に話しかけた。

　「・・・な。何も話すことなんてないわ」

　「どうして、オレを捕まえようとした？」　

　「・・・・」

　「最初、オレがヒュームって分かった時は捕まえようと思わなかっただろ？」

　「・・・・・」

　「はぁ」

　美しい金色の髪が横にも縦にも靡くことがない。

　返事をしない強情な彼女にオレはため息をついた。

　「話を変えよう。あんた、困っている人だろ？　何に困ってるんだ？」

　「・・・え？」

　「あんたの顔とか目で。雰囲気でなんとなしで分かる。あんた、絶対に困ってる人だ」

　「・・・・・」

　「また黙る。いい加減に話しなさいな。何に困ってる。オレが手伝ってやるよ。あんた、何でか知らんけど、お金が欲しいんだろ？　さっきの会話の流れからいってよ」

　「・・・・・」

　「おいおい。強情な人だな。どうしようか」

　この人の言葉や表情は、困った様子を出さないようにしているのだが。

　でも、この綺麗な透き通った瞳の奥に陰りが見える。

　何か隠しているような眼だ。

　「こいつらとの関係は？　グルだよな」

　「・・・」

　女性は口を真一文字にしたまま事情を話さない。

　頑なな決意だ。

　「はぁ。事情を言ってくれよ。ずっとこのまま女性を拘束するのは嫌だしさ」

　「…なんで私の事を知りたいのよ。あんたにとって、あたしなんてどうでもいいでしょ」

　「あ？　いや、こうやって出会っちまったら気になるじゃん。ほっとけないだろ」

　「あんた、馬鹿じゃないの」

　この状況で、強めの意見を言える。

　もうこれは強がり女性だわ。

　そっちが折れろよな。

　こっちが折れるのはなんか嫌だからさ。

　だって勝ったんだよ。

　負けたならオレが折れるけどさ。

　勝ったんだから、あんたが折れろよ。

　「ああ。馬鹿だよ。だから助けるって言ってんじゃん」

　「な！？　あんたね。今あんたを襲った連中があたしたちよ。だから敵同士でしょ。あんたとあたしは、知り合いでも何でもない！」

　「ああ。その通りだ。でもオレはね。君みたいな女性がね。悲しい顔をしてちゃ気になるのよ。人は曇った顔よりも笑顔でなきゃないかんよ。ん？　なんかこれだとナンパみたい言い回しで嫌だな・・・レオンみたいでいやだな！　オレはあいつとは違うんだけどな。クソ！！！」

　親友のニヤついた顔が、頭の中で浮かび上がり、若干ムカつく。

　「とにかくね。あんたの暗い顔が気になるのよ！　女性は笑顔の方がいい！　あとさ。あんた、オレが瞳を褒めた時になんで暗い顔をした？　訳アリだろ？」

　「・・・そ、それは・・・」

　言い淀んだ女性。

　オレの勘は当たっているようだ。

　引きつった頬、苦悩に満ちている瞳、歯がゆそうな唇。

　これらの表情だけでわかる。

　彼女の中に複雑な思いがありそうだ。

　とりあえず話してもらえそうにないので、切り替えることにした。

　「じゃ、もういいや。埒が明かないからこっちから提案しよう。オレってさ。あんたを手伝えると思うのよ」

　「？？？」

　「あんた。オレを捕らえて、どこかに売るつもりだったんだろ？　どこによ？」

　「・・・近くの都市に・・・・ジーバードの人間なんて珍しいからね。たぶん、捕まえて売れば、結構いいお金になるわ」

　「へえ・・・」

　思考加速で展開を予測。

　無数にある選択肢から、オレは一つを選んだ。

　「ほうほう。で、何であんたはお金が必要なんだ」

　「あ、あたしは。と、とにかくお金が必要なの。目標額まで集めないといけないのよ」

　「ふ～ん。目標額ね……よし、いいよ。オレ。あんたに大人しく捕まってやるからさ。オレの額をつり上げなよ。あ、その前に準備するから、ちょっと待ってな」

　オレは服以外のあらゆるものを緊急用マジックボックスにしまっていった。

　他のマジックボックスすらも一つにまとめる。

　「おし、これで捕まってやっから。この人たち起こすのを手伝ってよ」

　「はぁ？？？？？？？？」

　「町に連れていってくれるんだろ。近くの都市だっけ？」

　「はぁ？？？」

　「いいからいいから、オレを捕まえてお金ゲットしろって」

　「あ、あなた・・・あたしに捕まれば牢に入るのよ」

　「ああ。いいって、いいって。気にすんな。オレは牢屋を宿だと思うことにするからさ。そのかわり、オレのお金。カッコよく釣り上げてよね。価値ない男だったら悲しいからさ。頼むぜ」

　「えぇぇ・・・」

　女性は呆れた顔をオレに向けてきたが。

　彼女が出し続けていた敵意がここで完全に消えていた。

　めでたしめでたしである。