第13話 ルルロア隊長の苦労
バイスピラミッド組に不満があろうとも、オレがリーダーである。
でもどちらかというと、オレの方が不満を持っている。
だって、一級にもなって、なんでオレがお守りをしないといけないんだ。
独り立ちしてもいいでしょう。
でも、バイスピラミッドってのは、余裕をぶっこいて挑むようなダンジョンじゃない。
たとえ、一級が六人いようとも、このダンジョンを突破しようと思うのなら、準一級と二級のかなりの数を連れて行って、大勢で交代制でいかねばならない。
でもそんな無駄な事をしては、金を稼ぐのに効率が悪い。
多くの人間で行くと経費が掛かるし、それに準一級と二級を使うなら、ファルテの北にあるナタロー洞窟と呼ばれるダンジョンに各々でクエストを受けて挑戦してもらった方が成長と金稼ぎを同時に行う事が出来るからおすすめはそっちだ。
現に彼らには、レオンからの指示でそっちに行ってもらった。
それでこちらが問題となる。
パーティー七名で、バイスピラミッド。
隊列はオーソドックスにしたかった。
オレの言う事を絶対に聞かないマンが複数いるので、今回の隊列がおかしい事になっている。
現実がこうだ。
『騎士』ジャスティン 『魔法使い』キザール
『神官』スカナ 『聖闘士』マールダ
『無職』ルルロア
『ロックハンター』フィン
『重戦士』ハイスマン
である。
本当ならば、この並びじゃない。
オレが考えているのは。
『騎士』ジャスティン
『重戦士』ハイスマン 『ロックハンター』フィン
『神官』スカナ 『魔法使い』キザール
『無職』ルルロア
『聖闘士』マールダ
これでも完璧じゃない。
しかし、持ちうる戦力がこれならば、これしか考えられないんだ。
ジャスティンに最初から防御で入ってもらい。
敵の隙を突くのが、近距離だとハイスマン。遠距離だとフィン。
そんで負傷したらスカナが即座に回復を入れて。
前線の戦いが長引く又は大量の敵であったらキザールが魔法を出す。
オレが全体の指揮を執りつつ、背後の警戒をマールダにしてもらって、後ろがいないなら、彼女の速い動きで前線に出てもらう。
これがオーソドックスだ。
でも現実の隊列は悪い。
ジャスティン。キザールのツートップでは、パーティーとして何を機能させるつもりなんだ。
正直な話をしよう。
キザール。スカナ。ハイスマンって一級だよな。
その考えが三級クラスなんだけど。
こいつら、冒険者の戦い方を誰かから学ばなかったのか。
ギルドって、個人の実力と実績。
そして職業とかで決めている気がする。
細かい分野での査定がないから、冒険者としての戦い方を学ばずとも、出世が可能だ。
それに、こういう面での成長が少なくとも、あいつらも特級になっている。
特にイージスは絶対に出来ない。
あいつは個人技のみで特級になった稀有な男だ。
「キザール。お前は、前に出んな。魔法使いは中にいろ。ハイスマンの前でフィンの隣にいろって」
修正するとしたらそこが良い。
オレの最大限の譲歩案だ。
「うるさい。何故真ん中に陣取っている。貴様こそ、前に出ろ。臆病者が」
「臆病とかじゃないんだわ。先頭を歩けんのには理由があんの」
どうでもいい事で激論を交わさないといけないオレ。
めちゃくちゃ大変だと思っていると、後ろにいるハイスマンが話しかけてきた。
「どんな理由だ。雑魚が。結局は臆病者だろう」
「あのなぁ。前にも言ってんだろうが。やっぱ、お前らはあいつらの話しか聞けんのか」
こいつらって、オレの話だけは、右から左に聞き流すらしい。
レオンたちの言葉を聞く力の、一部でもいいから使ってくれ。
オレの言葉も心に留めてくれよな。
オレが真ん中にいる理由。
それは指揮もあるけど索敵がメインだからだ。
ダンジョンを歩く際。
オレって実は、高速でスキルを回して歩いているんだ。
『感知(臭)』『視野』『思考加速』
これらをグルグルっと回し続けるために、そっちに集中力を使っているから、オレの周りにはある程度の護衛を置かないといけない。
オレが戦おうとする際に半テンポ遅れるからだ。
スキル展開を早くこなすってのは、中々に難しくって、体をおろそかにしてしまうという欠点があるんだ。
だからオレは、好きで真ん中にいるわけじゃない。
オレの性格からいって、一番後ろで退却路を確保する方が性に合ってるから、意外にも無理をして真ん中にいるのさ。
◇
「隊長。奥!」
しばし迷宮を突き進むと、俺たちが歩いている迷路の奥をフィンが指さした。
「ん! 来たか」
「…はい! 数は10」
フィンは数少ないオレを慕う仲間だと思う。
正直、腹の中が分からないんだけど、少なくともオレのことを敵視しないだけありがたい存在だ。
ロックハンターの彼は、視野と視力が爆裂にイイ。
遠くにある物が近くに見えるくらいに、瞳に敵が大きく映るらしいのだ。
「敵は、チルチルか?」
「そうです」
「よし。戦うか」
ここはちょうど直線通路だから、背後だけを警戒すればよい。
だから、俺はここでスキルを使って背後を確認。
敵はなしだった。
なので指示はこのようにする。
「ジャスティンとマールダで押すぞ。キザールとフィンが援護。俺とハイスマンが後ろを念のために守る。スカナは待機だ」
がしかし、早速無視される。
俺の仲間はどうなってんだ。
これがオーソドックスな戦法なのによ!
◇
チルチルと戦おうと重戦士ハイスマンが勝手に前に出た。
一番後ろから前に出る無駄な動きだ。
「おい。ハイスマン。お前は後ろにいろ」
この隊列の場合だとハイスマンは背後のままがいい。
誰がどこに移動するかを、いちいち確認していかないといけないからだ。
「雑魚は黙れ。俺様がここで活躍して、少しでも階級を彼らに近づけるのだ」
「意気込むな! 一人で倒せるわけないだろうが。お前はな、相性最悪なんだよ」
「うるさい黙れ」
指示を聞かないハイスマンは、チルチルに立ち向かった。
チルチル。
名前はめっちゃ可愛いけど、戦いがド汚い兎系モンスター。
集団行動で冒険者を襲うのが基本スタイルで、応用スタイルとなると、怪我をした振りをして、冒険者を誘いこんだりしてくる知能犯的なモンスターだ。
スカララビットと呼ばれる兎系の亜種で、ラビット系モンスターでは、一番見た目が兎に近い。
ただし、青と紫が斑に混じっている体であるので、見た目がやや派手なのが特徴だ。
「こいつは足が速えんだから、お前じゃ役に立たん。ハイスマン! 下がれ」
「うるさい雑魚が。俺様がここで戦う」
言う事を聞かないハイスマンの攻撃は、オレの予想通りで、全てが空振りで終わる。
何回振っても、一回も当たる気配がない。
鈍重タイプの重戦士では、チルチルの速度に対応するなど、百万年かかっても無理。
そこを知っとけ。ハイスマン!!
ここで無口なジャスティンが叫んだ。
「『引き寄せ』」
スキル『引き寄せ』
モンスターを一定時間、自分の周りに引き寄せる技。
騎士ならではの技だ。
ジャスティンは上級騎士でもないのにこれを使いこなせる。
つまり、彼の修練はとんでもないのである。
俺と似たタイプの修練を重ねる男なのだ。
そして、ここから彼は、続けてスキルを発動。
さすがはジャスティン。
オレとは違って、スキルの同時発動はお手の物だ。
「『釘付け』」
スキル『釘付け』
モンスターの視線を一定時間だけ自分に集中させる技。
これまた騎士系統の技である。
敵の体も目も、ジャスティンは縛った!
「よくやったジャスティン!」
「・・・・」
オレの言葉に返事はしないが、無骨な男ジャスティンは頷いた。
「これなら、キザール。フィン。頼んだ。それとマールダ。敵が残ったら、最後に決めてくれ」
指示を出すと同時に、三人が動き出してくれた。
がしかし、文句を言うのが一人。
「指図するな。無職がぁぁぁぁ」
オレに怒りながら、キザールが『ファイヤーボール』を連射。
チルチル三体の顔を焼いて絶命させる。
「隊長、わかりました」
素直なフィンが、『ロックオンシュート』を発動。
五連矢を敵に浴びせ、チルチル五体の喉に矢が刺さる。
この正確性がフィンのハンターとしての才能だ。
スキルが凄いのではなく、フィンが素晴らしい。
これで十体出てきた内の八体を撃破。
残った二体を。
「私が出ましょう。『聖拳』」
マールダが仕留めようと動く。
彼女の右拳が光っていく。
聖闘士である彼女は、回復魔法を扱える武闘家だ。
かなり珍しい職業である。
彼女の回復魔法は、効果を反転させることでき、その反転した力を持ってして、敵の身体の内側を破壊する。
それが『聖拳』の基本攻撃だ。
回復と攻撃と防御をハイレベルでこなすことが出来る職業聖闘士は、特殊職に分類される。
マールダは無数の連打で二体を撃破した。
これで何とか、全体で敵を全滅させることが出来た。
でもここからは、この素材を確保しないといけない。
モンスターは、死亡から消滅までの時間が短いのだ。
長くても三十分はない。
だから素材を剝ぎ取るか、アイテムボックスで保管しないといけない。
「よし。よくやったぞ。みんな、さすがだ! ほんじゃ、オレが素材を取るから、ちょっと待ってくれよ」
「なに!? 手柄を独り占めしようとしているんだな」
「キザール。頼むからそう突っ掛かるな。オレがやった方がいいの。お前じゃ、この素材。無駄になるのが決まってるんだわ。おれにやらせとけって」
進んで下働きするって言ってるのに、何故かキザールが対抗してきた。
「邪魔だ。私がやる」
といったキザールが勝手にモンスターを剥いでいった。
こいつはクソ不器用で、モンスター1体分の素材を、少なくしたなんてもんじゃない。
チルチルの遺体が何も残らずに、跡形も無くこの世から消えてしまった。
「どうやったらこうなるんだよ。お前は不器用か」
「黙れ! 無職が」
「はぁ。しゃあねぇ。フィン。手伝ってくれ。それならお前も文句ないんだろ。オレが一人でやるから気に食わんのだろ? キザール。それで手を打ってくれ。頼むわ。このままじゃ、せっかくのチルチルが全部なくなる!」
「ふん」
キザールがあっちを向いた後、オレの背後に立ったフィンが。
「隊長。わかりました」
了承してくれた。
オレが、モンスターの素材を剥いでいくと、これをフィンが真似てくれた。
彼もオレと同じように次々と剥いでいく。
かなり器用だ。
「おお。フィン! お前、こいつを剥ぐのは初めてか?」
「そうです」
「そうか。でも上手いな。お前は器用だな」
「いえ。隊長ほどではない」
「そうか・・・でもまあ助かったぜ。さすがだ。ロックハンター!」
「・・・・」
照れながらフィンは笑ってくれた。
普段はみんなと会話する時に少しだけ喋るフィンだけど、オレと会話する時は緊張しているのか、あまりしゃべらない。
でも、会話を普通にしてくれるタイプであるから助かる。
そんな穏やかな会話をしていたオレたちの背後にマールダが立った。
「隊長。あれを! 勝手に行こうとしてます」
「は!? え!?」
マールダが指さした方向を見る。
ハイスマンたちが勝手にダンジョンの奥へと進んでいた。
「馬鹿か、あいつら。次の鉱石なんて、それこそオレがいないと取れんだろうが・・・それにこのダンジョンを舐めんな。馬鹿共が」
「どうします。隊長」
マールダが不安そうに聞く。
マールダもフィンと同じように隊長と呼んでくれて、普通に接してくれる貴重な一級冒険者だ。
「そうだな・・・マールダ! お前が、あいつらについていって無茶だけはさせるな。あとから、オレとフィンが追いつくために、ダンジョン内に念のための目印を頼むわ。追跡系のスキルを使えない時とかに追いかけられないかもしれないからさ」
「わかりました。いってきます」
「おう。わりいな。すぐに追いつくから」
ぺこりと頭を下げたマールダがあいつらの後を追った。
「隊長、よろしいので?」
フィンも少し不安そうだった。
「ん?」
「あいつらだけで、このダンジョン。大丈夫でしょうか」
「まあ、鉱石の位置くらいまでは大丈夫だろう。あいつらもそんなに馬鹿じゃないはずさ。危険だと思ったら引いてくれるよ」
「そうでしょうか・・・」
オレとフィンはモンスターの素材を取りながらそんな会話をしていた。
素材を全て剥ぎ取った後、すぐにアイテムボックスに全部収納。
オレのアイテムボックスは、おそらく道具屋さんたちのスキルよりも高性能であると思うんだ。
なぜなら、種類別に小型化が出来ていて、しかもその許容量が半端ない。
巨大なボス素材も簡単に中に入れることが出来るものに進化している。
まあ、たとえアイテムボックスに入らない素材があったとしても、オレの所持重量アップのスキルも強烈で、デスジャイアンの本体を一人で運び出せるほどの重量範囲を誇っている。
オレはここで思う。
なにげに、オレのスキルって結構やばいような気がしている。
職人気質って恐ろしいんだわ。
オリジナルを極める事が出来るって話だったけど、これはオリジナルを超えて覚醒しているようにも思うんだ。
進化じゃ、言葉が足りない気がした。
これはレオンたちには、内緒にしておこう。
なんだかオレも、あいつらと同じくらいの化け物みたいに聞こえるからだ。




