第1話 魔大陸に落ちた希望の星ルルロア
ジークラッド大陸の東。
森林地帯にある遺跡都市『パスティーノ』
過去にこの都市を支配していたのは、エルフの王であった。
今は解放軍の四天王『クヴァロ』が管轄する都市の一つとなっている。
解放軍に属していた者たちがこの都市では栄誉市民となっていて、彼らは胸に解放の象徴『魔の角』と呼ばれるバッジをつけている。
これで普通の市民と見分けていた。
普通の市民とは、元々この地に住んでいる者たちの事で、ここには様々な種族がいるが、エルフやドワーフが主な者たちだが、極めて地位が低い。
以前にここを支配していたエルフの王が解放軍に負けたことで、地位が下がってしまった。
これは第三次南北魔大戦において、連合軍が解放軍に事実上敗れた結果での事だ。
事実上と言われているのは、表向きは停戦となっているからである。
◇
澄み切った空気。美しい雲一つない青の風景。
オレは舞う。
空を舞う。
そう鳥のようにだ。
両手両足を広げて、素晴らしい風を感じて・・・・。
オレは新世界に到達した!!!
「ぐおおおおおおおおおおおおお。死ぬウウウウウウウウウウウウウウウ」
新しい世界の扉を開いて、新たな世界を受け入れて、産声を上げるオレはまさに・・・
なんて冗談を思ってる暇がない。
奇声を上げ続けるオレは、現在絶賛落下中だ。
落下の風を全身で受け止めている。
もはやこの風。
こいつは間違いない。
死の風だ。
こんな勢いで地面に着地したら、オレの体はこの世にないです。
跡形も無く、木っ端みじんとなるでしょう。
・・・なんて嫌な天気予報をしている場合じゃない。
想像したらめちゃくちゃ怖くなったぞ。
「頑張れじゃ。頑張れじゃ!!」
オレの頭の上で踊るレミさん。
あなたの薄紫の体はこちらでも薄紫でしょうか!
あなたの顔を見る余裕もないのですよ。
それよりもだが、やかましいったらありゃしない。
レミさんは、こちらに来てもやかましいのは一緒だった。
「クソ! ムカつくわ! 誰のせいでこうなってると思ってんのよ! あんたはさ」
「余のせいじゃないのじゃ! 余。気付いたらルルの体が光に変わっておったのじゃ」
「ああ。そうでしたね。ああ、そうですよね。でもよぉ。あんたのせいじゃないことはわかってるけどね。正直ムカつくのよ。なんも考えていない頭空っぽの応援がさ。頭の上で繰り広げられちゃあね。めっちゃムカつくし、めっちゃうるさいわ!」
「ムムム、せっかく余が応援しとるのに・・・なんて奴じゃ。このこの」
ポコポコ頭を殴ってくるレミさんを無視して、オレは色んな思考を張り巡らせる。
持ちうるスキルを駆使してもこの自由落下は止められない。
むしろ加速していくオレの体に恐怖するしかなかった!!
「ああ、思考加速がままならねえ。死の恐怖で、スキルが上手く発動してないのか…どうしよう」
「ルルじゃ、あっこに降りるのはどうじゃ」
オレの肩に降りてきたレミさんが小さな羽で指さす。
「あっこ??? ああ、あそこの森ね」
オレは、猛烈な風を感じながら大陸の東端にある森林地帯を見た。
レミさんが指し示したのは、深緑の濃い木々に囲まれている場所の一際目立つ大きな木だった。
「そうか。あのでけえ木にぶつかりながら、速度を落として地面に落ちろってことか」
「そうじゃ。余と一緒!」
「ああ。そうだな。あの時のレミさんは、木に引っかかって逆さ吊りで間抜けだったな・・・・って、オレは無理。この勢いであそこに落ちたら、オレの体・・・飛び散るぞ! 色んなもんが飛び散る!!! あの木の周辺が地獄絵図になるぞ」
「むむ。じゃあ、どうするのじゃ」
「空中・・・空中・・・」
オレが空中で使用できるスキルを羅列していく。
あれだこれだと検索し続けて、今の状況に合うスキルはこれしかなった。
「足場だ!」
しかしこのスキルは落下に対応するスキルじゃない。
あれは、空を駆け登るためのスキルだ。
「ああ。でも。応用できるよな。ホッさんが言っていたのはイメージ。ならば、足場を究極に柔らかくして、そこにオレの体をぶつけて落下速度を落とす・・・・なら、その足場のイメージは・・・・」
イメージはふわふわクッション!
出来る限り足場を柔らかくして、オレは空から落ちることを決めた。
「足場!」
目の前にイメージした足場を出す。
それとぶつかるオレは・・・
「ぐあは・・・まだかてえのか・・くそ、こんなのにぶつかりまくったら、すぐに死んじまうわ」
凄まじい衝撃に腹を痛める。
クッションをもう少し大きくて柔らかい物を作らなくてはならないようだ。
だが、オレの落下速度は少々遅くなった気がする。
「こ、これは速度を下げるのには成功してるよな。ならもっと柔らかく・・・」
オレは連続で同じ行為を繰り返した。
「足場!」
「ごわ」
「足場!」
「ぐへ」
「足場!」
「ご!」
「足場!」
「どべ」
こいつは全身青痣確定だ。
肩も腰も膝もあらゆる箇所が足場とごっつんこだ!
でも、確実に落下速度は変わった。
死の風には感じない。
「もういっちょだ。レミさん。あの大きな木にぶつかんぞ」
「おうなのじゃ!!! やってみろじゃ!!!」
「おっしゃ。いくぜええええええ。どべ! ぐお! が! どわ! イテテテテ」
最初、顔面が木の枝にぶつかり目を回した。
そこから、あちこち大きな木の枝にぶつかりながら落下していく。
木からの落ちるだけでも衝撃は凄まじく、目の前が真っ暗になった。
「お、おれ・・・い、生きてんのか・・・・」
たぶん枝に落ちたっぽい。
ギリギリでオレが引っ掛かってる気がする。
「生きてるのじゃ!」
レミさんの声が聞こえたからこの世にはいるようだ。
「おお。マジか。あの高さから・・・助かったのかよ」
レミさんはまだオレの頭の上で楽しそうに踊っている。
正直ちょっとムカつきながら自分の傷を確認している。
「体は・・・まあまあか。結構傷を負ってるけど、ギリギリ生きてんな。ラッキーだわ。レミさん、オレの体見てよ。ほら。っつ。いてえ。会話よりも応急手当が先だな」
「そうじゃ。痛そうじゃ。急げじゃ! 急げじゃ! 回復じゃ!」
うるさいレミさんをほっといて、オレはスキルを使用して、傷に包帯を巻いて体力と傷の回復を優先した。
しばらくして。
応急手当のスキルでだいぶ回復させることが出来た。
落ち着いて辺りを見るとオレとレミさんは、大きな木の枝に落ちていた。
この木から見える景色は遠くも近くも木だけ。
ここは薄暗い森の中だった。
「木だな」
「木じゃな」
「木しかないな」
「木しかないのじゃ」
「ここ、どこよ?」
「どこじゃろな」
「あんたさっき、聖なる泉の時は説明してくれたよね? ここは、なんていう場所なの?」
「知らんのじゃ! あそこ以外、余は地図を覚えるのが苦手なのじゃ」
エッヘンみたいなポーズを決めてきた。
無性に腹立つ。
「マジかよ。何この人、全然役に立たねえじゃん。オレ、ジークラッドの情報何もないんだよ。あんたが頼りじゃんか。何も知らねえって。マジで役に立たねえな。あんた本当に神鳥なのかよ!」
「役に立たないとはなんじゃ! ルルは余の知識がないと生きられないのじゃ。余がいないと寂しいじゃろが!」
その知識を教えてくれねえじゃねえか。
つうか。
本当は知らねえんじゃなねえの。
「あんたいなくたってな。全然寂しかないわ! それより、あんたにさ。ここの知識がねえのがおかしいんだよ。ここにいたことあるくせに、地図くらい頭に入れておけよな。それじゃ、ただの喋るだけの頭空っぽのアホ鳥じぇねぇか・・・それに朝からうるさい鳥だしよ。ただの目覚ましアホ鳥で確定だぜ」
「おおお!!!! 言うてくれるのじゃ。そんなこと言うともう二度と起こさないのじゃぞ」
「ああ、それで結構だ。むしろ助かる。毎朝起こされてたまったもんじゃないからな。アホ鳥!!」
「なんじゃと、このオタンコナス坊主!!」
「あああ」「あああ」
鳥とオレの不毛な睨み合いは続く。
しかし、オレを端目から見たら変な奴確定なのである。
だって鳥と喧嘩して、そいつとにらみ合いを続けている奴なんて、この世界中どこ探してもオレだけだろう。
なんて考えていると。
「きゃあああああああああああああああああ」
女性の悲鳴が聞こえた。
第一部の英雄たちとの出会いと別れ編から、こちらの魔大陸に舞台を移します。
第一部は、皆がまだ未熟でした。
それは、ルルを始め全員です。
グンナーやホンナーも。
英雄たちも、アマルたちもです。
そして第二部は、世界の謎の部分のお話です。
ルルロアの大冒険の話で、解明されていきます。
謎の『神鳥レミアレス』
光のカーテン『ファイナの洗礼』
の謎もそこにあります。
それと第二部の方で、ルルが心身共に成長しますので、楽しんでもらえたら嬉しいです。
ルルも、まだまだ未熟でしたから、成長の余地があります。
よろしくお願いします。




