プロローグ ルルロアへ
ここからは、ロア王国の年表により物語を振り返りながら、これからを紹介しよう。
ジャコウ大陸に出来た初の国家『ロア王国』
暦をロア歴としている。
この暦は癖があり、建国時が元年ではない。
ルルロアが消失してから、彼を救うために皆が動き出した年を元年としている。
建国時ではないのが要注意である。
ロア歴元年
【英雄の希望の星『ルルロア』消失】
人類の希望の星『ジェンテミュール』の消滅も確認。
ジョルバ大陸のホームに、メンバーが誰一人いないことで、世間の認識は消滅だとされたのだ。
【黒衣の騎士がテレスシア王国を支配していく】
魂を抜き取られ、お飾りとなったディクソンとその配下の騎士団長シャオラ。
この両名を上手く使うことで、テレスシア王国での地位を確保して、魔王ヴィランは支配力させていき、ジョルバ大陸全体を掌握していく。
【ジョルバ大陸の冒険者ギルドの崩壊】
ギルド職員と冒険者ファミリーアルメシアの大陸脱出が失敗したことから始まる。
飛空艇離着陸場にて彼らの全滅を確認している。
最後に人類の希望であるジェンテミュールの英雄が生きていることだけは確認できた。
それが彼らのせめてもの救いであった。
しかし、これにより残り三大陸にあるギルドに、ヴィランの情報を共有させることが出来なかった。
これが後の世に響いてく。
【新たな対抗勢力】
ジョルバから逃げ伸びたテレミア王国のゲルグ王と剣聖アマル。
侍の里の新たな頭領ブランは、ジョー大陸で国の要人育成にかかる。
それにより、前より強固な軍を編成していった。
それと、ジャコウ大陸との協力関係も築く。
ルルロアの師グンナーと情報を共有するために、ヨルガとエラルを派遣。
二つの大陸の話し合いの結果。
ルルロアと関わった者たちはルルロアを救出することを決めた。
それが敵の思想を打ち破る鍵であると信じたからだ。
無職が英雄を打ち破れば、世界は気付く。
人は、英雄職が偉いわけじゃない。
英雄職だから、人が優秀なわけじゃない。
人は皆、誰もが英雄となれることに気付いてくれるはずだと。
ルルロアの無事を願う仲間たちはそう考えたのだ。
そしてこの話し合いの後。
大王フレデリカの意思を確認。
彼女もまた彼を救うため、世界を守るため、彼女は王となることを決意した。
ここから各長たちへの根回しが始まる。
【ルルロア救出隊の結成】
ルルロアの父ルクスを頂点としたルルロア救出部隊が結成される。
生き残っていたジェンテミュールのメンバーが軍と掛け持ちでこの部隊に入る。
英雄たちはここで自分たちを見つめ直す修行を開始した。
ルルロアの救出や、魔王ヴィランと戦うには、自分たちの力が足りないとも考えていた。
ロア歴二年
【魔王ヴィランがテレスシア王国とジョルバ大陸を完全掌握】
彼は勢いのままジーバード大陸に宣戦布告する。
それに対して、徹底抗戦の構えを取ったジーバード大陸は、ここより一年半の長きに渡る戦争をする。
冒険者ギルド、ジーバードの民兵。
双方が協力しあい必死の抵抗をした。
そして、これらの戦争情報を逐一東の二大陸に報告していたのがエラルである。
彼の詳細な報告は、この戦いの期間計算ができるほどであった。
その仕事の最中、リングロードと協力して、彼はシエナ家の保護をする道を作った。
【英雄職マスターハンターのシエナ】
ジャコウ大陸へ避難。
ルルロアとの約束を守ったフィンが彼女の師匠となる。
彼女の能力は凄まじく、あっという間にフィンを上回る。
フィンと結婚したマールダにも育てられているため、彼女は冒険者に必須の戦闘バランス感覚を得ることになる。
わずか10歳の少女ではあるが、超一流の冒険者となった。
ロア歴三年
【クレセント王国が誕生】
それとほぼ同時に東の二大陸を侵攻するために船団を派兵。
大型船三隻ずつが東の二大陸を襲う。
だが、その情報を事前に掴んでいた東の二国は悠々と撃退に成功。
ジョーの侍部隊。ジャコウ大陸のグンナー軍。
これらの力は、敵の先発隊を一瞬で壊滅に持っていくほどに強かった。
まさか、ここで躓くとは。
思いもしないクレセント王国は、ここから内政に力を入れて、軍を整え始める。
【ロア王国建国】
新たな王の誕生に人々は熱狂した。
この頃より、西の大陸が統一されたことを東の二大陸の国民が知る。
なので、両国の国民は、この二大陸間同盟を心から喜んでくれた。
両国の国民は、自分たちの置かれた状況を理解してくれたようだ。
ロア王国は。
国王をフレデリカ。
宰相をホンナー。
軍大将をグンナー。
として、盤石の態勢を整えた。
内政は引き続き、各長と協力しあい大臣などをその中から選抜。
その上で新たな人材を得るために、日曜学校とも協力していく。
軍部はグンナーの指揮権がさらに上がったことで、より強固な部隊が迅速に出動できるようになった。
王となってしまったフレデリカの心を支えているのは、彼女の友のジャックとクルスである。
二人は、親衛隊に入ることを快く引き受ける形となり、元々の従者の頃よりも、より一層の忠誠を誓う戦士となっている。
そしてその親衛隊の隊長を務めるのは、クレセント王国から脱出に成功したレックスである。
レックスは、クーデター事件の当初から、ジョルバ大陸に潜んでいた。
王と別れてすぐ敵から逃げることには成功していた彼は、その時に負った傷が思った以上に深く、傷を癒すまでに時間がかかってしまった。
そうなると、敵の魔の手は真っ先に港に向かっていて、脱出口を確保できなく、別大陸の移動が叶わなかったのだ。
だが、彼は諦めずに脱出に挑戦していた。
いくつもの試行錯誤の結果。
ジョルバとジーバードの戦争に紛れて移動することを決意し、そこから色々あってジャコウ大陸に上手く潜入する形で逃げ伸びたのである。
レックスは姪っ子の立派な姿を見る度に涙を流しているのだそう。
厄介オジサンになっている。
ちなみに親衛隊の副隊長はホイマンである。
ロア歴四年
クレセント王国は二大陸を支配している事と飛空艇を四機所有していることから、以前よりも強い経済基盤を得ることになった。
それは東の同盟二か国が協力し合っても追いつけないほどの勢いの成長力であった。
ここでなぜ、クレセント王国が飛空艇を四機所有しているのかというと。
150年停戦の式典祝いの為に二機の世界を回る飛空艇がジョルバに留まってしまったのだ。
さらに、元々テレスシアが持っていたものと、ギルドが持っていたもの。
この二つもこちらに残ったために四つとなった。
なのでクレセント王国は、この四機をフル活用したのだ。
海が邪魔をしようにも、人と物資の移動が容易となる現状は、まさに隣町に行くくらいの気軽な移動感覚である。
それに対して、東の二か国は船がメインの移動方法。
これでは、いくら船の航行の頻度を上げたとしても西の経済には対抗できない。
そこで、活躍したのがシエナ家だ。
彼女の父が所有する会社は、エラルの機転により、社員ごと逃げることに成功していた。
なので、そのままジャコウに新会社を設立できたのだ。
その会社は、以前は車会社であったが、二か国の協力を得て、飛空艇を製造することを決めた。
それに運航会社まで作り上げることに成功したので、シエナの父のおかげで、二か国も負けぬ経済を得ることになる。
この会社は、三年程で大型飛空艇二機を作り上げ。
翌年には、二か国の経済は西に対抗できるほど成長したのである。
ロア歴五年。
歴史は大きく動き出そうとしている所だった。
ファイナの洗礼の研究に勤しんでいたヨルガが、ついにミニファイナの洗礼の作製に成功。
エルミナとミヒャルの全面協力でついに完成したのだ。
そして、この成功から、巨大なファイナの洗礼を解除する方法を三人で模索していた所に。
事件は起きた。
それが・・・。
◇
フレデリカが王となった日からさらに二年が経った頃。
緊急事態が発生した。
それは、今日もサボるかとのんびり屋上で昼寝していたリョージから始まる出来事だ。
「ピ―――――――――――ザ―――――――――・・・・これ聞こえるかな・・・・リョージさん・・・・・おれ・・・です・・・・リョージさん・・・ルルロアです・・・リョージさん、イヤリングしてないかな? 外してるか?」
「……ルル!? ルルか! お前どこにいるんだ」
リョージのイヤリングが光る。
辺りを見渡すリョージの目には彼の姿は見えない。
だが声は聞こえた。
「ザ――――――――――・・・・あれ、一方通行かな。声がきこ・・・えない・・・・・リョージさんに届かなかったか・・・失敗かこれ・・・・・それとも返事してくれてるのか?」
「おい。やばい。やりとりは出来ないけど、ルルの声が聞こえるぞ!?」
自分一人で聞くわけにはいかないとリョージは慌てて指令室に入った。
「グンナーさん。大変っす。聞いてください」
「は? お前が慌てるって・・・なにごとだよ」
優雅に紅茶を飲んでいた。
リョージだろ。
慌てる事なんてないだろうが。
と思っていた。
「いいから聞けって。そんな暇ないっす。ほら」
リョージの言葉遣いが酷くなっていたが、彼の慌てている様子から怒る気にならないグンナー。
訝しげな表情のまま彼に近づく。
「ザ――――――――――・・・・・まあ・・・一方的に話すよ・・・リョージさん・・・聞いてるかな・・・聞いてたらいいな・・・・・・あのさ・・・オレ、今さ。ジークラッド大陸に・・・・あ、この言い方じゃ、リョージさんにはわかんねえよな・・・・えっと、そっちの言葉だと・・・魔大陸って場所にいるからさ・・・オレが無事に生きてるよって師匠と先生に伝えて・・・・・・くんないかな・・・・・」
「おい。ルル! おい」
「聞こえないみたいなんですよ。司令」
「会話できねえのか!! くそ。話がしたいな。もどかしい。こっちの言葉、届けよ!」
二人はルルロアが生きていることに安心した。
でも彼と会話がしたくて仕方なかった。
「・・・ピ――――――・・・・いやそれでさ・・・・オレの事を探さないでくれって・・・・レオンたちに伝えてほしいんだけど・・・・オレ、勝手に帰るからさ・・・・ザ―――――・・・リョージさん、あいつらに会えるかな?・・・・あいつら、ジャコウに立ち寄るかな?・・・・ああ、あとさ、もう一つ重要でさ・・・・四大ダンジョンの、それぞれにある鍵を見つけてくれって伝えてほしい。そっちでは鍵が重要なんだ・・・・まだこっちで用事があってさ・・・・・そっちにいけないから、あいつらに鍵を頼みたいのよ・・・・・・・あとさ、今は、ファイナの洗礼を破らないでくれ。これには深い理由があるんだけど・・・・・・あ、そっちはヨルガさんって人に伝えてほ。ザ―――――――」
声が途切れた。
「クソ! 何が何だかわからん!」
「大丈夫っす。今の言葉をメモしてます。書き写しというスキルで、俺のこのノートに! ほら。イメージだけでノートに文字を送れるんですよ。めっちゃ便利でしょ」
「おお。有能だなリョージ」
「うっす。給料アップお願いします」
「屋上でさぼらんかったらな。考えてもいい」
「ええ~~~。うそ~~~ん。今の凄い給料アップポイントじゃないのぉ」
深刻なルルロアの会話であるが、何故か二人の会話は給料の話にすり替わったのであった。
しかし結局、ルルロアの置かれている現状は分からずじまいだった。
だが無事である事だけは確認されたのだ。
ひとまず皆を安心させた大事件だった。
物語はここからルルロアへと戻る。
第一部が、プロローグみたいなものなので。
ここはエピローグじゃなくてプロローグにしました。
長い話になりましたが、ここからが大冒険の始まりです。
ルルロアの冒険者としての旅が始まります。




