第八話 生きていると信じている
マーハバルに到着したジェンテミュール一行は、ここで会わないといけない男に会いに来ていた。
それはルルロアの師である。
「なんだなんだ。レオたちじゃないか。え??? あなたは・・・」
グンナーは、久しぶりに訪ねてくれたレオンたちに喜んでいたら、一人異質な人物がいることに気付く。
「お! グンナー! お前が、まだここの司令官だとはな。ガハハハ。やったな。よくやってるぞ!!」
「えええええええええ。ル、ルクスさんじゃないですか!?」
かつて、ルクスとグンナーは上司と部下の間柄であった。
それを知らない英雄たちは四人一緒になって、声を出さずに口を開けて驚いている。
「久しぶりだな・・・変わらないな。此処は」
ルクスは、久しぶりに訪れた施設を懐かしみ、辺りを見回した。
訓練所に宿舎。
屋上でも土煙が舞っていたので訓練している様子が見えた。
「え!? それに……ロアナさんまで、なぜここに!?」
続けてグンナーは彼の後ろにいた女性にも驚いた。
「ええ。久しぶりね。グンナー。元気だったかしら?」
「は、はい! お久しぶりです。ロアナさんが訪れてくれるなんて、なんか嬉しいですね」
いつも偉そうにしているグンナーが、今や腰が低くなって地面に着きそうになっている。
彼は自分の指令室に、英雄とルルロアの両親を呼んだ。
それ以外の者たちは、軍の宿舎で休んでもらい、話し合いに入った。
◇
事情を聞いたグンナーの第一声は、見当違いであった。
「ルルが・・・ルクスさんとロアナさんの息子だって・・・し、知らなかった」
「そこに驚くんですか。グンナーさん」
隣にいるルナが誰よりも早く冷静にツッコミを入れた。
「それよりもルルが消えたというのが大変なことでしょ」
さらにまともな意見をあのルナが言った。
あのルナがである!!
彼女はお茶を一口飲むと、驚きで止まっているグンナーの頭を叩いて、早く話をしましょうと言った。
「ああ。悪い。悪い。まさかルルが、ルクスさんの子供だと思わなくてよ。驚いちまったわ」
「グンナーさんはルルの親父さんの知り合いだったんですか?」
レオンは聞いた。
「おう。俺が新米の頃からお世話になった隊長だ。俺たちの同期の中じゃ最も有名な隊長。伝説の人。『鋼鉄大将』と皆から尊敬された人だ」
「鋼鉄大将????」
エルミナは首を傾げた。
「ああ。ルクスさんって、ジョブは普通の戦士なのに、異常なまでに体が強かったのよ。それに、ルクスさんは戦士なのに武闘家のように武器を持たずに拳一つでひたすらモンスターの中に突っ込んでいく人でな。なりふり構わず殴り倒していくんだ。あとはな。味方がもらうはずだった攻撃を全て受け止めるのでも有名だな。それなのに戦場で傷一つ負わない姿で帰ってくるもんだから、伝説の隊長と呼ばれていたのよ」
要は、頑丈なだけのただの馬鹿である。
「だからルクスさんは、その戦いぶりから鋼鉄大将という異名がついて、あとどんなモンスターにも気持ちで負けない人だったからな。あとこちらのロアナさんは、俺たちの宿舎のマドンナだった人。宿舎の料理を作ってくれていた人だ。綺麗で、優しい。とても人気の人だったんだぞ」
「「「へ~~~」」」
「zzzzzzzzz」
三人は驚いて、イージスは寝ていた。
「んな昔の事はどうでもいいんだ。それよりもグンナー。俺の息子が魔大陸に行っちまった。どうやったらいける?」
「ルルが?? 魔大陸だって!?・・・・いや、どうやったらって・・・それは分からないですね。いや。待てよ。たしか魔大陸については。ルルが以前から調べていたって兄貴から聞いたことがあるな」
「以前からだと。それにお前の兄貴。なら、あのホンナーか!」
「ええ。ルクスさん、兄貴をここに呼びますね。ルナ、急いで連れて来てくれ」
「わかりました。走ります」
ルナは音も無く、走って行った。
◇
緊急で連れてこられたホンナー。
ルクスからのいきなりの会話でも対応していけるのがホンナーであった。
「ホンナー。魔大陸に行くにはどうすればいい。ルルから聞いていたのだろう?」
「え!? ルクスさんがなぜここに!?」
気が動転してもホンナーは話を続ける。
「まあ、それはいいですが。そうですね。答えましょう。ルル君は魔大陸に行く方法を模索していました。その過程で、ファイナの洗礼の研究している方とお友達になったそうです。え~、ルル君の協力者の方のお名前は、たしかヨルガさんという方ですね。書いてくれた手紙には、その名前だけが書いてありました。ですが、逆に言うとその情報しかないんですよね。どこにいるかとかは手紙に書いていなかったもので・・・困りましたね」
「ヨルガだな。よし。探すか!」
すぐに行動に移そうとする。
「あなた、待って。それだけじゃ無理よ。ここでじっくり考えてから行動を起こしましょう。ここには、優秀なホンナーとグンナーがいるんです。冷静になって作戦を練りますよ。あなたは無鉄砲なの! それでは、ルルを助けられません! 大人しくしなさい。みんなの話を聞きなさい」
「あ・・・・はい」
珍しく静かに怒る妻に大人しくなるルクスである。
実は、これは昔からであるが。
この夫婦は、旦那に振り回されているようで、根っこは妻が舵を握っているのだった。
ルルロアも母には勝てないので、家族全てに勝利するのがロアナである。
「グンナー。ホンナー。力を貸してください。私の息子を救うのに。どうか」
ロアナは丁寧に頭を下げた。
「ロ、ロアナさん。頭をお上げください」
「息子??? ルル君が??? え、え、お二人の?????」
ホンナーはグンナー同様。
ルルロアが二人の子であることを知らなかった。
日曜学校は、身分などの違いを生み出さないために、入学する子の情報はジョブとタレントのみが記載事項しかないので、誰それの子供とかの情報は全く知らないのである。
だから、ホンナーもルルロアの親のことは詳しく知らなかったのだ。
ホンナーが今までの一連の出来事を聞いた後。
休憩中。
ホンナーの隣にいたエルミナがお茶を持って来てくれた。
「先生。はい、お茶ですよ」
「あ。ありがとう。エルミナ君。君は相変わらず優しいですね」
「いえいえ。先生お久しぶりです」
「はい。そうですね。元気でしたか。ルル君と別れたと聞いて、私は君たちを心配してましたよ」
「はい。半分は元気になりました。おじさまのおかげです」
「そうですか。さすがはルクスさん・・・ではその残り半分の元気を取り戻しましょうね」
「はい!」
ホンナーはどんな時でも生徒が第一である。
◇
作戦の立案は難航していた。
それは、ファイナの洗礼についての情報がない事。
それと、その詳しい情報を得ている人物の名しか分からない事である。
断片的なものでしか情報を得られていない事が、この救出作戦の方向性を確定できない一因であった。
「兄貴。兄貴ならどう考える」
「そうですね。私はルル君の思考から考えます。その鳥との会話が正しいとするならば。ルル君ならば、未知なるものに挑戦することに揺るぎない信念でいくはずです。ということはファイナの洗礼を破る方法を見つけるはず。そして、その洗礼を破る方法を、自分ではなく誰かに託しているのだとしたら、その人物に絶大な信頼を置いているはずです。ですから、ルル君を魔大陸で見つけるには、ヨルガさんという方を探した方がいいと思います。それと、ルナ」
ホンナーはルルロアの思考を読み切っていた。
「はい。ホンナーさん、どうしました?」
「ルル君は、ルナの里にも、国の中にも入っていきましたよね」
「はい。そうです。ルルは王城にも呼ばれましたよ」
この僅かな情報で、さらに予測が立つ。
「…ならば、彼はテレミア王国で高い地位を得たのだと思います。剣聖を育てたのです。そんじょそこらの兵の地位ではないでしょう。その事を私との手紙のやり取りではしてくれませんでしたが、きっと大出世しているに違いないんですよ。まったく、もう少し自分のことを自慢してくれれば、その辺の彼の地位などが分かるのに、あの子は自己評価が低すぎて、他人に自分の自慢をしませんからね」
珍しく話が脱線した。
「あ、予測の話をしているのに、これだと脱線してますね。それで彼は王宮のほぼ全ての場所に入れるくらいに出世をしているはずです。ですからそのヨルガさんは王宮の中にいる方だと思います。彼が託せる人物なら、豊富な知識を持つ人物なはずです。だから一般人ではないでしょう」
ホンナーは、ルルロアが自分の地位について、偉そうに語るような男ではないことを見破っていた。
実際に彼の地位はテレミア王国の中でも、異質の地位を得ていたのである。
重要度はほぼ宰相と変わらない状態であったのだ。
ルルロア自身はそうは考えていなかったのだが、異例の大出世をしていたわけだ。
「せ、先生。そう言えば私たち・・」
「ああ。そうか。うちら、託されたんだ。ヨルガ。後はエラルだっけ? その人たちに知らせろって言ってたな。うちが手紙を・・・」
ヨルガ宛ての手紙を持っていたことに今更になって気付くミヒャル。
皆から冷ややかな視線が入って痛い。
「この手紙には何かヒントがあるかもしれません。開けましょう。見ますよ」
他人の手紙を開けるのは申し訳ないと言いながら、ホンナーは封を破り中身を見た。
『ヨルガさん!! 俺、あっちに行くみたいっす。土産話、楽しみにして待っててくださいよ! 後でお茶しましょうね~。ヨルガさんが驚くようなすげえ魔法とかメモしてきますから。バッチリ楽しんできますよ!』
「「「「「 おいおい! 」」」」」
めちゃくちゃ明るい文章が手紙に書いてあった。
ホンナーはこれだけなのといった顔で手紙の裏表を見た。
しかしこの文以外は、何も書かれていない。
これでは彼に関する手がかりなど見つかるはずもなかった。
この場の全員は途方に暮れながら、この手紙の文章に苦笑いした。
「どうすんのさ。これ。ルルは、うちになんでこんなもん託したんだよ」
「ルル・・・でも、私はこれで一つ安心しました」
エルミナが言うと全員が彼女の方を向いた。
「ルルは、帰ることを前提に魔大陸に行く気だったのですね。この手紙にはそう書いてますよ。土産話に、お茶ですって。まったくルルは・・・ほんとにもう」
エルミナが言うと。
「おお! そう言われるとそうだな。あいつ。親父さんの言った通りか。元気でいるってことだよな」
レオンも続く。
「ん。そっか。帰る気満々だから楽しみに待っててくださいか・・・やっぱあいつは、あいつのままなんだな」
ミヒャルも同じ意見だった。
「ガハハハ、だから言っただろう。俺の息子がこんな些細な事なことで生きることを諦めるわけがない。それに俺は、簡単に諦めるような軟な男に育ててないのだ」
「そうね。あの子はどこにいても元気そうですものね」
両親は息子の手紙に元気になった。
「そうだ。俺の弟子は簡単には諦めんからな。昔からな」
「そうですね。グンナー。ルル君の取得したスキルの数が物語っていますからね」
師も先生も信じている。
「そうですよ。ルルは今や200以上はスキルを保有しているはず。だから、生き残るための手段なんて、無数に持っているはずですよ。必ず生きてます」
ルナの最後の意見に皆が頷いた。
ルルロアの努力。
それは彼ら英雄の為に取得したスキルの数である。
だから、ルルロアの状況がいかに悪くても、彼ならばどんな場所でも生きられると思うのだ。
話し合いの後。
しんみりした時間が流れ、部屋にノックが来た。
兵が報告する。
「グンナー司令。司令に会いたいと。訪問者が二人来ました」
「誰だ。俺は今、取り込み中だぞ」
「それが急な用件だと。こちらを持って・・・『これを持っていれば司令に会える』とその人たちが言ってまして・・・」
「は? あ!!! それは。そいつの名は!」
「エラルとヨルガだと言ってました!」
「なに!?」
自分が作ったペンダントを見せられ、驚愕しているグンナーに、兵士は敬礼をした。




