第四話 潜んでいた者 託していった者
王都城の王の間。
玉座に座るヴィランは肩肘をついて独り言を言っていた。
「私がこのままな・・・この意味のない席にいてもしょうがない・・・・さて、此処からどうやって支配を高めるか。計算していかねばな」
魔王ヴィランが考え事をしていると、隣に黒衣のマントを羽織る女性が現れた。
深々と目深にフードを被る女性は不敵に笑う。
「ふふふ。あなたにはお似合いじゃなくて、その椅子は・・・魔王にピッタリでしょ」
「ああ。リリスか。どこにいた」
「最初からここにいたわよ。ここで一部始終を見てたの。空にある目から、あなたの姿をね。でもね、あの魔法。声が聞こえないのが残念ね。あなたが雄弁に語る姿を見られなかったわ」
「俺が。雄弁? そんなに話してないぞ」
「雄弁よ。あなたの顔が恍惚としているから、ぺらぺらとお喋りしてるなぁって思ってたわよ」
それはお前の方がうるさいだろ。
と思っているヴィランは、彼女に言わないようにしていた。
これ以上五月蠅くなるからだ。
「はぁ・・・お前とは言い争いはせん」
「ええ~~。もう少し、あたしとお話の掛け合いしましょうよ。こうやって会うのも久しぶりなんだからぁ」
「いい。お前には口で敵わんのだ。口が回る五月蠅い『賢聖』だからな」
「ええええええええ。あたしってあんまり賢くないのよ。賢聖て役職。嫌よね。本当に。賢いって名前がついているから。賢い役回りをしないといけないのよね。賢くないのに・・・あなたよりも!!」
「ああ。五月蠅い。五月蠅い。お前は黙っていろ。おしゃべりな女は好かん」
「あ、ムカつく~~~~~。ああ。でも・・・こうでも・・・・・ねええ・・・・・あなたね・・・・もう・・・・・・・」
まくしたてるようにして話すリリス。
ヴィランは耳を塞いでいてもそのやかましい話が聞こえていた。
隣に立つリリスは、延々と彼に向かって話し続けている。
そのせいでヴィランは、自分がこれからどう世界を動かすかを考えられなくなったのだった。
◇
「これはもう・・・」
テレスシア王国バルマも当然戦場の厳しい場面に出くわしていた。
それは、多くの敵兵を引き寄せて、皆を逃がすようにして戦ってくれたテレミア王ゲインの漢気ある行動のおかげで、自分らが逃げ切れるかもしれないという場面が訪れたのに、そこから、一転して一挙に敵がなだれ込んできたためである。
そう厳しい場面とは、困難を乗り越えたとしても、また困難。
希望を許してくれない戦場のことをいうようだ。
「レックス!」
「はい!」
「この敵の様子からして、これは人を強化して戦わせることが出来る……あの魔了であるようだな……これほどの規模で人を操るなどな。魔王か。ビーストマスターしかいないか。しかし、当時の魔王にもできたことなのか。やはり奴が言ったことは本当なのだな」
「ええ。奴は自分を魔王と名乗りましたね。かつての歴史にいますから・・・本物かと」
「ああ。そうだな」
二人は、秘密の資料にある『魔王』を思い返す。
「かつて、我らと彼らの先祖にいたテレミア王アーゲントが倒してくれた敵ジャイズが持っていた職だな」
「ええ。ですからこの国はもう・・・」
「そうだな。あの時はアーゲント王がジョー大陸まで追い込んでくれたことで・・・この国は救われたのだがな」
「そうですね。大王たるアーゲント王の力。奴の魔了と戦える人物は大王しかいませんから」
「そうだな・・・対抗できるのは大王・・・または勇者だけか」
二人は過去にいた人物から、この国が辿る道を予測した。
壊滅。破滅。消滅。
どれだとしてもこの国は無くなるのである。
予想なのに、これは確実な未来だった。
「レックス。余はここで死のうと思う。無駄に生き延びても意味がない」
「お、王????」
「余も囮になることに決めた。お前を生かすためのな」
「・・・え?」
「お前には悪いが、お前の妹も諦めてくれ。おそらく奴らはもう王宮の人間を生かす気はないだろう」
「・・・あ・・・・はい」
受け入れがたいものであるが、これはおそらく確実な事だった。
妹の死を見ることも出来ない。
とにかくレックスには悲しむ暇がなかった。
事態を好転させるためには、王の望みを叶えるしかないのである。
「すまんな。ふがいない王だ。だが余は一人だけ諦められない人間がいるのだ。お前に託したい。頼む」
「・・・フレデリカですね」
「ああ。お前は竜騎士だ。空を跳ばずとも地を這ってでも高速で移動が可能。ならば、自分の身一つなら、きっとここから逃げきれる。お前は生きてくれ。そしてフレデリカへ。伝えてほしい。どうか生きてくれと・・・大切なものを守るために強く生きよと。そして、こちらの大陸には帰って来るなとも伝えよ。ここはもう終わりなのだ。だから頼んだ」
「わかりました。王! フレデリカを守ります」
レックスは、唯一残された希望を守ろうと動き出す。
「うむ。そしてあわよくば、フレデリカが奴の天敵となることを願う・・・」
「・・・・そうですね。王・・・」
「よし。部隊を編成して、余は敵を引き付ける。お前はなんとかして王都を脱出し、ジャコウ大陸まで移動しろ」
「わかりました!」
「では、行け! 余は次の者へ未来を託すことと決めた。後を頼んだレックス。全てを託すこと。本当にすまない。お前にしか頼れない」
「いいえ。王。お任せください。私は必ずや成し遂げてみせます!」
レックスは一人だけ生き残り、そして姪っ子の元へ。
ここから苦難な道のりを歩むこととなったのだ。




