第12話 希望の星の一線級
その後、希望の星は宴会でお金を使い過ぎたために、金欠となる。
バイスピラミッドで命懸けの金稼ぎをすることになった・・・。
ってのは冗談で。
オレたちは、次の四大ダンジョンを攻略するための資金を得ようと動き出した。
ダンジョン攻略には、金が必要だ。
意外かも知れないが、冒険者ってのは事前の準備の方に金が掛かる。
例えば、火や水のダンジョンに行ったとすると、それらに対応する装備が必要だし、それにダンジョンは、一回潜ったくらいで突破は出来ないので、何回も潜るための下準備も必要だ。
だから、その何度も挑戦するために、近場に拠点を置かないといけない。
ここにお金が掛かる。
オレたちのような大規模になったファミリーであれば、ホームと呼ぶほどの大きさの拠点が必須で、それに何より、日々の食費だって掛かるんだ。
だから前もって、莫大な費用を持っておかないといけないんだ。
計画的に行動を起こさないと、ファミリーはやっていけない。
それを、あいつらには無理だから、商人のスキルを持つオレがやらねばならないのだ。
◇
冒険者ファミリー『希望の星』は、かなりの数の上位の冒険者が集まっている。
内訳は。
特級冒険者―――四名。
一級冒険者―――十名。
準一級冒険者――十名。
二級冒険者―――三十名。
三級冒険者―――十名。
四級冒険者―――なし。
の計六十五名である。
『お前。計算が違うだろと思ったそこの君。当然だ。これにはオレが入っていない』
オレは準特級冒険者という階級にいる。
特級と一級の間の冒険者なんだ。
これはオレの推測だが、自分で言うのもなんだけど、本来であれば、オレも特級に値する冒険者だと思う。
実績と実力と、冒険者としての知識を合わせれば、オレも特級だと思うんだよ。
でも、オレのジョブがあの無職だ。
これのせいで、あいつらと共に成してきた事が、無かった事まではいかないけど、功績が減少しているみたいだ。
冒険者ギルドの査定で、マイナス査定が起きているというわけだ。
結構シビアだと思う。
まあでもこれって、職業差別じゃないですかね・・・まあ、別にいいけども。
という紹介をした後に、オレたちのお金を巡る戦いをご覧に・・・。
じゃなくてオレの苦労をどうぞ!
◇
レオンたちが下見に行った直後。
希望の星の一級冒険者らが話し合いを始める。
あいつらがいないなら、オレがリーダーの立ち位置だ。
でもこの話し合いではそうじゃない。
本来はオレが主であるべきなんだけど、こいつらの半分以上がオレを仲間だと認めていないために、話し合いが勝手に進んでいく。
『魔法騎士』フールナから始まる。
「私は、ハイスマンの案ではなく、マーベリンに行こうと思うが、お前たちはどうする。来るか?」
白髪ジジイの『聖騎士』アルトが続く。
「ワシもいこう」
釣り目の『異端神官』シャインも同意する。
「私もそちらにいきます」
『踊り子』ナスルーラは、妖艶な雰囲気がある美人。
この微笑みにすら毒がありそうな感じで、いつもオレの事を見ている。
この時も、オレを見てから答えていた。
「私もいきましょう。そちらの方が都合がいいでしょうからね。あなたは!」
あいつが言った『あなたは』
これはオレに向けてだ。
フールナに対して言ったように聞こえなかった。
でも、フールナが返事をする。
「私の方に来る者は、他にいるか・・・」
首を振って全体を確認。
一人一人目を合わせているが、オレとは合わない。
やっぱりオレの事が気に入らないのだろう。
「いなさそうだな。わかった。この四人でだ。いいな」
「うむ」「はい」「そうね」
一級パーティー四人で、マーベリン砦に行くらしい。
オレは別に反対しなかった。
それは、こいつらならば大丈夫だと判断したからだ。
実力に見合う数とそのダンジョンレベル。同等であるだろうとの計算が出来ていた。
そして、問題はこちらである。
「俺様は、あそこにもう一度行く。他のは来るか!」
『重戦士』ハイスマンが皆に問いかける。
「いきます」
いち早く答えたのが、『魔法使い』キザールだ。
カッコつけなので、即答した。
「それじゃあ、私も」
『神官』スカナもほぼ同じタイミングで手を挙げた。
この三人がいつも一緒にいる三人で、オレとは相性が悪い。
いつも睨んで来るし、面倒なメンバーだ。
そして、ここからが、一味違う仲間。
まずは、冷静なこちらの人から。
「私もいきます。だけど、このままでは危険ですよ」
「行きたいのに、そんな答えか。最初から腰が抜けているのなら、マールダ。お前は要らんぞ」
「私は慎重なんです。あなたは頭が抜けているでしょ。ハイスマン!」
『聖闘士』マールダである。
彼女は、冒険者として慎重派であって、オレの意見に対して、度々黙って頷いてくれる女性だ。
だからこそかなり優秀な人物だ。
冒険者は無謀であってはならない。
でも、憶病であってもいけない。
一番良いのは、慎重である事だ。
だから彼女は優秀なんだ。
「俺もいく。でも、俺もマールダの意見に賛成だ。俺たちだけじゃ無理だ」
彼女の援護をしたのが、『ロックハンター』フィン。
彼は明らかにオレを信用してくれている。
オレの事を見てから、あいつらに対して話をしていた。
「俺たちだけじゃって、他に英雄様はいません。何を言っているんですか。フィン!」
意図を読めない。そこら辺の勘が悪いキザールは、英雄がいないのなら自分たちでやろうと言っている。
「何をって。俺が言いたいのは、隊長が必須だって言いたいんだ」
フィンはオレの事を隊長と呼ぶ。
分隊長から来る言葉だろう。
「隊長って、その雑魚をか。俺様が主体なのに、その雑魚を呼ぶのか」
ハイスマンが怒り出した。
オレの名が出るだけで不機嫌になる。
「お前が、主体だって。じゃあ、全滅になる!」
「なんだと。フィン! 俺様では進めないとでも言いたいのか!」
「ああ、何度でも言ってやろう。お前じゃ、全滅する! あそこは、バイスピラミッドだぞ」
バイスピラミッドだぞ。
このフィンの言い方が素晴らしい。
あそこが四大ダンジョンであることを忘れている連中が多い。
ダンジョン難易度は最高難易度であって、しかもオレたちが楽々と突破できたのは、英雄のレオンたちが居たからだ。
だから、いないのなら、オレたちは慎重に動かねばならない。
「ふざけるな! 貴様」
ハイスマンがズシズシと歩きだして、フィンの前にまで歩こうとするも、そこにハイスマンと同じ大男が割り込んだ。
「ん!」
たったの一言と、にらみを利かせた人物。
『騎士』ジャスティンが、ハイスマンに立ちはだかった。
「ジャスティン! 貴様。邪魔する気か」
「ん!」
「どけろ。そこをどけ。クソ」
右に左に、ハイスマンが移動していくが、そのステップに合わせてジャスティンが立ちはだかる。
皆を守るにふさわしい性格を持つ、盾役が似合う男。
それがジャスティンだ。
無口だけど、信頼できる騎士なんだ。
「リーダーは隊長だ。お前の出番じゃない」
二言で威圧。ハイスマンが黙った。
そこに畳みかけるのがフールナだ。
嫌味たらしい言い方をして、半笑いで言う。
「無職に率いられるつもりなのか。ハイスマン」
「フールナ。貴様。俺様を馬鹿にする気か」
「馬鹿にはしないが・・・情けないな」
「なんだと」
ハイスマンがブチギレる前に、俺が出る。
収拾がつかなくなる前にだ。
「はぁ。お前ら、一級になっても、まともに冒険ができねえのか」
「「なに!?」」
二人が同時に言ってきた。
仲が良いじゃねえか。とオレは思う。
「いいか。フールナ。ハイスマン。お前らは、自分の力を過信している。仲間のバランスを見て、物を言え」
「「・・・・」」
二人が黙ったのには訳がある。
オレが、特殊スキルの威圧を二人にだけぶちかましたからだ。
オレの実力が、一級よりも上だから、ぶっ刺さっている。
威圧は、格下にしか通用しない。
「フールナ。お前の方はバランスがいい。だから許可する」
フールナの方は、前衛後衛。回復。支援。これらのバランスが良い。
だから、その人数でも許可できる。
だが、こっちは駄目だ。
「ハイスマン。お前。クエストは何を受注した」
「俺様は・・・」
「覚えてねえのか。おい。こいつが受注したクエストは誰か覚えているか」
キザールが手を挙げた。
「これだ」
ぶっきらぼうに言ってきて、オレの前に紙を投げる。
受け取ったオレは、紙を見てから、特大ため息をついた。
「はぁ、馬鹿だな。ちっ」
これは、ハッキリ言ってやらねばならん。
なぜなら、こいつらの選んだクエストが、こいつらだけじゃ駄目だった。
①バイスピラミッドの『ハイルゾル』というレア鉄鋼を鍛冶師に納付。
②モンスター『チルチル』の素材『チルチルの皮』六枚をモルダンのお店に納付だった。
「おい! ハイスマン」
「な。なんだ」
威圧の効果が薄れてきた。段々と偉そうな態度が出てくる。
「お前、ハイルゾルを知ってんのか」
「・・・誰か知ってるだろ」
「ちっ。キザール。スカナ。お前らは?」
二人は首を横に振った。
「じゃあ、誰が取るんだよ。マールダか。フィンか。ジャスティンか。三人は知っているか」
三人は首を縦に振った。
「じゃあ、お前見積もり甘いだろ。この三人が行きませんって、言ったらどうするつもりだ」
「いくだろう。こいつらだって冒険者だ」
「甘えわ。体調が悪かったら、用事があったら、どうするんだよ。一級にもなったんだ。そこらへんを考えな。お前らもだぞ、キザール。スカナ。バランスを考えられるようになれ。いずれは、人を導くんだ。一級だからな」
この三人は、甘い。
実力だけが一級となり、実績だけが一人前になってしまった弊害だ。
堅実な苦労を重ねなかった。
オレの指導ミスでもある。
これはオレの反省点である。
「特によ。お前ら、チルチルをどう倒すか。計算してんのか」
「あのすばしっこい奴だろ。楽勝だ。俺様の一撃で粉砕だ。奴らは耐久値がない」
「はぁ。どうしよう。これは、オレが悪いわ。すまん」
こいつが、バカすぎて頭が痛くなってきた。
「いいか。チルチルこそ、連携で倒さないといけない。お前だけじゃ無理無理。手も足も出ないぞ」
「は? 前回の俺様は、奴らくらい楽勝で倒したんだ」
「ああ。そいつはオレたちがいたからな。ハイスマン。いいか。みんながいて、初めて自分の実力が出せるんだと思え。お前は何もかもを自分一人で出来るって信じ込み過ぎている。人は一人じゃない。冒険者は、一人だけど。冒険者ファミリーであれば、一人じゃないんだ。頼って、頼られて、前に進む。それが家族だ。だから、協力しろ。ハイスマン。いいな!」
「貴様に言われ・・・」
ここで、ずしッと音がした。
突然の音にオレも驚いたくらいだった。
鳴った方を確認すると、ハイスマンの腹が鳴っていた。
でもこれは奴の腹が減って、お腹が鳴ったんじゃない。
ジャスティンが腹パンしていたのである。
「いい加減にしろ。隊長は指導してくれている。グダグダ言うな。男だろ」
「俺様を攻撃するのは・・・貴様かよ、ジャスティン」
「お前は防御面が浅い。それで、チルチルは危険だぞ」
この言い方をしたジャスティンは前回の戦いで学んでいる。
そうチルチルは厄介なモンスターなのだ。
「ジャスティンの言う通りだわ。ハイスマン。諦めろ。オレがそっちにいこう」
この一言を発した瞬間。
オレを嫌う六人が睨み、オレを慕ってくれる三人が頷いて、オレを怪しむ彼女だけがニヤニヤ笑っていた。
冒険者ファミリー。
希望の星の一線級の冒険者らの意見は、割れているのである。




