第二話 黒衣の騎士の計画
突如として現れた敵の攻撃を逃れるため。
イェスティとゴルディの二人は、一緒になって秘密の地下に逃げ込んでいた。
数名の兵士と貴族を連れて、王都から逃げ出すために一目散に走る。
現王も見捨てる。
その精神には、騎士道の欠片もない。
暗闇で陰気な場所である地下道。
そこを嫌う二人の我儘を聞きながらも。
兵士たちは、自分が生き残るために必死で移動していた。
出口の光を浴びた一行は、目の前の光景のせいで立ち止まる。
黒いアクセサリーが輝く黒衣の騎士たちが現れた。
その中で、ただ一人、顔見知りがいたのだ。
彼だけが前に出てきた。
「よお。本家の姉弟。生きてたな。やっぱりお前らなら、この道を使って、自分たちだけで王都を脱出しようとするよな!」
「バージス兄様!?」
「バージス兄様がいるなら安心ですね。僕たち、助かりましたね」
二人は敵だらけの光景の中に自分の従弟がいるという異常事態を気にしていなかった。
だが、二人の周りにいる兵士たちは気付いている。
これが異常事態であると。
なぜなら黒衣の騎士たちは王族がいた先程の場面で、重要人物を一人残らず襲っていたのだ。
なのに、今一人になっている騎士団のバージスを誰も襲わずにいる。
この光景を見て、違和感以外の感想は思い浮かばない。
そして、この異常さに気付いていない愚かな兄弟と、気づいている後ろの兵士たち。
その対照的な者たちを見つめているバージスは額に手を置いて、無念そうに二人に話しかけた。
「はぁ、どうしようもない姉弟だよな。お前らはさ。今の俺が、お前らの味方なわけないだろ。この状況だぞ」
「「え?」」
「俺は、黒衣の騎士の一員。青の閃光のバージスだ」
「ノワ・・・・クルー・・・ラ?」
バージスは、思考能力の足りない姉弟に話しかける。
「お前らは、この計画が、どういう計画だったか、覚えているか?」
「そ。それは・・・末端の貴族から指示を出して。闘技場で暴れろと依頼をして、そこからは兄様がレッドガーデンを一網打尽にして捕まえると」
「覚えているだけ。まだゴルディはマシか。そうだ。この計画の始まりは、王襲撃事件を仕立てあげる事だったよな。両国の王が集まるタイミングで、お前たち姉弟が政変を起こすかもしれないと、騎士団中に知らせておいて。俺たちに対しての敵意を盛り上げていったんだ。この事件の中心にいるレッドガーデンの存在を隠すためにな」
バージスは頭の足りない姉弟のために、丁寧に最初から説明しだした。
「そして、俺たちの考え通りに、マールヴァーとヴィジャルは、オリッサ騎士団だけに集中していた。これが作戦の始まりだよな・・・・そして武闘大会の時。レッドガーデンにわざと闘技場を襲わせて、それで俺たちオリッサが奴らを大量に捕まえた。これで、お前たちの名声をあげていって、王の地位を盤石にしようとしたんだよな。なあ。これがお前たちの考えた浅い作戦だよな。悪知恵程度のよ。まんまと引っかかる他の騎士団も馬鹿だけどさ。お前らも相当馬鹿だぜ…」
バージスは二人に呆れている。
「そして、そこでお前たちは満足した。王位継承権第一位と第二位は揺るぎないものだとな。だが、お前たちの計画はそこまでだった。だが、俺たちの計画はここからだった」
「お、俺たち??・・・」
「黒衣の騎士は、お前たちの計画を乗っ取った。レッドガーデンという組織は元々黒衣の騎士を隠すための末端の組織だったものだ。赤、青、黄色。緑の賊共の一部は俺たちの下部組織だったんだぜ」
二人は何も知らないでレッドガーデンを利用したことにまだ理解を示していない。
口が開いたままだった。
「だから俺たちは、このまま利用させてもらおうと思ったのさ。お前たちのおかげで賊であるあいつらの通行許可証が大量に偽造できて、この都市に入れこむことが出来たからな。これで半分以上も楽な仕事になっちまったよな。わざわざ城壁の外から戦わなくてもいいんだからな。しかもだ。あのレッドガーデンの事件で地下牢にまで、大量に賊を収容できたからな。身の安全を保障して匿えたのだ。これは計画を隠すにもちょうどいい。ここからなら、王都中どんな場所にでもアクセス可能だ。暴れるには最適ってもんよな」
バージスは二人に近寄っていく。
青い槍を取り出した。
「な。本家の姉弟。お前たちは悲しくもただの職種の人間。王族であるというステータスしか持たない無能な奴らだ。英雄職を持つわけではない悲しい王族だよな。なのにな。継承権も持ってない俺の方が英雄職を持っているとは・・・。でもよ、俺とお前らは身分が違うし、立場も違うから、俺はいつまで経ってもお前らみたいな無能な下につかなきゃならん。まあ、でもさ。俺は、お前らが英雄職じゃなくても、優秀であれば、俺はその下についてもいいかなくらいには思ってたんだけどな・・・お前らは最後まで馬鹿だったからな・・・・仕方ない。それじゃあ本家の姉弟。ここでさよならだ。来世は上手い具合にいい感じに生きろ。俺は別に嫌いじゃなかったぜ」
青の一閃で、メーラ姉弟と、周りにいた兵士たちの心臓は貫かれた。
その手際を見る事も出来ずに・・・。
「バー・・・ジス兄様・・・」
「そ、そんな兄様…」
「ま、可哀そうではあるな。無能なのに王族に生まれちまったのがな。一般人にでもなってればな」
バージスは軽く頭を下げて追悼した。




