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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
希望の星は消えない

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第10話 無職と英雄たち VS 力を奪う者

 現在の王都は、朝の式典の頃だろう。

 でもそんな事は、ジェンテミュールの一同には関係がない。

 何せオレたちはな。

 まだエルダケーブにいるのだ。

 どうだ、王様。

 逃げてやったぜ!


 なんて思っているオレは、一階の出入り口に戻ろうと、動いている最中だった。

 オレとエルミナは、ファミリーの真ん中で隣同士で歩いていた。


 「出口がそろそろ見えるな」

 「ルル。何故、こんなにゆっくり帰りなさいと指示をだしたのでしょうか? すぐ帰ってもよかったのでは?」

 「ああ。それはな・・・皆にダンジョン休憩の方法を勉強して欲しくてな。あと交代制の見張りとかに慣れてほしくてね。ほら、新しい奴らもいるだろ。ここにはさ」


 ここにいるのは、数名が新しいファミリーのメンバーだ。


 「それにゆっくりダンジョン内を移動することも大切であるということを勉強した方がいい。うんうん。急ぐだけが全てじゃないんだよ。立ち止まって学習することも大事なのよ」

 「そうですか。そこまでの配慮が。さすがはルルですね」

 

 今の話、全部が嘘である。

 皆はダンジョンで休息することなどに慣れているはず。

 だからこれが経験になるような修練でないのは明らかだ。

 なのになぜこんなことをしたかって?

 当り前だろ。

 オレが式典に出たくないから、皆には付き合ってほしかったんだよ。

 何て堂々と恥ずかしい事を言えないので、これはずっと黙っておこう。


 

 「ルル!」

 

 左隣にいたイーが叫んだ。


 「ん? ・・・な!? この感覚は・・」

 

 イーが叫んだと同時に俺も気づく。

 

 「強い。気配が大きい。ルル、指示!!」

 「わかってる。イーも準備してくれ」


 不意に訪れる圧迫感ある戦場の空気。

 何度か経験した場面が訪れるってことはだ。

 化け物クラスが近くにいる。

 オレの汗が止まらない。


 「前衛も後衛も、オレたちの方に来い! 真ん中に集まって円になって固まれ。オレたち五人が外だ。どこから来るか分からん」


 指示は皆を真ん中に集めるだ。

 この強さを持つ敵だったら、相手が出来るのは英雄職しかないという判断だ。

 これが咄嗟にオレの頭から湧いて出た。


 「くるぞ! レオ! 気を引き締めろ」

 「ああ。わかってる。エル! みんなに、プロテクトウォールを!」

 

 レオンにはオレの意図が伝わっている。

 すぐにレオンがエルミナに指示を出した。


 「はい」

 

 エルミナのプロテクトウォールが発動。

 半球の白い壁が仲間たちを守る。


 「どこからくるんだ。うちの魔法で・・・・」


 威圧感だけを放つ敵は突如出現。

 ミヒャルの背後に現れた。

 両手を合わせるようにしてきた敵の拳が、ミヒャルの上半身を捉える。



 特徴的な一本の太い足に、大きな一つ目。

 それと腐った皮膚によって、ただれている肉体。

 足と目以外が、人のような姿のモンスター。

 そしてこいつの厄介な面は。

 実体化と幽体化を繰り返すこと。

 お化けのようなゾンビのような人のような。

 その奇妙な姿。

 最強無慈悲のダンジョン三大モンスターの一角『力を奪う者(ディグレイス)』だ。


  

 「ミー! くそ。ここはオレがミーを助ける。レオ! レオンハートで対抗してくれ。普通の剣では戦ってはいけない」

 「わかった」


 オレとレオンが同時に勇者の力を発動。

 オレはミヒャルを抱きかかえ、レオンは敵の攻撃に対してレオンハートを当てた。

 攻撃してくるときだけは実体化をする力を奪う者(ディグレイス)は、レオンの刃を受け止めた。


 「うおおおおお。なぜ切れない!?」

 「レオ! 離れろ。奴に触れすぎるな!」

 「わかった。離れるわ」


 レオンは攻撃を即座に止めて距離を取った。

 


 ◇


 オレたちは、五人で仲間を守る形となった。

 レオンを先頭に、ミーを抱きかかえたオレがいて、その後ろにイージスで、最後方は皆にプロテクトウォールをしているエルミナである。

 ここから英雄と無職の死力を尽くした戦いが始まった。


 「こいつが・・・噂のディグレイスか。ルル、どうやって倒すんだ」


 ミヒャルがオレの腕の中で聞いてきた。


 「ああ、策を考えてる。ただこいつの特徴だけ伝えるわ。こいつは実体と幽体を繰り返すモンスターだ。幽体化する際は物理攻撃が無効となり、実体化する時は有効となる。がしかし、奴の肉体に触れると、人間や物が持つ力を吸い取っていくぞ!」


 奴は肉弾戦を得意とする者を封じながら倒す。

 それが力を奪う者と言われる所以である。

 デビルキメラと対極にいるモンスターだ。

 

 レオンが敵を警戒しながら聞く。


 「そうか・・・だからさっき、レオンハートじゃなきゃ対抗できないって言ったのか?」

 「そうだ。レオンハートの力が異常だから、奴はお前の力を一瞬では吸い取りきれなかったって訳だ。通常の剣だったら、お前の本体の力を吸いとってくるぞ」

 「厄介だ!!! 面倒だ」


 不満を漏らす勇者レオンの後ろにイージスが出現。


 「おらも・・・いこう。二人なら」

 「無理だ。イーは素手のスタイルだ。それでは敵の思うつぼだ。力を奪われるだけ。だから、イーはエルを守ってくれ! 待機だ」

 「う・・・わかった」


 イージスはエルミナのそばに戻る。


 「そんで、ルル! 良い案があんだろ? 信じてるぜ」

 「ああ。ちょっとだけレオがそいつと戦ってくれ。一分だ! 俺にくれ!」

 「おういいぜ。なにかする時間がほしいんだな。まかせろ」


 オレの無茶ぶりを信じてくれるレオンはディグレイスとの戦闘に入った。




 ◇


 オレの策は思考加速により完成した。


 「おい。ルル! いつまでうちをお姫様抱っこしてんだ! はずい!!!」


 ミヒャルは掌底でオレの顎を押す。

 結構痛い。


 「おお。悪い。嫌だったか」

 「いや・・・別に」

 「なら怒んなよ。よいしょと」

 

 顔を真っ赤にしたミヒャル。

 オレが地面に降ろすと同時にそっぽを向いた。 

 そんなに嫌だったのかよ。


 「なんだよ。そんなに怒んなって! こんくらい誰かにしてもらったことあるだろ? いい大人なんだからさ。彼氏にでもしてもらっただろ?」

 「ねえわ! 彼氏なんていねえもん!!! それに今のは、恥ずかしい!!!」

 「へいへい。そうですか。それは可哀想なこって。彼氏いないなんてな。21なのに」


 あれ、オレも21なのに彼女いないや・・・・やば!?


 「な!? へ、返事は一回だ!!」

 「はいはい。相変わらずお母さんだな・・・ってこんなことしてる場合じゃないや。おい、ミー頼みがある」

 「ん?」


 ミヒャルは赤らめている顔であるがこっちを向いてくれた。

 恥ずかしそうなのに、有難しである。


 「ミー。オレたちで奴をぶちのめす。魔法で倒すぞ!」

 「は???? あいつ、魔法は通るのか?」

 「通る。幽体化の時は光と闇。実体化の時には四属性が通る」

 「ほう・・・てことはうちらは・・・実体化の瞬間に四属か」

 「そうだ。そんでオレが氷でお前が灼熱で頼む。いけるか?」

 「ほうほう。うちが灼熱・・・それは出来る。けど、ルルって氷をだせんの?」

 「大丈夫だ。心配すんな。相変わらずオレの事になると心配しまくりだなお前は・・・お母さんだな」

 「う、うちは、お母さんじゃないわ。そ。そんじゃ、やるぞ。レオを待たせるのは、可哀そうだからさ」

 「おうよ。いくぜ」


 オレとミヒャルは並んで魔力を練り始めた。



 ◇


 「いくぜ。魔法の心髄」

 「え? うちのじゃ・・・」


 隣に並ぶミヒャルは驚いた顔で俺の方を見た。

 そういえば、オレがお前のスキルを使えることを伝えていなかったわ。

 驚いて当然だ。

 黙っててすまん!

 お母さん!

 そう思ってることは黙っておこう。

 

 「魔力を練り続けろ。ミー。広範囲じゃなくて、高密度にぶつけるぞ」

 「うん。わかってる。やってやるってば。ルルこそ、うちの事を心配し過ぎなんだよ!!」


 ミヒャルは気を取り直して自分に集中した。


 大賢者ミヒャル。

 魔法使いの頂点のジョブの一つ大賢者を有する者。

 光と闇の二極魔法が不得手で、四属魔法が得意となるのは大賢者の性質上仕方なし。

 ただし、その四属魔法のスペシャリストになると言う事は。

 混合魔法の扱いに長けるのである。

 混合魔法とは。

 二つ以上の属性を混ぜあわせて出す魔法の事。

 水と風で氷を生んだり。

 土と風で砂を生んだりと。

 魔法にはバリエーションがあるのだが、それには人の性質上、属性に得手不得手があるために、二つ以上の魔法の使用が出来たとしても高威力の混合魔法を扱える者は少ない。

 だが、大賢者は四属魔法の天才であるからして。

 あらゆるバリエーションの魔法を操ることが出来るのである。


 灼熱は、火に対して、水と土と風の三つを混ぜ合わせながら、火だけを強く表に出すという高難度の魔法のひとつ。

 四属のコントロールが完璧な者にしか扱えない魔法なのだ。

 


 魔力を練り始めて一分。

 ミヒャルが余裕で話しかけて来た。


 「うちはいけるぜ! ルルは!」

 「オレは後ちょい・・・ぐふっ」 


 血が軽く口から出る。

 高密度に魔法を持っていくのは、オレの魔法センスでは難しく、体に高負荷がかかってしまうんだ。


 「お、おい。ルル!?」

 「気にすんな。お前のスキルとエルのスキルだけはオレの体に負担がかかるもんでな。すまんな時間がかかるわ」

 「で。でも・・・その血、大丈夫か?・・」

 「ああ。大丈夫。待ってくれ」


 心配性なミヒャルの顔を見て、やる気は上がる。

 だって、これ以上の心配はさせたくないからな。


 ◇


 レオンの戦いは空を切る戦いである。

 レオンが敵に向かって剣を振ると、敵は実体化を解除して、幽体となり、レオンの剣が通り過ぎると実体化してレオンに襲い掛かる。

 敵の動きが、まだレオンが反応できる速度であるからこそ戦えていた。

 まあレオンが敵に食らいついてるだけと言い換えてもいい。


 「ふぅ~。完全にいたちごっこだな……」

 

 敵の視線がまだ自分に向いていることを確認しているレオン。

 逆に考えて、自分だけを見つめているのは、役割的には正しいはずと理解していた。

 後ろにいる二人の様子を一切見ていないのは、ルルロアならばこの現状の打破してくれると信じているからである。


 「レオ! 奴を実体化させてくれ。そのタイミングも教えてくれ!」


 振り向かずにいるレオンは、待望の指示が来たことに安堵した。

 これで勝てる。

 戦いが終わってもないのに、レオンは勝利を確信していた。


 「了解だ! 声をかける」

 

 レオンは今までの攻撃と防御の繰り返しで敵の癖を見抜いていた。

 敵はレオンハートの際は幽体化。

 通常の剣の時は実体化することに気付いていた。


 「ここから罠にかけたるわ!!! いくぜ、気色悪いモンスター!!!」


 レオンはレオンハートを見せつけて、ディグレイスに近づいた。



 ◇


 レオンが剣を振り切る直前。

 レオンハートが解除された。

 そのかわりにレオン自身が纏うオーラが増大する。

 力を吸われてもいいようにわざと大きなオーラを出したのである。

 

 レオンは振り向かずにオレたちに指示を出した。


 「ルル! 今、実体化させるぞ! タイミング合わせろよ」

 

 レオンの言う通り。

 ディグレイスの薄れていた体は、徐々に表に出てきた。

 ディグレイスはレオンの刃を両手で受け止めた。


 「ディグレイス、ほらよ。大事にその剣を持ってな! ルル。いけ!!」


 敵に剣を掴ませたレオンは、高速で移動して敵から離れる。

 ここでレオンの凄い所はオレの正面に敵を誘導したことだ。

 魔法発動に障害が何もない。

 

 「この状況、さすがだ。レオ」


 レオンを褒めた後、魔力を解放する。


 「ミー。この後は頼んだ」

 「おう! どんとまかせろ!」 

 「オレからいくぜ。着弾する無職の氷(アイスボム)


 オレはディグレイスの胴体に向かって、親指と中指を使って、一回だけ音を鳴らした。

 それはオレの魔法の着火の合図だ。


 敵の周辺に薄い氷の膜が出現した。

 渦巻く氷の粒が徐々に敵の腹に向かって圧縮される。 

 爆発地点は敵のお腹だ。

 

 大きな爆発音が鳴り、実体化したディグレイスの体が氷漬けになっていく。

 敵は幽体に切り替えようにも、それはオレの氷魔法が許さない。

 完全氷漬けになる手前でオレが叫ぶ。


 「ミー! 今だ」

 「おっしゃ! いくぜ。うちの魔法ブチかますぞ。燃え尽きる肉体(バーンアウト)

 

 ミヒャルから繰り出された魔法。

 燃え尽きる肉体(バーンアウト)

 燃え盛る炎の大渦が敵に向かって一直線。


 敵に到達した炎の渦は、ディグレイスの実体化している肉体の全てを包み込んでいった。

 何もかもを燃やし尽くす勢いの炎の渦は、敵を焼く音を出さない。

 

 この魔法は、燃やす魔法ではなく、消滅に近しい火力が出る魔法なのだ。

 オレの氷魔法のせいで、幽体化に失敗したディグレイスは、ミヒャルの最強魔法により跡形も無く消えるしかなかった。


 「おう! どうよ! 焼けたな!・・・違うか。消えたな!」

 「おい! ミー。俺の剣も消滅してんじゃんか」

 「はははは。あとで買え! 女好き勇者」

 「てめえ。もう少し魔法を加減しろ。また金が無くなっちまう」


 二人の喧嘩後にオレが。

 

 「よくやったよ。ミー、さすがだ」

 

 ミヒャルの頭を撫でた。


 「な。や、やめろよ。ハズイ!」

 「は、よくやったって褒めてんだろ・・・あ・・」

 「ルル!? おい」

 

 オレの足元がふらついた。

 さすがに成長したオレでも、大賢者のスキルと聖女のスキルは 今だに使用することに慣れない。

 発動だけでも体力を使うのだ。

 オレはミヒャルに肩を貸してもらった。

 


 ◇


 エルミナの魔法が解除されて、ジェンテミュールのメンバーはオレの方に来てくれた。

 当然だが四人もそばにいる。 


 「こいつはちょっと休憩が欲しいな。あとちょっとだけどな。三分くらい欲しいわ」

 「そうか。消耗が激しいんだな」


 レオンが言うと。


 「隊長。俺、包帯を持ってます。たしか隊長の応急手当が」

 「おお。気が利くなフィン。サンキュ。腕と足に巻くわ」

 

 オレはだるくなった部分に巻いて補強をした。


 「皆スマンな。もうちょっとで帰れるのにな」

 「いえ。隊長と勇者様たちのおかげで我々は無事で」

 「そうです。相手はあのディグレイスですよ。死ぬと思いました」

 「ああ。助かったぜ。正直見た時は死ぬかとも思った」

 「俺もだ」「・・・私も」


 皆がそれぞれオレたちの事を労ってくれているようだ。

 ここはもう以前のバラバラなジェンテミュールじゃない。

 一人一人が仲間たちを思いあう。

 そんな素晴らしい場所になっていたんだとオレは嬉しく思っていた。


 だが、ここで。


 「あらぁ。やっぱりあなたがいると厄介ね。せっかく私が乱したファミリーなのに。今は一つになりかけている。それに私が用意したこの子も倒しちゃうのね・・・そういえば、以前もあの子を倒したのよね。まったく、あなたはとても邪魔。ここから消えて欲しいのよね」


 粘り気のある声がダンジョンの入り口付近から聞こえた。


 「まあ、いいでしょう。可愛い二体を倒したことは忘れてあげましょう。ほら、やりなさい。フールナ」


 その直後。

 オレの腹に違和感があった。

 光り輝く剣が見えた。

 オレの背中から、腹に向かって剣が刺さっている。 


 「お、お前」


 振り向くとそこに。


 「貴様を消せば・・・消せば」

 「フールナか?」


 異様な感じのフールナがいた。

 目が血走っている。


 「・・・・英雄様たちは私を見てくれるんだ。そうあいつが言っていたんだ」

 「どいつがだよ…」


 オレの耳元で、言っている割に、オレに話しかけていない。

 呟くように言ってきた。

 声の震えが彼のものではない。

 何かがおかしい。

 刺してからオレから離れるその様子も狼狽えるように一歩二歩とゆっくり離れていったのだ。


 「ど。どうしたんだお前・・なぜそんなに? 震えている??」


 声がフールナには届かない。


 「「「 ルル! 」」」

 

 四人と。


 「「「「 隊長!? 」」」」


 仲間に心配された直後、オレの腹が更に光り輝いた。

 

 

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