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俺の周りは英雄職だらけなのに、俺だけ無職の冒険者  ~ 化け物じみた強さを持つ幼馴染たちの裏で俺は最強になるらしい ~  作者: 咲良喜玖
希望の星は消えない

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第6話 動き出す世界

 冒険者は冒険してなんぼ!

 一体誰の言葉だったか・・・・。

 ってオレの言葉だこれ。

 

 それを思い出したオレは、ジェンテミュールの仕上げの作業にかかった。


 「レオ!」 

 「ん? どした?」

 「オレはここらで下見をした方がいいと思う」

 「なんの?」

 「エルダケーブの!」

 「は? 俺らは二度も行ったぞ。意味ねえだろ?」

 「ああ知ってる。でもレオ。お前たち、失敗してるよな!」

 「・・・ま、まあな……」

 「だから、オレが指導しながら行く! 全体指揮をフィンに任せて。いけるメンバーで出来るだけ下層まで行こう。本番前の予行練習だ」

 「????」

 「オレが皆の調子を見ながら行くからさ。無理はさせんよ。お前たち以外は数名で行くからさ」

 「・・・なるほど。そうか。それなら安心か。練習はしておいた方がいいもんな」

 「てことで、三日後に行こう。準備をする!」

 「ん、三日? なんで三日後なんだよ。今でもいいじゃねえか」

 「レオ。四日後さ……」

 「な、なんだ。あらたまってさ」

 「その日さ。城で記念式典がある日なんだよ。オレ、絶対に呼ばれたくねえ! 嫌だ!」

 「何を神妙そうに!! そんなもん溜めて言うんじゃねえ。すげえ重たい話かもしれないってびっくりするじゃねえか。ルル! お前の都合だったんかい!!!」


 と、盛大にレオンがツッコミを入れてくれて、この話は終わった。


 

 ◇

 

 様々な場所で、色々と情報を探っていたエラル。

 疲れが溜まっているが、勘は鈍っていない。

 

 「何もない。それこそが、逆に動きがあると見える。怪しい」


 調べても調べても何も出てこない。

 怪しい点がひとつもない。

 それが逆に怪しいと思うエラルは、点在してしまったバラバラの情報をかき集めて、冷静に事態を整理していた。


 まず。牢屋にいた女の言葉。

 『三週間後』

 彼女の言葉から計算する日数は本日。

 本日は、150年停戦記念の式典を二日前。

 前日でも翌日でもない微妙な日である。

 

 後の怪しいと思う情報はオリッサ騎士団の動きの変化だ。

 最近になって、人の動きがあるのをエラルは掴んでいた。

 幹部以外にも平民の出の者が団長と面会している情報を得ていた。

 

 そして、最後にここはエラルの勘であるが。

 あの闘技場のレッドガーデンの件が気になってしょうがないのだ。

 綿密な計画を立ててから相手を襲うレッドガーデンにしては少々お些末な事件を起こしたことだ。

 だから色々探りを入れていきたい所であるが、自分の周辺が厳戒態勢に入って、他の場所への潜入がままならずにいた。

 

 「さて、どうするか。今まで大人しく働いた分。ここで休みをもらい、最後の潜入をした方がいいか?」


 オリッサ騎士団に所属して、マールヴァ—騎士団の中にいるエラルは、両方から休みをもらう形で動き出そうとした。


 マールヴァー騎士団で働くこと10日あまり。

 オリッサでも連続勤務としてカウントされた日数を上手く使って。

 本日のエラルは、午後から三日間の休みを取ったのである。



 ◇


 午後。

 エラルはこれから職場に行こうとしているズールと偶然出会ったふりをする。


 「ズール。お前、忘れ物してないか。今日は、皆。これを持ってないといけないんだぜ」


 エラルはマールヴァー騎士団の赤い丸みを帯びた小さな宝石を見せた。

 これは騎士の誓いを立てた時にもらう『誓いの石』である。

 それを毎週金曜日には持っていないといけない。

 皆で願いを込めて、国の無事を祈る時間がマールヴァー騎士団にはあるからだ。


 「おお。やべ。また忘れる所だったわ。家に帰るわ」

 「俺も行こう。どうせ。お前は自分でしまった場所も分からんだろ? 探してやるよ」

 「そうだな。また世話になるな。エラル~」




 ズールの家に到着早々。

 慌ててズールが家中の家具をひっくり返す。

 宝石をしまっている場所が分からないようで、それがチャンスだと思ったエラルは彼に近づいて。


 「スマンな。レッツ!バラ色の人生(超眠り粉)」 


 エラルは以前のスキルを更に進化させていた。

 ズールを一撃で気絶まで持っていった。

 このスキルの効果時間を莫大に増加させていたのだ。

 以前は数時間であるがこのスキルは二日は眠る悪質な気絶薬となっている。


 「よし。奇想天外(そっくりさん)!」


 ズールに変化したエラルは、ズールの職場へと向かった。


 

 ◇


 地下牢に到着したズール(エラル)は、表の見張りの兵士と会話する。

 

 「ようズール。遅かったな」

 「まあな。これ、取りに戻ってたのさ」

 「またかよ。お前っていつも忘れ物するもんな。お祈りしといたほうがいいんじゃね?」

 「そうだな。最初にやっておくか」


 ズール(エラル)は額に赤の石を当てて祈った。

 これがマールヴァー騎士団の祈りのポーズである。

 願いはなんでもよいが最後に。

 国に忠義を尽くします。

 この一文がないとマールヴァー騎士団失格であるらしい。

 エラルが最初に戸惑ったことである。


 「これでお前が祈り忘れることないだろ。そんじゃ、奥の監視、頼むぜ」

 「ああ。まかせとけ」


 ズール(エラル)は鍵を監視部屋から取って奥の地下牢に入っていった。


 

 (今日、何か起こるのか?? あの女性が言っていたのは今日であってるよな・・・・)


 

 ◇


 働き始めて二時間後。


 耳の良いズール(エラル)は外の異変に気付いた。

 誰かの倒れる音が聞こえた瞬間、ズール(エラル)は地下牢の上部の隅に糸を使って待機した。

 天井に頭をつけて隠れたのである。

 

 スキル「見えぬ奇術インビジブル・スレッド

 

 見えない糸を使用する奇術師の技。

 これは戦闘ではほぼ役に立たないが、誰かを騙すには役に立つ。

 ズール(エラル)はこの見えない糸を応用して、部屋の隅に足場を組んで上部に隠れた。

 死角になるはずの場所だから、誰かが来ても自分を感知できないだろうとズール(エラル)は判断した。


 (これは誰か来る。靴の音だ。音が高いな・・・ヒールの音か???)

 

 ◇


 『コン、コン』

 

 と靴の高い音が鳴る。


 地下牢の第二の部屋にまで入って来たのはあの時にいた女性である。

 俺が担当していた部屋の三番目の牢の前に立ち、会話をし始めた。


 「あらま。大悪党のあなたにはとてもお似合いね!」

 「うるさいぞ。ナスルーラ」

 「怒っても無駄ですわよ。今は牢にいるんですもの。ふふふ・・・・では、万事抜かりはありませんか。魔法の準備は? ヴィ?」

 「お前こそどうなんだ。計画の邪魔になる勇者らは排除できるのか。我らに協力が出来ない英雄はいらんぞ。もちろん消すつもりなんだろうな」

 「万事うまく・・・って言いたい所でしたが、厄介なのが帰って来たのよ。邪魔な男が帰って来たの!」

 「ほう。そんな奴がいたか。誰だ?」

 「前にも報告したでしょ。ルルロアよ!」


 (ルルロアだと!?)


 俺は驚きのあまり声が出そうだった。


 「でも安心して、その子は勇者と共にその日はお出かけになってるから」

 「ほう、そうか。でもお前の事だ・・・念のために手は打っているのだろう?」

 「ええ。もちろん。あの子にクルーナの輝石を渡したから上手くやるでしょう。恨みも僻みも焚きつけて置いた子だから。彼の事が大嫌いになっているだろうからね。きっと上手くやるわ」

 「お前、あれを渡したのか。相変わらず悪趣味だな・・・殺すよりも厄介な事をする気か」

 「悪趣味ですって? 私はただただこの状況を楽しみたいだけよ。それに勇者たちにはこの舞台から降りてもらわないとね。邪魔だけど死んでもらっても困るわ。だから彼を消すわ」

 「まあそうだな。俺たちに協力出来そうにない。同じ英雄職は消すに限るからな」


 (俺たちと同じ英雄職!? この二人も英雄職なのか)

 

 俺は緊張でスキルが上手く発動できなくなってきた。

 声が聞き取りにくい。


 「いいえ。それではダメよ」

 「ん? どういうことだ」

 「勇者らが死んでしまえば、誰かにジョブが渡る。後に生まれて来てしまったら、私たちが管理する世界の邪魔になりうる可能性が出てくるわ。だから彼らには、心が死んでもらわないと駄目よ。生きた屍になってもらいましょう」

 「出来るのか。そんなことが・・・俺の魔法でも英雄職の連中は操れんぞ」

 「ええ。大丈夫。ルルロアを何とかすれば、彼らの心に大きなダメージを負わせられるのよ」

 「クククク。酷い女だ……美しさの奥にあるその怪しいまでの光が不気味だな。まったく」

 「そぉ??? あ、そうだ。ヴィもここから出たいでしょ。いつまでも鉄格子越しで話すのもね」

 「ああ、もちろん。時が来たら、力を使わずに静かに出たいものだが。お前・・・・鍵は持ってるのか?」

 「ええ。あそこ!」


 女は急に俺の方を振り向いて指さした。

 気配を完全に消して部屋の隅にいたのに、女は俺の目を見た。


 「なに!? なぜわかったんだ・・・クソ。にげるしか」 

 「無理よ。誰かは知らないけど、ただの衛兵ではないわね」

 「何故。声が俺の耳に直接」


 左耳に生暖かい息が掛かる。

 振り返るとそこには、蛇がいた。

 俺に話かけてきたのは蛇だった。


 「あらぁ。あなたは知らないのね。熟練の魔物使いは、魔物や動物を介してお話しできるのよ・・・そうね。あなたはどこまで聞いていたのかしらね! やりなさい。バックリー」

 

 蛇の小さな頭が急に巨大化し人の顔くらいになった瞬間に俺の肩を噛んだ。


 「ぐお! な。動きが早い。・・・毒・かよ」

 

 力が入らずに地面に落ちた。


 「まあまあのイイ男ね。ん? これは……あなたは別人ね。面白い人ね。誰かになりきっているなんて、なぜかしらね? まあ、ここで死んでもらいましょう。じゃあね。鍵はもらっていくわ」


 女は俺の服から鍵を持っていき、牢の鍵を開けた。


 「ヴィ、この後どうするの。鍵開けちゃうけど」

 「ああ。俺の魔法の準備をしておく。最大火力で奴らを叩き起こすからな。それまでは大人しく捕まっているふりをしておくよ」

 「そう。なら鍵だけ渡すわよ」

 「ああ。では予定の日にはこちらに来いよ。気まぐれ女」

 「ええ。いくわよ。さすがに」

 

 力尽きる最後に聞いた言葉は、不穏な言葉であった。


 「・・・ま・・・まじか。おれはここま・・・で・・・」


 逃げろルル。

 こいつらはやばいぞ。

 何かする気だ。

 この国もやばいがお前もやばい気がする。 

 この女。ルルを標的にしているぞ。

 ならここは死に物狂いでお前に知らせねば・・・・でも俺も死ぬかも・・・・。

 

 奇想天外を失った俺は、あるスキルで最後の賭けをした。

 毒に侵された体は次第に眠りについていく。

 消えゆく意識の中で周りを見てみると、牢にいる人間たちは、鍵が開いたのに、まだ大人しく牢にいたままだった。

 何かが起こる。

 でも今はまだその時ではないらしい。

 ルル。

 お前、生きろよ。

 お前は標的の一人らしいぞ。

 

 俺は・・・・こっちは・・・・なんとか・・・するから・・・よ。



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