第1話 新たな関係
「おお! 外だけじゃなく中もでけえな」
希望の星ホームのメインホール。
そこには、どこまで続くんだと思うくらいの長いテーブルがあった。
一人で座ったら大きすぎて寂しいよな。
いるか。こんな大きなの??
ここの広々としたホールは、シンプルな家具が多い。
大勢で一緒にご飯が食べられるようになっているこの超ロングなテーブルだけが、とても立派なものであった。
「まあな。俺たちもなかなか大きくなったからさ。これくらいのサイズ感の家じゃないとな」
「そうか………っておい、レオ。金がねえのはこれのせいじゃね?」
オレはテーブルに穴を開ける勢いで、指さした。
「ん?」
「お前、ここの家賃の計算もせずに借りたな! こんないい場所にこんないい家なんだぞ。たけえに決まってるだろ!!!」
「え?・・・・そうか???」
オレから目をそらしたレオン。
ホームを借りる時にオレは、いつもお値段安めの場所を設定していた。
それにオレは取引が上手く発動する人からしか買わないから、さらに値引きして節約していたのである。
「ばっかだな~。マジで」
ため息も出ない事態だ。
どうしよう。
こいつらももうさ。いい大人なのに。
「隊長!」
「おお、フィン! マールダ! ん。キザールにハイスマン。おお。それにスカナもか。元気だったか」
奥の方から遠慮がちに扉が開くと、あの時のメンバーが来てくれたのだ。
「ええ。た、隊長はお変わりなく」
キザールは少し緊張して、礼儀正しく頭を下げて。
「ふ。相変わらずの男だ。俺様たちの心配ばかり・・・・心配症だな」
ハイスマンは普通に嬉しそうに言って。
「元気でしたよ。隊長も元気そうでよかった。安心しました」
最初から嬉しそうなスカナは丁寧に頭を下げて言ってくれた。
「ちょうどいい。他に、オレが来ても不満がない奴はいるか?」
「なんだその聞き方?」
レオンは首を傾げた。
「ジェンテミュールを一気に成長させるわ。まあ、それがオレの目的だしな」
「「「「 は??? 」」」」
全員が驚くに決まっている。
オレの目的はパワーアップだ。
「レオ、オレの指導力を舐めるなよ。オレはだいお・・・おっと、あれは駄目だな」
フレデリカは言わないでおこう。
「オレは、剣聖を育てたことになっちまったんだ。でもその剣聖のおかげで、逆に成長したからな。みんなの力を底上げできるくらいの指導力はついたと思うぜ。そんで、皆が成長したらダンジョン攻略を目指していこう! オレたちは冒険者だ。人の為に動く部分もあるけど、国の為に動くんじゃない。人が出来ないことを成し遂げて、人には限界がないって、この世界の人に見せて、証明すんのが冒険者の役割ってもんよ。な! どうよ! 前人未到の四大ダンジョン制覇! 成し遂げようぜ。みんなはさ!」
オレの意見に皆はいい表情で頷いてくれた。
皆、心は冒険者なんだ。
冒険することが何より大好きだから、冒険者になったに決まってるんだ。
「人を集めてみます。隊長!」
「私も。それぞれの部屋に行って、聞いてみます」
フィンとマールダがホームのメンバーに声をかけに行った。
「お前の方が団長らしいじゃないかよ。俺、譲ろうかな」
「馬鹿言うな。勇者でなきゃ、こんな風に強いファミリーにはならんわ。無職の団長なんて、誰がそんなファミリーに入りたいって思うのよ」
「俺は入る」「私も」「うちも」「おらも」
「お前らは、オレの家族のようなものだろうが。幼馴染だろうが!!」
この四人。
オレに対して、絶大な信頼を持ちすぎている。
誰か、この人たちに常識を教えてあげてください。
頼みます。
オレでは無理なので、どなたか優秀な方を募集してます。
即日採用させていただくんで、どなたかジェンテミュールのホームまで来てくれませんか!!!
なんてやってる暇はなかった。
「はぁ。それじゃあ、金の計算は後でやってやるから、レオ! あとで商人を三人雇え!」
「三人も? 一人じゃなくてですか?」
オレのそばから離れないエルミナが聞いてきた。
彼女の方を振り向いて説明する。
「ああ。三人必要だ。これで不正を防ぐ。オレ一人でやっていた時はな。オレも皆と一緒になって戦っているから、不正をしようなんて考えないけどさ。雇った商人は別だ。商人の人は戦いをしないからこそ、内政重視となる。そうなるとホームにずっといれば、不正はしやすくなるだろ。だから一人ではだめ、二人でも結託されたらダメ。だから三人必要なんだ」
「なるほどな・・・・うちらにはそこら辺の配慮が足りなかったってことか・・・どうだ、でけえだろ!」
「ああ。はいはい。そうですね」
ミヒャル!
オレの目の前にカブトムシを置くのやめない?
自慢したいのは分かるけど、もう大人だよ。
後、何で裏を見せるのよ。
表を見せてよ。
足が動いて気持ち悪いんだけど。
ゴキブリかと思っちゃうじゃん。
とにかく昔ながらの懐かしい思い出とリンクしてしっちゃかめっちゃかになるオレだった。
「それじゃあ、レオたちの近況はどうでもいいとして・・・キザール。お前は自分をどう成長させた?」
とりあえずオレはレオンたち以外の指導を決めようとした。
「私は火と風をマスターしましたよ。隊長に言われたとおりです」
「そうか。なら大体のモンスターに攻撃が入るよな?」
「ええ。そうですね。しかし、ここのモンスターは難しいですね。火が制限されてしまいました」
「なるほどな……よし、それならここでは土を勉強しよう。軽くでいいんだ。火と風の補助としてだな」
「わかりました。勉強していきます」
「うん。ミー。キザールを頼む。お前の魔法で指導してくれ」
「いいぜ。キザール。うちでいいか?」
オレの正面に座るミヒャルは後ろにいるキザールの方に振り向いた。
「え? 私の様なものが、大賢者様に指導をもらえるのですか」
「ルルが言ってるってことは、うちが鍛えてもキザールは耐えられるってことだ」
「はい。お願いします」
キザールは嬉しそうにして、ミヒャルに頭を下げた。
「次はスカナだな。お前はどんな成長した?」
「私も、キザールと同様で。隊長に言われたとおりに自分を成長させました。エルミナ様をよく見て、王道の神官術をですね」
「おお! いいね。それじゃあ、エル! スカナの指導を頼む」
「私で務まるのでしょうか。私の神官術は変わっているのですが」
「わかってるよ。聖女の魔法は思いの力だからな」
「・・え、はい。そうです」
「オレも使えるから知ってるって」
「・・ええええええ。ルルも!?」
「ああ。オレも聖女のスキル使えるぞ。一回使ったぞ」
「・・・男性なのに?」
「うん。死にかけたけどな。ははははは」
笑ったら、みんなが引いていった。
あれ?
言わない方が良かったか。
「ごほん。そうだな。エルがスカナの魔法のキレを見るだけでもいいんだ。スカナの魔力の通りがいいとかな。とにかく思ったことで指導してみろ。スカナもそれでいいよな。もっと近場でエルの魔法を見た方がいいしよ」
「は、はい。そうなれるのであれば。私もありがたい話であります」
「だってよ。どうよエル?」
「やりましょう。スカナがそれでいいのであれば、ルルに任されたのです。私がしっかり見守りましょう」
エルミナはオレの顔を見た後に、スカナの方を見て頷いた。
最後まで特訓を見てあげましょうという感じで深くゆっくり頷いたのである。
「そんで、最後にハイスマンなんだが・・・」
「なんで俺の時は言い留まる。俺は何もなしか」
「ある。ちょっと待ってくれよ。拗ねんなよ」
「す、拗ねてねえし・・・」
ハイスマンへの指示を出せないのはこれを待っていたからだ。
「隊長。連れてきました。20名ほどは特訓をするようです」
「フィン。24名です」
「ああ。大体でもいいじゃんか」
「隊長は大体を嫌うのよ。正確にお伝えしなきゃ」
オレはこの二人を待っていたのだ。
「よし、フィンとマールダ。それとハイスマンの三人は実践トレーニングだ。対戦相手はこいつだ!」
オレは寝ているイージスの襟を掴んで持ち上げると、よだれがちょっと出ている。
そんなイージスを見て、本格的に寝てる!
ってみんなが思った。
オレも思った。
「これと実践訓練をして、こいつの速度に対応していこう。フィンが遠距離、マールダが中距離、ハイスマンが近距離だ。ちょうどいいだろ。一対三でも結構きついと思うけど、バシバシ成長するにはちょうど良い難易度だと思う。どうだ、やるか!」
「やる! 英雄様と特訓できる機会なんて、ほとんどないからな。重戦士の意地を見せるぜ」
「俺もやります。隊長。少しでも強くなりたい」
「私もです」
三人の目は良い眼であった。
「だってよ。イー。お前が指導するんだぞ」
「・・・・・・・うん・・・・・寝る・・」
「寝るな! アホ!」
イージスを起こしながらオレは指導方法を伝えた。
この後にぞろぞろ来たジェンテミュールのメンバーはオレとレオンが一斉に指導することとなった。
そして、早速この日から特訓が始まり、三日後。
◇
全体訓練。
Aチーム対Bチームの対戦を見るオレとレオン。
剣を地面に突き刺して、戦っている風景を見ているレオンがオレに話しかけてきた。
「強くなってるな。二級冒険者も準一くらいにはなってるんじゃ。ルル。お前の指導、どうなってんだ」
「あ。まあな。その人の特徴を羅列してもらって、その人に合ってそうなスキルを組み込んでるんだよ。だから成長が早いって事よ」
「そうか……なるほどな」
「よし。今の特訓よりも。この全メンバーでレオンと対戦した方が効率が良さそうだ。よし、みんな。レオンと戦え。こいつを追い込むようにして戦うんだ。ちっとは頭を使えよ!」
「「「 はい 」」」
ジェンテミュールの人間たちは昔と違って素直であった。
オレが無職であることを知っている者もいた。
でも、それよりも剣聖の師であること。
それとレオンを打ち破った実力を認めてくれたのかもしれない。
決勝戦の結果がオレを認めてくれる結果となったようだぞ。
オレの指導で徐々に成長していく冒険者ファミリーであった。
一時間後。
レオンと戦うジェンテミュールの一級冒険者たちは、あの勇者の動きに食らいついていた。
おびき寄せる様にしたり、トラップを用意したりなど。
オレが座学で教えたことをフル活用してレオンを追い込む。
だから、あのレオンが汗まで掻いて戦いをしていた。
あの英雄職相手に素晴らしい戦いぶりだ。
「ほうほう。かなりいいな。特にあそこにいるやつ。あれは確か・・・」
「ええ。あの子はイザークよ」
「ああ。なんだ。ナスルーラか・・・相変わらず怪しい光だな」
怪しく微笑むナスルーラがオレの隣に立った。
「あなたはいつも私をそう評しますわね」
「そうだな。お前はちょっと妖艶すぎてな。光り方が怪しいんだよ。そんで……なんでお前、踊り子として手伝ってくれないんだ? あのメンバーに入れば、レオンをもっと追い込めるのによ」
「私は勇者様とは戦わないわ。嫌よ。憧れですもの」
「じゃあ、相手がオレなら戦うのか」
「そうね。坊やはもっと嫌ね・・・だって、あなたは私の本質を見てしまう気がするわ。私の全てを見抜くかもね。だから嫌ね。それに、なんであなたがここに。もう仕込みが切れてるから、厄介だわ・・・まさか、このタイミングで帰って来るとは」
「ん???」
小さな声すぎて聞こえない。
最後の方のかすれる声の時、ナスルーラの顔は真顔だった。
いつもは怪しく微笑む癖に・・・。
「聞こえんのだけど。悪口?」
「褒め言葉よ。坊やは私の天敵だからね」
「オレが? お前の? どういうこと?」
「そういうことよ。じゃあね。無職の坊や!」
ナスルーラは修行には加わらなかった。
他に参加しない者はシャインとボージャン、後はフールナである。
あれらはオレを追い出しにかかった男どもであるからして、オレを嫌っているだろう。
そして、オレは数日ホームで過ごし、武闘大会終了を祝う晩餐会へ出席することになった。




