第23話 思い出したわ・・・ごめん
「まあ。ルル坊が元気そうならいいか」
「ええ。オレは元気ですよ」
「んじゃ。そろそろかな。ルル坊。さっきの奴と、当たるとしたら決勝か?」
「そうですね」
ガストさんの言い方だと、黄金騎士が決勝に来ると確信していて、そしてオレも決勝に行くと確信しているわけだ。
「無理すんなよ。じゃあ、あたいらは依頼主と一緒に帰るわ」
「はい! また会いましょう」
「おう! 頑張れよ」
こうしてガストさんと短い挨拶だけで終わった。
懐かしいなと思ったけど、オレは次の戦いの準備をしなくちゃいけなかった。
◇
二回戦はあっという間に終わった。
自分の中では、相手のおでこを軽く小突いたくらいの一撃だったのだが、相手はあっさりと降参したのである。
なんか弱い者いじめしてるみたいで、申し訳ない気分になって終了した。
でもとりあえず、これでベスト8に入った。
あと一つ勝てば、ベスト4なので、王からの依頼のノルマ自体はクリアである。
そしてここで疑問に思っていることを一つ解決しようと思う。
二つ勝ったんだ。
なら次の対戦相手を見れば!
オレを知っている口ぶりだった男の名前が分かるのである!!!
◇
「続いて、二回戦第二試合 マールヴァー騎士団魔法戦士のギルバート・・・・・」
話しかけてきたのはあいつだ。
魔法戦士のギルバート……。
だ、誰だ????
名前を聞いても分からない。
職業を聞いても分からない。
お! ど~うしよう!
あの人と知り合いらしいんだけど。
ああ。ど~うしよう!
オレは今。
腕を組んでかっこつけているけど、内心焦りまくっている。
誰だ。誰なんだ。
卑怯者のエラルは覚えていたのにさ。
ギルバート・・・いったい君は誰なんだ!!!
◇
二回戦の戦いはギルバートが優勢。
『魔法戦士』
上級職である魔法戦士は魔法騎士と同じ扱いを受けるが、戦闘スタイルが少し違う。
魔法騎士の場合。
魔法とスキルが別になっている。
魔法を放ちながら剣技を披露できると言った形の職業だ。
それに対して、魔法戦士の場合は。
魔法とスキルが一体化している。
自分の持つ武器に魔法を乗せたりすることが出来るのだ。
火の剣や、風の槍にして、攻撃力をあげる。
珍しい攻撃の型を持つ職業だ。
「あいつの剣・・・ブレも無くて綺麗だな。それに魔法も透き通っているわ」
ブレの少ない剣と、淀みのない魔法。
そしてそれを一体化させた火の剣は、ギルバートの強さを表していた。
火の剣を中心に、ギルバートは攻撃を積み重ね、敵の武器とぶつかり合っても、ギルバートの魔法剣の方が威力が高くぶつかり合いは、ほぼ100%の勝率を誇っていた。
「終わったな・・・あいつの勝ちだ」
戦いの結末を見るまでも無く、休憩室に下がった。
◇
一時間後。
「それでは、ベスト4をかけた戦いです。準々決勝第一試合を始めます。西から剣聖の師ルルロア!」
大層な名がついたオレが入場して。
「東から、マールヴァ—騎士団魔法戦士のギルバート!」
自信満々の顔でギルバートが入場した。
互いがリングの端から入場して、中央で出会う。
「フハハハ。やはりだ。貴様が勝ちあがると思っていたぞ。俺と勝負だ!」
「お。おう。そうだな」
「どうした。威勢の良い貴様にしては、なんか元気がないな」
「いや。あんま気にすんな。げ、元気だぞ! うん。元気だ」
「フハハハ。ならばいいだろう。正々堂々、勝負だ」
今のやり取り。
なんとかやり過ごせた。
あんたのこと。
誰だかわからないよ。
なんて言ってしまったら、可哀想だから余計な事は話さずにいた方がいいのさ。
「それでは。銅鑼を!」
『ガシャン』
「試合開始です!」
アナウンスの人の合図でオレたちは走り出した。
「貴様相手に油断はしない。最初から全力だ。火炎剣ファルマ!」
「鋭いな」
一刀両断の火の魔法剣。
振り下ろされる剣筋は綺麗で、オレの頭を割る勢いだった。
だから、花嵐をすぐに抜いて剣の軌道に合わせて相手の勢いを殺す。
「む! さすがだ。この一太刀を防ぐとは・・・・大抵の者はこれで倒せるというのに・・・貴様はやはり強いな。何年経とうがその強さは本物だ」
「まあな。あんたもなかなか強いぞ。ほらよ」
オレがギルバートの剣を弾いて、すぐに斬りにかかるが、向こうは風の魔法剣に変えて防御してきた。
その魔法の切り替えの速さに、修練してきた努力を見た。
「凄いな。その変化速度はなかなか出せないぞ」
「当り前だ。貴様に負けたあの日から・・・・」
あの日って、どの日?
いつの事なんでしょうか。
教えてください!
「俺はもう無職を馬鹿にしない。貴様に敬意を払い倒すのだ」
「へ~」
肝心なところを教えてくれないから、めっちゃごまかしている。
「何故そんな気の抜けた返事なのだ。今、俺がリベンジする前の格好良い場面だろ!」
「すまん!」
心から謝った。
こいつと戦ったことがあるらしいんだ。
でも全く思い出せないことに、心からの謝罪をします。
オレの『へ~』はマジで単なるごまかしだ!
下手に話せば、覚えてないのって悲しむかもしれないからな。
本当にスマン!!!!
幾度かの剣戟を交え、オレと奴はほぼ互角だった。
「ふ~ん。あんた強いな。えっとダルバートだっけ」
「また貴様は!! 同じ間違いを。ギルバートだ」
「同じ間違い・・・」
同じ間違いを起こしたらしい。
いつだ?
「貴様。まさかその顔。俺を忘れていたのか!」
「いや、覚えてるって・・・えっとギルダードだろ。大丈夫! 覚えてる!」
「覚えてないだろうが。俺はギルバートだ! あの時と同じ間違いをまたしやがって・・・いや、わざとだな。俺、飲み込まれるな。・・・冷静になれ。こいつの作戦じゃないか・・・ああ、でもダメだ。やっぱりこいつはぶっ殺す!」
めちゃくちゃキレて飛び掛かって来た。
同じ間違いをした。ギルバート・・・・。
そいつは確か……ああ!!!
「おお! 日曜学校の魔法戦士! そっか。お前・・・オレと同期だった奴か」
「やはり、今思い出しているではないか。死ね。貴様! 火風剣ファルマ」
ギルバートは、火と風の混じった魔法剣を扱った。
その火力は強い。
そしてその怒りも燃え滾っている。
オレが火に油を注いでしまったからしょうがない。
ごめんなさい。
なので、全力で戦う事にしよう。
「スキル 獣化 からの桜花流 花霞」
「な!? 消えた・・・ど、どこだ!」
ギルバートはオレの影に剣を振った。
消えたように移動したオレにギルバートは焦る。
「オレが思い出したんで、もういいだろう。ギルバート眠れ。桜花流 満開」
ビーストの力を使って、ギルバートの頭上にいたオレはそのまま桜花流の一太刀を浴びせた。
火風剣を砕いて、ギルバートの鎧のある右肩に攻撃を当てた。
「つ・・・強い・・・これが無職か・・・・くそ・・・俺はまだ敵わないのか」
「ああ、これが無職の力だよ。でもさ。あんたはオレを馬鹿にしない分、いい奴だって! それにあんたは強いぞ! 自分を誇れ」
「・・・はっ・・・この野郎・・・慰めにならん・・・わ・・・」
ギルバートは少し笑ってから気絶した。
なんだか満足したようである。
「勝者は剣聖の師ルルロアとなりました。皆様拍手を」
相手にお辞儀してから歩く。
オレはギルバートに敬意を払って会場を後にした。
◇
会場のどこか。
赤のイヤリングをしている男が、そばにいる女性と会話していた。
「そろそろだな・・・大会も終わりを迎える。あんたはどうする気だ」
「私は、当初の計画の通り。まだ動きません。あなたたちに訪れる好機の際に、真の組織を表に出しましょう。本当の計画が始まった……その時。このビーストマスターの力もお見せしますわ」
「そうか。じゃあ、後で城で落ち合おうか」
「はい。そうしましょう」
くねくねと体が真っ直ぐに動かない歩き方の女性は、そのまま会場の観客席に戻る。
二人の男女が座る隣の席に座った。
「どこ行ってたんだ? もう三回戦も終わっちまってるぞ!」
「ええ。少し顔見知りと会話してましたわ」
「そうですか。それにしてもあなたがここに来るとは、こういうものに興味があったのですか。踊り子ですから、舞台に血が騒ぐのでしょうか?」
「ええ。そうですね。誰かに見られ、誰かを魅了する。そのことに快感があるかもしれないですわね」
女性は足を組み、自分の膝に肘をつく。
スリットから見える生足が妖艶さを漂わせていた。
「・・・じゃあ、ナスルーラはここで踊りたいのか・・・まあ、踊れそうだよな。実際、踊り上手だし」
「そうね。大勢がいる舞台で踊り狂いたいですわね。フィン、マールダ。あなたたちもいずれ、舞台に立ち、踊りましょうね・・・いずれね。ふふふ」
ナスルーラは二人にそう言い、怪しく微笑んだ。




