第10話 卒業試験 修行の成果
闘技場の中央に立つと、対戦相手から冷ややかな声が聞こえてきた。
お前らが勝てる確率など万に一つもない。
と言いたそうにしているけど言ってはいない。
だってさ。
こっちの勇者と仙人が、技を封じられているの知っているわけで、対戦相手たちは、物凄い大きなハンデを貰っているのに、ここでイキルわけにもいかないだろう。
そこら辺のプライドだけは持っていたようだ。
「俺たちだって上級職はいるんだ。この人数差で俺たちが負けるわけがない。なめんなよ。まだ何もしてないのに勝手に英雄だとか。思い上がりも良い所だ。いい気になるなよレオン。お前は! いつもいつも偉そうなんだよ」
小さな男の子がレオンとイージスを指さして宣戦布告してきた。
『うん。誰でしょうか』
オレって、先生か師匠とのマンツー授業しかしてないんで、他の生徒の情報が分からないのだ。
振り返れば、オレって、ほぼほぼ学校に通っていない。
「お前誰だ? 俺はね。男の名前は、重要な奴しか覚えられんのだ。そんな俺が名を覚えていないなら、お前はたいしたことない奴なんだな! 知らん奴」
「貴様ぁ! 俺はギルバートだ。魔法戦士のギルバート! たいしたことある! 特殊職だぞ」
「へ~。あっそ」
「なんだその態度はぁああああ・・・・」
この後も、レオンはギルバートと試合前のトラッシュトークを繰り広げる。
トークでの戦いは分が悪いと思ったのか。
ギルバートは最後に負け惜しみみたいにオレの方をいじって来た。
「くっ・・お前らにはお荷物がいるだろ。無職の大荷物だ・・・・貴様ら、何を好き好んで、ここにお荷物を持って来た? それにお前らが、そいつをいまだに背負ってるのも不思議だ。まったく間抜けだな。珍しい奴らだわ。なぁみんな」
「「「はははははは」」」
こちらの方々の反応は当然のものだ。
オレの無職は、日曜学校の生徒なら、誰もが知っている事実。
三年間もここに在籍していたんだ。
ただでさえ悪目立ちするジョブであろう。
でもだ。無職って何が悪いんだ。
誰か教えてくれ。
そうこの時のオレは別に自分のジョブのことをあまり恥じていない。
三年間の日々で培われた自信が、相手の嘲笑を上回っている気がする。
親父のアドバイスをもらえているオレは、誰に何と言われようが自分を保っていた。
「・・・おい! お前らを消し炭にするぞ」
珍しくイージスが語気を荒げてキレた。
その怒り方は、初めて見る怒りで、彼の周りに薄く光が走っていた。
白光のオーラが彼を包み込む。
「ちょっと待て、イー! その力はまさか。これは、仙人の力だろ。駄目だって押さえろ。オレのことはいいからさ……」
彼の両肩に手を置くと、イージスの怒りは収まった。
光が消え始める。
「・・・ん・・・そうだった・・・ルル・・・ごめん」
初めて見るイージスの力にオレはビビった。
向こうの人間たちはきょとんした顔をしただけであったが。
オレの目は彼の真の力が映し出されていて、マジで冷や汗が止まらなかった。
イージスは今のやり取りで、とんでもない力を出していたんだよ。
オレの鑑定眼がそれを見抜いたんだ。
この世界のジョブに、判断士というジョブがある。
こちらのジョブは、主に人生相談を受けたり、お悩み相談をする職に就く人が多い。
そのジョブの初期スキルに『鑑定眼』がある。
この能力は『鑑定』というスキルとは違い、相手の能力を見極めるという激レアスキルがあるのだが、自分の力の範囲で判断ができるという代物であるがゆえに、なかなかに使いどころが難しいスキルなのだ。
自分のが重要だから、自分の実力の範疇を超えると鑑定できない。
だから、今、オレはイージスの力を鑑定できなかったのだ。
多少は強くなったと自分でも思っているけど、それ以上にオレよりもイージスの力が凄かったんだ。
ちなみに別の話だが、スキル『鑑定』は物の価値を鑑定する能力だ。
実際の物の価値を把握しないと鑑定出来ない能力なので、今のオレもそのスキルを持っているけど、知識が足りないので正確な鑑定が出来ていない。
さらに、どうやってその能力を得たかというと、一生懸命薬草とかの価値を判断していたら、鑑定は覚えられたのだ。
こちらのスキルは薬草師、薬剤師、商人、錬金術師が持っている。
◇
審判の先生の声が響く。
「始め」
十三対三の戦いが始まった。
オレたちは、戦い始めてすぐに劣勢状態に陥る。
当然だ。
勇者の力も仙人の力も封じられていれば、ちょっと他よりも強い人間が二人いるだけだからだ。
最初よりも更に劣勢になってから、三人で距離を取って固まった。
レオンが珍しく弱音を吐く。
「く、苦しいな……」
「そうだな」
オレが答えた。
「・・・なにか・・策がほしい」
イージスが聞いてきた。
「ねぇな。普通に戦うしかねえ」
汗を拭ってレオンが答えた。
「ある」
オレが答えると二人がギョッとした顔をした。
この劣勢を逆転させるには師匠から得た力を使わないといけない。
「どんなだ?」
「ルル・・・気になる」
「策の間、二人で戦えるか?」
しかし、あれを使うには条件があるのだ。
「それはちときついな。二対十三か」
「・・・同じく」
「大丈夫。オレの力を信じてくれれば、二人の力を最大限に生かせるから。信じてくれるか」
「そんなのは楽勝よ。信じるなんて、最初から信じてるからな」
「うん・・・そう。もう信じてる」
説明しなくても二人はオレの事を信じてくれていた。
「じゃあ、下がるから、二人ともオレを守ってくれ。頼む。これはオレのスキル発動条件みたいなもんなんだ」
「「わかった」」
「じゃあ、お前たち。頑張れ!」
「「 おう! 」」
ここから二人に力を授けた。
◇
「どうした。お前ら、怖気づいたのか。お家にでも帰ってママに泣きついたらどうだ」
「「ギャハハ」」
敵は自分たちの状態が優勢過ぎて調子に乗っていた。
「そうだな・・・お前らがお家にでも帰った方がいいな。これからお前らは、オシッコちびっちまうからな。この会場の人たちに笑われちまうぞ」
レオンは逆に挑発した。
すると、逆上した敵が突っ込んでくる。
そこをレオンじゃなく、オレが見逃さない。
スキル発動。
スキル『指揮』
指示を受けた人間の能力が跳ね上がる支援スキル。
指示を受ける側が、指示を出す側を信じてくれると、その効果が増幅されていく。
それがオレが覚えた指揮と言うスキルの効果だった。
その部分が師匠とは違う効果だ。
これは、オレの職人気質が進化させたのだ。
「レオ。右に動いて、そいつを左に弾き飛ばせ」
「おう!」
レオンは指示通りに最初に接敵した男の攻撃を躱して場外まで飛ばした。
「え!? ただの蹴りだったんだけど・・・あれ・・」
レオンは思った以上の力で飛ばしたことに驚く。
「上から三人! イージスも場外へ飛ばせ」
「うし!・・・・・やる」
イージスは敵を一撃ずつで遥か彼方の上空へぶっ飛ばした。
「・・・ぬ? 動きが・・・違う? あれ?」
自分の体のキレが変わりすぎて、イージスは首を傾げていた。
「いけるからな。オレを信じてくれ! 頑張れ! 二人とも」
オレのこの声掛けも、スキルである。
スキル『鼓舞』
味方の力を一分間だけ上げることが出来る。
スキルインターバルは三分。
使用するとインターバルが発生するから、ここぞで決めないといけない。
このスキルを使用後、俺は切り替えてスキル『指揮』に戻す。
ここでオレの弱点を紹介しよう。
それは、スキルを同時には使えない事だ。
しかし、切り替えは出来る。でもこれが結構難しい。
特訓で何とかなっているけど、二つ同時に扱えないというのがオレの欠点だった。
でも実は、二つ同時に使えないわけじゃない。
二つ使うと体中に痛みが走るんだ。
師匠が言うにはオーバヒート状態じゃないかと。
体がスキルの負荷に耐えられないらしい。
「じゃ! 行くぜ! レオは右に十歩移動だ。イーは左の敵を蹴散らしてくれ」
オレの再度の指示で、二人は次々と敵を撃破。
しかし、敵もなかなかで、最後に少なくなっても態勢を整えてきた。
その最終決戦の時に、オレの背後にギルバートが来た。
「お前が何かしているな。消えろ無職」
「「ルル!」」
心配してくれる声にオレが答える。
「いい! ただ、お前たちは同時に二人を相手してくれ。すまんがオレのスキル効果を切る」
敵は残り五人。目の前のギルバートがオレを狙い。
他の四人がレオンとイージスを囲っていた。
2対1程度の数の差であれば、英雄の二人は余裕だ。
「わかった」「・・・うん」
『指揮』のスキルを解除。
様子見の為に、『見切り』を発動。
ギルバートが、オレに攻撃を仕掛けた。
奴の剣が鼻先を掠める。
「ん! まあ、なかなかだよな」
「無職が何を偉そうに・・・・」
「いや、マジで。あんた、なかなかやるよ。ええっと、グルバードだっけ」
「ギルバートだ! 微妙に間違えるな。お前えええええええ」
「さっきの剣。ルナさん並みの切れ味なら、今のように躱せないけどさ。まあ、それでもその歳でそれくらいの剣技はなかなかやるよ。マジで。誇っていいぞ。ダルバート」
「わざとだ。お前、わざとだな」
相手は逆上していく。
こうなると攻撃が単調になっていく。
右に左に一定のリズムとなるので、オレは余裕で攻撃を躱し続けた。
そして、スキルを『間合い』に切り替えて、今度は剣をいなし続ける。
すると俺は大体を把握してくるのである。
相手との距離感をだ。
自分の中で、めどをつけて、スキル『間合い』を解除する。
「よし。それで、どうするんだ。ギルダード」
「ギルバートだ! お前ええええええええええ」
追加の挑発によってさらに攻撃が単調となり、隙が生まれたので、渾身の技を披露してあげた。
「いくぞ! こいつが拳闘士のスキル『カウンター』だ。体で覚えとけ。ギルタン」
相手の剣が俺の肩に突き刺さる寸前。
オレは相手の懐に潜り込むようにして、剣を躱しながら、ギルバートの顔面に拳を当てた。
「誰が、ギルタンじゃ。ぐおおえあああああああああああああ」
「よいしょっと!!!!」
「お、俺が・・・無職なんかに」
思った以上に拳がめり込んだので、遠くに飛ばすのはかわいそうと思い、地面に叩きつけた。
「ありゃま・・・一撃で、沈んだか・・・」
殴って少し赤くなった拳。
オレはやりすぎたかと思ったその時。
「ルル! お前、強いな。はははは」
「そうだね。おらもびっくり・・・」
二人が嬉しそうな顔でオレを迎えてくれた。
「だろ!」
「ああ」「うん」
こうしてオレたちは大歓声を受けて、卒業試験をクリアしたのだった。




