最後の散歩
しんと静まり返った田舎道を、二人で歩く。
近くの郵便局。毎日のように行っていた駄菓子屋さん。一緒に通った学校。
何気ない道や辺りの風景が、なんだかいつもと違って見えた。
「この道、よく学校帰りに通ったね」
「アイスばっかり買って食ってたよな」
彼女と僕は、散歩しながら他愛のない思い出話に花を咲かせる。
けれど特別に思い返すことなんて多くはなくて、それくらいに彼女との記憶は当たり前の日常の中に紛れ込んでいて。
その当たり前の日常が明日からなくなるんだということが信じられなかった。信じたくなかった。
ゆっくり歩いて、歩いて、歩き続けて。
やがて二人の家に着いた。慣れ親しんだ我が家へと。
これはきっと、最後の散歩。
明日からは彼女の隣を歩くことはない。彼女の隣を歩くに相応しい人が、他にいるから。
だから彼女は知らなくていいのだ。
僕が彼女に抱くべきではない想いを抱いていたことも、ずっとこうして並んで歩き続けていたかったことも。そして、「歩きながら話したいから」と彼女を散歩に誘った時、本当はどこかへ連れ去ってしまいたかったということも。
「幸せになれよ、姉ちゃん」
「言われるまでもないよ。でも、ありがとね」
明日、彼女――姉は遠くの街へ嫁ぐ。
僕はただ、姉の幸せを願うしかできなかった。