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1415時、友軍が来るまであと45分。


連続する轟音、地響き。

鎧山蜘蛛(よろいやまぐも)が巨体に似合わぬ凄まじい速度で突っ込んできながら前足2本を交互に振り下ろしてくる。

トーゴは振り下ろしを躱しながら後退していく。

攻撃と攻撃の合間、引きながら隙をついて至近距離でショットガンを撃っていく。

弾は足に、頭に、腹に当たるもどれも外殻に弾かれる。


(この距離でもダメージ無し、か)


激しい攻撃を最中、トーゴは弾切れのショットガンに次弾を込めていく。

なかなか攻撃が当たらないことに焦れた鎧山蜘蛛は、今度は上に大きく跳躍し8本の足も広げてトーゴを踏み潰そうとする。

地面のシミにされる前に一瞬で大きく離れる、と同時に魔石爆弾を転がして腹の下に滑り込ませる。


起爆。


下からの爆風で鎧山蜘蛛の巨体がひっくり返る。


(あの大きさで意外と…軽い?)


疑問を抱きつつも裏側を急いで観察する。

足の付け根、頭胸部、腹部―


鎧山蜘蛛は足を器用に動かしてすぐに起き上がる。

ダメージはほぼない、が思わぬ反撃に心なしか怒っているように見える。

お互いににらみ合い、一時の膠着。


方や攻撃が通じない。

方や攻撃が当たらない。

両者はお互いに決め手を欠いていた。


だがしかしトーゴは獰猛な笑みを浮かべる。


「お前の弱点、分かったぞ」


言葉は通じない。

でも剥き出しの敵意は通じる。

トーゴは体を僅かに沈め、蜘蛛も牙を打ち鳴らし前足を広げる。


再び戦いの火蓋が切られた。


トーゴは後ろに鎧山蜘蛛は前に。同時に走り出す。

足はトーゴのほうが速いので追いつかれることはない、が逃げても意味はない。

追いつかれない程度の速度を維持し、ショットガンを撃ち込んで相手を誘い出す。

目的は離れた位置にある大木。


大木に近づいたらスピードを上げる。

そして木を垂直に駆け上がる。

少し遅れて鎧山蜘蛛も木に登ってくる。

トーゴは大木の途中の枝に捕まって待ち構えた。


「来いよおおおお!!!」


途中の邪魔な枝をメキメキとへし折りながらトーゴを噛み殺さんと迫ってくる。

遂に追いついた鎧山蜘蛛の振りかぶった前足がトーゴをとらえる瞬間、消える。

トーゴは蜘蛛の足の隙間を全速力で駆け下りた。


直後、轟音。


寸前に大木の洞に仕掛けた魔石爆弾が爆ぜた。

大木から剥がされ、物理法則に従い真っ逆さまに落下する鎧山蜘蛛。

それより速く地面に下りて離れたトーゴ。


再度、轟音。


鎧山蜘蛛が背中から地面に叩きつけられる。

辺りが僅かに振動し、土煙が舞い上がる。

しばらくして煙が晴れるとそこにはひっくり返ったままの鎧山蜘蛛が。

流石に大きなダメージが入っただろうが―


「まだだよなあ!」


口や足が動いている。

衝撃で一時行動不能になっているだけだろう。


巨体の割に身軽だから木の上に誘導できると思ったが、身軽な分落下の衝撃も少なかったのだろう。

ただ、これはチャンスだ。


素早く近づきながら腰に差したマジックナイフを抜いて魔石カートリッジを装填。

胸と腹の間のわずかな殻の隙間にマジックナイフを強引に差し込む。


「終わりだな」


刃が根元まで入ったことを確認しトリガーを引き。




激しい爆音と高熱に襲われて吹き飛ばされた。




「ぐお!?」


十数メートル先の岩に背中から叩きつけられる。

肺の中の空気が全て押し出され、息がつまってしまうがすぐに立ち上がる。


(骨は逝ってないな、それより)


鎧山蜘蛛の方を見る。

体内から激しく燃やされた蜘蛛の腹部は殻がめくれ上がり、体の節々から煙が立ち登っている。

そして頭と足の何本かは火炎の衝撃でちぎれていた。


間違いなく即死。

これで1体目。

ただ、あまり休んでいる時間はない。


「いいもの作ってくれたな、リア姉」


カキンッ。


魔石カートリッジを排莢して新しいものを装填。

合わせて状態を確かめる。


刀身にわずかにヒビが入っている。

やはりこちらはもってあと1発。


残弾はもう一本のナイフ含め計3発。

ショットガンに再び弾を込めていると地響きが近づいてきた。

フォアエンドを引いて弾を薬室込めると同時に残してきた鎧山蜘蛛2体が迫ってくる。


「第二ラウンドだ」


----------


隆起の激しい岩と木々が密集した秀麗な大地。

その片隅で2体と1人の戦闘は激化の一途をたどっていた。


1体が前に出て足をこん棒のように振り回し、もう一体は距離を取って糸を吹いてくる。

前足と粘着糸の波状攻撃。

一撃でも貰うわけにはいかない攻撃をトーゴは避け続けていた。


(こいつら…)


糸を潜り抜け、前足の振り下ろしをギリギリで躱しながら前へ転がり、鎧山蜘蛛の側面に張り付く。

足を広げて軽く膝を曲げて腰を落とし、踏み込んだ右足を軸にして回転。

蜘蛛の横っ腹に背中で体当たりをかます。

前世では鉄山靠と呼ばれていた大技である。


激しい衝撃が蜘蛛を襲い、巨体が吹き飛ばされる。

二転三転横転し、岩にぶつかって止まる。

隙をついてマジックナイフを刺そうと近づくが、もう1体の蜘蛛が糸を連射して妨害してくる。


無数の糸を避けているうちに吹き飛ばした個体も戦線に復帰。

また2対1の乱戦に持ち込まれる。


先ほどマジックナイフでとどめを刺したところを見ていたのだろう。

2体で連携してなかなか隙を見せない。

賢い、とても獣とは思えない。

トーゴは激しい連撃をいなしながら思いを巡らせる。


(整理しよう。

相手の攻撃は足による近接攻撃、または牙による噛みつき、それと粘着糸による遠距離攻撃。

足はリーチも長く威力も大きいがオレの機動力なら当たることはまずない。

噛みつきはリーチが短く頭の正面しか攻撃できないから無視して構わない。

厄介なのは糸、手数も射出速度も速く不定形でおまけに蜘蛛ですら一時的に動けなくなる粘着力。

当たったら行動不能で終わるだろう。

向こうもそれをわかっていてどちらかに隙が出来ると糸の連射でカバーしてくる。

思ったより体が軽いから吹き飛ばしなど攻撃が通じないわけではないが決定打に欠ける。

マジックナイフを強く警戒しているからそう易々と止めはさせない。

こいつらを倒すには2体同時に大打撃を与えて隙を強引に作るしかない。

それは簡単ではない、しかし…)


鎧山蜘蛛2体の正面立ちふさがる。

形勢は不利、だが悲壮感は全くない。

寧ろその表情は獲物を狩る鬼の笑み。


「終わりにしようか」


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