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「任務を説明します。昨日の狗頭猿の群れがいた原因を探るべく朝からエリア2で偵察していた部隊が鎧山蜘蛛3体に襲われて敗走しました。
あなたには鎧山蜘蛛の捜索と発見次第討伐もしくは遅滞戦闘をお願いします。
鎧山蜘蛛は体長約10メートル、体高6メートルほどの大きさで、強固な外骨格を持ち、糸や麻痺性の毒を吐き出して攻撃してきます。
しかもこの大きさわりに動きも速く、跳躍行動もしてくるので非常に強敵です」
戦闘をした部隊が記録した鎧山蜘蛛の映像が映し出される。
人一人を丸のみ出来そうな大きさで、全身が硬そうな殻に包まれている。
なんというか、蜘蛛にカニを足したような見た目だな。
「かなり手ごわそうな魔獣ですね」
「すみません本来はあなたに二日連続で任務に出てもらうのは申し訳ないのですが、対抗できそうな戦力は現在別のエリアの任務に出てて戦力が足りません」
イメルダが魔法で戦力マップを映し出す。
エリア2には鎧山蜘蛛3体のマークだけで味方の戦力配置は皆無になっている。
「しかもエリア2はかなり入り組んだ地形になっているので数がいればいいというわけではありません。今現在即時展開できる戦力があなただけなんです、急がないとエリア1まで侵攻してくる可能性があります。エリア1は資源採取している輸送部隊もいますので侵入を許すわけにはいきません」
戦略マップが今度はエリア1を映す。
資源採取任務中の輸送部隊の位置と防衛ラインが表示される。
「出来れば討伐をしてほしいですが難しい場合は時間稼ぎをしてください。時間さえ稼いでくれれば前線の主力部隊が応援にこれます」
前線ラインから部隊の一部がエリア2に派遣される図が表示される。
この識別タグは…
「これ上位ランカーが来てくれるってことですか」
「そうです、ランク8とランク21に救援要請がかかっています」
それならなんとか…。
「わかりました、装備もらえますか」
「今回装備はいつものナイフ装備と他にいろいろご用意しました」
作戦室の奥の棚の方にいつも使ってるタクティカルベスト、ククリナイフ、サバイバルナイフの他にも様々な武器や装備が用意されていた。
「まずククリナイフは2本に18mmショットガンと弾は単発徹甲シェル。それと魔石爆弾を持てるだけ持ったら…8発か。うーむ」
「どうしましたか」
「この武装であの外殻を破壊できるかですね。このナイフは恐らく歯が立たない、徹甲弾や爆弾が通るかどうか」
「ちょっとお待ちください…こちら過去の戦闘記録には『外殻は銃火器に強い耐性を持ち、徹甲弾や爆弾では破壊するには至らなかった』とあります」
イメルダが別の報告書を取り上げて読みながら、鎧山蜘蛛の映像の外殻の部分をズームアップさせる。
「それと上位ランカーの遠距離魔法射撃、或いは強化魔法による近接攻撃で破壊できたという記録があります」
「それだとオレの手に余ります。特魔兵装は流石に無理ですか」
「特魔兵装は国宝なので使用許可が下りないでしょう。申し訳ありません」
「大魔石爆弾も許可が下りないですよね」
「専門の技師官が必要ですが、派遣が間に合いませんね…」
「こうなると本当に時間稼ぎしかできないか…」
二人そろって頭を抱えているときだった。
作戦室のドアがノックされて誰かが入ってきた。
「どうも~技術開発部のグロリアーナでーす」
「リア姉さん?」
「魔兵装、持ってきたわよ~」
持ってたスーツケースを開く。
中にはダガーナイフが2本と細長い薬きょうのようなものが4本入っていた。
ダガーナイフには柄の付け根にトリガーがついている。
「これは?」
「試作段階のマジックナイフよ。
使い方は目標に突き刺してトリガーを引いたら刃先から強力な火炎魔法が発動するわ。
つまり目標は体内から燃やされるということね~。
一回使ったら柄の中の魔石カートリッジを入れ替えたらまた使えるわ。
今回急だったから4発分しか用意できなかったけど…」
「いや十分だよ。ありがとうリア姉さん」
「いいのよ~」
そう言ってリアはトーゴに抱き着き、胸に頬ずりしてきた。
「でも気を付けて、多分1本につき2発までしか使えないと思う。その分強力に作ったから」
「分かった」
トーゴはリアに抱き着かれたまま2本のマジックナイフを腰の後ろに差し、カートリッジをウエストポーチに仕舞った。
「えー、おほん」
「あら~どうしました情報官さん?」
「すみませんイメルダさん、続けてください」
トーゴは謝っているがリアを止める気はない。
止めてもやめないことを知っているからだ。
イメルダの表情はいささか硬かったが説明を続ける。
「友軍のランカー2名の到着予定時刻は約90分後の1500時です。
討伐が厳しい場合はそれまでに持ちこたえてください。
それとあなたの正確な位置を特定するために戦闘前に通信機のシグナルをオンにしてください。
友軍の目印になります。
他に質問はありますか?」
「いえ分かりました、出撃します」
「厳しい任務ですがあなたが頼りです。ご武運を」
「ありがとうございます。…じゃあリア姉さん、行ってくるね」
トーゴは胸の中にいるリアを優しく抱き締め返した。
「いってらっしゃい。早く帰ってきてね」