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「バルトー少尉、報告を」
「ハッ!大佐、座標BからCに至る途中のこの地点で伍長が狗頭猿の群れを探知、トーゴ特務兵が単独で戦闘を開始。戦闘時間1分26秒で54体全てを殲滅しました、こちらの損害はゼロです」
「フム…運が良かったな」
「はい、彼は…トーゴ特務兵の戦闘力は驚異的ですね、一人で大隊の戦力に匹敵するでしょう」
「その評価に間違いないだろう。それで、釣果はどうだったかな」
「ち、ちょうか?はい、狗頭猿の毛皮と牙が21体分、生魔石は54個です」
「ほう…。無傷でこれだけの戦果が出てしまうとついつい彼らを頼ってしまいたくなるな」
「確かに、非常に心強いです」
「ただ、まだ彼は若い。いろいろと経験を積ませるためにも今後も彼とともに任務に出てもらうこともあるだろう。その時はよろしく頼む。今日はもう下がってくれて大丈夫だ」
「はい!これから部下たちと祝勝会があるので、失礼します!」
バルトー少尉が退室する。
大佐は執務室で1人、厳しい表情で報告書をめくり続けた。
「それにしても一昨日の報告より群れの数が多すぎる、何かの前触れか」
ひとしきり考えたのちに卓上の通信機でとあるところに連絡をとるのであった。
日もすっかり沈んだ夜。
地下世界の産物と魔法技術によってもたらされた魔動灯で煌々と輝く独立都市の一角にある酒場では第三調査分隊の面々にトーゴが加わった祝勝会が開かれていた。
「では全員の帰還と勝利を祝って、乾杯!」
「「「乾杯!!!!」」」
グラス同士が重なり合い、カチャン!と景気のいい音がなった。
ノリノリな隊員たちとは逆にトーゴはテーブルの隅で小さく麦茶を飲んでいる。
「どうしたトーゴの大先生よ茶なんか飲んで!酒飲めよ!」
「飲みませんよ。オレ13ですよ」
「「「13!?」」」
「その顔で?!」
「ひどい」
「目つき顔つきがこう…堅気じゃない」
「13歳?!体大きすぎない?」
「先月計ったら170cmでしたよ」
「え今の子供ってこんなにデカいんですか」
「いやーん腕ふとーい」
「ちょっと、飯が食いにくいです」
「13歳…私の半分…」
「将来は少尉よりでかくなるんじゃないですか」
「俺が13の時はどうだったかな」
「あ、すいませんピザとから揚げ5人前ずつください」
「頼み過ぎじゃない?食えるの」
「余裕です」
「成長期すげー」
「俺は酒でいいや。ビールビール!」
「よく酒なんか飲みますよね」
「なんだ文句あるのか?もしかして下戸?」
「いえオレ酔わないんで」
「おい、トーゴ特務兵。酒は16からだぞ。なんで酔わないって知ってる?」
「あ、いえ。ノーコメントです」
「こっちを見ろ」
「…」
「おい」
「まあまあいいじゃないですか少尉」
「若気の至りですよ」
「すみませーん、ピザとから揚げでーす」
「あ、ありがとうございます」
「ほら食え食え」
「あホントに食ってる」
「なんか大食い対決見てるみたい」
「そんなに見られてる食いにくいです」
「すみませーん料理追加でー!」
祝勝会は酒が入っていることもあって盛り上がっていった。
ひとしきり飲んで食って多少落ち着いてきたところで、トーゴについて誰もが疑問に思っていたことを隊員の一人が問いかけた。
「ところであの猿たち、どうやって倒したの」
「殴って」
「アハハ面白ーい。…え?マジ?」
「身体強化魔法?魔力感じなかったが…」
「流石にあんな速度も威力もでないでしょ」
「オレ、特別なので」
「説明になってねー」
「よしそれなら腕相撲しよう」
「勝負にならないですよ」
「かっちーん」
「あははははは!13歳にあしらわれてやんの」
「コイツ!!腕を出せ腕を!!!」
「あー、はい」
トーゴは右手に橋を持ったまま左手を出した。
からかわれた隊員が目の前に座って左手を掴む。
「おー!いいぞやれやれ!」
「賭け、賭けか?!」
「はい、両者構えて!レディーファイト!」
「おらあああああああああ」
「あ、このチキンうまい」
方や全力、方やご飯を食べながら。
あまりにも動かないので両手を使いだしたが、それでもトーゴの左手はピクリとも動かなかった。
「うご、ぐごかな…!」
「おい本気出せよ!」
「魔法は使うなよ!」
両手で動かそうとしてもびくともしない。
「おいちょっと手伝え!」
「冗談だろどれどれ…うごおおおお!うごけえええええ」
「俺もやってみよ、うおおおおおおおおお」
「動かねええええ」
たくましい肉体をした兵士4人が全力で引っ張っても全く動かなかった。
「少尉、これどうなってるんですか」
「俺はしらんぞ」
「おおおおお!少尉も手伝ってくださいよ!!!!」
「動け動け動け動け!!!」
「すみませんチーズパスタとグラタン4つずつください」
「この状態でまだ食べるの」
「大物だなー少年」
賑やかな祝勝会も終わって帰宅したトーゴは玄関のドアを開けた。
「ただいま」
トーゴの声に呼応してトットットットッ…と足音が近づいてくる。
「お・か・え・り~!」
勢いよく走ってきた女性がトーゴに飛び掛かってきた。
トーゴはその彼女が間違ってもケガをしないように優しく丁寧に受け止める。
それは女性らしい曲線美を持ち、美しくて長い金髪の美女だった。
「ただいま、リア姉さん」