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初めての作品となりますが楽しんでいただけたら幸いです。

生きるというのはクソだ。

今世も『その前』もそうだった。


死んだら地獄に行くんじゃない、生そのものが地獄だ。

前世のことは覚えてないがそれだけは知ってる。


そんなオレの地獄が終わったのは8歳のときだった。

それまではスラムでボロ布のように生きてた。

前世と大して変わらない生だった。

それが裏返った。


「トーゴ」


ジジイが羊皮紙を渡してくる。

そこには『トーゴ・オートリ殿の魔力適性と先の功績を認め、軍学校への特待生入学を認める』と書いてあった。


「今度こそ、オレは」


----------


独立都市アウガルテンにある独立軍学校の一日は忙しい。


学生寮に住む一般生は日の出とともに点呼と基礎体力訓練が始まる。

その後朝食を学校の食堂で摂り、休憩の後に午前の講義がある。

昼食を挟んで午後は日によって講義の続きや基礎体力訓練、魔法訓練、実戦訓練が入る。

夕食後から就寝前の点呼までは自由時間。

週2日は休みがあるが、それでも一般的な忙しいことには変わりない。


独立都市の防衛から各種資源の採取運搬、地下世界攻略に至るまであらゆる任務をこなす独立軍を担う人員を教育する軍学校は、世界中から魔力適性のある人材が集い、学術から戦闘技術まで徹底的に叩き込まれる。

成績如何によって将来も左右されるため、学生たちも必死だ。


ただし…


「オレにとっては天国みたいなものだ」


実習の最中だが周りに気付かれないようひっそりとほくそ笑む。


なにせトーゴは一般生とは待遇の違う特待生。

軍学校近くの家から通っているため朝の訓練は参加せず、朝はゆっくり登校している。

そして身体能力には自信がある。

体力訓練や実戦訓練を始めとする学校の訓練全般は俺にとってはなんの苦痛も感じない。

戦闘の知識や戦略、読み書き計算を学ぶ講義もそんなに難しいことはない。

寧ろ楽しいくらいだ。


問題があるとしたら―今やってる魔法訓練だけだ。


「今日は火の魔法訓練を行います!」


魔法学の比較的若い男の指導教官が魔法訓練所の前の方で話し始める。


「いいですか?ちゃんと術式を展開し、触媒に魔力を通して魔法を放ってくださいね!」

「先生!あの的に当てればいいですか?」

「そう!きちんと狙うように。急がなくてよいから正確に」


先生の指導の下、周りの生徒たちが次々と魔法訓練に入る。

手をかざして術式を展開し、次の瞬間には人の上半身を丸のみできるサイズの火の玉が勢いよく放たれる。

大きな火の玉は30m先や60m先の的を粉々に粉砕していく。


断続的に起きる爆発音。

ある種の爽快感すら覚える魔法訓練の様子をトーゴはボーっと眺めていた。


「こら、トーゴ君。君もやりなさい」

「アイヴァン教官、本気ですか?」

「君の事情は十分承知してますが、端のほうでもよいからやってみなさい。やらなければ出来るようにはなりませんよ」

「…分かりましたよ」


魔法訓練所の隅に行って、触媒である腕輪を右腕つけて構える。

術式を展開、魔力を式に流して起動を―


「起動しないんだよなあ」


トーゴは魔法を使えない。


入学してから今まで一度もまともに使えたことがない。

いや今世に生まれてから使えたためしがない。

おかげで影では―魔法を使うことが出来ないという意味で―『無法の特待生』なんて呼ばれる始末だ。


右腕を構えたまま何とも格好のつかないトーゴにアイヴァン教官が問いかけてくる。


「魔力は流れないんですか?」

「はい、ちっとも」

「時間はまだある。少なくとも訓練中は挑戦してみなさい」

「はいはい、わかってますよ」


アイヴァン教官が他の生徒の指導に行くのを横目に、俺は無駄な実技を続けた。


「トーゴ、お前まだできないのか」


教官が去ったあと、横で魔法を撃っていた生徒が声をかけてきた。


「ハロルド、残念ながらいつも通り調子は絶好調だぜ」

「トーゴはしょうがないな!このハロルド大魔法使い様が手取り足取り教えてやろうか?」


ハロルドがトーゴのことを茶化してきたが、いつものお遊びだ。

奴は自身の身長と同じくらいの大きさの火の玉を何発も撃ち、遠くの的を次々と破壊していた。


「オレに比べたらそこらのガキだって大魔法使いだろうよ。魔法を教えてくれるなら代わりに、次の教練の組手はオレが教えてやるぞ」


ハロルドにじろりと目を向けると、奴は顔を引きつらせて2・3歩後ずさった。


「いやいやいや俺を潰す気かって!お前の相手したら命がいくつあっても足りないわ!」

「冗談だよ、冗・談」

「お前が言うとジョークに聞こえないんだよ!」


このまま下らない会話を続けたらこの実習も終わるだろう。


----------


「アイヴァン先生」

「これはこれはボードウィン校長、お疲れ様です」

「彼は、どうですか」

「いつも通りさっぱり、だそうです」

「やはりですか」

「いっそのこと別のことに時間を割くのはどうでしょうか」

「いえ、多少であったとしても魔法が使えるに越したことはありません。続けさせてください」

「わかりました」


----------


「ハッ、過保護だねえ」

「どうしたトーゴ?」

「なんでもない」


ジリリリリリ、と訓練終了の合図が流れた。


「次は格闘訓練だ、オレが相手してやる」

「げっ、勘弁してくれ」




時は流れて格闘訓練の時間。


「ハロルド、生きてるか?」

「い、生き、てる、よ」


約束通り組手でハロルドの相手をしてあげたが、手加減したというのに未来の大魔法使い君は地面に突っ伏して息絶え絶えだ。


「い、い…ゼイゼイ、お、まえ、ハアハア…タフ、すぎ」

「お褒めに預かり光栄だよ、もうそろそろ実習も終わるけどまだやるか?」

「いや、もう、むり…こんなので、地下にいける、のかな」

「行けるだろ」


トーゴはまだ地面に転がっているハロルドの近くに腰を落ち着ける。

だいぶ息も落ち着いてきたようだ。


「な…なあ、地下世界の魔獣って強いのかな」

「あ?まあ強いんじゃないの」

「なん…だよそれ、適当だな」

「だってオマエな、ん?」


練兵場の外に魔動車が止まる音がした。

見るとボードウィン校長が車から降りてきた。


「どう、した」

「仕事かな」

「おう、気を付けろ、よ…」


最後まで倒れたままのハロルドと別れて校長の方に向かった。

向こうもこちらに気が付いたようで運転席から女性の士官が話しかけてきた。


「トーゴ特務兵」

「どうも」

「車に乗ってください、詳細は移動しながら説明します」

「わかりましたよ。では校長、失礼します」

「うむ、気を付けるんじゃぞ。イメルダ情報官、お願いします」


校長はわざわざ見送りのためだけに乗って来たのだろう、ご苦労なことだ。


トーゴが助手席に乗ると車が動いた。

イメルダ情報官が印がついたマップを渡してきて運転しながら話し始める。


「トーゴ特務兵、今回の任務は地下世界、上層エリア2の3地点の偵察、魔獣がいた場合はその討伐です。10から20頭前後の狗頭猿の群れの存在が報告されており、この3地点のどこかにいる可能性が高いため部隊の派遣が決定されました」


狗頭猿(くとうざる)

頭が犬で体は猿の、人よりは小さいサイズの小型魔獣。

地上でも木の上でもすばしっこく、爪や牙で攻撃してくる。

しかも大抵群れで行動するので、兵士達にとって油断はできない相手だ。


「装備は後ろの荷台に用意しています」

「ああ、助かります」


荷台を見るとタクティカルベスト、刃渡り40cm程度のククリナイフが4本、サバイバルナイフ1本、レーションや応急キットの入ったウエストバック、水筒など積んであった。

ベストを着てから各種装備を手早く身に着けていく。


「いつもの装備をご用意しましたが、それだけでいいんですか?銃やその他装備もご用意できますよ」

「いや、これでいいです」

「そうですか。説明を続けますが、今回は調査部隊と一緒に行動してもらいます。以前も作戦行動をとりました第三調査分隊、バルトー少尉の部隊ですね。索敵は彼らが行いますのであなたは主に戦闘に集中してください」

「へいへい、わかりましたよ」


しばらく車に揺られていると建物の無い平坦な荒野の中にポツンと立つ大きな階段状のピラミッドが見えてきた。

地下世界の入口だ。

簡易な詰め所に兵士達が何人も行き来している。


「つきましたよ、あちらです」


イメルダ情報官が指さした先に兵士が10名ほど並んでいる。

向こうもこちらを見ている。

何人か見ない顔の兵士の表情が優れない。

あんまり歓迎されて無さそうだが、まあどうでもいいかと思いつつ車を降りた。


「ご武運を」


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