観察日記④
今回の観察対象は『正しさ』に囚われているみたいだね。
『正しさ』ね…。
ふふ…。
さぁ、早速一緒に見て行こうか。
俺は「正しい」という言葉が好きだ。
子供の頃、親の言う事をきちんと聞いて言う通りにしていたら褒められた。
「ちゃんと言うこと聞けて偉いね。」
両親の笑顔を優しい言葉に嬉しくなった。
中学生にあがっても俺はずっと「いい子」でいた。
学校のルールを守り、先生の言うことを聞き、ルールを守る生徒は積極的に注意した。
注意された生徒からはもちろん反感を買った。
「あいつ先生の言いなりじゃん。」
「いい子ぶってむかつく。」
などの声をよく聞いたが俺は気にしなかった。
ほとんどの生徒は俺が正しいと言ってくれたし、先生からもお前は間違っていないと言われた。
「正しいことを言っているのだから俺はこれでいいんだ。」
そう心の中で思い日々を過ごした。
ある時上級生に呼び出された。
「おい、村上!お前生意気なんだよ!」
怒りの表情を浮かべる上級生に胸倉を掴まれた。
俺は恐怖で体が固まった。
「お前のせいで先生に怒られただろうが!」
「でも…、安井君が他の生徒をいじめたのが悪いんじゃないか。」
俺は震える声で言い返した。
「うるせーな!調子に乗ってんじゃねーよ!」
殴られる…!
そう思い目を瞑ると殴られる衝撃は来なかった。
「何してるの?」
同じく上級生の大塚が安井の拳を抑えていた。
「お、大塚!」
安井が驚いた顔を浮かべた。
「安井、お前年下殴ろうとして恥ずかしくないのか?」
「うるせーな!お前には関係ないだろ!」
そう言い安井は教室に帰って行った。
「大丈夫か?」
大塚が俺に声を掛けた。
「はい、ありがとうございます。」
俺がお礼を言うと大塚は笑顔で手を振って教室に帰って行った。
格好いいな…。
俺は大塚の後ろ姿に本気でそう思った。
高校生に上がり俺は風紀委員に入ることになった。
これまでの日頃の行いや勉強などが認められた結果だと考えた。
両親に伝えるととても喜んでくれた。
本当に誇らしかった。
生徒同士トラブルの解決や学校行事の準備などやることは多かったが充実した高校生活を送っていた。
風紀委員になってから半年が過ぎた頃、生徒同士のトラブル報告があり現場に向かった。
内容は生徒同士の喧嘩だが一方的な展開で止められないので来て欲しいとのこと。
到着すると一人の生徒が倒れており向かい側に大塚が立っていた。
「大塚先輩?」
俺が声をあげるが村上の耳には届いていない。
村上は相手に馬乗りになり殴りかかった。
「やめてください!大塚先輩!」
俺と数人で何とか村上を引き剝がした。
「離せ!村上!」
暴れる先輩を抑えつけた。
「大丈夫ですか?」
俺が倒れている相手に声を掛けると口の血を拭いながら
「大丈夫な訳ないだろ!」
と叫んだ。
「大塚…。こんな事してただで済むと思うなよ…。。」
そう言い生徒は保健室に連れて行かれた。
大塚は怒りが収まらないという様子で石を蹴飛ばした。
「大塚先輩、事情を聞かせて貰ってもいいですか?」
「迷惑かけたな。話すわ。」
大塚の話だと、相手は大塚と同じクラスの藤田という男で村上の友人を日頃から馬鹿にしていたらしい。
その大塚の友人は次第に嫌がらせを受けるようになり物が無くなったり、机や椅子に落書きされたりするようになった。
相手の生徒のグループは知らない、証拠はあるのかと言い決定的な証拠を掴ませなかった。
たまたま、大塚が体育の授業で忘れ物をして取りに行く途中で友人が藤田に殴られているのを目撃して今回の喧嘩に発展したとのことだ。
「事情は分かりました。一旦風紀委員で話し合って先生に話したいと思います。いじめがあったなら許せないことですからね。」
俺が言うと大塚は
「ありがとう。昔から変わらないな、お前は。」
そう言い大塚は笑顔になった。
「大塚先輩もあまり無茶しないでくださいね。俺だって先輩には助けて貰った恩もあるんですから。」
その後、大塚と藤田の意見を踏まえて会議が行われた。
大塚の言い分を俺がメンバーの前で話すと場がざわついた。
「どうかしましたか?」
俺が訊ねると風紀委員長の芳井が口を開いた。
「俺は藤田から事情を聞いたんだがかなり話が食い違っていてな…。」
藤田の話では大塚たちのグループが放課後、藤田の友人を脅し金を巻き上げたらしい。
それを藤田たちは許せなくて村上のグループであまり目立たない生徒を狙って仕返しのつもりで嫌がらせをしたとのこと。
「話の出だしで食い違ってますね…。」
「そうだな…。まぁ、お互い内容はほぼズレはないが原因の部分が全然違う…。ただし、どちらもやっている事はただの喧嘩だ。」
芳井が強く強調した。
「ただ、村上たちは以前から素行が悪く、今回も過剰なまでの暴力を藤田に向けたのは事実だ。」
俺が驚いて芳井の顔を見た。
「なんだ、村上?」
「すみません。確かに大塚先輩は少し過剰に手を出したかもしれません…。でも嫌がらせを受けた友人の為に手を出したんです。ですので一方的に大塚先輩が悪いというのは違うと思います。」
俺が言うと芳井はため息をついた。
「それを言うなら藤田の証言だと大塚のグループが藤田の友人を絡んだのが最初だろ?」
「でも、それは…。」
嘘かもしれないと言おうとしたが大塚先輩が嘘をついている可能性を指摘されることがすぐにわかった。
「風紀委員が確認したのは大塚と藤田の言い分と大塚が藤田に暴力を振るったという事だけだ。」
何も言い返せなかった。
言い返したかった。
大塚先輩は何の理由も無く暴力を振るう人ではない。
中学生の時に俺を助けてくれたこともある。
確かに校則を守らなかったり、留年すれすれで進級したりと不真面目な部分もあるが決して悪い人ではないんだ。
全部が自分の主観だと感じた。
「まだ議論の余地がある奴はいるか?」
芳井が風紀委員メンバーに問うと誰からも意見はでなかった。
会議はそのまま終了した。
後日、今回の件で教師からの結論が出た。
藤田は教師からの厳重注意、大塚には1ヶ月の停学処分が下った。
そんなにも差がつくのか…。
俺は呆気に取られた。
俺は納得がいかず教師に理由を聞きに行った。
「先生!大塚先輩への処罰が厳しすぎると思います!」
俺の言葉に教師は
「もう決まったことだ。結果は変わらんよ。」
冷めた態度でそう言った。
「でも、生徒会でも話しましたがお互い悪い部分はあると思います。それなのに何でこんな結果に…。」
「大塚は普段から素行の悪い奴だったからな。原因はそれだよ。」
淡々と次の授業の準備をしながら教師は答えた。
「でも…。」
「でもじゃない!もう決まったことだ。これ以上の話し合いは無駄だ!」
そう言い教師は出て行った。
今回の件、確かに両者悪いが過剰に手を出した大塚の方が悪いのかもしれない。
でも、友人の為に怒り、手を出した大塚が一方的に悪いとも思えない。
正しいのはどっちなんだ…。
いくら考えてもわからない。
もう出てしまった結果も変わらない。
その後、大塚の家に行った。
インターホンを鳴らすとすぐに大塚は出てきた。
「入れよ。」
俺は大塚の部屋に案内された。
「大塚先輩…。力になれずすみません。」
俺が謝罪すると大塚は笑いながら言った。
「お前が気にすることじゃねーよ!俺が手を出したのは事実だし。それよりお前顔色悪いぞ?」
「いや、今回風紀委員でも話し合ったし、教師とも話したんですけどどうすればよかったのかわからなくて…。何が正しかったのか…。そればっか考えてます。」
大塚がきょとんとした顔をした後笑い出した。
「そんなことで悩んでたのか!」
「そんな事って…。」
「もっと軽く考えろよ。頭固過ぎるぞ。」
そう言って大塚はまた笑った。
大塚の家を出て自宅への帰路に着いた。
どうしても軽くなんて考えられないですよ…。
俺は呟いた。
でも今回の件で、普段からルールを守り、集団の中でコミュニケーションをとり正しく生活することの大切さを学んだ。
大塚がもし素行が悪くなければもっと軽い処置で済んだかもしれない。
そもそもこんなトラブル起こってなかったかもしれない。
それから10年の月日が流れた。
30歳目前になった俺は会社でも優秀な成績を収めていた。
上司からも正しい判断が出来ることを評価され今度プロジェクトを任されることになった。
メンバーからの信頼も厚く充実した日々を過ごしている。
とある日、ある程度プロジェクトが進み業者の作業待ちとなり久しぶりに早く帰れることになった。
俺はメンバーと飲みに行き色々な話をした。
後輩の一人が
「村上先輩はどうしてそんなに頑張れるんですか?」
ふいに聞かれ暫く考えて答えた。
「やっぱり仕事をする上でメンバーが全員協力して持てる力を尽くして全力でとりくむのが正しい姿だと思うんだよな。その為なら頑張れるというか…。」
「すごいですね!会社からしたら理想の社員って感じでよね!」
「俺たちも先輩見習って頑張らないと!」
後輩たちが盛り上がる。
会社でも認められ、後輩たちも尊敬してくれている。
子供の頃から大切にしてきた正しさのお陰だ。
今までやってきたことは無駄じゃなかったんだと実感した。
飲み会が終わり後輩たちと別れ帰路に着いた。
事態は急に変わった。
プロジェクトの途中でメンバーの一人が顧客からの依頼を勘違いしてしまいミスが発生した。
事情を聞くと勘違いではなく先方の言っている物を確かに発注したと後輩は言う。
しかし、電話でのやり取りだったため証拠が無い。
上司から呼び出しを受け事情を聞かれた。
俺はありのまま話をした。
「何でお前がきちんとついていなかったんだ!」
と叱責された。
自分にもやることがあったので信頼して任せたという話をしてもまともに聞いてはくれなかった。
その後、先方へ謝罪に行った。
「この度は大変申し訳ありませんでした。」
俺が謝罪すると先方は不機嫌な表情でこちらを睨んだ。
「いい加減にしてくれないか?お宅を信頼して任せているのにこんなミスを犯すなんて信じられん。どう責任を取るつもりなんだ?」
「お怒りはごもっともです。弊社としては今後再発防止策としてこの様な対応を…」
俺が書類を出すと振り払われて書類が散らばった。
「そんなものどうやって信用しろというんだ?ちょっとお宅との付き合い方も考えなければならないかもな…。」
かなり横柄な態度である。
「そこを何とか…。この再発防止策は社内で相当練った物なので今後二度と同じ過ちを繰り返さないよう作りました。社員一同今後気をつけますので。」
「まぁ、一度社内で検討してみるよ。」
俺は顧客先を出た。
こちらの言い分も聞かず一方的に圧力を掛けてきた態度に苛立ちが抑えられない。
電話でのやり取りで言った言わないの内容なのになぜあそこまで強く言ってくるのか。
苛立ちが抑えられないまま会社に着いた。
「どうでしたか?」
「とりあえずは謝罪をして再発防止策の提出はしてきたよ。」
「すみません!俺が電話でやり取りをしたせいで先輩に嫌な思いをさせてしまって…。」
「起こった事は仕方がないよ。今後起こさないよう気を付けよう。」
「はい!ありがとうございます!」
後輩は元気よく自分の席に戻り作業に取り掛かった。
後日、上司から呼ばれて部屋に向かった。
「失礼します。」
俺が部屋に入ると上司が何か考えている様子だった。
「来たか。村上、お前今回のプロジェクトから外れてくれ。」
「はぁ?」
あまりの急な話で驚きの声が出た。
「俺が…ですか?」
「そうだ。先方の怒りが収まらなくてな…。何度か俺も言って話をしたんだが埒が明かなかった。そこでプロジェクトの責任者の監督不行き届きが原因で責任者を変えるという事で納得してもらったんだ。」
「俺が…悪いんですか…?」
「仕方なかったんだよ。納得して貰えないんだから。」
「でも俺…」
「そういう事だから。また追って連絡する。とにかくプロジェクトには今後関わるなよ?」
そう言って上司は俺を追い出すように部屋から出した。
俺は状況が理解できず固まっていたがとりあえずプロジェクトのメンバーに事情を話に行った。
メンバーにはすでに情報が回っていたらしく皆作業を行っていた。
ミスに関わった後輩も俺の方を見ず黙々と作業をしていた。
俺は部屋を出て休憩室に座った。
社内ではかなり噂になっているようで同情、哀れみの目で見られた。
今後の作業について相談しようと再び上司の部屋へ行くとまだ未定だからと書類作業を命じられた。
それから半月経っても上司からの指示は無く黙々と書類作業を行っていた。
少し前まであんなに仕事を任せられていて周囲からも期待され褒められていたのが嘘のようだ。
俺は何を間違えたんだ?
ずっと正しいことをしてきたのに…。
後輩をフォローせず、もっと厳しく叱責して上司に報告していれば今でもあのプロジェクトをやれていたのか…。
そもそもあの場面で正しいって何だったんだ…。
いくら考えても頭の中はまとまらない。
会社では周りからどう思われているかわからず恐くて誰とも話せなかった。
本当は聞きたかった。
俺はどうすればよかったのか。
「村上?」
会社が終わり帰宅途中声を掛けられた。
振り向くとそこには少し変わったが大塚がいた。
「久しぶりだな!元気にしてたか?」
俺の肩を叩いて大塚は言った。
「元気でした…。けど今悩み事があって。」
「なんだいきなり…。じゃあちょっと寄ってくか。」
大塚は居酒屋を指差した。
二人で店に入り注文を済ませた。
「んで、悩みってなんだよ?」
俺は今回の件を全て話した。
「いや、酷いな…。何でお前が外されなきゃならんのかね。」
大塚は怒りながらご飯を食べている。
「俺ももうわからなく…。あんなに明るく接してくれてた仲間も離れていったし、どう思われてるかも恐くて。俺は何を間違えたんですかね?どうすれば正しい事ができたんですか?」
俺は勢いのまま本音をぶつけた。
大塚は少し考えて話し出した。
「まず、お前から聞いた話だけならお前は何も悪く無いよ。きちんとプロジェクトの管理もしてたし、たまたま後輩の詰めが甘かったかもしれないけどその後の謝罪もきちんとした。出来ることはちゃんとやったんじゃないのか?」
「正しい事をしたなら何で俺が仕事もまともにもらえず会社から腫れ物扱いされなきゃならないんですか。」
「お前は昔から正しいよ。でも正しさに囚われ過ぎてる。」
「え?」
大塚は真面目な顔をして俺に向き直った。
「ずっと気になってたんだ。高校の時も俺が停学になった時お前はどうすれば正しかったのか?って聞いてきたんだよ。お前はあの時も俺の為に風紀委員にも教師にも意見してくれたよな?すげー嬉しかったよ。でも、いつも苦しそうだったよな。お前が求める正しさってのは片側から見た正しさばかりなんだよ。」
「片側から見た正しさ…。」
「そう、俺から見たら本当にいい奴に見えたよお前は。でもな、俺が揉めた藤田側から見るとお前はどう見える?」
「たぶんうっとおしかったと思います。終わったことをいつまでも調べて大塚先輩は悪く無いて証拠を探そうとしてましたから。」
「な?お前は正しい事をしているつもりでも見方を変えると邪魔者になるんだよ。」
「会社の事も同じなんだよ。今回の件、真面目に、正しく働いてきたのに何故自分がこんな目に遭わなければならないんだって事だよな?」
「はい。」
「これは俺の考えだから一個の考え方として聞いてほしいんだけど、その『何故』に意味なんて無いんだよ。」
「え?」
「今回後輩がミスをして取引先を怒らせてしまってプロジェクト自体が潰れそうになった。これが起こったことだよな?」
「そうです。」
「じゃあ、後輩がミスをしたのは『悪』か?先方が怒ったのは『悪』か?プロジェクトを潰さないようお前を担当から外した上司は『悪』か?」
頭が混乱してきた。
「後輩にミスをすんな!とは口で言っても人間なんだからミスをするのは仕方ないよな。先方に怒るなって言うのもまぁ細かい事情があるにせよ難しい話だよな。お前を外した上司に関してもその上司の意志ではないかもしれないし、その方法しか思いつかなかったかもしれない。時間が無い中で判断したのなら余計だよな。」
「じゃあ、どうすればよかったんですか?」
「また人から答えを求めようとする…。起こった事は誰のせいでもないんだよ。たまたま運悪くお前が酷い扱いになっちゃただけ!」
「運って…。納得できないですよ。」
俺が言うと
「そりゃそうだろ。お前が今回起こったことは自分にとって辛い事、酷い事って思ってるんだから。」
「それはそうでしょ。そのせいでまともな仕事も貰えず気まずい思いをしながら仕事をしてるんですよ?」
「じゃあ、ここでもう一つ。お前はそう考えるかもしれないけど俺だったら忙しい仕事から解放されてやりたい事できるって喜ぶぞ。」
「仕事を干されているのに?」
「ああ、だって俺は今のお前みたいに前よりも仕事が減らされた事を悪いことを思ってないもん。」
「何でですか?」
「たくさん仕事をして周りに認めてもらって評価されてリーダーになって更に仕事を任されることを正しいとは思わないから。俺は自分の出来ることを無理なくやって趣味の時間を大切にするほうが大事だから。」
「それは間違った考え方じゃないですか?皆が必死に仕事をしていかないと会社はよくならない。」
「だから『俺』の考えなんだよ。それをお前が否定することに意味なんかないんだ。」
「別に否定してるつもりじゃ…。」
「いや、否定だろ。結局考え方に『正しい』も『間違い』もないんだろ。自分がどうそれに意味を付けるか次第じゃん。」
「それだと話し合っても分かり合えないじゃないですか。」
「別々の人間同士、例え親子であっても完全に分かり合うことなんて出来ないだろ。同じ人間が二人いても意味無いし。だから相手の話を聞いて『こんな考え方もあるんだ…俺とは違うけど。』位に思っておけばいいんだよ。そこに共感とか正しさを持ち出すからややこしくなるんだよ。今の考え方が苦しいんだったら色んな人と話して違う考え方ができる工夫をしろよ。これが正しい、間違ってるとかでなく楽な考え方ができるようになると世界変わると思うぞ。」
正直まだ頭は整理しきれていないが大分納得できた。
大塚が悪戯な笑みを浮かべてこちらを見ている。
「今納得したろ?それも正しいで判断してる可能性があるからな?」
「そんな…。難しいですね…。」
「簡単だったら人生の攻略本出てるよ!」
大塚が笑いながら言った。
「そろそろ行くか。」
大塚が帰り支度を始めた。
「久しぶりに会ったのに相談事ですみませんでした。」
「いいよ、楽しかったし。また次会ったらどんな風に変わってるか楽しみにしておくよ。」
大塚は手を振りながら去って行った。
正直まだ何も整理できていないし、会社の事も納得できていない。
ただ、そこからの脱出口が何も見えていなかったが一筋の光が見えた気がした。
「結局、世界の見え方なんて自分次第か…。」
そう呟き俺は自宅へ向かった。
これからも悩んでまた正しさや間違いに振り回されるかもしれないが決定的な一本の道ができたように感じた。
村上君は相当頭が固い青年だったね。
正しさを追い求めているようで感情にも振り回される。
ああ、とても面白い。
村上君は正しさを追求した結果、周囲から評価を得て、周囲の為に尽力して周囲からの評判を落として。
彼は自分の思う正しさを主張していただけなのに環境や状況でいくらでもコロコロと変わる。
何が正しいなんてないよね。
重要なのは自分が起こった現象にどういう意味を付けるか。
結局はそれだけなんじゃないかな。
大塚君も面白い考え方をするけど村上君が今後どうなるかが僕は気になるよ。
名残惜しいけど今回はここまでだ。
また別の機会に会おう。