観察日記③
また物語を見てみよう。
今回の主人公は石井智久。
会社員だ。彼がどんな生活を送りどの様に考え、感じるのか見ていこう。
「お疲れ様でした。」
そう言って事務所を出たのは20時を少し過ぎた頃だった。
途中、コンビニにより弁当を買い、いつもの帰り道を歩いて帰った。
「ただいま。」
誰もいない部屋に着き、テレビを点けた。
名前もわからないグループが楽しそうに話しているお笑い番組を眺めつつ買ってきた弁当を食べた。
風呂に入り、そのままベッドに入りスマホをいじって気が付くと寝落ちていた。
そんな暮らしを何年も続けている。
俺は元々人付き合いが苦手で会社の人間とも仕事以外ではほとんど喋らない。
学生時代からそうなのでそれが当たり前だと思っている。
翌日、いつも通り会社に向かう。
「おはようございます!」
後ろから声を掛けられた。
「おはようございます…。」
返事をしたが誰だかわからない。
「隣の部署の山下です。」
確かいたような…。
記憶を思いめぐらせるがはっきりしない。
「石井さんはいつもこの時間に出社なんですか?」
「そうだね。」
「家近いんですか?」
「歩いて来れる距離かな…。」
会話が煩わしくなってきた。
「ちょっとコーヒー買って行くから先に行ってて。」
俺がそういうとわかりました!っと返事をして山下は先へ行った。
今までそんな話したこともないのに急に話しかけられて戸惑った。
俺は落ち着くためにコーヒーを買い、山下に追いつかないようゆっくり歩いた。
会社に着くといつもの光景が広がる。
「おはようございます。」
そう言って自分の席へ着席し業務を始めた。
いつも通りの日常だ。
「石井君!」
突然声を掛けられ手を止めるとそこには上司の村瀬が立っていた。
「すまんがこの仕事を頼めないか?今日中に頼む。」
そう言って返事を待たず書類を置いて行ってしまった。
俺は仕方なく置かれた書類を仕分けして作業に入った。
チャイムが鳴り昼休みがきた。
俺は昼飯を買うためコンビニへ向かった。
道中、知った顔の社員とすれ違うが軽く会釈する程度だ。
コンビニに着きいつもの弁当とお茶を買いレジに並んだ。
「石井さん!」
突然声を掛けられて驚いた。
「今からお昼ですよね?今日弁当作るの忘れちゃって…。ご一緒してもいいですか?」
山下は笑顔で言い俺が買うのを待っている。
「別にいいけど…。」
正直一人のほうが気楽で好きだ。断りたい。
しかしわざわざ待ってくれているのを断るのも気が引ける。
そんな葛藤を抱いたまま山下と公園に向かった。
社食もあるが人が多すぎて苦手で公園で誰にも気兼ねなく食べながらぼーっとするのが好きだ。
今日は山下がいるが…。
「石井さんはいつも一人で食べてるんですか?」
「そうだよ。」
「食堂とかで食べないんですか?」
「食堂は人が多いから苦手なんだ。」
「そういえば石井さんってあんまり人と話さないですよね。」
「そうだね。」
「何でですか?」
矢継ぎ早に質問されすでに疲れてきた。
「他人と話すのが苦手で…。昔からこうなんだ。」
「でも大勢でいるほうが楽しくないですか?色んな人と盛り上がったり…。」
「楽しくない。」
素っ気なく返した。
「うーん…。でも仕事とかやり辛くなりませんか?」
「まぁ…。出来ることはやるから問題ないよ。そろそろ行くね。」
早々に食事を終えた俺は事務所へ向かった。
「待ってくださいよ!」
山下が慌ててご飯を口の中に入れ追いかけてきた。
会社に着くまでずっと山下の質問は止まらなかった。
きっと悪い奴ではないんだけど苦手だ…。
午後に入り引き続き午前中に渡された案件に着手した。
この分なら問題無く作業は終わるだろう。
同じ部署の女性社員が声をかけてきた。
「石井さん、お願いしたいことがあるんですけど。」
「すみあせん。今急ぎの仕事をしていますのであとでいいですか?」
「わ、わかりました。」
女性社員は自席へ戻って行った。
午前中村瀬課長が俺に仕事を振ったのを見ていなかったのだろうか?
軽い苛立ちを覚えた。
気を取り直して作業に戻る。
集中して作業を行ったお陰で無事時間内に作業を終わらせることが出来た。
村瀬に書類を提出しに行くと、
「置いておいてくれ。助かった。」
とだけ言い村瀬はパソコンと睨めっこしている。
自分の席へ戻り帰り支度をした。
「お疲れ!今日飲みに行かないか?他にも何人か誘っているんだ。」
同僚が声を掛けてきた。
ほとんど話した記憶が無い。
「すみません。遠慮しておきます。」
そう言い席を離れた。
「感じ悪…。」
同僚が呟く声が聞こえた。
会社を出ていつもの帰路に着く。
先ほどの事を思い返していた。
ほとんど関わったことが無い人と食事に行って何が楽しいのだろうか。
僕は喋るのが苦手なのでどうせ場を白けさせてしまうのは明白だ。
だったら断ったほうがお互いのためだ。
そんな事を考えながら歩いていると正面に山下が歩いていた。
俺は気づかれないように歩く速度を緩めたがちょうど山下が振り向き笑顔でこちらに手を振った。
「石井さーーーーん!」
手を振る山下を見てもっと早くに気づけなかったことを悔やむ。
「今帰りですか?途中まで帰りましょうよ!」
こちらの気などお構いなしで俺の横を歩き出した。
「石井さんってほんと一人が好きなんですね。」
「わかっているなら放っておいてくれるとありがたいんだけど…。」
俺の言葉を山下は無視して続けた。
「今日だって飲み会の席断ってましたよね?」
「見てたのか?」
「実はこっそり…。せっかく声を掛けてくれたのになんでですか?」
「俺が行ってもどうせ場を白けさせるだけだから。」
「何で行ってもいないのに決めつけるんですか?」
「今までだってそうだったから。というか何で君は俺にそんなに関わってくるんだ?面白くないだろ?」
「いや、面白いですよ。自分とは全然違うタイプなので聞いてて新鮮です。」
「馬鹿にしてるのか?」
「とんでもない!興味を持ってるだけですよ。」
また屈託のない笑顔を見せる山下に俺はため息をついて早足で家に向かった。
「俺の家ここだから。」
俺が家に入ろうとすると
「寄ってもいいですか?」
と山下がニヤニヤと聞いてきた。
「絶対ダメ!」
俺はそのまま家の扉を閉めた。
本当に何なんだあいつは…。
ズバズバと言いたい事を言ってくるから疲れる…。
ベッドに仰向けに倒れ込んだ。
目を瞑ると山下の質問攻めを思い出した。
「でも、あれだけはっきり物事言えたらスッキリするのかな…。」
そんな事を考えたがいやいや、俺とは別の世界の話だ…っと頭を切り替えた。
「あ…。弁当買い忘れた…。」
翌日、いつもの道を通り会社に向かった。
今日は村下と遭遇しなかった。
内心かなりほっとした。
朝から質問攻めされたら敵わない。
俺は事務所に入り自席へと着いた。
すでに数名の社員が来ておりそれぞれ作業を行っている。
俺も始業前の準備を行った。
午前中、自分の作業を行っていると真っ赤な顔をした村瀬が飛んできた。
「石井!ちょっと来い!」
村瀬について行くと応接室にはいって行った。
あとに続くと中には昨日作業の途中で話しかけてきた女性社員が座っていた。
どういう状況だろう…。
「石井!お前昨日彼女から作業中に声を掛けられたよな?」
「はい。」
「それを忙しいからって聞かなかったのは本当か?」
「はい、本当です。」
「馬鹿野郎!」
村瀬が怒鳴って机を叩いた。
「あれは以前お前がトラブル対応した客だったんだ!また同じようなトラブルがあったからお前を指名したのに断られたと激怒してるんだぞ?」
「そうだったんですか。」
「彼女がその顧客からの電話って伝えたのに何ですぐ対応しなかったんだ?」
は?
「すみません。彼女は僕にその顧客っていう情報は言ってません。」
「嘘をつくな!彼女が嘘をついているっていうのか?」
その通りである。
彼女のほうを見ると下を向いていて顔が見えない。
「とにかく急いで客に電話しろ!わかったな?」
そういうと村瀬は部屋を出て行った。
女性社員は気まずそうにして部屋の外に出て行った。
はぁー。俺はため息をついて自責へ戻った。
すぐに顧客に電話を掛け昨日対応できなかった謝罪とトラブル内容を確認した。
「ではトラブルの対処法はこのあとメールで送ります。」
そう言い電話を切った。
村瀬に対応の報告をするとだるそうな返事が返ってきた。
彼女がどうして嘘をついたのか確認したかったがどうせ正直には言わないだろう。
村瀬に本当に昨日顧客名まで聞いていないことを言っても信じてくれないだろう。
行き場の無い不満を抑え自分の作業に戻った。
作業を行っていると隣の部署から声が聞こえてきた。
「先輩、ここまで作業進めたんですけどここがわからなくて…。」
「んー。これはあっちの資料見ればわかるよ。」
「ありがとうございます!」
そんな話を聞きながらどうして自分はこういう風に素直に物事を聞けないのだろう…と考えた。
答えはわかっている。
昔から人と接することに苦手意識を持っているからだ。
子供の頃は友達の輪に入ろうと努力をした。
しかし、なかなか輪に馴染めなかった。
どうしても自分の気持ちを上手く伝えられない。
一生懸命話しても違う意味に捉えられてしまったり、相手を怒らせてしまったりした。
そんな事が積み重なった結果、嫌な想いをする位なら必要以上に関わらないほうが気が楽だ、という結論に至った。
明るい輪の中には興味も憧れも持っているが、もし輪を乱して嫌われたら…。そう考えるとだったら最初から関わらないほうがましだ。
そんな事を考えながら作業を続けた。
今日も仕事が終わり帰路に着いた。
久しぶりにもやもやと考えたので疲労感が激しい。
家まで早足で歩いていると、
「石井さん!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
山下だ。
「今帰りですか?一緒に帰りましょう!」
笑顔で言う山下に俺は
「今日は疲れているんだ。」
そう言い頭を下げて歩みを進めた。
山下には申し訳ないが今質問責めをされたらたまらない。
俺の意図は全く通じず、
「じゃあ、一緒に急いで帰りましょう!」
山下が隣を歩いていた。
俺はため息をつき、
「どうして俺につき纏うんだ?」
「だから興味があるって言ったじゃないですか。」
「俺といても楽しくないだろ?」
「そんなことないですよ!それより今日石井さん酷い目に遭ってましたね。」
「見てたのか…。」
「はい、ばっちりと!実際どうだったんですか?」
「何がだ?」
「聞いていた感じあの女性の方と石井さんの言ってることが食い違ってるって感じだったじゃないですか?」
「そうだな…。」
「そこは実際どうだったのかなと思いまして。」
「どっちでもいいだろ?もう終わったことだよ。」
「本当にそう思ってますか?さっきも暗い顔してましたし。もし女性が嘘を付いてたなら理不尽に怒られた訳じゃないですか?村瀬さんも村瀬さんですよ。一方的に決めつけて怒るなんて…。悔しくないんですか?」
「悔しいに決まってるだろ!でも言っても仕方ないだろ?どうせ仕事をやらなきゃいけない訳だし、相手が嘘をついてると言っても言い訳するなで終わりだよ!」
俺は声を荒げてしまった。
周囲の人が驚いて振り返った。
俺はため息をつき
「すまん…。でもそういうことだから。」
と言って山下から離れようとした。
山下は俺の手を掴み言った。
「すごい不満溜まってるじゃないですか。言いたいこともあるのに全部我慢して石井さんは大丈夫なんですか?」
「ああ、今までもこうしてきたんだから大丈夫だよ。」
「大丈夫な訳ないじゃないですか!ストレスの吐き場も無くて、愚痴を言える相手もいなくて…。何でそんなに自分を大切にしないんですか?」
「自分を大切に…?」
「そうですよ!今まで理不尽な指示でも一生懸命仕事をしてきて、悔しいとか辛いって気持ちを抑えつけて周りにも相談しないで一人で抱え込んで…。そんなの耐えられる人いるわけないじゃないですか!」
「もっと周りを頼ればいいじゃないですか!忙しいなら忙しいって、苦しいなら苦しいって!」
「そんなの…ただの我が儘だろ。社会人にもなってそんな子供みたいなこと言えないよ。」
「我が儘で何がダメなんですか?子供みたいで何がダメなんですか?結局石井先輩は何を気にしているんですか?」
「俺は…滞りなく仕事をこなすことを考えて…。」
「違いますよね?石井先輩が気にしているのは結局周りからどう思われるかですよね?」
ドキッとした。
「お、お前に何がわかるっていうんだよ…。明るいお前にはわからないだろ?人の輪に入れなかった奴の苦しみを。」
俺もムキになって言い返した。
「確かに他人の輪に入るのは恐いですよ。人間誰だって他の人の考えはわからないし、探り探り行動しないとどんな評価されるかわからないし…。本当は入りたいんですよね?でも、昔の思い出と傷つきたくないって想いで避けてきたんですよね?だったら自分が変わるしかないじゃないですか!」
自分が変わる…。
「だってそうでしょ?他人からどう思われるかとかどう接してくるなんてこっちがどうこう出来ることじゃないじゃないですか!だったら深く考えるだけ時間の無駄ですよ。大事なのは自分がどう受け止めるかですよ。今までどうせ自分なんかって考えで相手の話を聞くからネガティブに捉えて苦しい思いをしてたんですよね?相手がどう言おうが自由ならこっちがどう捉えようが自由ですよ!だったら自分が苦しくない捉え方をしましょう?もっと自分を大切にしてください!」
山下にまくしたてられて頭の整理が追いつかない。
「過去の経験のせいで皆の輪に入りづらいって言いますけど一回も上手くいったことがないんですか?そもそも上手くいくってなんですか?」
「…。」
「どんなに仲良さそうに見えたってバラバラになる友人関係だってあるじゃないですか。仲良さそうに見えたときが『上手くいった』ときでバラバラになったら『上手くいかなかった』ときなんですか?だったらこの友人関係は上手くいったんですか?上手くいかなかったんですか?」
「そ、それは…」
「もっと全体で物事を見ましょうよ!途中まで上手くいったけどバラバラになって上手くいかなかったら全部上手くいかなかったわけじゃないですよね?仲良かった時っていう上手くいった時も経験できてるじゃないですか。」
「…。」
「そういう小さな成功を無視して失敗を大きく捉えすぎているせいで石井先輩は苦しんでいるんですよ。頭固いな~。」
山下が一息ついた。
「とにかく先輩は自分を大切にしないって事とこれからも人間関係上手くいかないって思い込みのせいで自分で苦しんでるんですよ!勝手に自分で決めつけて勝手に苦しんでるんです!」
頭の整理はまだ追いついていないが山下が俺の為に言ってくれていることはわかる。
「正直まだ理解できていないことだらけだけど俺の為に言ってくれたんだよな?ありがとうな。」
「いえいえ、さっきも言ったじゃないですか。石井先輩に興味があるって。」
いつもの山下の笑顔に戻っていた。
「それと…今まで正直距離感近すぎて煩わしいと思ってた。ごめんな。」
「いいですよ~。急に言い過ぎた自分も悪いですし。」
「明日から…ちょっと頑張ってみるよ。」
「頑張らなくていいんです。ゆっくり自分の本音と向き合ってみてください。それじゃ!」
いつの間にか家の前に着いていた。
手を振って離れていく山下を見送り家に入った。
夜、ベッドに横になり今日のことを考えていた。
今日の山下は鬼気迫るものがあったな…。でも本当に他人の事をよく見てる。
山下の話には納得しているが正直まだ不安は疑いの気持ちは小さくない。
だが一歩を踏み出す機会をくれた山下に感謝だ。
そんな事を考えているといつの間にか眠りについていた。
それから数ヶ月経った。
俺は職場に馴染もうと最初は声を震わせながら同僚に挨拶から始めた。
同僚も動揺しながらも返事をしてくれて少しずつ話すようになった。
他のメンバーにも仕事の相談などから始まり、だんだん世間話なども行うようになった。
相手の反応がいまいちで不安になった時はまた自分が勝手に思い込んでいるだけだと言い聞かせた。
するとだいたいが自分の思い込みのことが多く、思い込みではなかったとしても相手にも相手の気分や都合があると割り切ってたまたまかみ合わなかっただけだと思えるようになった。
話が食い違ってしまった女性に関しても後日謝罪された。
村瀬から叱責されるのが恐くなり言い出せなかったと正直に打ち明けてくれた。
彼女も言い出せなかったことがずっと気になっていて辛い気持ちを抱えていたらしい。
俺も気にしていないことを伝えその後は普通に会話できるようになった。
山下に言われて行動に起こしてから見える景色が変わった。
考え方ひとつでこんなにも世界が変わるのかと感動すらした。
本日の業務が終わり同僚数人こっちに来て声を掛けてきた。
「石井、この後飲みに行こうぜ。」
「わかった。すぐ準備する。」
最近ではこういう付き合いにも参加するようになった。
居酒屋で飲み始め1時間ほど経過したとき
「しっかしお前も変わったよな~。前は声かけても絶対来なかったのに。どういう変化?」
「前は余計なことを考えすぎててな。すまなかた。」
「いや、責めてる訳じゃないよ。飲み仲間がまた増えて俺は嬉しいんだ。」
カラカラと声を出して笑った。
「俺一人じゃここまで変われなかったと思うよ。隣の部署に山下っているだろ?あいつのお陰だよ。」
同僚たちが顔を合わせた。
「山下…?新入社員か?」
「え?前からいただろ?あの小柄で明るくて結構ズバズバもの言ってくる奴。」
「いや、俺は知らないな…。隣の部署だろ?そんなやついたら気が付くと思うんだけどな…。」
「まぁ、隣の部署だから。関わらない奴は関わらないよな。それよりさ…。」
俺は動揺を隠して話を逸らした。
山下の奴辞めたのか?
あれだけ明るいやつだから皆知ってると思い込んでいた。
翌日、隣の部署を覗いてみると山下の姿が見当たらない。
ちょうど事務の女性が通ったので聞いてみた。
「今日山下は休みですか?」
「え?山下っていう名前の人はうちにはいませんよ。」
不思議そうな顔で答えた。
俺は女性にお礼を言って自席へ戻った。
どういう事だ?
頭が混乱する。
ずっと俺につき纏ってたじゃないか…。
休みじゃなくていない?そんなことがあるのか?
幾ら考えてもわからない。
混乱する頭で仕事を終わらせ帰路についた。
帰る途中、周りを見渡したり、コンビニを覗いてみたいもしたが山下の姿は見つからなかった。
公園を通りかかったのでベンチに座った。
ここで山下と弁当を食べた思いでがある。
確かに山下はいたんだ。
俺にうっとおしいほどつき纏ってきたし、しつこい質問責めもしてきた。
あれが幻?
そんなことあるもんか。
しかし実際どこにも山下はいない。
あんなに大事なことを教えてもらったのに…。
ちゃんとお礼も出来ていないのに…。
「お前が俺にもやもやした気持ち持たせてどうすんだよ。」
俺は呟き家に帰った。
それからいくら経っても山下は現れなかった。
山下から教わったことは俺にとって本当に大きくまさに人生を変えてくれた。
この考え方を大切にしていけばこれからの生活も今までより自分らしく過ごせるだろう。
「ずっと感謝は忘れないからな…。」
そう言葉にして俺は今日も会社へ向かった。
今回の話はどう感じた?
気付いている人も多いだろうけど今回は僕も参加させて貰ったよ。
人間は本心ではしたいことがあるのに色々な理由をつけてなかなか正直になれない生き物なんだよね。
出来ない理由・やらない理由ばかり見つけるのが上手で苦しんでいる癖に現状維持を選ぶ。
正直僕には理解できないよ。
今回の石井君も内心では人との関わりを求めているのに過去の経験を引っ張りだして孤独を選んでいた。
他人と関わりたいっていう気持ちと過去の上手くいかなかった人間関係とは何も繋がりはないのにまるで今までダメだったから今回もダメと決めつけ勝手に苦しい環境を続ける…。
自分が決めつけたことに自分が傷ついているなんてとんだ一人芝居だね。
皆もこういう経験をしているのかな?
だとしたら君の辛いは自分が辛いって勝手に意味付けしてるって考えてごらん?
その辛いと思っていることは他の人からしたら辛くないことかもしれないよ?
だったら一旦自分が決めつけてるってことを自覚して改めて他の考えはないか探してみれば君の景色は変わるだろう。
まぁ、あくまでこれも僕のただの個人の意見だから。
あと一つ言っておくと僕が何かをしたと思っているなら大きな勘違いだよ?
誰であろうと自分以外を動かすことなんて出来ないんだから。
しいて言うならちょっと背中を押しただけ。
その一歩を踏み出したのは石井君自信の意志だ。
じゃあ僕はそろそろ次の人間を探しに行くよ。
君たちも元気でね。