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7 妖の独白

◆◆

 彗 紅琳に「皇后」位を授けると、皇帝・蒼 慶果は、久々に出御した朝儀の際、突如、勅命を下した。

 それは、玉榮にとって晴天の霹靂だった。

 皇后というのは、この国で二番目に権力を持つ存在だ。

 本来であれば、宰相である玉榮を始め、重臣達と綿密な話し合いを経て、決定する重要事項であるというのに……。


(どういうことだ?)


 まさか、その場で皇帝を叱りつけることは出来ず、玉榮は陰で激怒した。

 慶果には妖術を掛けて、半分、女の身体に変えている。

 本当は、玉榮が表に立ってしまうのが手っ取り早いのだが、たまに、自分の正体を見抜いてしまう面倒な人間がいる為、警戒して「宰相」の位に留まっているのだ。

 慶果とは秘密を共有して、協力しているふりをしているが、奴は玉榮にとっての操り人形に過ぎなかった。

 最近、人形の分際で反抗的な態度が見られるようになったので、そろそろ、廃棄して、新しい「皇帝(おもちゃ)」を擁立しようと考えていたのに……。


(慶果の奴め、なかなか、しぶとい)


 一度、玉榮自らが動き、死の淵まで追いやったのに、なぜか奴は復活した。

 自分が殺されることを知って、策でも講じたのか?


(……が、まあ、それも時間の問題だろう)


 問題は、皇后・紅琳の方だった。


(あいつ、何者だ?)


 沙藩との関係悪化を鑑みて、慶果の言う通り、後宮に留め置いたものの、常識外のことばかりしでかして、妃嬪たちの嘲笑の的となっていた。


(一度会ってやったが、玉榮が妖であることも気づけなかった。母が須弥の出であっても、呪術も使えない、無能な女そのものだったのに)


 だから、沙藩王に見限られて、正妃でありながら、離縁されたのだ。


(慶果め。女身化を紅琳に話して、二人で結託したのか)


 まさか、あんな奇妙な女を皇后に据えるとは……。

 慶果には、自尊心というものはないのか?


「とにかく、紅琳にも消えてもらうしかない」


 術のせいで、慶果は、まともに政が出来ない。

 だが、紅琳は違う。

 皇帝の名代として、国を動かすことが出来てしまうのだ。


 ――実際、玉榮の畏れていた通りとなった。


 紅琳は積極的に、政治に介入してきたのだ。

 他の妃嬪達や官吏からの妬み、嫉みをものともせず、暗殺や呪詛を仕掛けても、傷一つない健康な身体を維持し、今まで玉榮が築き上げてきたものを崩そうとしていた。


(なぜ、紅琳は、ぴんぴんしているのだ?)


 いつ見ても、紅琳は元気そのものだった。


(もしかしたら、いつも一緒にいる侍女の李耶という娘が呪術師なのではないだろうか?)


 失敗続きの子飼いの呪術者を始末していたら、次第に暗殺を依頼できる人間が少なくなってしまった。

 玉榮は、とうとう自分で動かざるを得なくなってしまった 

 こうなったら、紅琳、慶果、そして呪術師らしき侍女も、諸共に死んでもらおう。

 妖である玉榮の血は、凄まじい呪の力がこもっている。

 これで、意に沿わなくなってきた先代の皇帝を始め、大勢の人間を殺してきた。

 慶果にも、後宮の庭の花に撒いた毒の血を、傷口から体内に取り込ませて、抹殺するつもりでいた。


(我の血を、奴らの体内に入れる)


 飲食物や、奴らが触れそうなモノに悉く、玉榮は己の血を含ませた。

 悪いのは人間だ。

 深い眠りに就いていた玉榮を呼び出したのは、泰楽帝ではないか?


(我を縛り、宦官として仕えさせるなんて、本当に愚かであった)


 泰楽帝から召喚された同じような境遇の妖達を滅して、ようやく手に入れた地位と権力。

 快楽を貪り、欲望のまま……。

 当然、国は傾くだろう。

 どうしようもなくなったら、責任は慶果に取らせてしまえば良い。

 精々、楽しまなければ損だ。

 

 程なくして、紅琳と侍女が、原因不明の発作で倒れたという報告が、玉榮のもとに舞いこんできたのだった。

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