表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

2-1.島の空と海

 翌日、ナウシスは召使いたちと共に、街から森を抜けた先の、海に注ぐ河口の近くに出かけた。春が来れば、召使いと一緒になって、洗濯に出かけるのが常だったからである。両親は最初、そのようなことははしたないと咎めたものの、父は王位に就くこともない身であろうからと、また母はかつて自分も同じように働いていたのだし、またその優しい心根を遮るのも憚られると、あえて引き留めることはなかった。

 明るく晴れ渡った青空の下、暖かい日差しと空気の中で、篭に積み上げた衣服を、川の流れに晒し、いつも洗濯に使われている丸い扁平な石に打ち付けたり、踏みつけたりする仕事に、ナウシスは精を出した。しかし、いつもならば進んで足踏みの歌の音頭をとるところであったが、この日は他の者にそれを任せた。


「人この島影目にしても、あえて寄ることあらざりき。山路険しく木々茂し暗く、こごしき岩根に櫂休まず。外つ地へ人は帰りしも、背に置き去る幸あな惜しき。ひとたび踏み入れ分け入れば、海神の加護に浸れるに。湧き出る水の、黒き流れが隈なく潤し、野山も畑も種々実る。山羊に羊に牛どもも、食む草豊かで肥え太る。日月星辰巡りゆき、雲や潮の満ち引きの様、スケリアびとに伝えたる。汝らに、いかに多きの幸恵まれたるかを」


 仕事が一段落して、召使いたちが食事をしたり遊びに興じたりしている中、ナウシスはそんな輪から離れ、海岸の砂浜に腰を下ろしていた。空は青く、その鮮やかな様はまぶしいほどで、海と空の境界から、広々とした波が絶えず打ち寄せている。波は寄せては引いいてを繰り返し、そのたびに音もまた波となってナウシスの元に届いた。どこから聞こえるのかつかみようもない包まれるような壮大な音、海岸で高くそして白く姿を変えた波の音、泡立ちながら砂浜に至り、黒くそして艶やかに染め上げて引いていく控えめな音、そんな音がいくつも重なりあい、何の覆いも隔てるものもない海岸を満たし、響いていた。

 波は、ちょうどナウシスの正面で、海岸に達する前にその一部が砕け、しぶきになった。一度途切れたその部分も、また両側から合流して、ナウシスの足下にまでやってくる。ナウシスはあるとき、決まった場所でそんなことが起こるのを見つけ、不思議に思いながらも、それをまっすぐ見られるところを気に入っていたのだった。そんな場所に腰を下ろしながら、普段ならば、穏やかに落ち着きながら、静かに、そして深々と胸が躍るものであったが、この日のナウシスは暗く沈んでいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ