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1-2.直面する定め

 スケリアを訪れた本土の王を、ナウシスの兄が父王の名代として宴席を設け歓待したことがあった。王子は賓客の前に立ち、その名と威徳を滔々と称え、杯を掲げた。そして小間使いに見事に装飾された青銅作りの混酒器から酒を注がせ、いかにスケリアが地味豊かであるか、人々がどれほど懸命に働きこの酒が得られたのか、それがいかに美味であるかを流れるように語り、神々に捧げた後、賓客の名の元に乾杯した。そして、自分が決して偽りを口にしていないことを神々と共に証していただければ、この上ない光栄であると述べて、酒を勧めた。本土の王はその有様に感心し、このように神々に連ねられては私にとっても名誉であると、杯を受けた。やがて王子も席に戻り宴もたけなわとなった頃、隣の席に着くアレテス王に向けて本土の王が言うには、


「全く見事な子をお持ちだ。若いながら、分別を心得ておられる。このような男子に嫁ぐことができれば、私の娘にとってもこの上ない善哉であろう」


 これを聞いてアレテスは、父としても支配者としても喜んだ。一方、その隣に座っていたアルシノエは、顔を伏せってヴェールの下で静かに目元を拭っていたが、これに気づいたのは、いくらか離れた席にいたナウシスのみであった。

 その夜、ナウシスはアルシノエの部屋を訪れると、このように尋ねた。


「母上、私がお力になれるのであれば、どうかその胸の内をお聞かせください。今日の宴席にて、私には母上が密かに何事かを悲しまれているように思えました。あのようなめでたい席で、どのようなご心配があったのでしょう。もしもご立派に役目を果たした兄上と引き比べ、私が同じようにできるかご不安であるというのなら、いずれ機会をいただければ、母上や父上にはその子として、兄上には弟として、決して恥をかかせはしないことをお認めいただけますものを」


 ナウシスが懸命に語る様子を見て、アルシノエの目から涙が落ちた。それはさながら、我が仔を狩人にさらわれた親鹿のようであった。仔が自力で抜け出すことはできず、かといって自分に救い出す力もなく、その様子をただ呆然と見送るばかり――人の身にあるアルシノエはそのような嘆きを抑えられず、涙をこぼしたが、どうにか息を整え、両手で我が子を胸元に抱いて言うには、


「お前は優しい子。私が辛いのは、お前がこうして立派になったからなのだよ。神々はお前を私たちにくださったけれど、私たちの手から奪われることもお告げになった。お前が生まれた頃、神々は私たちに、お前が長じて大人になりはしないとおっしゃった。それを聞いた時には、私も驚きながら、神々の示されたことだから、どうしようもないと思うしかなかった。せめて定まった運命の尽きるまでは、楽しく生きていてほしいとね。しかしこうして、お前は誇らしい子になっていった、定められた時に近づきながら。それがいつなのかを私たちが知ることはできないけれど、お前が年を重ねるごとに、もうすぐなのではないかと思ってしまう。今日、お前の兄上は妻をもらう話をされていたね。兄上の成長や婚礼はとても嬉しいことだけれど、お前にはそんな喜びが訪れないことの悲しみの方が、私にはもっと大きく思えたのだよ」


 これを聞いてナウシスは驚き、しばし呆然としたが、思い直し、りりしく母を見つめて言うには、


「ご心配には及びません、母上。神々だって間違われることもあるかもしれませんし、そうでなくても、母上や父上が、ご託宣を聞き違えたということもございます。何しろ神々ならぬ、定命の人間の身なのですから。それに、ご存じの通り、私の体は丈夫で、病気にもかかっておりません。これから先は分かりませんが、それは私だけではなく、全ての人に言えることでしょう。私は決して、あっけない死に方で両親を悲しませるような子にはならないと誓います」


 アルシノエはますます我が子が愛しくなり、涙を流しながらナウシスを抱きしめたが、その涙は、今では歓喜によって溢れていた。その夜、アルシノエは我が子に、お前の言う通りかもしれない、いやきっとそうだと告げ、私もお前を決して死なせないよう手を尽くそうと話し、別れた。しかしナウシスは、母に語ったこととは裏腹に、その夜は息が詰まり、寝台で毛布にくるまっても、胸が高鳴ってほとんど眠ることができなかった。

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